Artist: Lil Wayne
Album: Tha Carter III
Song Title: Let The Beat Build
概要
本作は、天才Kanye Westと盟友Deezleの共同プロデュースによる、ヒップホップ史上最もユニークで革新的な構造を持つ楽曲の一つである。タイトルの「Let The Beat Build(ビートを構築させろ)」が示す通り、Eddie Kendricksの楽曲「Day By Day」から抽出されたソウルフルなボーカルサンプルのみで静かに幕を開け、Wayneのラップの進行に合わせてスネア、TR-808の重低音、ハイハットが段階的に追加され、トラックが文字通り「組み上がっていく」メタ的な構成となっている。この特異なキャンバスの上で、Wayneは地元ニューオーリンズのストリートの記憶から、ドラッグディールの生々しい描写、そして自身が「生きる伝説」であるという圧倒的な自負までを、変幻自在のフリースタイル・フロウで描き出す。サンプリングのクリアランス問題に対する苛立ちすらもリリックに昇華する彼の姿は、既存の枠組みやルールに収まらない、ラップゲームの頂点に立つ者の余裕と狂気を完全に体現している。
和訳
[Intro]
Yeah, I see you, big bro
ああ、見てるぜ、ビッグ・ブロ(カニエ)
※プロデューサーのKanye Westへの呼びかけ。
I'ma kill these niggas, man
こいつらをぶっ殺してやるよ、マジで
Yeah, haha
ああ、ハハ
[Verse 1]
Straight off the block with it (Block with it)
ブロック(地元)からそのまま持ってきたぜ
Eagle Street, to be specific (Specific)
正確に言うなら、イーグル・ストリートからだ
※Wayneの地元であるニューオーリンズ第17区(ホリーグローブ)にあるストリートの名前。彼のルーツを明確に示している。
I'm peeping at you people different
俺はお前らとは違う視点(レベル)で物事を見てるんだ
I pay my dues, you keep the difference (Keep the difference)
俺はツケ(代金)を払う、お釣り(差額)は取っときな
※「Pay my dues(下積みを経てリスペクトを得る)」と「代金を支払う」を掛けている。他のラッパーとの格の違いを示し、チップを恵んでやるような強者の余裕を見せている。
I can see the end in the beginning
俺には最初から結末が見えてるんだ
So I'm not racin', I'm just sprintin'
だから俺は誰かと競走(レース)してるわけじゃない、ただ一人で全力疾走(スプリント)してるだけさ
'Cause I don't wanna finish (Wanna finish)
だって、終わりたくないからな
They diminish, I replenish
奴らはすり減っていくが、俺は常に補充(進化)し続ける
Scientific, I'm out this world, ho
科学的だろ、俺はこの世の次元を超えてるんだ、ビッチ
I wear bright red, like a girl toe
俺は真っ赤な服を着る、女の子の足の爪みたいにな
※ストリートギャング「ブラッズ(Bloods)」のシンボルカラーである赤を全身に纏っていることを、ペディキュアを塗った女性の足の指(Toe)という意外な比喩で表現している。
No homo, fingernails dirty
ノー・ホモだぜ、爪には泥が詰まってる
※前行の「女の子の足の爪」というフェミニンな例えに対し、当時のヒップホップで多用された同性愛を否定するエクスキューズ「No homo」を挿入。そして、ドラッグを捌いたりストリートで泥臭く稼いだりしているため、手(爪)が汚れているというタフさを強調している。
I've been counting dirty money since 12:30 (12:30)
深夜の12時半からずっと、汚い金(ブラックマネー)を数えてるんだ
a.m., weigh them, if they short, take them
深夜にな、重さを量って、もし足りなかったら奴らを連れ出して
Right back and spray him, amen
すぐに銃弾を浴びせてやる、アーメン
※「Spray」は自動小銃などで弾丸をばら撒くこと。麻薬取引での裏切りやごまかし(ショート)には死をもって報いるというストリートの冷酷な掟。
Yeah, I just do my Wayne
ああ、俺はただ「ウェイン(俺自身)」をやってるだけさ
And every time I do it, I do my thing
そしてそれをやる時はいつも、完璧に自分のモノにする
Yeah, believe that, like a true story
ああ、信じな、真実の物語のようにな
Rims big, make the car look like it's two stories
リムがデカすぎて、車が2階建て(ツーストーリー)みたいに見えるぜ
※前行の「true story(真実の物語)」と「two stories(2階建て)」で韻を踏む。大口径の巨大なホイール(リム)を履かせた車高の高いカスタムカーの描写。
If I hop out, that'd be suicide
もし俺が車から降りたら、それはスーサイド(自殺)だ
