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Savior - Kendrick Lamar, Baby Keem & Sam Dew 【和訳・解説】

Artist: Kendrick Lamar, Baby Keem & Sam Dew

Album: Mr. Morale & The Big Steppers

Song Title: Savior

概要

本作「Savior」は、Kendrick Lamarがキャリアを通じて背負わされてきた「黒人社会の救世主」という巨大な偶像を自ら打ち砕く、アルバムの核となるマニフェストである。J. ColeやFuture、LeBron Jamesといった文化的アイコンを引き合いに出し、誰も大衆の「救世主」にはなり得ないという残酷な真理を提示する。政治的正しさ(ポリコレ)やキャンセルカルチャーに怯え、本音を語れなくなったヒップホップシーンを嘆き、2020年の「Blackout Tuesday(SNSのアイコンを黒塗りにする運動)」の形骸化を痛烈に批判。他者に依存するのではなく、自分自身の頭で考え("Tupac dead, gotta think for yourself")、内面の平和を保つことの重要性を説く、冷徹なまでのリアリズムと社会批評に満ちた傑作である。

和訳

[Intro: Kendrick Lamar]

Kendrick made you think about it, but he is not your savior
ケンドリックはお前らに考えさせたが、あいつはお前らの救世主じゃねえ
※ピューリッツァー賞を受賞し、知的なコンシャス・ラッパーとして崇められてきた自身の偶像化を真っ向から否定している。

Cole made you feel empowered, but he is not your savior
コールはお前らに力を与えたが、あいつもお前らの救世主じゃねえ
※J. Coleのこと。Kendrickと共に2010年代のヒップホップを牽引し、黒人社会にエンパワーメントをもたらしてきた彼もまた、全能の神ではない。

Future said, "Get a money counter," but he is not your savior
フューチャーは「札束を数える機械を買え」と言ったが、あいつもお前らの救世主じゃねえ
※トラップミュージックの帝王Future。物質主義や享楽的なライフスタイルを提示する彼もまた、心の隙間を埋める存在にはならない。

'Bron made you give his flowers, but he is not your savior
レブロンはお前らに花(賛辞)を贈らせたが、あいつもお前らの救世主じゃねえ
※NBAのレジェンド、LeBron James。スポーツ界のアイコンとして黒人社会の希望の星となった彼も、個人の人生を救うことはできない。

He is not your savior
奴はお前らの救世主じゃねえんだよ

[Verse 1: Kendrick Lamar & Baby Keem]

Mr. Morale, give me high-five
ミスター・モラル、ハイタッチしようぜ
※Kendrickの新たなペルソナへの呼びかけ。

Two times center codefendant judging my life
2回の共同被告人(世間)が、俺の人生をジャッジしやがる

Back pedaler, what they say? You do the cha-cha
後ろ向きにペダルを漕ぐ奴ら(言動を撤回する奴ら)、何て言ってる? お前らはチャチャ(ダンス)でも踊ってろ

I'ma stand on it, 6'5" from 5'5"
俺は自分の意見を曲げねえ、5フィート5インチから6フィート5インチまでデカく立ち上がるぜ
※Kendrickの実際の身長(約165cm = 5'5")から、堂々と意見を主張することで巨人(約195cm = 6'5")のように振る舞うという決意表明。

Fun fact, I ain't taking shit back
面白い事実を教えてやろう、俺は発言を撤回(テイクバック)なんか絶対にしねえ

Like it when they pro-Black, but I'm more Kodak Black
奴らが「プロ・ブラック(黒人擁護)」なのは結構だが、俺はどっちかっていうと「コダック・ブラック」なんだよ
※ヒップホップコミュニティを震撼させたパンチライン。安全な場所からSNS等で黒人の権利(Pro-Black)を主張する意識高い系の活動家よりも、数々の犯罪歴や問題を抱えながらもストリートの泥水から這い上がってきたKodak Black(前曲の客演)の「生々しい人間臭さ」に共感し、連帯するという強烈な宣言。

Tell me where the monеy at, ayy, where the homiеs at?
金はどこにあるか教えてくれ、エイ、ダチはどこにいる?

