Artist: Wu-Tang Clan
Album: Wu-Tang Forever
Song Title: Cash Still Rules / Scary Hours (Still Don’t Nothing Move But the Money)
概要
1997年リリースの大作『Wu-Tang Forever』に収録された本作は、グループ最大のアンセムである「C.R.E.A.M. (Cash Rules Everything Around Me)」の精神的な続編、あるいはダークな裏面とも言える楽曲だ。4th Discipleによる、冷酷で不吉なピアノループと重たいドラムが支配するビートの上で、Raekwon、Method Man、Ghostface Killahの3人が、ストリートにおけるサバイバル、強盗、ドラッグディール、そして終わりのない暴力のサイクルを生々しく描写する。タイトルが示す通り「恐ろしい時間(Scary Hours)」が訪れようとも、結局のところ「金以外の何ものもストリートを動かさない(Still Don’t Nothing Move But the Money)」という冷徹な現実を提示している。
特にRaekwonとGhostface Killahのバースは、マフィオソ・ラップの真骨頂であり、固有名詞や独自のスラングを多用したまるで一本の犯罪映画(ストリート・シネマ)を見ているかのような圧倒的なストーリーテリングを展開する。コマーシャル化が進む当時のヒップホップシーンにおいて、彼らがどれほどアンダーグラウンドでハードコアなマインドセットを保持していたかを見せつける、Wu-Tang Clanの裏の代表作の一つである。
和訳
[Intro: Raekwon]
Shake them niggas
奴らを揺さぶれ(カツアゲしろ)
※ストリートでターゲットを脅し、金やブツを奪うことを意味するスラング。
[Verse 1: Raekwon]
Scary hours, no money out, smash the Guinness Stout
恐ろしい時間だ、金はない、ギネススタウトを叩き割る
Play the outfield, Lucille, switched cracks on shields
外野を守るぜ、ルシール、シールドの前でクラックをさばいた
※「shields(盾)」は警察のバッジの暗喩。サツの目の前でもドラッグを売りさばく大胆さ。「Lucille」はB.B. Kingのギターの名前などにも使われるが、ここではストリートの女や特定のハスラー仲間の名前として使われている。
She's a rich fiend, sacrifice her fam, shift them niggas to Queens
彼女は金持ちのヤク中だ、家族を犠牲にし、連中をクイーンズへと追いやる
Guess jeans she charged thirty-five beans
ゲスのジーンズを穿き、彼女は35粒の豆を請求した
※「beans」はドラッグの錠剤やクラックの欠片、あるいは数百ドルの金を指すスラング。
Hit the cell phone, regulate with well known Tone
携帯を鳴らし、名の知れたToneと取引を調整する
A Wally kingpin who also slam the strike edition
ワラビーのキングピン、ストライク・エディションもさばく男だ
※「Wally」はクラークス(Clarks)のワラビーブーツのことで、当時のNYストリート(特にWu-Tang周辺)で絶大な人気を誇ったステータスシンボル。「strike edition」は極上の純度を誇るドラッグの隠語。
What up? Corleone smoke the bone, Tone phone me
調子はどうだ? コルレオーネがボーンを吸う、Toneが俺に電話してきた
※「Corleone」は映画『ゴッドファーザー』からの引用であり、マフィア的なペルソナ。「bone」はマリファナのジョイント。
What up? He tried to slang there, address him with chrome only
調子はどうだ? 奴が俺のシマで売ろうとしたから、クロームだけで対応してやった
※「chrome」はクロームメッキ加工された拳銃のこと。言葉ではなく銃弾で縄張りを守ったという冷酷なライン。
Grady with the gray beard, transporting for him
灰色の髭を生やしたグレイディが、奴のためにブツを運んでる
Rocking Nike hat, Rastafarian bird, piping that
ナイキの帽子を被り、ラスタファリアンの女が、パイプをふかしてる
Switchin' Benzes, ten carat nigga with gold lenses
ベンツを乗り換え、10カラットのダイヤを着け、ゴールドのレンズをした黒人
Fronting like he's sitting on a lump, he's sitting on junk
大金の上に座ってるように虚勢を張るが、奴が座ってるのはガラクタの上だ
※「lump(塊)」は大金の比喩。見た目は羽振りが良さそうだが、実際は低純度のドラッグ(junk)や借金まみれのフェイク野郎だというディス。
You wanna pull a heist, draw guns and robberies
強盗を働きたいのか、銃を抜き、強奪する
You wanna rock rep, step in yellow Wallabies
名声を轟かせたいなら、黄色のワラビーを履いて踏み出せ
Names arraigned, they're Century Fox, little Glocks
名前が罪状認否される、奴らはセンチュリー・フォックス、小さなグロックだ
※「20th Century Fox」のロゴのように派手に目立ちたがる連中が、小口径の銃(little Glocks)でいきがって捕まる様を皮肉っている。
Them niggas with stocks, wheelyin' blocks
株(大量のブツ)を持った奴らが、ブロックをウィリーで走り抜ける