※高級車の「スーサイド・ドア(後ろヒンジで逆向きに開くドア)」のこと。車から降りる動作とドアの形状を掛けている。
No back seats, call that paralyze
後部座席はねぇ、それをパラライズ(麻痺)って呼ぶんだ
※後部座席がない(背中=脊髄がない)ことから、「背骨がない=下半身麻痺(パラライズ)」という高度な言葉遊び。2シーターの高級スポーツカーであることを示唆している。
I don't have a spine, I don't fantasize
俺には背骨(恐怖心)がない、空想なんてしない
※前行からの流れで「Spine(背骨)」を「気骨、あるいは恐怖で背筋が凍ること」の隠喩として使用。ビビることなく、夢を見るのではなく現実を生きている。
I mastermind, then go after mine
俺が黒幕(マスターマインド)として計画を練り、自分の獲物を手に入れる
You see, I handle mine, I dismantle mine
見ての通り、俺は自分のシノギをこなし、標的を解体(ディスマントル)する
I tote a tool box, bitch, it's hammer time
ツールボックスを持ち歩いてるぜ、ビッチ、ハンマー・タイムの始まりだ
※「ツール(Tool)」はストリートスラングで「銃」のこと。「ハンマー・タイム」はMCハマーの大ヒット曲「U Can't Touch This」の有名な決め台詞と、銃の「撃鉄(ハンマー)」を引く時間を掛けた完璧なダブルミーニング。
So excuse me as I nail 'em 'til some fell
だから悪ぃが、奴らが倒れるまで釘を打た(ブチ抜か)せてもらうぜ
※ハンマーからの連想で、銃弾を撃ち込むことを「釘を打つ(Nail)」と表現している。
I'm just repel 'em, I'ma kill 'em, someone tell 'em I'ma kill 'em
奴らを撃退するだけじゃない、殺してやる。誰か奴らに「殺されるぞ」って伝えてやれ
I'ma fill 'em up, his mama can't tell 'em
鉛玉で満たしてやる、母親でさえ自分の息子だと見分けがつかなくなるくらいにな
And the doctors can't heal 'em
医者だって治せやしない
I'ma kill 'em and, yeah, we sell 'em, I know you smell 'em
俺が殺してやる、ああ、俺たちは売りさばいてる、匂いでわかるだろ
※「殺す(kill)」という言葉から一転して「売る(sell)」へ。ここでの対象は人間から「強力なドラッグ(マリファナやコカイン)」へとシフトしている。上質なドラッグの強烈な匂い(smell)への言及。
And if you want it, you could just yell it
もし欲しいなら、大声で叫べばいい
And it be in the morning, at your 'telly
明日の朝には、お前の泊まってるホテル(テリー)に届いてるぜ
Whole ki' go for twenty, half a ki' go for eleven
1キロ丸ごとなら2万(ドル)、ハーフ(500g)なら1万1千だ
※「ki'」はキログラムの略で、コカインの取引単位。当時のストリートにおけるコカインのリアルな卸売価格を提示している。
After me there, will be nothing
俺の後に続く奴は誰もいねぇ、無になるだけだ
I am legend and I Will Smith
俺は「伝説(レジェンド)」であり、「ウィル・スミス」なんだ
※ウィル・スミス主演のSF映画『I Am Legend(アイ・アム・レジェンド)』(2007年)の完璧なネームドロップ。人類最後の生き残りとなった主人公と、ラップゲームの頂点に唯一人君臨する自分を重ねている。同時に「I will smith(俺は鍛冶屋のように言葉を打ち鍛える)」という動詞的な言葉遊びも含まれていると考察される。
Now that's how you let the beat build, bitch
さあ、これが「ビートを構築(ビルド)させる」ってことだ、ビッチ
※ここで初めてベースやスネアなどの中核となるドラムトラックが一気に重なり、曲のタイトルを体現する劇的な展開を迎える。
[Chorus]
That's how you let the beat build, bitch
これが「ビートを構築させる」ってことだ、ビッチ
Now that's how you let the beat build, bitch
さあ、これが「ビートを構築させる」ってことだ、ビッチ
Let the beat build, bitch
ビートを構築させろ、ビッチ
And the beat go
そしてビートはこう鳴る
Boom, b— boom, b— boom
ブーン、ブブーン
Boom, b— boom, b— boom, it go
ブーン、ブブーン、こんな風にな
Boom, b— boom, b— boom, now say
ブーン、ブブーン…さあ言ってみろ
[Verse 2]
Heh, c'mon, just a snare and a 808
ヘッ、カモン、スネアと808(ベース)だけで十分だ
※Roland TR-808による重低音とスネアという、南部ヒップホップのミニマルかつ最も強力な要素だけを残したビートの構成に言及している。
Weezy Baby on the mic, D.O.A.