Universal callout, I can members only that, ayy
世界的なコールアウト(非難)、俺は「メンバー限定」の服を着てやり過ごすぜ

Si-si, wait a minute
シ、シ(スペイン語でイエス)、ちょっと待ちな

Ven aquí (Ven aquí), c'est la vie (C'est la vie)
こっちへ来いよ、それが人生(セ・ラ・ヴィ)ってやつさ

I tell the whole truth from A to Z, ayy
俺はAからZまで、すべての真実を語ってやるよ、エイ

Show me you real, show me that you bleed, ayy
お前がリアルだってことを証明してみろ、お前も血を流すってところを見せてみろ

Hello? Crackers? (Let me hear that back)
ハロー? クラッカー(白人)ども?(今のフレーズをもう一度聞かせてくれ)

I seen niggas arguing about who's blacker
ニガどもが「誰が一番黒人らしいか」で言い争ってるのを見たぜ
※黒人コミュニティ内での「ブラックネス」の競い合いや同調圧力の不毛さを指摘。

Even blacked out screens and called it solidarity (Fuck, fuck, fuck, fuck)
SNSの画面を黒く塗りつぶして、それを「連帯(ソリダリティ)」って呼んでたよな(クソが)
※2020年のジョージ・フロイド殺害事件後に起きた「Blackout Tuesday」への言及。Instagramのアイコンを黒一色にするだけで、実質的な行動を伴わない大衆のパフォーマンス的な「偽の連帯」を辛辣に批判している。

Meditating in silence made you wanna tell on me (Fuck)
俺が沈黙の中で瞑想してたせいで、お前らは俺を告発(非難)したくなったんだろ(クソが)
※BLM運動がピークだった時期に、KendrickがSNS等で声明を出さず沈黙を貫いていたことに対し、「なぜ声を上げないのか」と批判した大衆へのアンサー。

[Chorus: Baby Keem, Kendrick Lamar & Sam Dew]

Bitch, are you happy for me?
ビッチ、俺の成功を喜んでくれてるか?

Really, are you happy for me?
本当に、俺の成功を喜んでくれてるのか?

You smile in my face, but are you happy for me?
俺の目の前では笑ってるが、本心から喜んでるのかよ?
※Baby Keemのフック。名声を得た者に対し、周囲の人間が抱く嫉妬や偽善に対するパラノイア。

Yeah, I'm out the way, are you happy for me?
ああ、俺はお前らの邪魔にならないところにいるぜ、これで満足か?

Bitch, are you happy for me?
ビッチ、俺の成功を喜んでくれてるか?

Really, are you happy for me?
本当に、俺の成功を喜んでくれてるのか?

You smile in my face, but are you happy for me?
俺の目の前では笑ってるが、本心から喜んでるのかよ?

Yeah, I'm out the way, are you happy for me? (Higher)
ああ、俺は一歩引いてるぜ、喜んでくれてるか?(もっと高く)

[Verse 2: Kendrick Lamar & Sam Dew]

Bite they tongues in rap lyrics (Too low-key)
奴らはラップのリリックでも言葉を濁す(控えめすぎる)
※キャンセルカルチャーを恐れ、本音や過激な表現を避けて無難なリリックしか書けなくなった現代のラッパーたちへの批判。

Scared to be crucified about a song, but they won't admit it (Too low-key)
曲のせいで十字架に磔にされる(炎上する)のを恐れてるくせに、誰もそれを認めようとしない

Politically correct is how you keep an opinion (So low-key)
「ポリティカリー・コレクト(政治的妥当性)」ってのが、今の意見の保ち方ってわけだ

Niggas is tight-lipped, fuck who dare to be different (Too low-key)
ニガどもは口を閉ざし、人とは違う意見を持つ奴は叩かれる

Seen a Christian say the vaccine mark of the beast (Too low-key)
キリスト教徒が、ワクチンは「獣の刻印」だと言ってるのを見たぜ
※ヨハネの黙示録に登場する「獣の刻印(Mark of the Beast)」。保守的なキリスト教徒の中には、COVID-19のワクチンを陰謀論と結びつけて拒否する者がいた。

Then he caught COVID and prayed to Pfizer for relief (Too low-key)
そのあとそいつはコロナに感染して、助けてくれってファイザー(製薬会社)に祈りやがった
※反ワクチン派の矛盾と偽善を痛烈に皮肉っている。

Then I caught COVID and started to question Kyrie (So low-key)
それから俺もコロナに感染して、カイリーの行動を疑問に思い始めたんだ
※NBAスターのKyrie Irvingへの言及。彼はワクチン接種を頑なに拒否し、多くの試合を欠場したことで世間から猛バッシングを受けた。Kendrick自身も感染の恐怖から、一時的に大衆と同じようにKyrieを批判しそうになったという自己反省。

Will I stay organic or hurt in this bed for two weeks? (Too low-key)
オーガニック(自然免疫)のままでいるか、それとも2週間ベッドで苦しむか?

(You really wanna know?) Do you want peace?
(本当に知りたいか?)お前らは平和が欲しいのか?

(How I get so low?) Then watch us in the street
(どうして俺はここまで堕ちた?)なら、ストリートにいる俺たちを見てみな

(Only one way to go) One protest for you
(道はひとつしかない)お前らのための抗議活動だ

(Higher) Three-sixty-five for me (You really wanna know?)
(もっと高く)俺にとっては365日の日常さ(本当に知りたいか?)

