UGMKM

Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Walking on the Moon - Thundercat 【和訳・解説】

Artist: Thundercat

Album: Distracted

Song Title: Walking on the Moon

概要

サンダーキャットのアルバム『Distracted』に収録された本作は、彼がこよなく愛するSF映画や宇宙への憧憬を、極上のメロウ・ファンクへと昇華させたロマンティックなラブソングである。『スタートレック』や『バーバレラ』といった古典的SF作品の引用をオタク的に散りばめながら、恋に落ちる無重力感や、他者と隔絶された二人きりの宇宙を描き出している。しかし、その甘い浮遊感の裏には、現実世界(LAの過酷な音楽業界や親友の死という喪失の痛み)から遠く離れた場所へ消え去りたいという、彼特有の深いメランコリーと逃避願望が「事象の地平線(ブラックホール)」のメタファーを通じて静かに横たわっている。

和訳

[Verse]

Your warm embrace, I'm underwater
君の温かいハグ、まるで水の中にいるみたいだ
※宇宙空間の無重力状態を、水中の感覚に例えている。LAの喧騒から逃れ、外部の音が完全に遮断された静寂と安らぎのメタファーである。

So abiotic, no one around us
生命の気配すらない(アバイオティック)、周りには誰もいないんだ
※「abiotic(非生物的、生命が存在しない)」という極めて理系的で冷たい単語をラブソングに用いるのが、オタク気質を持つサンダーキャットならではの言語感覚。二人の世界が外界から完全に隔絶されていることを示している。

Where no one has gone before
まだ誰も行ったことのない場所へ
※『スタートレック』のオープニング・ナレーションとしてあまりにも有名なフレーズ("To boldly go where no man has gone before")。熱狂的なトレッキー(スタートレックのファン)である彼のオタク心が爆発している。

Walking on the moon
月面を歩いてる気分さ
※The Policeの名曲「Walking on the Moon」を彷彿とさせるタイトルだが、ここでは恋に落ちた時の足が地に着かない浮遊感を表現している。

So sparkly, stardust in your eyes
すごくキラキラしてる、君の瞳の中のスターダスト

In your tractor beam
君のトラクター・ビームに捕まっちゃったよ
※「トラクター・ビーム」はSF作品(『スター・ウォーズ』や『スタートレック』など)に登場する、対象物を光線で引き寄せる架空の技術。圧倒的な魅力に抗えずに引き寄せられてしまう恋心を例えている。

Took me by surprise, I come in peace and light
不意打ちだったな、「我々は平和と光の使者だ」なんてね
※「I come in peace」は、宇宙人が地球に降り立った際の決まり文句。未知との遭遇(新たな恋の始まり)に対する、彼らしいユーモアに満ちたリアクション。

Walking on the moon
月面を歩いてる気分さ

Up to the sun, we're lost in orbit
太陽に向かって、俺たちは軌道上で迷子になるんだ
※目的もなく愛の引力に身を任せる様子。

We'll travel far as love can take us
愛が導いてくれる限界の遠くまで、旅に出よう

Where no one has gone before
まだ誰も行ったことのない場所へ

Walking on the moon
月面を歩いてる気分さ

No gravity (No gravity), love is expanding
無重力(ゼロ・グラビティ)、愛が宇宙みたいに膨張していく
※宇宙の膨張(ビッグバン理論)と愛の深まりを重ね合わせた表現。

We're on an island (On an island), time disappearing
俺たちは島にいるんだ(孤島にね)、時間が消え去っていく

We've got all of the time in the world
世界中のすべての時間が、俺たちのものさ

Walking on the moon
月面を歩いてる気分さ

My Barbarella, you're my Uhura
俺のバーバレラ、君は俺のウフーラ
※「Barbarella」は1968年のカルトSF映画のセクシーなヒロイン。「Uhura」は『スタートレック』の通信士(ニシェル・ニコルズが演じた、黒人女性キャラクターの歴史的先駆者)。ブラック・カルチャーとSFを愛する彼にとって、最高のロマンティックな賛辞である。

I'm your starship trooper, event horizon
俺は君のスターシップ・トゥルーパー、そして事象の地平線
※『スターシップ・トゥルーパーズ(宇宙の戦士)』と、ブラックホールの境界線を示す『イベント・ホライゾン(事象の地平線)』の引用。引き返せない(光すら逃れられない)ほど深い愛に落ちた状態を物理学の用語で表現している。

Where time is standing still
そこでは時間が静止してるんだ
※ブラックホール(事象の地平線)に近づくにつれて時間の進みが遅くなるという、アインシュタインの相対性理論に基づいたロマンティックな物理学ジョーク。

Walking on the moon
月面を歩いてる気分さ

[Outro]

Your love is like outer space
君の愛は、まるでアウター・スペース(外宇宙)みたいだ

You take me to a higher place
俺をもっと高い次元へ連れて行ってくれる

And disappear without a trace
そして、痕跡すら残さずに消え去っていくんだ
※これまでの甘いロマンスから一転し、喪失を予感させる不穏なライン。マック・ミラーら親友の死や過去の失恋など、「大切なものはいつも手の届かない宇宙の彼方へ消えてしまう」というサンダーキャットの根源的なトラウマとメランコリーが顔を出している。

In the sky, I see your face
空を見上げれば、君の顔が浮かぶよ

Surrounded by your embrace
君の温かいハグに包まれながら

Your love is like outer space
君の愛は、まるでアウター・スペースみたいだ