Artist: JPEGMAFIA
Album: Veteran
Song Title: Williamsburg
概要
JPEGMAFIAの2018年の出世作『Veteran』に収録された本作は、ニューヨーク・ブルックリンの「ウィリアムズバーグ」地区のジェントリフィケーション(地域の高級化)を鋭く風刺した楽曲だ。かつてアーティストや労働者階級の街だったこの地区は、今や裕福な若者(ヤッピー)や白人のヒップスターたちが占拠している。Peggyは彼らの特権的なライフスタイルやサードウェーブコーヒーの文化を冷笑し、「ブルックリンを俺たちの手に取り戻す」と宣言する。さらに特筆すべきは、楽曲の後半で突如としてTravis Scottのヒット曲『Butterfly Effect』のコーラスをカバー(あるいは露骨なパロディとしてサンプリング)している点だ。メインストリームのトラップ・ミュージックのクリシェを意図的に模倣することで、大量消費されるヒップホップカルチャーそのものへのアイロニーを提示している。多彩なポップカルチャーの引用と攻撃的なストリートの言語が交錯する、彼のエクスペリメンタルな精神が爆発した一曲である。
和訳
[Intro: JPEGMAFIA]
Selling art to these yuppies, gettin' mixed offers
ヤッピーどもにアートを売って、色んなオファーをもらってるんだ
※「yuppies(ヤッピー)」は若くて裕福な都市のホワイトカラー層。インディペンデントな黒人アーティストが、白人の富裕層に作品を消費されている現状への皮肉。
Hold up...
待てよ…
[Verse 1: JPEGMAFIA]
Selling art to these yuppies, gettin' mixed offers
ヤッピーどもにアートを売って、色んなオファーをもらってる
I'm in New York like I’m Peter Parker
ピーター・パーカーみたいにニューヨークにいるぜ
※『スパイダーマン』の主人公からの引用。
Wrote a 16 then I tossed it
16小節のバースを書いて、すぐにゴミ箱に投げ捨てた
If I wanted bullshit, I’d just read Gawker (Facts, nigga)
もしクソみたいな情報が欲しいなら、ゴーカーでも読んでるさ(事実だぜ)
※「Gawker」はかつて存在した過激なゴシップメディア。中身のないラップを書くくらいなら、ゴシップ記事を読んでいる方がマシだというメディア批判。
Young Rick murder, I just shoot walkers
若きリックの殺人だ、俺はウォーカーどもを撃ち殺すだけさ
※大ヒットドラマ『ウォーキング・デッド』の主人公リック・グライムズと、ゾンビ(ウォーカー)の引用。思考停止して流行に群がるヤッピーたちを、自我のないゾンビに見立てて撃ち抜いている。
I’m a slave to this rap shit, I can’t quit (Nah)
俺はこのラップってやつの奴隷だ、やめることなんてできねえ(いや)
Fresh Sig with the grip (Ooh)
グリップの付いた新品のシグを持ってる
※「Sig」は銃器メーカーのシグ・ザウエル(SIG Sauer)のこと。
A y****e pop shit, call the gun Britney Jean
ヤッピーが調子に乗るなら、この銃をブリトニー・ジーンと呼んでやる
※伏せ字は「yuppie」。Britney Jeanはポップスター、ブリトニー・スピアーズのミドルネームを含む本名。
When the spears come out, I hit you and JT
スピアーズが出てきたら、お前とJTを撃ち抜いてやるよ
※ブリトニーのラストネームである「Spears(槍・武器)」と、彼女の元恋人であるジャスティン・ティンバーレイク(JT)を掛け合わせた極めて高度なワードプレイ。白人のポップカルチャーの象徴を銃撃の標的にしている。
You yuppies ain’t real, let you live for a fee
お前らヤッピーはリアルじゃねえ、金を払うなら生かしておいてやる
We taking Brooklyn back, you can leave the coffee
俺たちがブルックリンを取り戻す、そのコーヒーは置いていけ
※ジェントリフィケーションの象徴である「お洒落なカフェのコーヒー」を奪い、本来の住人たちの手に街を奪還するという宣言。
And you coons dying too, word to Charles Barkley (Word)
それに白人に媚びる黒人ども、お前らも死ぬんだよ、チャールズ・バークレーに誓ってな(マジだ)
※「coon」は白人社会に同化しようとする黒人への蔑称。NBAの伝説的選手であるチャールズ・バークレーは、たびたび保守的な発言や警察擁護の発言をして黒人コミュニティから批判を浴びており、ここでは「coon」の象徴としてネームドロップされている。
My head dreaded up like my name Marley
マーリーって名前みたいに、頭はドレッドにしてるぜ
※レゲエの神様、ボブ・マーリーの引用。
Nah, we don’t do-, shh
いや、俺たちはそんなこと…シーッ
Simple rhyming ass niggas get they wig pushed back (Uh)
単純な韻を踏むだけのラッパーどもは、頭を撃ち抜かれてヅラが吹き飛ぶんだ
Get your mic snatched, nicotine patched
