Artist: Wu-Tang Clan
Album: Wu-Tang Forever
Song Title: For Heavens Sake
概要
1997年リリースの歴史的2枚組アルバム『Wu-Tang Forever』に収録された本作「For Heavens Sake」は、Wu-Tang Clanの層の厚さと圧倒的なリリシズムを見せつけるハードコアな一曲だ。RZAによる、ソウルフルなボーカルサンプル(「Oh baby, for heavens sake」)を絶妙にループさせた土臭く哀愁漂うビートの上で、Inspectah Deck、Masta Killa、そして当時非公式メンバー的な立ち位置だったCappadonnaという、グループ内でも職人気質で言葉巧みな3人がマイクをリレーする。特に一番手を務めるInspectah Deckのバースは、コアなヒップホップファンの間で「彼のキャリアにおけるベスト・バースの一つ」と高く評価されており、息もつかせぬ巧みな韻と鮮やかなメタファーで楽曲のトーンを完全に決定づけている。5% Nationの教義から、ポップカルチャー、スポーツ選手、歴史的事件までを縦横無尽に引用する彼らの高度なワードプレイは、コマーシャル化していく当時のヒップホップシーンに対する、アンダーグラウンドからの強烈なカウンターパンチであった。
和訳
[Intro: Inspectah Deck]
Yo, (Wu) one two (Tang) one two (Wu-Tang)
ヨォ、(Wu)ワン・ツー(Tang)ワン・ツー(Wu-Tang)
It's the Wu (Wu-Tang) creepin in the shadows (Wu-Tang)
暗闇に潜むWuのお出ましだ
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Oh baby, for heavens sake)
(あぁベイビー、お願いだから)
Sir I, Excalibur (Wu-Tang...)
サー・アイ、エクスカリバー
(Oh baby, for heavens sake)
(あぁベイビー、お願いだから)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Oh baby, for heavens sake)
(あぁベイビー、お願いだから)
(Yeah)
[Verse 1: Inspectah Deck]
My rap style swing like Willie Mays
俺のラップスタイルはウィリー・メイズのようにスウィングする
※野球界の伝説的強打者ウィリー・メイズを引用し、自身のフロウの力強さと完璧なスウィング(グルーヴ)をアピールしている。
My eyes Purple Haze, my solar rays’ll burn through shades
俺の目はパープル・ヘイズ、俺の太陽光線はサングラスのレンズも焼き尽くす
※「Purple Haze」は上質なマリファナを吸って目が充血している状態、またはジミ・ヘンドリックスの名曲のサイケデリックな影響を示唆。「Solar rays(太陽光線)」は5% Nationにおける「知識」や「神(太陽=男性)」の象徴であり、フェイクな連中の偽装(サングラス)を貫通して真実を暴くという意味。
Rhyme grenades raid the airwaves, catch this rap page
ライムの手榴弾が電波を襲撃する、このラップのページを受け取りな
I glide like, hovercrafts on the Everglades
エバーグレーズのホバークラフトみたいに滑らかに進むぜ
※フロリダの広大な湿地帯(エバーグレーズ)を走るホバークラフト(エアボート)のように、どんなビートの上でも滑るように(glide)フロウできるという表現。
Boom master, with the faster blade, track slasher
ブームマスター、素早い刃を持つ、トラックを切り裂く者
Manufacture poems to microphones, bones fracture
マイクに向けて詩を量産し、骨をへし折る
Limited edition composition spark friction
限定版の構成が摩擦を生み出す
Non-fiction, the calm bomb, keep your arm distant
ノンフィクションだ、静かなる爆弾、手を出すんじゃねぇぞ
Zero tolerance, dominant intelligence
一切の容赦なし、圧倒的な知能
Wu original, true colors stem from the melanin
Wuのオリジナル、真の色彩はメラニンに由来する
※ブラック・プライドの表明。黒人の肌のメラニン色素こそが、オリジナル・マンとしての真の力と色彩の源泉であるという思想。
The most high, most try, to get close by
至高の存在、多くの者が近くに寄ろうとし
And overthrow I, but choke, with they hopes up high
俺を打ち倒そうと試みるが、高い希望を抱いたまま窒息するのさ
I circulate the tri-state and vibrate beyond the Richter
俺はトライステートを巡回し、リヒタースケールを超える振動を起こす
※「Tri-state」はニューヨーク、ニュージャージー、コネチカットの3州エリア。彼らの影響力が地震計(リヒタースケール)では測れないほどの揺れ(ムーブメント)を生み出している。
Fly sistas flock when they spot this live nigga
