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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

I Am - Jorja Smith 【和訳・解説】

Artist: Jorja Smith

Album: Black Panther: The Album

Song Title: I Am

概要

本楽曲は、マーベル映画『ブラックパンサー』のインスパイア・アルバムに収録された、イギリスの気鋭R&BシンガーJorja Smith(ジョルジャ・スミス)による哀愁漂うトラックだ。表面上は女性の自己確立や恋愛における葛藤を歌っているように聞こえるが、Genius等での最も有力な考察によれば、この曲は映画の最大のヴィランであるエリック・キルモンガー(Erik Killmonger)の視点と精神性を痛烈に代弁したものである。故郷ワカンダへの帰還(Homecoming)に対する執念、世界中の抑圧された黒人同胞のために自らを犠牲にする覚悟、そして決して自由になれない現実への絶望が、Jorjaの美しくも悲痛なボーカルとKendrick Lamarの不穏なコーラスによって見事に表現されている。ヒップホップとR&Bの境界線を越え、映画のテーマの深淵に触れる重要な一曲である。

和訳

[Intro: Kendrick Lamar]

Try it if it feels right (try it)
正しいと感じるなら、やってみな(試してみな)

Try it if it feels right, yeah
それが正しいと思うならやってみろ、イェー

When you try, oh, oh
お前が挑戦する時にな、オー、オー

[Verse 1: Jorja Smith]

I'm tryin'—I'm just, yeah, I'm just, yeah
俺はやってるんだ—俺はただ、イェー、ただ、イェー

I been out here tryin' to see my homecomin'
俺はずっとここで、自分の故郷への帰還(ホームカミング)を果たそうとしてきたんだ
※「homecomin'」は、オークランドのスラムで育ったキルモンガーが、父ウンジョブの祖国であり彼自身のルーツであるワカンダへ帰還しようとする執念を直接的に表している。同時に、大西洋奴隷貿易によって故郷を奪われたアフリカ系アメリカ人(ディアスポラ)全体が抱く、アフリカ大陸への精神的な帰還願望を象徴する極めて重要なラインだ。

And of course, somebody's always gonna say somethin'
当然、誰かがいつも文句を言ってくるもんだ
※キルモンガーの過激な武力革命思想や、ワカンダの玉座を奪おうとする行為に対する周囲(ティ・チャラや既存の権力層)からの非難を示唆している。

Try and shoot me down for voicin' my own opinion
俺が自分の意見を口にしただけで、奴らは俺を撃ち落とそうとする
※「voicin' my own opinion(自分の意見を言う)」とは、世界中で抑圧されている同胞にワカンダの武器を分け与えるべきだというキルモンガーの主張。社会に異を唱える黒人が、現実のアメリカ社会においていかに警察やシステムから「撃ち落とされて(shoot down)」きたかという歴史的背景ともリンクしている。

Triggerin' a part of me that's always been indifferent
ずっと無関心だった俺の心の一部に、引き金を引くんだ

[Pre-Chorus: Jorja Smith]

And I know that we have asked for change
俺たちがずっと変化を求めてきたのは分かってる
※何世紀にもわたる黒人社会の抑圧の歴史と、それに対する公民権運動やブラック・ライヴズ・マター(BLM)といった「変化への要求」を内包している。キルモンガーは、平和的な要求では何も変わらないと悟り、武力による急進的な変化を選んだ。

Don't be scared to put the fears to shame
恐怖を恥じ入らせることを恐れるな
※「put the fears to shame(恐怖を凌駕して恥をかかせる)」という詩的な表現。抑圧者から植え付けられた恐怖心に打ち勝ち、行動を起こすことへのエンパワーメント。

[Chorus: Jorja Smith]

When you know what you got
自分が何を持っているか分かってるなら
※ワカンダが世界を救えるほどの強大な力(ヴィブラニウム)を持っている事実、あるいは黒人としての誇りと潜在的な力に気付いているのなら、という意味合い。

Sacrifice ain't that hard
自己犠牲なんて、大して難しいことじゃねえ
※キルモンガーの究極の信念。同胞を解放するという大義のためなら、自分の命すら喜んで投げ出すという狂気にも似た覚悟。映画のクライマックスの彼の行動を完全に予言している。

Feel like dependin' on me
世界が俺を頼りにしてるように感じるんだ
※ワカンダに見捨てられ、世界中で苦しむ20億人の黒人たちの声が、彼を救世主として呼んでいるというメシア・コンプレックスと強烈な使命感。

Sometimes we ain't meant to be free
時として、俺たちは自由になる運命にないんだ
※この曲の核となる最も悲痛なパンチライン。映画のラストでキルモンガーが放つ歴史的名ゼリフ「俺を海に沈めてくれ。鎖に繋がれるより死を選んだ先祖たちと一緒にな」と完全に呼応している。システムによる抑圧が続く現実世界において、黒人が真の自由を得ることの絶望的な難しさを、諦観とともに歌い上げている。

