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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Damage - Ol’ Dirty Bastard (feat. GZA) 【和訳・解説】

Artist: Ol’ Dirty Bastard (feat. GZA)

Album: The Return to the 36 Chambers: The Dirty Version

Song Title: Damage

概要

1995年にリリースされたOl’ Dirty Bastard(以下ODB)の歴史的ソロデビューアルバム『The Return to the 36 Chambers: The Dirty Version』に収録された一曲。本作はウータン・クラン(Wu-Tang Clan)のメンバーであり、グループ内で最も知的で鋭いリリシストとされるGZA(The Genius)をフィーチャーしている。RZAがプロデュースした不穏でミニマルなビートの上で、GZAの冷徹で計算し尽くされたフロウと、ODBの狂気に満ちた予測不能なスタイルが交差する。歌詞は、カンフー映画やマフィア映画の引用にとどまらず、古いシットコムやコメディ映画、タバコの広告スローガンといったアメリカのポップカルチャーを縦横無尽にサンプリングしている。さらに、Five Percent Nation(ファイブ・パーセンターズ)の深遠な教義と、ホラーコア的で過激なブラックジョークを混在させ、軟弱なフェイクMCたちを完膚なきまでに叩き潰す(Damage)という、ウータン特有の圧倒的なマイクリレーの美学が凝縮されたドープなトラックである。

和訳

[Intro]

Say, "Peace"
「平和だ」と言え

Peace
平和だ

Dirty, Ol' Dirty Bastard
ダーティ、オール・ダーティ・バスタード

Say it, say it again
言え、もう一度言え

The Genius
ザ・ジーニアス
※GZAの別名「The Genius」のこと。

Genius
ジーニアス

The Genius
ザ・ジーニアス

The Genius
ザ・ジーニアス

The Genius
ザ・ジーニアス

[Verse: Ol' Dirty Bastard & GZA]

I'll grab the mic and I'll damage you
俺がマイクを握って、お前にダメージを与えてやる

Crush your whole stamina
お前のスタミナを完全に削り取ってやるよ

Here comes the medical examiner
ほら、検死官の登場だ
※ライバルのMCをすでに「死体」として扱っている。

One verse, then you're out for the count
1ヴァースで、お前はカウントアウトさ

Bring the ammonia, make sure he sniffs the right amount
アンモニアを持ってこい、適切な量をきっちり嗅がせろ
※気絶したボクサーの意識を戻すために使われる気付け薬(アンモニア水)のこと。

Wake him up and then ask him why did he attend this
目を覚まさせてから聞いてやれ、なんでこいつに参加したんだってな

Competition to get an ass-kickin' so tremendous?
こんなとてつもなくボコボコにされるコンペティションにな

Boy, you know you shouldn't bother this
小僧、これには手を出さないほうがいいってわかってるだろ

Leave me alone like the son said, G, or he'll be fatherless
息子の言う通り俺を放っておけ、G、さもないとあいつは父親を失うことになるぜ
※相手を殺すという警告。自分に手を出せば相手の子供が孤児になるという残酷な脅し。

'Cause I got the Asiatic flow mixed with disco
俺はディスコと混ざり合ったアジアティックなフロウを持ってるからな
※「Asiatic」はFive Percentersの教義における「Asiatic Black Man(地球の本来の住人である黒人)」を指す言葉。ウータンのルーツであるオールドスクールのディスコ・ラップと黒人の誇りを融合させている。

Roll up on the scene like the count of Monte Cristo
モンテ・クリスト伯みたいにシーンに乗り込むぜ
※アレクサンドル・デュマの小説『モンテ・クリスト伯』。どん底から這い上がり、自分を陥れた者たちに圧倒的な復讐を果たす主人公に自らを重ね合わせている。

And MCs start to vanish
そしてMCどもは消え始める

I stepped up to a jet-black kid, started speakin' Spanish
俺は漆黒のガキに近づいて、スペイン語で話し始めたんだ

Yo, he wasn't from Panama
ヨォ、そいつはパナマ出身じゃなかった

Asked him how he get so dark, the nigga said "Sun-tanama"
なんでそんなに黒いんだって聞いたら、そいつは「サン・タナマ」って言ったんだ
※「パナマ(Panama)」と「日焼け(Sun-tan)」をかけたダジャレ。シリアスな空気の中に突然挿入されるODBらしいコミカルなジョーク。

He responded so fast, he made me laugh
そいつの返しがあまりにも速くて、俺は笑っちまったよ

Ha-ha-ha, then I scared his ass
ハハハ、それから俺はそいつを死ぬほどビビらせてやった

Kicked the hundred strongest rhymes, I brought out the punk in him
最強のライムを100発蹴り込んで、そいつの中の腰抜けを引きずり出してやったんだ