イカした女たちは、このイケてる黒人を見つけると群がってくる
The crowd seducer black your third eye before I lose ya
観衆を誘惑する俺が、お前を見失う前にお前の第三の目を黒くしてやる
※「Third eye(第三の目)」は悟りや真の知識の象徴。「Black your third eye」は、強烈なパンチ(知識)を食らわせて「目の周りにアザ(Black eye)を作る」ことと、「真理に目覚めさせる」ことのダブルミーニングと解釈されている。
Verbal high, leave styes in the eyes of Medusa
言葉によるハイ、メデューサの目にものもらいを残すぜ
※見た者を石に変える怪物メデューサですら、Deckの凄まじいリリック(Verbal high)の前ではまともに目を開けられなくなるという神話級のパンチライン。
Top ten, poly like Cochran, and Sharpton
トップ10、コクランやシャープトンのように政治的に立ち回る
※「poly」は「politicking(政治的な駆け引き)」のスラング。O.J.シンプソン事件の弁護士ジョニー・コクランや、公民権運動家のアル・シャープトンのように、言葉巧みにシーンを動かす能力の例え。
Narrow margin, of your odds to dodge the marksman
お前がこの狙撃手を避けられる見込みはごく僅かだ
Murder rap, kill you soft like Roberta Flack
マーダー・ラップ、ロバータ・フラックのようにお前を優しく殺す
※ロバータ・フラックの大ヒット曲「Killing Me Softly with His Song(やさしく歌って)」を文字った見事な引用。流麗なフロウで致命傷を与えるスタイルの暗喩。
Words attack like a British Bulldog, observe the stats
ブリティッシュ・ブルドッグのように言葉が襲いかかる、俺のスタッツを見てみな
[Chorus]
(Oh baby, for heaven's sake)
(あぁベイビー、お願いだから)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Oh baby, for heaven's sake)
(あぁベイビー、お願いだから)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Oh baby, for heaven's sake)
(あぁベイビー、お願いだから)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Oh baby, for heaven's sake)
(あぁベイビー、お願いだから)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
[Verse 2: Masta Killa]
Now all pay tribute to this entity
今や誰もがこの存在に敬意を払っている
A spark that surges through the undergrowth
下草の間を駆け巡る火花のように
Overwhelming the populace from the entry
入り口の時点から大衆を圧倒し尽くす
The Wu-Tang Dynasty, has emerged
ウータン王朝が、ついに現れたのだ
From this elite fleet I was appointed to strike the vital nerve
このエリート艦隊から、俺は急所を突くよう任命された
Mouths tend to utter and speak empty words
口々はとかく、中身のない言葉を発しがちだ
Observe the magnetic attraction as we breathe
俺たちが呼吸するたびに生み出す、磁力のような引力を観察しろ
※5% Nationの思想に基づく「Magnetic(引力/魅力)」。真の知識を持つ者は、自然と人々を引き付ける力を持つという概念。
Seeds of MC's that these fake ass industry niggas
このフェイクな音楽業界の連中が餌食にする、MCたちの種
Feed off, the chrome might tend to squeeze off
奴らが食い物にすると、クロームが火を噴くことになりかねない
※「Chrome」は銃(クロームメッキの拳銃)のこと。才能ある若手(Seeds)を搾取する業界に対して、ストリートの報復が起こることを警告している。
And spray, an array of shots
そして無数の弾丸をばら撒く
That travel downwind, just respect my prolific pen
風下へと飛んでいく弾丸だ、俺の多作なペンに敬意を払うんだな
As I ascend, the minds of the weak
俺が弱き者たちの精神を昇華させながら
To rise and take power Eiffel tower-ing over the land
立ち上がり権力を握り、この大地の上にエッフェル塔のようにそびえ立つ
As we stand, expanding our cream
俺たちが立ち塞がり、クリームを拡大していく
※「Cream」はWu-Tangの代表曲「C.R.E.A.M.」に由来し、富(Cash)だけでなく、彼らの影響力や真理(最高水準のもの)を指す。
A dollar to every grain of sand