When you know what you got
自分が何を持っているか分かってるなら

Sacrifice ain't that hard
自己犠牲なんて、大して難しいことじゃねえ

Feel like dependin' on me
世界が俺を頼りにしてるように感じるんだ

Sometimes we ain't meant to be free
時として、俺たちは自由になる運命にないんだ

[Verse 2: Jorja Smith]

Open up this letter you ain't tryin' to read
お前が読もうともしない、この手紙を開けてみろよ
※「手紙」とは、隠蔽されてきた真実や、見捨てられた者たちの苦痛のメタファー。ティ・チャカ(先代国王)が隠蔽したウンジョブの死の真相や、ワカンダが無視し続けてきた外の世界の黒人たちの血塗られた歴史を「直視しろ」というキルモンガーからの突きつけだ。

You've been blind to the subject, but not blind to me
お前はその問題からずっと目を背けてきたが、俺のことは見えてるはずだ

And I know that this margin ain't too small for me
この余白(居場所)が、俺にとって狭すぎるわけじゃないって分かってる
※「margin」は社会の周縁(マージナルな立場)や、歴史の余白。オークランドのゲットーという周縁に追いやられた自分でも、世界を変えるだけの力と野心を持つには十分だという自負。

Not too real, not too much anymore, not enough
リアルすぎず、もう過剰でもなく、それでもまだ足りないんだ

[Pre-Chorus: Jorja Smith]

And I know that we have asked for change
俺たちがずっと変化を求めてきたのは分かってる

Don't be scared to put the fears to shame
恐怖を恥じ入らせることを恐れるな

[Chorus: Jorja Smith]

When you know what you got
自分が何を持っているか分かってるなら

Sacrifice ain't that hard
自己犠牲なんて、大して難しいことじゃねえ

Feel like dependin' on me
世界が俺を頼りにしてるように感じるんだ

Sometimes we ain't meant to be free
時として、俺たちは自由になる運命にないんだ

When you know what you got
自分が何を持っているか分かってるなら

Sacrifice ain't that hard
自己犠牲なんて、大して難しいことじゃねえ

Feel like dependin' on me
世界が俺を頼りにしてるように感じるんだ

Sometimes we ain't meant to be free
時として、俺たちは自由になる運命にないんだ

[Outro: Jorja Smith & Kendrick Lamar]

If who I am offends you, don't feel sorry
もし俺という存在がお前の気に障るなら、同情なんてするな
※キルモンガーの強烈なプライド。ティ・チャラからの哀れみや、治療による延命を拒否し、自らの信念に殉じた彼の生き様そのものである。

Don't feel, don't feel sorry, don't feel, don't feel sorry
同情するな、可哀想だなんて思うな、同情なんてするな

My loss is worth more than your wins
俺の敗北は、お前の勝利よりも価値があるんだ
※Reddit等でも絶賛される極めて哲学的なライン。キルモンガーは肉体的・政治的にはティ・チャラに敗北した。しかし、彼の遺した言葉と思想がティ・チャラの心を動かし、結果的にワカンダを何世紀もの孤立主義から目覚めさせ、国境を開かせた。つまり「敗者の死」が「勝者の生き方」を根本から変えたという、映画の真の結末を要約している。

I'm satisfied if it starts over again
全てがやり直されるなら、俺はそれで満足だ
※自分の死を代償にしてでも、抑圧の歴史がリセットされ、黒人の新たな歴史が始まる(starts over)のなら本望であるという殉教者の精神。

That is everything, that is everything
それが全てだ、それが全てなんだ

That is everything, that is everything
それが全てだ、それが全てなんだ

That is everything—
それが全てだ—

I try to make it stop, I pray it will stop
俺はこの連鎖を止めようとしてる、止まることを祈ってる
※黒人が白人社会から搾取され殺され続ける歴史的な負の連鎖(it)を、自分の代で終わらせるという悲壮な決意。

I try to make it stop, I pray it will stop
俺はこの連鎖を止めようとしてる、止まることを祈ってる

I, stop, I am what you not
俺は、止める、俺はお前とは違うんだ
※「I am what you not(俺はお前ではない)」。温室育ちのティ・チャラ(you)と、ストリートの地獄を見てきたキルモンガー(I)の決定的な対比。アルバム全体を貫く「俺は何者か(I Am)」というアイデンティティの問いに対する、ヴィラン側からの最終回答である。

I try to make it stop, I pray it will stop
俺はこの連鎖を止めようとしてる、止まることを祈ってる

I try to make it stop, I pray it will stop
俺はこの連鎖を止めようとしてる、止まることを祈ってる

I try to make it stop, I pray it will stop
俺はこの連鎖を止めようとしてる、止まることを祈ってる

I, stop, I am what you not
俺は、止める、俺はお前とは違うんだ

I try to make it stop, I pray it will stop
俺はこの連鎖を止めようとしてる、止まることを祈ってる