Artist: Ghostface Killah (feat. Force MD’s)
Album: Ironman
Song Title: The Soul Controller
概要
Ghostface Killahのソロデビュー作『Ironman』(1996年)のオリジナル盤にのみ収録され、後にサンプリングの権利問題(サム・クックの「A Change Is Gonna Come」の無断使用および映画音声の使用)により後発盤やストリーミング配信から姿を消した、ヒップホップ史における幻の名曲である。プロデューサーのRZAによる哀愁漂うビートとForce MD'sの切ないコーラスに乗せ、ストリートの重圧、ハスリングのパラノイア、そしてそこから抜け出そうとする男の葛藤が極めて映画的に描かれている。アウトロには『カリートの道』と『ユージュアル・サスペクツ』という、90年代のストリート・ハスラーたちが聖典と崇めた最重要マフィア映画の音声が大胆にサンプリングされており、ドラッグゲームの終焉と虚無感を見事に演出している。
和訳
[Intro: The Force MD's]
Woah, oh, oh, oh
It's been a long, long
あまりにも長く、長い時間が経った
A long time coming
長い時間がかかったが
A change gon' come
きっと変化が訪れるはずだ
※ソウル・ミュージックの巨星サム・クック(Sam Cooke)の公民権運動を象徴する歴史的名曲「A Change Is Gonna Come」のフレーズ。Force MD'sによるこの哀愁漂う歌声が、ゲットーからの脱却を願うストリートの切実な祈りとして響く。
[Verse 1: Ghostface Killah]
Yo, yo these streets got me backed down how can I escape?
ヨォ、このストリートが俺を追い詰める、どうやって逃げ出せばいい?
How can I survive without bubbling weight?
ヤクを捌かずに、どうやって生き延びればいいって言うんだ?
※「bubbling weight」は大量の麻薬(主にクラック・コカイン)を調理して売り捌くこと。
It's prepared for the stand off, once you hand off
対立の準備はできてる、一度ブツを手渡せば
That white rock and then give birth to a knot
あの白い石ころ(クラック)が、札束の山を生み出すんだ
※「knot」は丸めた分厚い札束のこと。
Your biggest dream was to rock your 850 and beam
お前の最大の夢は、BMWの850を乗り回して輝くことだった
You and the Gods buy a crib in the white part of Queens
お前と神たちで、クイーンズの白人エリアに家を買うことだったんだ
※「Gods」は5% Nation(ファイブ・パセンターズ)における黒人男性(仲間たち)への敬称。ゲットーを抜け出し、高級住宅街で成功を掴むというハスラーの夢。
But at the same time, niggas on the block is ill
だが同時に、ブロックの野郎どもは病んでる
Some'll rock you to sleep, hap, for selling crushed pills
偽物の薬を売ったってだけで、お前を永遠の眠りにつかせる奴らもいるぜ
※「rock you to sleep」は殺害することの隠語。「crushed pills」はコカインの偽物として売られる粉々にした錠剤。
Being watched all day like enemy's prey
敵の獲物みたいに一日中監視されてる
Faces, you never seen before is in your hallway
今まで見たこともない顔の奴らが、お前のアパートの廊下に立ってるんだ
※サツの潜入捜査官(アンダーカバー)や、強盗(スティックアップ・キッズ)に狙われる極度のパラノイアの描写。
Brothers you knew for years is mad pussy and scared
何年も知ってる兄弟たちでさえ、完全にビビり上がって怯えてる
Back in the days U.F.O.'s couldn't walk up in here
昔はUFO(よそ者)なんて、この場所を歩くことすらできなかったのにな
※「U.F.O.'s(Unidentified Foreign Objects)」はフッドの外部から来た見知らぬ人間や警察を指すストリート・スラング。
It's time to motor, travel like a foul order
車に乗ってズラかる時だ、反則みたいにぶっ飛ばしてな
Clear my head, stay sober, the Soul Controller
頭をクリアにして、シラフを保つんだ、俺は魂の支配者(ソウル・コントローラー)だ
[Chorus: The Force MD's]
Oahhhh, it's been a long, long
ああ、あまりにも長く、長い時間が経った
A long time coming
長い時間がかかったが
A change gon' come
きっと変化が訪れるはずだ
Oh, yes it will
ああ、絶対に訪れるさ
Said I'm too, tired of livin'
俺はもう、生きることに疲れ果ててしまった
But I'm, but I'm afraid to die
だけど、死ぬのは恐ろしいんだ
'Cause I don't know what's up there
だって、あの場所で何が待っているのか分からないから
In that great big old sky
あの巨大で古い空の上でな
[Verse 2: Ghostface Killah]