砂の数ほどの一ドル札を
Let the mind use the physical as planned
精神が計画通りに、この肉体を行使するのに任せろ
※肉体(Physical)の欲望や本能に流されるのではなく、覚醒した精神(Mind)が肉体を完璧にコントロールするという哲学的なライン。
[Chorus]
(Oh baby, for heaven's sake)
(あぁベイビー、お願いだから)
(Oh baby, for heaven's sake)
(あぁベイビー、お願いだから)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
[Verse 3: Cappadonna]
Yo, yo, this is Beirut
ヨォ、ヨォ、ここはベイルートだ
※中東のレバノンの首都ベイルート。かつて内戦で激しく荒廃したことから、ストリートの過酷さや自分たちの周囲が「戦場」であることを示す比喩としてヒップホップで頻出する。
Try to comprehend check out my new suit
理解しようとしてみろ、俺の新しいスーツを見な
※物理的な衣服だけでなく、自分の新しい「スタイル」や「マインドセット」を指している。
Darts blend aim take fire pure destruction
ダーツが混ざり合い、狙いを定め、発射する、純粋なる破壊
※「Dart」は鋭いリリックのこと。Wu-Tangのメンバーのリリックが合わさることで、シーンに破壊的な衝撃を与える。
Disappear from here, my year, drop the stupid LP's everywhere
ここから消え失せろ、今年は俺の年だ、そこら中にヤバいLPを投下してやる
※「stupid」はスラングで「とてつもなくヤバい、信じられないほど素晴らしい」という意味。
Fallin out the sky tall sniper
空から降ってくる、高層の狙撃手だ
Raps by Cappadonna hit the countryside
カパドンナのラップが田舎の隅々まで直撃する
Poetry whirlpool, RZA and True collide
詩の渦、RZAとTrueが衝突する
※「True」はCappadonnaの別名「True Master」の一部(または彼の本名を意識した表現)。RZAのビートと自身のラップが激しくぶつかり合う様を表現。
We produce article exception to the rule
俺たちはルールの例外となるような作品を生み出す
We the black men that struck oil, the hardboiled
俺たちは石油を掘り当てた黒人だ、ハードボイルドな奴らさ
※巨大な富(ストリートからの成功)を手に入れたことと、決してブレないタフな姿勢の宣言。
Cats that made that Watergate thing go spoiled
ウォーターゲート事件を台無しにしたような連中だ
※アメリカ史に残る大政治スキャンダル「ウォーターゲート事件」を引き合いに出し、自分たちが既存の権力構造や音楽業界の不正をぶっ壊すほどの影響力を持っているという強烈なメタファー。
The heavy-handed, locked down stranded with Cyrus
高圧的で、サイラスと一緒に立ち往生してロックダウンされる
※1979年のカルトギャング映画『The Warriors(ウォリアーズ)』に登場するカリスマ的リーダー「サイラス」への言及。ストリートのギャングたちを一つにまとめ上げようとした彼の姿に、Wu-Tangの結束を重ねている。
Wu Pirates, sneak inside the club, low eyes
ウータンの海賊たち、クラブに忍び込む、目は垂れ下がってる
※「Low eyes」は強めのウィードを吸ってハイになっている状態のこと。
Low down dirty, twelve thirty, night time crawlers
卑劣で汚い、夜の12時半、夜を這い回る者たち
Off-the-wallers, basketball gun brawlers
型破りな奴ら、バスケットボールと銃を振り回す乱闘者たち
Smoked out throw both fists for nine-seven
煙に巻かれ、97年のために両拳を突き上げる
※アルバムがリリースされた1997年(Nine-seven)をWu-Tangの年として宣言している。
Slang reverend, put the best work in
スラングの牧師が、最高の仕事を叩き込むぜ
[Chorus]
(Oh baby, for heaven's sake)
(あぁベイビー、お願いだから)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Oh baby, for heaven's sake)
(あぁベイビー、お願いだから)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Oh baby, for heaven's sake)
(あぁベイビー、お願いだから)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Oh baby, for heaven's sake)
(あぁベイビー、お願いだから)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Wu-Tang, Wu-Tang, Wu-Tang)
(Yo)
(Oh baby, for heaven's sake)
(あぁベイビー、お願いだから)