Rich lifestyle, spoiled like an ordinary white child
リッチなライフスタイル、普通の白人の子供のように甘やかされてるぜ
But right now, the Sun it still shine, shed light now
だが今は、太陽はまだ輝いている、今こそ光を当てろ
※5% Nationの教義において「Sun(太陽)」は真理や知識を持った黒人男性を意味する。
Breakdown, liquidate God, fucking grab the nickel plate
崩壊だ、神(黒人)を清算しろ、ニッケルプレートを掴むんだ
※「nickel plate」も銃器のこと。己の身を守るために引き金を引く覚悟を歌う。
'Spencer: For Hire', tension when we mention Dryer
「私立探偵スペンサー」、ドライヤーの名前を出すと緊張が走る
※80年代のTVドラマ『Spenser: For Hire』からの引用。「Dryer」は同時代の刑事ドラマ『Hunter』に主演したFred Dryerを指しており、ストリートにおけるサツへの警戒心と緊張感をTVドラマになぞらえている。
He's a slave cop, behave pop
奴は体制の奴隷警官だ、大人しくしろよ親父
Isuzu Beige Top will blow that cat at the Purple Haze spot
ベージュのトップのいすゞが、パープルヘイズのスポットでそいつを吹き飛ばすぜ
※当時ストリートでよく見られたSUV(いすゞ・ロデオなど)からのドライブバイ・シューティングの生々しい描写。
[Verse 2: Method Man]
I remember sticking fiends at the 1-6-ooh
160丁目でヤク中どもを脅し取ってたのを思い出すぜ
※「1-6-ooh」はMethod Manの地元であるスタテンアイランド周辺、またはNYの特定のストリートを指す。
When we was starving, ducking 5-0, paying 'em dues
俺たちが飢えていた頃、サツ(5-0)を躱し、代償を払っていたんだ
Times is hard in the slums I'm from, they got us barred in
俺の出身のスラムじゃ時代は過酷だ、奴らは俺たちを閉じ込めた
We warring and cage dodging, ripping and robbing
俺たちは戦争し、檻(刑務所)を避け、奪い、強盗する
Got the NARC sabotaging, slipping cracks in
麻薬捜査官(NARC)が妨害し、クラックを密かに忍び込ませる
※警察が意図的にゲットーにドラッグを蔓延させたり、証拠を捏造したりするシステムの腐敗を告発している。
Your camouflaging, now you snitching on the squadron
お前のカモフラージュ、今やお前は部隊(仲間)をチクってるな
※ストリートの掟を破り、警察と取引してスニッチ(密告者)になったかつての仲間への怒り。
That's something niggas can't pardon
それは黒人たちが絶対に許せないことだ
City overrun by young gun with bad intention and Wu-Wear garment
街は悪意とWu-Wearの服を着た、若き銃使い(ヤングガン)に制圧された
※Wu-Tang Clanが展開したアパレルブランド「Wu-Wear」が、当時のフッドの若者たちの制服のようになっていた影響力の大きさを語る。
So I see no need to mention, the potency
だから言及する必要もないだろう、その効力を
Of a sting from a Killa Bee, kicking the battery
キラービーの針の一撃のな、バッテリーを蹴り出す
※「Killa Bee」はWu-Tangのメンバーやそのファンの総称。一撃で相手のエネルギー(バッテリー)を奪い取る破壊力。
Out the back of them wisecracks
あの生意気な奴らの背後から
Distorted for your get high, you hijack
お前がハイになるために歪められ、お前はハイジャックする
These friendly skies ain't for you, they for me and mine
このフレンドリー・スカイはお前らのためのものじゃない、俺と俺の仲間のためのものだ
※ユナイテッド航空の有名なキャッチコピー「Fly the Friendly Skies」をサンプリング。この業界(あるいは空のような高み)はフェイクな奴らの場所ではなく、俺たちWu-Tangの領土だという宣言。
This the year of the grimy nigga, ragtime
今年は汚れた黒人の年だ、ラグタイム
Keep these niggas on the run, peep my Clan emblem
奴らを逃げ回らせておけ、俺のクランの紋章を見な
Iron Lung ain't got to tell you where it's coming from
アイアン・ラング(俺)がどこから来たかなんて、お前に教える必要はないだろ
※「Iron Lung」はMethod Manの別名。わざわざ言わずとも、俺がWu-Tangを背負っていることは自明だというプライド。
[Bridge: Method Man & La the Darkman]
Catch us swimming with these sharks now, you rap villains
今、俺たちがこのサメたちと泳いでるのを見な、お前らラップの悪党ども
※冷酷な音楽業界やストリート(サメの泳ぐ海)でも生き残っている強さの証明。
(I feel the same way you niggas feeling)
(俺もお前らと同じように感じてるぜ)