マイクを握るのはウィージー・ベイビー、D.O.A.(到着時死亡)だ
※「D.O.A. (Dead On Arrival)」は医療用語だが、ここでは「俺がマイクを握った瞬間に他のラッパーは死ぬ(勝負あり)」という意味。
Okay, I'd like to thank Kanye
オーケイ、カニエに感謝したい
And my nigga Deezle from giving me this Diesel
そして、俺のダチのディーズルにもな、この「ディーゼル(強力なビート)」をくれたことを
※Kanye Westが初期段階のループを作り、長年のコラボレーターであるDeezleがドラムを追加して完成させたという楽曲の制作背景。プロデューサー名と「Diesel(強力な燃料、または上質なマリファナ)」を掛けている。
Like an F-350, tank never empty
フォードのF-350みたいにな、タンクが空になることはねぇ
※アメリカの巨大なピックアップトラック(Ford F-350)はディーゼルエンジンを搭載している。前行の「Deezle/Diesel」からの連想であり、自身のスタミナや勢いが尽きないことの比喩。
Damn, everybody in the bank act friendly
クソ、銀行の奴らがみんな愛想良くしてきやがる
Used to think my shit didn't stink, boy, was I wrong
昔は自分のクソは臭わない(俺は特別だ)なんて思ってたが、坊や、俺は間違ってたよ
※「Think one's shit don't stink」は「自分を完璧だと思い上がる」という慣用句。銀行で特別扱いされるほどの金持ちになった今でも、自分はストリートの人間(普通にクソも臭う人間)であるという皮肉めいた自省。
Approving million dollar deals from my iPhone
iPhoneからミリオンダラー(数億円)の契約を承認してるんだ
※2007年に初代iPhoneが発売された直後の時代背景。ストリートのドラッグディールから、スマートフォン一つで巨額の合法的なビジネスを動かす大物へと進化した姿。
I'ma take it one-two, way back
ワン、ツー、昔に戻ってみようか
Like a silk wife beater and a wave cap
シルクのタンクトップ(ワイフビーター)に、ウェーブキャップを被ってた時代にな
※90年代後半から00年代初頭のニューオーリンズやストリートのクラシックなファッション。
Or the wave pool at Blue Bayou
ブルー・バイユーの造波プールみたいにな
※ルイジアナ州バトンルージュにある有名なウォーターパーク「Blue Bayou Water Park」。地元のローカルな思い出を「Wave(波)」という言葉繋がりで引き出している。
And I waved, fool, as I blew by you
そして俺はお前らを一気に抜き去り(ブロー・バイ)ながら、手を振って(ウェーブ)やったのさ、マヌケども
※「Wave cap」「Wave pool」から「Wave(手を振る)」へ、さらに「Blue Bayou」から「Blew by you(お前を抜き去る)」へと繋げる、天才的で流れるような言葉遊び。
Hello, hi, you, I can buy you
ハロー、ハイ、お前、俺はお前を丸ごと買えちまうんだぜ
But I wouldn't try you, feed you to Piru
だが手は出さねぇよ、ピル(Piru)の仲間の餌にしてやる
※「Piru(ピル)」はロサンゼルス発祥のブラッズ(Bloods)系のギャングのセット。Wayneがブラッズと深い繋がりを持っていることを示し、敵対する奴は自分の手を汚さずともギャングの仲間が始末するという脅し。
I know what I'm doing, I show and prove and show improvement
俺は自分のやってることを分かってる、証明してみせるし、進化も見せつけてやる
And I know just to go into it, could never amount to going through it
ただ「足を踏み入れる」だけじゃ、「やり遂げる(切り抜ける)」ことには絶対に適わないってことも分かってる
Whatever, how you wanna do it, we can do it like we late
なんでもいいぜ、どうやりたい? 遅刻してる時みたいに(急いで激しく)ヤろうぜ
Ayy, wait, Deezle, let me just get the 808
エイ、待て、ディーズル、808(ベース)だけにしてくれ
As I hit the kill switch
俺がキル・スイッチ(停止ボタン)を押すからな
※メタ的なプロデューサーへの指示。ここで一時的にビートがブレイクし、曲の構造を自在に操る様子を見せつける。
Now that's how you let the beat build, bitch
さあ、これが「ビートを構築させる」ってことだ、ビッチ
[Chorus]
That's how you let the beat build, bitch
これが「ビートを構築させる」ってことだ、ビッチ
That's how you let the beat build, bitch
これが「ビートを構築させる」ってことだ、ビッチ
That's how you let the beat build, bitch
これが「ビートを構築させる」ってことだ、ビッチ
And the beat go
そしてビートはこう鳴る
Boom, b— boom, b— boom, it go
ブーン、ブブーン、こんな風にな
Boom, b— boom, boom, the beat go
ブーン、ブブーン、ビートが鳴る
Boom, b— boom, boom, now everybody say, yeah
ブーン、ブブーン、さあみんな言え、イェー
[Bridge]
That I am the best rapper alive
俺が「世界で最も偉大なラッパー」だってな
I am the best rapper alive
俺は生ける最高のラッパーだ
And I will eat you alive
そしてお前らを生きたまま食い殺してやる
Think I'm lyin'?
