Artist: Ol’ Dirty Bastard (feat. Method Man & Raekwon)
Album: The Return to the 36 Chambers: The Dirty Version
Song Title: Raw Hide
概要
1995年にリリースされたOl’ Dirty Bastard(以下ODB)のソロ・デビュー・アルバム『The Return to the 36 Chambers: The Dirty Version』に収録されている、ウータン・クランの精鋭が交差するマイクリレー曲。客演にはMethod ManとRaekwonという、ウータンの中でも突出したカリスマ性を持つ2人が参加している。RZAがプロデュースした極めて重低音が効いた不穏でローファイなビートに乗せ、三者三様のリリシズムが炸裂する。Method Manが歌うフックは、古典的な西部劇『ローハイド』のテーマ曲の大胆なパロディであり、彼らのシーンにおける「無法者」としてのスタンスを際立たせている。ODBの底辺から這い上がろうとする赤裸々な狂気、Raekwonのストリートにおけるマフィオソ的な美学、そしてMethod ManのFive Percent Nation(ファイブ・パーセンターズ)の深遠な教義に基づく知性。ウータン・クランというグループの多面的な魅力が完璧なバランスで融合した傑作である。
和訳
[Intro: Ol' Dirty Bastard]
Yeah
I wanna let all y'all niggas know in here tonight
今夜ここにいる野郎ども全員に知らせておきたいんだ
That this is that Wu-Tang shit
これがウータンのヤバいシットだってことをな
This that shit that's gonna get you high
こいつはお前らを完全にハイにさせるシットだぜ
See, when you stimulate your own mind for one common cause, you see who's the real motherfuckers
いいか、一つの共通の目的のために自分の精神を刺激した時、誰が本物の野郎なのかが見えてくるんだ
See, what you see is you, what you see (You nuh see it? Wu-Tang a run tings)
ほら、お前が見ているのはお前自身だ、お前が見ているのは(わからねえか? ウータンがすべてを仕切ってるんだよ)
※「Wu-Tang a run tings」はジャマイカのパトワ語(Patois)の表現。ニューヨークのヒップホップシーン、特にブルックリンやスタテンアイランドに根付くカリブ系移民のカルチャーからの強い影響を示している。
Be the original G
オリジナルのGであれ
Rhymin' on timin' in the place to be (Run blood claat tings)
この場所で最高のタイミングでライムするぜ(クソヤバいモンを仕切ってるんだよ)
※「blood claat」はジャマイカのパトワ語における強烈な罵倒表現であり、強調の感嘆詞としても使われる。
Ladies love seein' me
女たちは俺を見るのが大好きなんだ
[Verse 1: Ol' Dirty Bastard]
You're a crossbreed, I'm a knowledge seed
お前らは雑種だが、俺は知識の種だ
※ウータンが信仰するFive Percent Nationの思想において、黒人は真理を知る「神(God)」であり、真の知識(knowledge)を受け継ぐ存在であるとしている。
I want action, that's what I need
俺はアクションが欲しい、それが必要なんだ
I never put doubt on my mind
俺は自分の心に疑いを持ったことなんてねえ
'Cause I know when I touch the mic, it's the rhyme
だってマイクを握れば、ライムが溢れ出るってわかってるからな
See murder which is caused
引き起こされる殺人を見てみな
When you fuck with the negative and positive charge
お前らがマイナスとプラスの電荷を弄り回す時にな
※相反するエネルギーがぶつかり合うことによる爆発的な衝撃(ヒップホップにおける化学反応)のメタファー。
Then I came up out my garage
そして俺はガレージから這い上がってきた
With a hit that's gonna be large
バカでかくなる大ヒット曲を引っ提げてな
Tired of sittin' on my fuckin' ass
ただ座って何もしねえのにはウンザリなんだよ
Niggas I know be runnin' around with mad fuckin' cash
俺の知り合いの野郎どもは狂ったような大金を持って走り回ってるってのにな
Who the fuck wanna be an MC
誰がMCになんてなりたいと思うんだよ
If you can't get paid to be a fuckin' MC?