We feel the same way you feeling, let it be known (Let it be known)
お前らと同じ気持ちだ、知らせてやろう(知らせてやろう)
What the blood clot you niggas dealing, you crash dummies
お前ら一体何を扱ってるってんだ、この衝突実験用ダミーども
※「blood clot」はパトワ(ジャマイカ・クレオール語)由来の強烈な罵倒表現。使い捨てにされるフェイクなラッパーたちを「Crash dummies(衝突実験のダミー人形)」と見下している。
Cash rules, still don't nothing move but the money
金が支配する、いまだに金以外は何も動かさないんだ
※名曲「C.R.E.A.M.」の哲学のリフレイン。時代が変わりスターになっても、資本主義とストリートの根本原則は変わらないという冷徹な事実。
[Verse 3: Ghostface Killah]
Ayo, strongarm that kid right there with wavy hair
エイヨォ、あそこのウェービーヘアのガキを力づくで奪え
Billy Johnson snatched him out his whip in Times Square
ビリー・ジョンソンがタイムズスクエアで、奴を車から引きずり下ろした
Took his Pumas, nameplate, duke lost weight
奴のプーマとネームプレートのネックレスを奪い、奴はげっそりと痩せこけた
Summer '88, started a fight at Ken's wake
88年の夏、ケンの通夜で喧嘩を始めた
Ask Dorothy, same kid pussy up in Marcy
ドロシーに聞いてみろ、同じガキがマーシー・プロジェクトでビビり上がってたぜ
※「Marcy」はブルックリンの悪名高い公営住宅(Jay-Zの出身地としても有名)。Ghostface得意の、実在の人物や場所を散りばめた極めて解像度の高いマフィア映画的なストーリーテリング。
Blazing that Ted Rossi up in The Marquees
ザ・マーキーズで、テッド・ロッシを燃やしている
※「Ted Rossi」は高価な帽子や毛皮のブランド。リッチな環境でドラッグ(Blazing)をキメている情景。
He lost like a hundred ounces, Jake rushed his houses
奴は100オンスくらい失った、サツ(Jake)が奴の家をガサ入れしたんだ
Had him on the porch, ass, no trousers
奴をポーチに立たせた、ケツ丸出しでズボンも履かせずにな
※警察による屈辱的な強制捜査のリアルな描写。
This souped up, individual stuck, the new stuff
この気取った野郎は行き詰まった、新しいブツにな
Same kid crying on the stand with Judge Kuffner
あの時と同じガキが、カフナー判事のいる証言台で泣き喚いている
Kissed him with odd numbers three to nine style
奇数で奴にキスをした、3から9のスタイルで
※判事が「3年から9年(three to nine)」の不定期刑という「キス(判決)」を下したことを指す、極めて詩的でヒップホップ的な言い回し。
Before he left he flashing his face like Denzel
奴が去る前に、デンゼルのように顔をひきつらせていた
※名優デンゼル・ワシントンが映画で見せるような、感情が爆発寸前の苦悩する表情の比喩。
Richard Dale took his Beaver, Un threw up all in his whip
リチャード・デールが奴のビーバー(帽子)を奪い、アンは奴の車の中で吐き散らした
Mushy dropped and split his wig with the heater
マッシーが倒れ、ヒーター(銃)で頭をカチ割られた
His shape-up was all fucked up, Heze had me laughing
奴の髪型はめちゃくちゃだった、ヘズのせいで俺は笑っちまったよ
※「shape-up」は理髪店で生え際を綺麗に整えること。凄惨な暴力シーンの最中にも関わらず、髪型が崩れたのを見て笑うという、ストリートのサイコパス的でブラックなユーモア。
God, you see how he was laid out in the grass
神よ(ブラザーよ)、奴が草むらにどう倒れていたか見たか?
With dirt in his mouth, Slim woke him up told him he wild out
口に泥を含んで、スリムが奴を起こして「お前は羽目を外しすぎた」と言った
Blood leaking from his teeth, he smiled like he gummed out
歯から血を流し、歯茎が剥き出しになったみたいに笑ったんだ
Big bolo, stacking his shit, financed a Volvo
デカいボロを着け、金を積み上げ、ボルボのローンを組んだ
※「bolo」は太い金網状のチェーンや大きなペンダントのこと。一時的に成功して調子に乗っていた頃の回想。
He copped his shit from a small coffee shop in SoHo
奴はソーホーの小さなコーヒーショップでブツを仕入れた
He still pussy, he sell his dust up on the Lower East
奴は相変わらずビッチだ、ロウアー・イーストサイドでダストを売っている
※「dust」はPCP(エンジェルダスト)のこと。かつての栄光は消え去り、底辺のドラッグをストリートで売るハメになった転落の描写。
Posing like he rapping out...
ラップをしているようなポーズをとりながらな…
※フェイクなハスラーや、中身のないラッパーたちの末路に対するGhostfaceからの冷酷な最後の一撃。
