UGMKM

Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Airmale - Yoko Ono 【和訳・解説】

Artist: Yoko Ono

Album: Fly

Song Title: Airmale

概要

1971年にリリースされた2枚組の傑作アルバム『Fly』に収録された「Airmale」は、フリージャズ的なアプローチと複雑なテープ・ループ、そしてトライバルなパーカッションが交錯する前衛的なインストゥルメンタル・トラックだ。タイトルの「Airmale」は「Airmail(航空便)」と「Male(男性)」を掛け合わせた巧妙なダブルミーニングであり、ジョン・レノンという圧倒的な「男性」の存在や、彼との間で行き交うメッセージ、あるいは男性中心主義的な社会そのものへのシニカルな暗喩であると解釈されている。本作の大部分は言葉を持たない音響の実験であるが、アウトロにおいて突如としてヨーコ自身の肉声による日本語の囁きが挿入される。売春婦の客引きのような、あるいは極めてプライベートな空間での挑発的な誘い文句のようなこの日本語のフレーズは、欧米主導のロックシーンにおいて彼女に押し付けられていた「従順でエキゾチックな東洋の女性」というステレオタイプを逆手に取った表現であり、男性の欲望を冷徹に突き放す不気味なほどの余裕を感じさせる。サウンドとコンセプチュアル・アートが高度に融合した、彼女の鋭い知性が光るトラックである。

和訳

[Instrumental]

※前衛的なフリージャズ・セッションとテープ・ループによるインストゥルメンタル。言葉なき音の洪水の中で、タイトルの「Airmale(空中の男性/航空便)」が示す通り、見えない宛先へと向かうエネルギーや、社会に蔓延する男性性(Male)の混沌としたメタファーが音響的に表現されている。

[Outro]

ねぇ,あんた,ちょっと遊んでいかない?

※欧米のリスナーには理解できない言語(日本語)で、しかも路上に立つ娼婦の客引きのような極めて俗っぽく挑発的な言葉を突然投げかけている。当時の西洋社会が抱いていた「ミステリアスな東洋の女」という偏見(オリエンタリズム)を自ら演じてみせることで、逆にそれを消費しようとする男性の欲望やリスナーの期待を冷笑する、見事なフェミニズム的ギミックとして機能している。コアなファンの間では、この得体の知れない余裕こそがヨーコの真骨頂であると高く評価されている。

ねぇ

あんた

※「あんた」という二人称の執拗な反復。親密さと突き放したような冷たさが同居しており、呼びかけられている男性(あるいはリスナー自身)が、徐々に彼女の仕掛けた精神的な迷宮へと引きずり込まれていく。

あんた

あんた

あんた

あんた

あんた

あんた

あんた

※フェードアウトしていく中で繰り返されるこの呼びかけは、まるで終わりのないループのように空間に漂い続ける。男性社会における女性の存在意義を問うような、静かだが極めてラディカルな余韻を残してアルバムの深い世界観へとリスナーを沈めていく。