MCとしてクソみたいな金すら稼げねえんだったらな
I came out my mama pussy, I'm on welfare
俺は母親の股から出てきて、生活保護を受けてる
Twenty-six years old, still on welfare
26歳になっても、まだ生活保護を受けてるんだ
※ヒップホップ史に残る有名なエピソードの背景。ODBはこのアルバムの発売直前(すでにスターになっていた時期)に、MTVのカメラクルーを引き連れてリムジンでニューヨークの福祉局へ乗り付け、生活保護(フードスタンプ)の配給を受け取るという前代未聞の奇行を見せた。ストリートの貧困という現実を、彼なりの狂気とユーモアで証明したラインである。
So I gotta get paid fully
だから俺はがっつり稼がなきゃならねえ
Whether it's truthfully or untruthfully
それが正当な方法だろうが、不当な方法だろうがな
With my bossy, bloodthirsty posse
ボスの風格を持った、血に飢えた俺の仲間たちと一緒に
P-E-A-C-E
ピース
[Chorus: Method Man]
Move 'em in, move 'em in
中に押し込め、中に押し込め
Move 'em out, move 'em out
外に追い出せ、外に追い出せ
Stick it up, pew, pew, rawhide
手を挙げろ、ピュン、ピュン、ローハイドだ
※1960年代のアメリカの人気西部劇『ローハイド(Rawhide)』の主題歌の有名なフレーズのパロディ。「pew, pew」は銃を撃つ擬音。ウータン・クランが音楽業界に殴り込みをかける荒くれ者のカウボーイや無法者であることをコミカルかつドープに表現している。
[Verse 2: Ol' Dirty Bastard]
Yeah, gotta come back to attack
そうさ、攻撃するために戻らなきゃならねえ
Killin' niggas who say they got stacks
札束を持ってるってほざく野郎どもを殺してやるよ
'Cause I don't give a fuck
だって俺は全く気にしねえからな
I wanna see blood
俺は血が見たいんだ
Whether it's period blood or bustin' your fuckin' face, some blood
それが生理の血だろうが、お前の顔面をぶっ飛ばして出る血だろうが、とにかく血をな
※血に対する異常な執着を、極端に不衛生でダーティな表現で語るODBの真骨頂。コンプライアンスを完全に無視したホラーコア的なライン。
I'm goin' out my fuckin' mind
俺は完全にイカレちまうんだ
Every time I get around devils, huh-huh
悪魔どもの周りにいる時はいつだってな、ハハッ
※Five Percentersの教義における「Devil(悪魔=白人や白人社会のシステム)」への言及。
Let me calm down, you niggas better start runnin'
少し落ち着かせろ、お前らは逃げ始めたほうがいいぜ
'Cause I'm comin', I'm dope like fuckin' heroin
俺が向かってるからな、俺はヘロインみたいにドープなんだ
Wu-Tang blood kin, a goblin who come tough like lambskin
ウータンの血族、ラムスキンみたいにタフに迫り来るゴブリンさ
Imagine gettin' shot up with Ol' Dirty insulin
オール・ダーティのインスリンを注射されるのを想像してみな
You bound to catch AIDS or somethin'
間違いなくエイズか何かに感染するぜ
Not sayin' I got it, but nigga, if I got it, you got it, what?
俺が持ってるって言ってるわけじゃねえが、もし俺が感染してたら、お前も感染するんだよ、わかったか?
※ドラッグの回し打ちによるHIV感染というストリートの深刻なタブーすらも、相手を脅すためのブラックジョークとして振りかざす無敵のスタンス。
[Verse 3: Raekwon]
Yo, check the bulletproof fly shit, strong like Thai Stick
ヨォ、この防弾仕様のヤバいシットをチェックしな、タイ・スティックみたいに強烈だぜ
※「Thai Stick」は1970年代に流通したタイ産の非常に強力なマリファナの品種。
Then I remain to tear your frame while I freaks it
そして俺が狂ったように暴れる間、お前の骨組みを引き裂き続ける
Like some fly new sneaks and shit
イケてる新品のスニーカーかなんかみたいにな
Now peep my shit, bitch tried to creep and got hit
さあ、俺のやり方を見な、女が忍び寄ろうとしたからぶっ飛ばしてやったぜ
Now regulate and I'll be out to set up a date
今は場を仕切って、デートの約束を取り付けに出かけるところさ
Wu-Tang is bangin' like a Ron G tape
ウータンはロン・Gのテープみたいにガンガン鳴ってるぜ
※「Ron G」は90年代のニューヨークで絶大な人気を誇ったミックステープDJ。彼のミックステープで曲が流れることは、ストリートでの絶対的なプロップス(支持)を意味した。
RZA, pump the shit just like a shotty
レザ、ショットガンみたいにビートを叩き込め
Watch me run it like John Gotti
俺がジョン・ゴッティみたいに仕切るのを見てな
※「John Gotti」はニューヨークのマフィア「ガンビーノ一家」の伝説的なボス。Raekwonのラップの核である、ギャングスタやマフィア映画の美学(マフィオソ・ラップ)の典型的なネームドロップ。