Sink deep into the fog, big buffalo large
深い霧の中に沈み込む、バッファローのように巨大な規模でな
Taj Mahal just got banged, shanked for eighty large
タージ・マハルが襲撃された、8万ドルのためにナイフで刺されたんだ
※「Taj Mahal」はアトランティックシティにあったトランプ・タージマハル・カジノ、あるいは巨大な麻薬帝国や大物の比喩。「eighty large」は8万ドル。
It's hard to keep up with these key-ons that smoke dust
ダストを吸ってるキロ単位の売人どもについていくのは骨が折れるぜ
※「key-ons」はキロ(kilo)単位のコカインを扱う大物ディーラー。「dust」はPCP(エンジェルダスト)で、これを吸う人間は極めて暴力的で予測不能になる。
In the U.S. Mint they went to rock the place and call the rush
奴らは造幣局に乗り込んで、そこを制圧してラッシュをかける気だ
※金を作り出す源泉(U.S. Mint)を直接支配するほどの桁違いのハスリングの比喩。
All these shameless niggas armed with cherry-red Bally's
恥知らずな野郎どもはみんな、チェリーレッドのバリーの靴で武装してる
On the twenty-fifth, everybody rich is gettin' married
25日には、金持ちの奴らはみんな結婚していく
※ストリートでの成功とステータスの象徴的風景。
Killed for power beans, your brother own schools in Medin'
力の豆(ドラッグ)のために殺し合う、お前の兄弟はメディナに学校を所有してる
※「Medin' (Medina)」は5% Nationの隠語でブルックリンを指す。
Vaseline lips is cracked 'cause they all had dreams
ワセリンを塗った唇がひび割れてる、奴らはみんな夢を持っていたからな
※冬のストリートの寒空の下で、成功を夢見てドラッグを売り続けるハスラーたちの生々しい描写。
They overdue, these gods own a mosque in Peru
奴らは期限を過ぎてる、この神たちはペルーにモスクを所有してるんだ
※ペルーはコカインの世界的産地。ドラッグカルテル並みの国際的権力を持ち、そこに自分たちの神殿(モスク)を築き上げているという誇大妄想的なライン。
Tropical trees and weaves where they grew bamboo
熱帯の木々と、竹を育てた場所にあるウィーブ(編み込みの髪)
Olympic minds quick flash like a leak on
オリンピック級の知性が、漏れ出す光のように一瞬で閃く
A hundred shares short to own Nissan, watch 'em get their feast on
日産を買い取るには株が100株足りねえな、奴らが宴を繰り広げるのを見てな
※日本の大企業を丸ごと買収できるほどの莫大な富への野望。
Royal blue lies inside the eyes of Heaven
ロイヤルブルーが、天国の瞳の中に横たわっている
Curse the head who speak foul and jinx number seven (Seven)
汚い言葉を吐き、数字の7に呪いをかける頭を呪ってやる(セブン)
※5% Nationの「Supreme Mathematics」において、「7」は「God(神=黒人男性)」を表す最も神聖な数字。それを冒涜する者への警告。
Clear my head and stay sober, the Soul Controller
頭をクリアにして、シラフを保つんだ、俺は魂の支配者だ
[Chorus: The Force MD's]
Oh, been a long time comin'
ああ、長い時間がかかったが
(Stay sober, the Soul Controller)
(シラフを保て、魂の支配者よ)
Oh yeah
ああ
A change gon' come
きっと変化が訪れるはずだ
Woah, yes it will
ああ、絶対に訪れるさ
[Verse 3: Ghostface Killah]
Yo, yo, we sit and play the wall like nine super heroes
ヨォ、俺たちは座って、9人のスーパーヒーローみたいに壁を背にしてる
※「9人のスーパーヒーロー」はWu-Tang Clanの9人のメンバーを指す。
Late for the man choose and hit socks and stereo
選択が遅れ、靴下とステレオを引っ叩く
The kid's nice, warning you twice, run your garmets
このガキはイケてるぜ、2回警告してやる、その服をよこしな
※「run your garmets」は身ぐるみを剥がす強盗(スティックアップ)の決まり文句。
Jet to Providence, switch up and bag down your parliament
プロビデンスへ飛び、計画を切り替えて、お前の議会(組織)を袋叩きにしてやる
Ironman is laced with a plate inside the domepiece
アイアンマンの頭蓋骨の中には、金属のプレートが埋め込まれてるんだ
※Ghostface Killahの別名Ironman。頑丈な頭脳、または銃撃から生き延びた強靭な肉体のメタファー。
Go off in airports, biographies, prophecies
空港の金属探知機で鳴り響き、伝記や預言になる
