Artist: Radiohead
Album: The Bends
Song Title: (Nice Dream)
概要
1995年発表の2ndアルバム『The Bends』の中盤に配置された本作は、アコースティック・ギターの穏やかな響きから、突如としてノイジーで破壊的なエレクトリック・ギターの轟音へと変貌を遂げる、静と動のコントラストが極めて美しい楽曲である。プロデューサーのジョン・レッキーの手腕が光る音響空間の中で歌われるのは、タイトルが「(Nice Dream)」と括弧書きにされている通り、現実から隔離された脆弱で一時的な幻想(偽りのユートピア)だ。音楽産業や名声がもたらす人工的な温室での居心地の良さと、それがいつか崩壊することへのパラノイア、そして現代社会における魂の救済の不在(留守番電話と感電する海)が、シュールレアリスムの詩のように冷徹かつ絶望的に描かれている。
和訳
[Verse 1]
They love me like I was a brother
奴らは僕を、まるで本当の兄弟であるかのように愛してくれる。
※「They(奴ら)」とは、顔のない大衆、ファン、あるいは「Creep」の大ヒットによってすり寄ってきた音楽産業の人間たちを指す。仮定法(like I was)が用いられている通り、この親密さはビジネスや一時的な熱狂に基づく「偽物の愛(フェイク)」である。
They protect me, listen to me
僕を保護し、僕の言葉に耳を傾けてくれる。
※徹底的な庇護の描写。しかし、のちの『OK Computer』で展開される「監視社会」のモチーフを鑑みると、この「保護」と「傾聴」は、パノプティコン的な監視と管理の裏返しでもあるという不気味さを孕んでいる。
They dug me my very own garden
僕のためだけの、専用の庭まで掘ってくれた。
※「庭(garden)」はエデンの園のような完全な楽園のメタファーだが、「dug me(僕のために掘った)」という動詞の選択が秀逸である。自らの手で土を掘るという行為は「墓穴を掘る(dig a grave)」ことを強烈に連想させ、この過保護な楽園が同時に彼を生き埋めにする「棺桶」であることを暗示している。
Gave me sunshine, made me happy
陽の光を与え、僕を幸せにしてくれた。
※「Fake Plastic Trees」にも通底する、人工的にコントロールされた環境下(温室)で飼育される植物のような自己認識。自律性を完全に奪われた状態のグロテスクな幸福感である。
[Chorus]
Nice dream
素敵な夢だ。
※この完璧な世界が単なる「夢(幻想)」に過ぎないという残酷な自己認識。タイトルの括弧が示す通り、この夢は現実の世界からは切り離された密室の出来事に過ぎない。
Nice dream
素敵な夢さ。
Nice dream
なんて素敵な夢だろう。
[Verse 2]
I call up my friend, the good angel
僕は友人に、善良な天使に電話をかける。
※ユートピアの虚構性に気づいた語り手は、外部の「本物の救済(good angel)」に助けを求める。天使という宗教的・超越的なモチーフへの依存である。
But she's out with her answerphone
だけど彼女は留守で、留守番電話が応答するだけだ。
※神聖な存在に救いを求めたにもかかわらず、返ってきたのは自動化された機械(テクノロジー)の冷酷な音声のみ。現代社会における「神の不在」や、人間同士のコミュニケーションの決定的な断絶を描く、Radioheadの真骨頂とも言える実存的なアイロニーである。
She said that she'd love to come help, but
彼女は「喜んで助けに行きたいけれど」と言った。
The sea would electrocute us all
「海が私たち全員を感電死させてしまうだろうから」と。
※海(自然、あるいは無意識の深淵)と電気(テクノロジー、現代社会の暴力性)という異質な要素が結合したシュールな終末的メタファー。助けようと水に足を踏み入れれば共に感電して死ぬという理不尽さは、現代社会においては誰かを救済しようとする利他的な行為そのものが、致命的な連鎖崩壊を引き起こすという絶望を示唆している。
[Chorus]
Nice dream
素敵な夢だ。
Nice dream
素敵な夢さ。
Nice dream
なんて素敵な夢だろう。
Nice dream
素敵な夢だ。
Nice dream
素敵な夢さ。
Nice dream
なんて素敵な夢だろう。
Nice dream (If you think that you're strong enough)
素敵な夢(もし君が、それに耐えうるほど自分が強いと思っているのなら)。
※バックボーカルによって囁かれる残酷な条件提示。偽りの楽園(シミュラークル)の中で生き続けるには、現実の痛みを完全に麻痺させるだけの異常な精神力(あるいは自己欺瞞の強さ)が必要だという冷徹な事実。
Nice dream (If you think you belong enough)
素敵な夢(もし君が、そこに居場所があると思い込めるのなら)。
※「Creep」における「I don't belong here」という疎外感の反転。システムの中に自分の居場所があると信じ込める(洗脳される)者だけが、この夢を見続けることができる。
Nice dream (If you think that you're strong enough)
素敵な夢(もし君が、それに耐えうるほど強いと思っているのなら)。
Nice dream (If you think you belong enough)
素敵な夢(もし君が、そこに居場所があると思い込めるのなら)。
[Guitar Solo]
Now come home
さあ、家に帰っておいで。
※ジョニー・グリーンウッドによる轟音のギターソロがアコースティックの静寂を暴力的に引き裂く中で反復されるフレーズ。「家(Home)」が、かつての安全な場所を指すのか、それとも死や狂気という究極の帰着点を指すのかは曖昧である。夢(幻想)から引きずり出され、残酷な現実へと強制的に帰還させられるカタルシスがサウンドと一体化している。
Now come home
家に帰っておいで。
Now come home
家に帰るんだ。
Now come home
さあ、帰っておいで。
[Chorus]
Nice dream
素敵な夢だ。
Nice dream
素敵な夢さ。
Nice dream
なんて素敵な夢だろう。
Nice dream
素敵な夢だった。
※ノイズの嵐が過ぎ去り、再びアコースティックギターの静謐な響きへと戻る。夢の終わりを受け入れたような、あるいは再び眠りにつこうとするような、深い諦念の余韻の中で楽曲は幕を閉じる。