Caught him with a strong Five Deadly Venom
強力な「五毒拳」でそいつを捕らえてな
※1978年の香港のカンフー映画『五毒拳 (Five Deadly Venoms)』からの引用。ウータン・クランの神話体系に欠かせないカンフー・リファレンス。

Told him enter the Wu-Tang
そいつにウータンに足を踏み入れろって言ってやった

Witness the Shaolin slang that'll crush the shit you brang
お前が持ち込んだクソを粉砕する、少林寺のスラングを目撃しろ

And watch your ass take a big fall
そしてお前が派手に転落するのを見てるんだな

Why? My main source is like a friendly game of stickball
なぜかって? 俺のメインの源はスティックボールの親善試合みたいなもんさ
※「stickball」はニューヨークなどの路地裏でほうきの柄などをバットにして遊ぶストリート野球。彼らのスキルがストリートの日常から自然に生まれたものであることを示している。

And as you step up to bat, man, I play the Riddler
そしてお前がバッターボックス(bat)に立つ時、俺はリドラーを演じるぜ
※野球の「bat」と、アメコミヒーローの「バットマン(Batman)」をかけ、自身をその宿敵である悪役「リドラー」に例えた言葉遊び。

Try to Jew me for a rhyme and I change to Hitler
ライムで俺を騙そうとするなら、俺はヒトラーに変わるぜ
※「Jew」は「値切る、騙し取る」という反ユダヤ主義的な偏見に基づく古いスラング。それに対してホロコーストの主導者であるヒトラーを引き合いに出すという、ヒップホップにおける非常に極端でコンプライアンス皆無のホラーコア的なパンチライン。

Go out like a Nazi
ナチスみたいに暴れてやるよ

You'll be wishin' your fuckin' ass stayed home and played Yahtzee
お前は家に引きこもってヤッツィーでもやってりゃよかったって後悔するだろうな
※「Yahtzee」はアメリカの古典的なサイコロゲーム。ストリートの危険な戦いではなく、家で安全なボードゲームをしておくべきだったという嘲笑。

Or watchin' Happy Days, sweatin' Potsie
それとも『ハッピーデイズ』を見て、ポッツィーに冷や汗をかいたりな

With Ralphie and Richie Cunningham, Joni and Chachi
ラルフィーやリッチー・カニンガム、ジョニーやチャチと一緒にな
※1970〜80年代のアメリカの人気シットコム『ハッピーデイズ』の登場人物たちのネームドロップ。ストリートの過酷な現実とは無縁の、平和で安全な白人の家庭的なテレビ番組の象徴として引き合いに出し、ワックなMCたちの軟弱さをディスっている。

Wu, who? Who? Me gettin' wreck, so I'm through
ウー、誰? 誰だ? 俺がぶち壊す、だから俺は貫くぜ

Like a ten-and-a-half foot gettin' in a seven shoe
10ハーフの足が、サイズ7の靴に入るようなもんさ
※巨大な足(ウータンの圧倒的なスキルや存在感)を小さな靴(既存のヒップホップシーンの枠組みやワックなMC)に無理やりねじ込むという比喩。絶対に収まりきらない器の大きさを示している。

Now picture that with a Minolta
さあ、ミノルタのカメラでその光景を写真に収めな

Have your ass doin' some Night Fever shit like John Travolta
ジョン・トラボルタみたいに『ナイト・フィーバー』のステップを踏ませてやるよ
※弾を避けて必死に飛び跳ねる様子を、映画『サタデー・ナイト・フィーバー』で踊るトラボルタに例えた皮肉。

I come strong, I make knowledge born
俺は力強くやって来る、真理を誕生させるんだ
※Five Percentersの教義「Supreme Mathematics」において、「Knowledge(知識)」は1、「Born(誕生、実現)」は9を意味する。知識を具現化して真理を生み出すという思想を表現したスピリチュアルなライン。

I flip the script and rock on from PM past the fuckin' dawn
俺は台本を覆して、午後からクソみたいな夜明けを過ぎるまでロックし続けるぜ

Pass the hammer, you're broke down
ハンマーを寄こせ、お前はぶっ壊れてる

English grammar, what? What?
英文法だと? なんだ? なんだ?

