Artist: JID
Album: DiCaprio 2
Song Title: Despacito Too
概要
タイトル「Despacito Too」は、ルイス・フォンシの世界的メガヒット曲に対するインターネットミーム「Despacito 2(もしあの曲に待望の続編があったら)」というネットジョークに由来するが、楽曲の内容自体は陽気なラテンポップとは対極にある。本作は「自分は何にでもなれる(I can be whatever I want to be)」という力強い自己肯定をテーマにしながらも、フッドの過酷な現実や、黒人の子供たちに押し付けられるステレオタイプな将来像を鋭く抉り出す。特にインタールードで挿入される「ブラックパンサー(黒人のスーパーヒーロー)は現実には存在しない」という子供の痛切な台詞は、フィクションの救世主に頼るのではなく、自らのペンとスキルで過酷なジャングル(ストリート)を生き抜き、次世代のリアルなヒーローになろうとするJIDの揺るぎない決意を象徴している。Frankie Pによる不穏なビートの上で、彼の変幻自在なフロウが炸裂する隠れた名曲だ。
和訳
[Intro]
U-U-U-U-Uptown
ア・ア・ア・ア・アップタウン
※本作のプロデューサーであるFrankie Pのシグネチャータグ(Uptown)。
Ayy, it's, it's all for the kids man
エイ、これは、すべて子供たちのための曲だぜ
This-this shit for the kids, hahahah
このクソヤバい曲はキッズに向けてなんだ、ハハハ
For the little children, uh, um
小さな子供たちへ、あぁ、えーとな
※これから語られる「お前は何にでもなれる」というメッセージが、次世代に向けられたものであるという宣言。
[Verse 1]
I can be, whatever I want to be
俺は、なりたいものになら何にだってなれる
Bet not a bitch or a nigga stand in front of me
どんなビッチも野郎も、俺の前に立ちはだかることなんてできねえよ
I got the devil in the pockets of my dungarees
俺のダンガリー(作業着)のポケットには、悪魔が潜んでるんだ
※「ダンガリー(デニム生地)」はブルーカラー(労働者階級)の象徴。ポケットに悪魔がいるというのは、常にストリートの誘惑や悪意、あるいは自分自身の狂気を携帯しているというメタファー。
Taking a dump on anything that standing under me
俺の下に立つ奴ら全員に、クソをぶちまけてやる
I can be your dream guy or I can be your nightmare
俺はお前の理想の男(ドリームガイ)にも、悪夢(ナイトメア)にもなれる
Born on Halloween night, it seems like a light year
ハロウィンの夜に生まれたんだ、なんだか光年くらい遠い昔に感じるぜ
※JIDの実際の誕生日は1990年10月31日(ハロウィン)。彼が特異なキャラクターや不気味なバイブスを持っている理由を自身の誕生日に結びつけている。
Double my Sprite, hey my guy, do you got a light? Yeah
俺のスプライトをダブルにしてくれ、なぁ兄弟、ライターは持ってるか? イェー
※「Double my Sprite」は、スプライトにプロメタジン/コデイン(シロップ)を2カップ分混ぜてリーン(ドラッグ)を作るというストリートの定番表現。
Squash stampede, plenty lion and many bison, huh
群れ(スタンピード)を押し潰す、ライオンもバイソンも山ほどいるがな
Seen some, seen one, but it's not many like 'em
何匹かは見たことあるさ、でもあいつらみたいな奴らはそう多くはない
When I fry or when I die, bury me with many mics, yeah
俺が電気椅子で焼かれるか、死ぬ時が来たら、たくさんのマイクと一緒に埋葬してくれよ
※Nasの名曲「Halftime」の一節「I'ma die, bury me with a mic(死ぬ時はマイクと一緒に埋めてくれ)」へのオマージュ。死ぬまで生粋のエムシーであり続けるというヒップホップへの忠誠。
I can be, whatever I want to be
俺は、なりたいものになら何にだってなれる
Bet not a pussy ass nigga stand in front of me
弱虫のクソ野郎どもが、俺の前に立ちはだかることなんて絶対にできねえ
Took a stop at the light, made a right on humble street
信号で立ち止まり、「謙虚(ハンブル)」通りを右折した
※急激な成功を手に入れても、常に謙虚さ(Humble)を忘れないように進路を選んでいるという比喩。
Guess I been buzzin' like a motherfucking bumblebee
どうやら俺は、クソ飛び回るマルハナバチ(バンブルビー)みたいにバズってるみたいだな
Tryna turn this honey tree into a money tree
このハニー・ツリー(蜂蜜の木)を、マネー・ツリー(金のなる木)に変えようとしてるんだ
But it's only one of me, and y'all niggas the son of me
でも俺はこの世にたった一人。お前らは全員、俺の息子(コピー)に過ぎねえよ
God
神だ
[Interlude]
Wait, wait if I win this, like
待って、待ってよ、もし僕がこれに勝ったら、その
It's gonna be something, but I don't know what it's gon' be