Watch me set it, real key-ons hold down the desert
俺が仕掛けるのを見てな、本物のキロ売りの大物たちが砂漠を制圧するぜ
And walk with a famous name like Supreme Magnetic
そしてシュプリーム・マグネティックみたいな有名な名前で歩き回るのさ
※「Supreme Magnetic」は5% Nation特有の名前の付け方。引力(Magnetic)のように人々や富を引き寄せる至高の存在という意味。
Carbon copy, I love my Akai snare choppy
カーボンコピーだ、俺はAkaiのチョッピーなスネアが大好きなんだ
※RZAが愛用するサンプラー「Akai MPC」の独特な荒々しいスネアドラムの音色への言及。
Malachi off a funky pen with the wax poppy
ファンキーなペンから生み出されるマラキの預言、レコードは極上だ
※「Malachi」は旧約聖書の預言者、または黒人至上主義的な指導者。「wax」はアナログレコード。
On instrumentals, niggas get lost like S.S. Minnows
インストの上じゃ、野郎どもはS.S.ミノー号みたいに迷子になっちまう
※「S.S. Minnow」はアメリカの古典コメディ番組『ギリガン君SOS(Gilligan's Island)』に登場する難破船。RZAの複雑なビートに乗りこなせないフェイクMCたちを遭難船に例えている。
Turned out like rentals, keep gold around the dental
レンタカーみたいに使い回され、歯の周りにはゴールドを光らせてるぜ
[Chorus: The Force MD's]
A change gon' come
きっと変化が訪れるはずだ
Yes it will
ああ、絶対に訪れるさ
It's been a long, long
あまりにも長く、長い時間が経った
A long time coming
長い時間がかかったが
A change gon' come
きっと変化が訪れるはずだ
Woah, yes it will
ああ、絶対に訪れるさ
Said I'm so tired of living
俺はもう、生きることに疲れ果ててしまった
But I'm, but I'm afraid to die
だけど、死ぬのは恐ろしいんだ
'Cause I don't know what's up there
だって、あの場所で何が待っているのか分からないから
In that great big old sky
あの巨大で古い空の上でな
Oh my, oh my, oh my
ああ、なんてことだ
It's been a long, long time
あまりにも長い時間が経った
A long time coming
長い時間がかかったが
Change gonna come
きっと変化が訪れるはずだ
Wooo, yes it will
ああ、絶対に訪れるさ
[Outro 1: Sample]
"Sorry boys
「悪いな、お前ら
All the stitches in the world can't sew me together again
世界中の糸をかき集めても、俺の体はもう縫い合わせられない
Lay down, lay down
横にならせてくれ、横にならせてくれ
Gonna stretch me out in Fernandez funeral home on hun and Ninth Street
109丁目のフェルナンデス葬儀場に、俺を寝かせることになるだろうな
Always knew I'd make a stop there
いつかそこに行き着くことは分かっていた
But a lot later than a whole gang of people thought
だが、連中が思っていたよりも、ずっと遅かっただろ
Last of the Mohicans
ラスト・オブ・モヒカン(絶滅する種族の最後の一人)さ
Well, maybe not the last
いや、最後じゃないかもしれないな
Can't come with me on this trip, Loaf
この旅には一緒に行けないぜ、ローフ
Getting the shakes now
震えがきてる
Last call for drinks
酒のラストオーダーだ
Bar's closing down
バーの閉店時間だ
Sun's out
太陽が出てきた
Where we going for breakfast?
朝飯はどこに食いに行く?
Don't wanna go far
遠くには行きたくないな
Rough night
ひどい夜だった
Tired, baby
疲れたよ、ベイビー
Tired..."
疲れたんだ...」
※1993年の傑作マフィア映画『カリートの道(Carlito's Way)』からのサンプリング。アル・パチーノ演じる主人公カリート・ブリガンテが、裏社会から抜け出そうとした矢先に撃たれ、死にゆく瞬間の有名なモノローグ。楽曲のテーマである「ストリートからの脱却と、死の恐怖」を完璧に締めくくっている。
[Outro 2: Sample]
"Greatest trick the Devil ever pulled
「悪魔が仕組んだ最大のトリックは
Was convincing the world he didn't exist
自分が存在しないと、世界に思い込ませたことだ
And like that, he's gone"
そしてこんな風に、奴は消え去るのさ」
※1995年の映画『ユージュアル・サスペクツ(The Usual Suspects)』からのサンプリング。カイザー・ソゼの正体を語るケヴィン・スペイシーの有名なセリフ。裏社会の伝説的黒幕は、最初から存在しなかったかのように煙に巻いて姿を消すという、アルバムの世界観を貫くアウトロ。