マイクをひったくられ、ニコチンパッチを貼られる
Call my white b**s up, get your life hacked
俺の白人のダチを呼んで、お前の人生をハッキングしてやるよ
※伏せ字は「boys」。ハッカー=白人のナードというステレオタイプを利用したブラックジョーク。
Heard your stock dropped, nigga, this the blow back
お前の株が暴落したって聞いたぜ、これがその反動(ブローバック)さ
Put the Hawkeyes on him, heard he like M*A*S*H (Shoo)
あいつにホークアイの照準を合わせろ、M*A*S*Hが好きらしいからな
※朝鮮戦争の野戦病院を描いた古典的なドラマ『M*A*S*H』の主人公のあだ名「ホークアイ(鷹の目)」と、凄腕のスナイパー(狙撃手)を掛けている。
You gon’ rust in peace, heard you like thrash
お前は安らかに錆びつく(死ぬ)ことになる、スラッシュメタルが好きらしいからな
※「Rest in peace(安らかに眠れ)」をもじった、Megadethの伝説的なスラッシュメタル・アルバム『Rust in Peace』からの鮮やかな引用。
Put a price on your head, that’s a light bag
お前の首に懸賞金を懸ける、そんなの安いバッグ(端金)だ
.45 on me like Mike back, whoa
復帰した時のマイクみたいに、45を身に着けてるぜ
※バスケットボールの神様マイケル・ジョーダン(Mike)が1度目の引退から復帰した際に着用した背番号「45」と、自身が携帯している「.45口径の銃」を掛けた、ヒップホップにおける最高峰のダブルミーニングの一つ。
[Chorus: JPEGMAFIA and Travis Scott]
Flame, alright
フレイム、いいぜ
※ここから突如、Travis Scott(別名:La Flame)のヒット曲『Butterfly Effect』をパロディしたコーラスが始まる。メインストリームのトラップ・ミュージックをあえて模倣する高度なトローリング。
Baby, I’m just heating up (It's lit)
ベイビー、俺はただ熱くなってるだけさ(最高だぜ)
※「It's lit」はTravis Scottの有名なアドリブ。
Not a need-, a need it is a must (Yeah)
必要なわけじゃ…必要なんてもんじゃない、絶対にいるんだ
Feeling stuck, you know how to keep me up (Yeah, yeah, oh)
行き詰まった気分だ、君は俺をどうやってアゲるか知ってるだろ
Icy love, icy like a hockey puck (Oh, alright)
冷たい愛、ホッケーのパックみたいに冷え切ってる
Baby (Baby), I’m just heating up (It's nasty, it's lit)
ベイビー、俺はただ熱くなってるだけさ(エグいな、最高だぜ)
Need your-need your love (Stop, eh)
君の…君の愛が必要だ
Not a need it is a must (Yeah)
必要なんてもんじゃない、絶対にいるんだ
You know how to keep me up (Yeah, yeah)
君は俺をどうやってアゲるか知ってるだろ
Icy-
冷え切った…
[Verse 2: JPEGMAFIA and Travis Scott]
(...off in the main)
(…奥深くで)
※Travis Scottの『Butterfly Effect』の歌詞「Hidden Hills, deep off in the main(ヒドゥン・ヒルズ、メイン通りの奥深く)」のサンプリング。
I walk in the booth like I own it (Hidden Hills)
自分の持ち物みたいに堂々とブースに入っていく(ヒドゥン・ヒルズ)
※Hidden Hillsはロサンゼルスの超高級住宅街。成金ラッパーたちの象徴的な居住地。
I know that I belong there (Deep off in the main)
俺はあそこにふさわしいって分かってる(メイン通りの奥深くで)
Mm (Hidden Hills, deep off in the main)
うむ(ヒドゥン・ヒルズ、メイン通りの奥深くで)
These days ain’t the same (Hidden Hills)
最近は昔とは違うな(ヒドゥン・ヒルズ)
All ain’t b***t like that (Deep off in the main)
みんながあんな風に作られてるわけじゃねえ(メイン通りの奥深くで)
※伏せ字は「built」。
These fuck niggas ain’t trill like that
このクソ野郎どもはあんな風にトリル(本物)じゃねえよ
※「trill」はTrueとRealを組み合わせた南部ヒップホップのスラング。
Y’all niggas, y’all built like rats, oh (Hidden Hills)
お前ら、お前らはネズミみたいに作られてるんだよ(ヒドゥン・ヒルズ)
※「rat」は密告者(スニッチ)を意味する。高級住宅街に住むメインストリームのラッパーたちのタフネスが偽物であり、警察にすぐ頼るような腰抜けだと突き放して楽曲を終える。
[Instrumental]