Can't understand it? Here's the panorama
理解できねえか? ここにあるのがパノラマさ

A complete view of how I defeat you
俺がお前をどうやって打ち負かすかの完全な景色だ

Should've stepped to those fuckin' kids who tried to beat you
お前を倒そうとしたあのクソガキどもに立ち向かうべきだったな

Yeah, I bust that ass before
ああ、俺は前にそいつをぶっ飛ばしたことがある

You ran to Texas and came back, but forgot the chainsaw
お前はテキサスに逃げて戻ってきたが、チェーンソーを忘れちまったみたいだな
※有名なホラー映画『悪魔のいけにえ (The Texas Chain Saw Massacre)』のリファレンス。武器(リリックやスキル)を持たずに戦いに戻ってきたマヌケなMCをディスっている。

And when I perform a massacre
そして俺が大虐殺を実行する時は

Better be comin' with some motherfuckin' shit that's spectacular
何かとんでもなく壮大なシットを用意してくるべきだぜ

Crush the personal vendetta
個人的な復讐なんて粉砕してやる

Well, you just better start steppin' to your raggedy-ass Jetta
まぁ、お前は自分のボロいジェッタに向かって歩き始めたほうがいいぜ
※ジェッタ(Jetta)はフォルクスワーゲンの大衆車。ラッパーとしての成功から程遠い、安っぽい車に乗っている相手を見下している。

Put the pedal to the metal
ペダルを床までベタ踏みしな

You and your DJ change your name to Ma and Pa Kettle
お前とお前のDJは名前をマー・アンド・パー・ケトルに変えな
※1940〜50年代のアメリカのコメディ映画に登場する、無知で滑稽な田舎者の老夫婦のキャラクター。時代遅れでダサいコンビとして敵を嘲笑している。

As I pass the bone, kicks your every measure
俺がボーンを回す時、お前のすべての小節を蹴散らす
※「bone」はマリファナを巻いたブラント(葉巻)のこと。

It's not a Newport, but it's still live with pleasure
こいつはニューポートじゃないが、それでも喜びと共に生きているぜ
※「Newport」はアメリカで定番のメンソールタバコのブランド。後半の「live with pleasure」は、同タバコの有名な広告スローガン「Alive with Pleasure!」をモジったもの。タバコではなくマリファナの快楽をウィットに富んだ形で表現している。

Come on, don't be silly
おいおい、バカなこと言うなよ

Just a bag of sensimilli rolled up in a Motown Philly
モータウン・フィリーで巻かれた、ただのシンセミリアの袋さ
※「sensimilli(シンセミリア)」は受粉させていない強力な種なしマリファナ。「Motown Philly」はR&BグループBoyz II Menのヒット曲名だが、ここではマリファナを巻くための「フィリー・ブラント(Philly Blunt)」と巧妙にかけている。

I used to write all the time when I smoked
俺はハッパを吸う時はいつだってリリックを書いてた

Grabbed the mic, then I like, kinda went for broke
マイクを握って、なんていうか、一か八かの勝負に出たんだ

With visually concepts, strongest rhymes or biceps
視覚的なコンセプト、最強のライム、あるいは上腕二頭筋でな

Lyrically speakin', three to four rhymes a choke
リリックの話で言えば、ひと吸いで3〜4つのライムが出るぜ
※マリファナをひと吸い(choke)する間に、複数の高度なライムを吐き出せるという圧倒的なラップスキルの誇示。

Uh, some think they be harmin' this, claimin' they be bombin' this
あぁ、これにダメージを与えられると思ってる奴らがいる、これをボムしてる(ヤバい)と言い張る奴らが

But they still remains anonymous
だが奴らはいまだに無名のままさ

I pull strings like Jimi Hendrix
俺はジミ・ヘンドリックスみたいに弦を弾く
※伝説のギタリストのように、背後で巧みに糸を引き(コントロールし)、マイクという楽器を極限まで使いこなすという比喩。

Rhyme on beats that go backs to the days of Eddie Kendricks
エディ・ケンドリックスの時代に遡るようなビートに乗せてライムするんだ
※The Temptationsの元リードシンガーであるエディ・ケンドリックスへの言及。ウータンのソウル・ミュージックへの深いリスペクトと、彼らのビートのクラシックなファンクネスを示している。

I teach the truth to the youth
俺は若者たちに真実を教える

I say, "Hey, youth, here's the truth
俺は言う、「おい若いの、これが真実だ

Better start wearin' bulletproof"
防弾チョッキを着始めたほうがいいぞ」ってな

Arm yourself with a shield
盾で自分の身を固めろ

'Fore you get trapped up just like the children in the cornfield
トウモロコシ畑の子供たちみたいに罠にはまる前にな
※スティーヴン・キング原作のホラー映画『チルドレン・オブ・ザ・コーン (Children of the Corn)』からの引用。ストリートの冷酷な現実においては、無知なままでいればすぐに命を落とすというシリアスな警告でヴァースを締めくくっている。