Vladimir making nightmares (How I get so low?)
ウラジーミル(プーチン)が悪夢を作り出してる(どうしてここまで堕ちた?)
※ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻への言及。

But that's how we all think (Only one way to go)
だが、それこそが俺たち人間全員の考え方なんだよ
※国家間の戦争も、ストリートでの殺し合いも、SNSでのキャンセルカルチャーも、根本にある「他者を攻撃し支配しようとする人間の本質」は同じであるというペシミスティックな見解。

The collective conscious (Higher)
集合的無意識ってやつさ(もっと高く)

Calamities on repeat, huh
惨劇の繰り返しだ、ハッ

[Chorus: Baby Keem & Kendrick Lamar]

Bitch, are you happy for me?
ビッチ、俺の成功を喜んでくれてるか?

Really, are you happy for me?
本当に、俺の成功を喜んでくれてるのか?

You smile in my face, but are you happy for me?
俺の目の前では笑ってるが、本心から喜んでるのかよ?

Yeah, I'm out the way, are you happy for me?
ああ、俺はお前らの邪魔にならないところにいるぜ、これで満足か?

Bitch, are you happy for me?
ビッチ、俺の成功を喜んでくれてるか?

Really, are you happy for me?
本当に、俺の成功を喜んでくれてるのか?

You smile in my face, but are you happy for me?
俺の目の前では笑ってるが、本心から喜んでるのかよ?

Yeah, I'm out the way, are you happy for me?
ああ、俺は一歩引いてるぜ、喜んでくれてるか?

[Bridge: Kendrick Lamar]

Truth, it resides in the fire
真実は炎の中に宿る

The need of it's dire
それが極めて必要とされているんだ

Deceiving the lies, I know
嘘を欺くこと、俺には分かってる

Truth, it resides in the fire
真実は炎の中に宿る

The need of it's dire
それが極めて必要とされているんだ

Deceiving the lies, I know
嘘を欺くこと、俺には分かってる

[Verse 3: Kendrick Lamar]

The cat is out the bag, I am not your savior
秘密はバレちまった(猫は袋から出た)、俺はお前らの救世主なんかじゃない

I find it just as difficult to love thy neighbors
「汝の隣人を愛せ」ってのは、俺にとっても至難の業だ
※聖書の有名な教えでさえ、現実の世界では実践することが極めて難しいと認めている。

Especially when people got ambiguous favors
特に奴らが、曖昧な見返り(要求)を求めてくる時はな

But they hearts not in it, see, everything's for the paper
あいつらの心はそこにはない、いいか、すべては紙切れ(金)のためなんだよ

The struggle for the right side of history
歴史の「正しい側」に立とうとする闘争

Independent thought is like an eternal enemy
独立した思考(自分で考えること)は、まるで永遠の敵みたいな扱いさ

Capitalists posing as compassionates be offending me
思いやりがあるフリをした資本家どもには反吐が出るぜ
※社会正義やBLM運動をマーケティングに利用し、利益を貪る巨大企業やインフルエンサーへの痛烈な批判。

Yeah, suck my dick with authenticity
ああ、オーセンティシティ(本物らしさ)を見せながら俺のモノでもしゃぶってろ

Yeah, Tupac dead, gotta think for yourself
ああ、2Pacは死んだんだ、お前らは自分の頭で考えなきゃならねえ
※本作屈指のパンチライン。Kendrickが長年精神的支柱として仰ぎ、ファンも彼にその面影を重ねてきたレジェンド2Pac。彼が死んだ今、「新たな2Pac(救世主)」を他者に求めるのではなく、一人一人が自立して思考せよという究極の突き放しであり、愛のムチである。

Yeah, heroes looking for the villains to help
ああ、ヒーローたちは助けを求めて悪党を探し回ってる

I never been sophisticated, saving face
俺は洗練されてたことなんてないし、体裁を気にしたこともない

Being manipulative, such an acquired taste
他人を操るなんて、後から身につけた悪趣味さ

I rubbed elbows with people that was for the people
「人々のために」なんて言ってる奴らと付き合ってきたが

They all greedy, I don't care for no public speaking
あいつらは全員強欲だ、だから俺は公の場で演説なんかしねえよ
※社会活動家や政治家が裏で私腹を肥やしている現実を知ったことで、大衆の前に立って安易な正義を語ることを放棄した。

And they like to wonder where I've been
それで連中は、俺がどこに消えたのか不思議がるんだ

Protecting my soul in the valley of silence
俺は「沈黙の谷」で自分の魂を守ってたのさ
※SNSやメディアの喧騒から離れ、5年間沈黙を貫いた理由。世界を救う前に、まず自分自身の魂を救済(保護)しなければならなかったという静かなる結論。

 

Mr. Morale & The Big Steppers [Explicit]

Mr. Morale & The Big Steppers [Explicit]

  • pgLang/Top Dawg Entertainment/Aftermath/Interscope Records
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