Collidin' on the track like gin and watty
トラックの上でジンとワッティみたいに衝突するぜ
※「watty」はマリファナの隠語、あるいは強烈なアルコール(waterの変形)とされ、ジンと混ぜることで強力な酩酊状態を生み出すことを意味している。
Check the calendar, I warn any challenger
カレンダーをチェックしな、俺はどんな挑戦者にも警告する
That step up, pew, feel the blast from the silencer
立ち向かってくる奴は、ピュン、サイレンサーからの爆風を味わうことになるってな
[Chorus: Method Man]
Move 'em in, move 'em in
中に押し込め、中に押し込め
Move 'em out, move 'em out
外に追い出せ、外に追い出せ
Stick it up, pew, pew, rawhide
手を挙げろ、ピュン、ピュン、ローハイドだ
[Verse 4: Method Man]
Comin' soon to a theater near you, it be the Wu
お近くの劇場で近日公開、それがウーだ
Yeah, find yourself in the square and see it's true
そうさ、広場に足を運んで、これが真実だってことを確かめな
Actual facts to snack on and chew
噛み砕いて味わうための、生々しい事実さ
My positive energy sounds peace to you
俺のポジティブなエネルギーが、お前に平和を響かせる
A wise man killed one horse and made glue
賢者は一頭の馬を殺して、接着剤を作った
※動物の骨や皮(馬など)から膠(接着剤)を作るという古い事実を引いている。無駄をなくし、あるものから新たな価値を生み出すというストリートの知恵のメタファー。
Wicked women puttin' period blood in stew
邪悪な女たちはシチューに生理の血を入れる
Don't that make the stew witch's brew?
それじゃシチューが魔女の秘薬になっちまうだろ?
※フッドに伝わるブードゥー教的な都市伝説への言及。女性が男性を自分に縛り付ける(惚れさせる)ために、料理に自身の経血を混ぜるという迷信。ODBのVerse 2の「period blood」への呼応でもある。
I fear for the 85 that don't got a clue
俺は何もわかっちゃいない85の連中のことが心配なんだ
※Five Percentersの教義で最も重要な概念。「85%」の人間は真実を知らされずに支配層に洗脳されている大衆を指し、「10%」が彼らを支配する権力者、残りの「5%」が真実に気づき人々を導く存在(Five Percenters=ウータンのメンバーたち)であるとされる。
How could he know what the fuck he never knew?
一度も教えられたことがないものを、どうやって理解できるって言うんだ?
God cypher divine come to show and come to prove
神の神聖な暗号が、見せつけ、証明するためにやって来た
※「God cypher divine」は「G-O-D」のアクロニム(頭文字)。Five Percentersの最高位のアナグラムであり、ここではMethod Man自身やウータンが真理をもたらす存在であることを示している。
A mystery god that's the work of Yakub
ミステリー・ゴッド、それはヤクブの仕業さ
※Five Percenters(およびネーション・オブ・イスラム)の神話に基づく強烈なライン。「Yakub(ヤクブ)」は数千年前に遺伝子操作によって「悪魔(白人)」を創り出したとされるマッドサイエンティスト。「Mystery god」とは、白人が黒人を支配するために作られた目に見えない神(キリスト教の神など)のこと。ストリートの黒人たちに、洗脳から目覚めろと促している。
The Holy Ghost got you scared to death, kid, boo
聖霊がお前を死ぬほどビビらせてるんだよ、小僧、バァ!
※キリスト教における「聖霊」という概念によって恐怖で支配されている状態を皮肉り、まるでお化け屋敷のように「Boo!(バァ!)」と脅かして笑い飛ばしている。
[Outro: Ol' Dirty Bastard]
Yeah, we always gotta keep it fly
そうさ、俺たちは常にイケてる状態を保たなきゃならねえ
Fly for you to feel what you wants to feel
お前らが感じたいものを感じられるように、最高にな
See, Wu-Tang'd like to thank all the people across the country
いいか、ウータンは国中のすべての人々に感謝したいんだ
All the people in America, all the people outside of America
アメリカにいるすべての人々、アメリカの外にいるすべての人々にな
For listenin' to our music
俺たちの音楽を聴いてくれてありがとう
We gotta keep it fly for you
お前らのために、俺たちはヤバいままでいなきゃならねえんだ
See, this ain't somethin' new
わかるか、これは別に目新しいものじゃない
That's just gonna come out of nowhere, no
どこからともなく突然現れたものなんかじゃない、違うんだ
This is somethin' old and dirty
これは古くて、ダーティなものなんだ
And dirty
そしてダーティなんだよ
Yeah