俺が嘘ついてると思うか?
[Verse 3]
Damn, I'ma get in a nigga chest like a bunch of phlegm
クソ、野郎の胸の奥に入り込んでやる、大量の痰(タン)みたいにな
※敵の懐深くに入り込む(あるいは胸を撃ち抜く)ことを、胸に詰まる厄介な「痰」に例えたグロテスクな比喩。
Like a fucking ram
まるでクソみたいな雄羊(ラム)のようにな
On the hunt for the lamb, I'ma dump 'em, man
子羊(ラム)を狩るために、奴らをゴミ箱にブチ込んでやるよ
In a dumpster can
ダンプスター(大型ゴミ箱)の中にな
You ain't a soldier, ask Uncle Sam, hair nappy like Pam
お前はソルジャーじゃねぇ、アンクル・サム(アメリカ政府)に聞いてみろ。髪はパムみたいに縮れてる(ナッピー)しな
※「Uncle Sam」はアメリカ合衆国政府や軍隊の擬人化。「Pam」は90年代の人気シットコム『Martin』の登場人物パメラ(Tichina Arnold)で、彼女の特徴的な髪型(Nappy)を引き合いに出している。
Nigga, fuck your plan, fuck your man
お前の計画なんてクソ食らえだ、お前のダチもクソ食らえ
You ain't a pimp unless you get the same bitch
お前はピンプ(ポン引き)じゃねぇよ、同じビッチを使って
To fuck your man and fuck your clan
お前のダチやお前のチームの奴らとヤらせるようなことができない限りな
And all my bitches know that's my plan
そして俺のビッチたちは全員、それが俺の計画だってことを分かってる
Oh, goddamn, there's my sample
おお、ガッデム、俺のサンプル(元ネタ)が鳴ってるぜ
※曲の基盤となっているEddie Kendricksの「Day By Day」のボーカルサンプルが前面に出る展開へのメタ的な言及。
Play it like that's my band
俺の専属バンドみたいに演奏してくれよ
Gotta get it cleared, suck my dick
クリアランス(著作権処理)の許可を取らなきゃな、俺のチ○ポでもしゃぶれ
※サンプリングを使用した楽曲を商業リリースする際に必須となる「クリアランス(権利元からの使用許可と多額の支払い)」に対するストリートのラッパーとしての苛立ちと反骨精神。面倒な業界のルールに対する中指。
With red lipstick and don't let it smear
赤いリップスティックを塗ってな、滲ませるんじゃないぞ
※Bloodsのカラーである「赤」を強調しつつ、女性にフェラチオを要求する下品で傲慢なジョーク。
And I got a lot of tattoos
俺には数え切れないほどのタトゥーが入ってる
And I meant every tear
そして、あの涙のタトゥーには、一つ一つすべてに意味があるんだ
※Wayneの目の下にある涙のタトゥー(Teardrop tattoo)への言及。一般的にストリートでは「殺人を犯した」または「親しい仲間や家族を亡くした」という意味を持つ。彼の過去の喪失や過酷な人生経験が、単なるファッションではない本物(Meant it)であることを刻み込んでいる。
And I'm still on that street shit
そして俺は未だに、ストリートのクソみたいなリアルの中で生きてる
Back to the beat, bitch
ビートに戻ろうぜ、ビッチ
[Chorus]
That's how you let the beat build, bitch
これが「ビートを構築させる」ってことだ、ビッチ
Now what's how you let the beat build, bitch
さあ、これが「ビートを構築させる」ってことだ、ビッチ
Let the beat build, they say
ビートを構築させろってな
And the beat go
そしてビートはこう鳴る
Boom, b— boom, b— boom, it go
ブーン、ブブーン、こんな風にな
Boom, b— boom, boom, the beat go
ブーン、ブブーン、ビートが鳴る
Boom, b— boom, boom, now everybody say, yeah
ブーン、ブブーン、さあみんな言え、イェー
And the beat go
そしてビートはこう鳴る
Boom, b— boom, b— boom, it go
ブーン、ブブーン、こんな風にな
Boom, b— boom, boom, the beat go
ブーン、ブブーン、ビートが鳴る
Boom, b— boom, b— boom, they say
ブーン、ブブーンってな
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