何かすごいことになるんだろうけど、何になるのかは分からないんだ
[Verse 2]
Uh, okay I'm gonna be, whatever I want to be
あぁ、分かったよ。俺は、なりたいものになら何にだってなってやる
Bet not a bitch or a nigga stand in front of me
どんなビッチも野郎も、俺の前に立ちはだかることなんてできねえ
They tryna snatch this motherfucking rug from under me
奴らは俺の足元から、このクソみたいなラグマットを引き抜こう(邪魔しよう)としてる
But never stumble, young man rumble, the sensei
だが決してつまずかない。若き男のランブル(乱闘)、センセイ(先生)だ
※「Rumble, young man, rumble」はモハメド・アリの有名なセリフからの引用。どんな妨害があっても闘い続ける意志。
The J.I.D babe, Mutombo, the brass ensemble
J.I.Dだぜベイビー、ムトンボのようにブロックし、ブラス・アンサンブル(金管楽器)のように鳴り響く
※ディケンベ・ムトンボはNBAの伝説的ディフェンダーで、シュートをブロックした後に指を振る仕草で有名。アンチの攻撃をブロックし、自分の声をオーケストラのように響かせるという比喩。
Cop an eighth and spend the last on paper and fronto
1/8オンスのウィードを買い、なけなしの金をペーパーとフロント(タバコの葉)に使う
※「eighth」は3.5グラムの大麻。金がなかった時代、残った小銭を全て大麻を巻くためのアイテムにつぎ込んでいたリアルなハッスルの記憶。
So at Thanksgiving, I'm your drunk ass uncle
感謝祭の時には、俺はお前らの酔っ払いの叔父さんにもなれるし
On the corner, that junky that mumble
街角でボソボソ呟いてる、あのジャンキーにもなれる
The little nigga that climbed the hair of Rapunzel
ラプンツェルの髪をよじ登った、小さな黒人のガキにだってなれるぜ
※「何にでもなれる」というテーマのダークな変奏。成功したラッパーだけでなく、底辺の親戚やジャンキーにも感情移入できる。さらに、白人のおとぎ話(ラプンツェル)の塔に侵入する黒人の少年という、マイノリティが不可能を可能にする鮮烈なイメージ。
I'm the shrimp beside your gumbo, I make myself sick, damn
俺はお前のガンボスープの横に添えられたエビだ。自分でも吐き気がするほどヤバいぜ、クソッ
※「Sick」は「吐き気がする」と「最高にクール/ヤバい」のダブルミーニング。南部料理のガンボに欠かせないスパイス(エビ)のように、シーンに不可欠な存在であることのアピール。
Dick down doctor, that's the JID, give a health check
ディックをブチ込むドクター、それがJIDだ。健康診断(ヘルスチェック)してやるよ
I'm the wrong letter that made it up out your spell check
俺は、お前のスペルチェックをすり抜けた「間違った文字」さ
※システムの規格(スペルチェック)に当てはまらない、ラップゲームにおける異端児・イレギュラーな存在であるという天才的なメタファー。
Fucking up your texts, uh, I'm electric, I'm a Lexus
お前のテキストをめちゃくちゃにしてやる。俺はエレクトリックだ、俺はレクサスさ
I'm the evidence, like the shell case when the shell hit
俺が証拠(エビデンス)だ。弾丸(シェル)が命中した時に落ちる、薬莢(シェル・ケース)みたいにな
But I never tell shit
でも、俺は絶対に密告(テル)なんてしねえよ
※証拠(薬莢)として現場に残るが、警察に情報を売る(Snitchする)ことはストリートの掟として絶対にしないという誓い。
I'm cold with the flow and come from the bottom like whale shit
俺のフロウは冷酷(コールド)だ。そして、クジラのクソみたいに「海の底(どん底)」からやって来たんだ
※「Whale shit(クジラの糞)」は海の最も深い場所(ボトム)に沈むことから、社会の最底辺から這い上がってきたことを示すスラング。
I know what I know, and I know that you prolly fail shit
俺は知るべきことを知ってるし、お前らがたぶん失敗するってことも知ってる
'Cause y'all niggas selfish, and my niggas desperate, damn
だって、お前らみたいな奴らは利己的で、俺のダチたちは必死(デスパレート)だからな、クソッ
[Interlude]
Damn, fuck
くそっ、クソ
I wish I knew, Black Panther, but he's not real
ブラックパンサーを知ってたらよかったのに。でも、彼は現実じゃないんだ
※マーベル映画『ブラックパンサー』は黒人の子供たちに熱狂的に受け入れられたスーパーヒーローだが、子供は「映画のヒーローは現実のフッドを救ってくれない」と悟っている。この悲痛なサンプリングは、フィクションに頼るのではなく、自分たち自身が強くなるしかないという次ヴァースへの布石となっている。
Fuck man, homie, I don't know
クソッ、なぁ、分かんないよ
Not real
現実じゃないんだ
What you trying?
何をしようとしてるの?
[Verse 3]
Um, look
あぁ、見な
They saying, "What you wanna be JID? What you wanna be, kid?
大人たちは言う。「JID、お前は何になりたいんだ? 何になりたいんだ、小僧?
A doctor, a lawyer, exploring the coral reef shit?
医者か、弁護士か、それともサンゴ礁を探検する海洋学者にでもなるか?
A football player, a track sprinter, I know you run fast
アメフトの選手か、陸上のスプリンターか? お前が足が速いのは知ってるぞ
Oh you gon' be a rapper with your dumb ass
あぁ、お前はそのバカな頭で、ラッパーにでもなるつもりだろうな
※黒人の子供に対して社会や大人が投げかける、ステレオタイプな職業観(スポーツ選手)と、ラップで成功しようとする若者への軽蔑的な視線。
Just because you used to bump 'Kast, talk fast, and can tap a drum pad
『アウトキャスト』を爆音で聴いて育ち、早口で喋れて、ドラムパッドを叩けるからってだけでな
You thinkin' that the world's going mad? Bighead, short ass
世界が狂ってるとでも思ってるのか? 頭がデカくて、背が低くて
Big eye, bug-eye, drug head, shoo fly, don't bother me"
ギョロ目で、虫みたいな目で、ドラッグ漬けの頭のくせに。『シッシッ(ハエを払う音)、俺の邪魔をするな』」
※JIDの身体的特徴(小柄、大きな目、ドレッドヘア)をからかい、「ハエのように鬱陶しいからあっちへ行け」と夢を否定する周囲の残酷な声。
I'ma be better than y'all will be, tryna be, y'all see
俺は、お前らがなれるレベルより、なろうとしてるレベルよりも、ずっと上に行ってやる。見てな
All for one, all for me, shit, you niggas ain't all for me
一人は皆のために、すべては俺のために。クソッ、お前らは俺のためなんかじゃねえ
Motherfucker with your offering, talk-a-talk-a
お前らの施しなんてクソ食らえだ。ペチャクチャ、ペチャクチャと
Talk is cheap but so am I, I keep receipts
「口先だけならタダ(Talk is cheap)」って言うが、俺だって安っぽい男さ。だが領収書(レシート)は取ってあるぜ
※「keep receipts(証拠を取っておく)」は、過去に自分をバカにした奴らの言動を決して忘れず、いつか見返してやるという執念の現れ。
I beat the beat and eat the beat
俺はビートを打ち負かし、ビートを食い尽くす
So I could be the beat if I want to be
だから、なりたいと思えば俺自身がビートにだってなれるのさ
React how you want to, the son do what the son do
好きに反応しろよ、息子(若者)は自分のやるべきことをやるだけだ
Rise when the gun drew
銃が抜かれた時にこそ、立ち上がるんだ
Would meet the devil in hell, but niggas'll hunt you
地獄で悪魔に会うかもしれないが、それより先にストリートの奴らがお前を狩りに来るぜ
When it's dark all around and you lookin' for some
辺りが真っ暗闇になって、お前が何か(光や救い)を探している時
But in the heart of the jungle, my nigga, you run
でもな、兄弟。このジャングルのど真ん中じゃ、お前は走って逃げるしかないんだ
You could be whatever you want, but better get you a gun
「何にでもなれる」と言うが、銃だけは手に入れておいた方がいい
※夢を語るだけでなく、アメリカのストリート(ジャングル)で生き残るためには、綺麗事だけでは済まない暴力的な現実(自衛の必要性)があることをキッズに冷徹に説いている。
Better do what you want, whatever you feel in your stomach
自分のやりたいことをやれ。腹の底(直感)で感じるままにな
Whatever you gotta do at the moment, only the strong survive
その瞬間にやらなきゃならないことをやれ。強い者だけが生き残る(オンリー・ザ・ストロング・サヴァイヴ)んだ
Only the strong in mind and soul and spirit and spine
心と魂、精神、そして「背骨(気骨)」が強い者だけがな
※「spine(背骨)」は物理的な強さだけでなく、どんな逆境にも屈しない「信念の強さ」を意味する。
You stand firm, you rise, it's go time
しっかりと大地を踏みしめ、立ち上がれ。さあ、行く時間だ
He looks determined without being ruthless
「彼は無慈悲になることなく、決意に満ちた顔をしている」
※映画かドキュメンタリーからのサンプリングと思われる。過酷な環境で生き残るための強さを持ちながらも、心を失って冷酷(ruthless)なモンスターにはならないというJIDの姿勢を代弁している。
[Outro]
I wish I knew, Black Panther, but he's not real
ブラックパンサーを知ってたらよかったのに。でも、彼は現実じゃないんだ
Yeah
あぁ
Not real
現実じゃないんだ
