Artist: Vince Staples
Album: Spider-Man: Into the Spider-Verse (Soundtrack From & Inspired by the Motion Picture)
Song Title: Home
概要
本楽曲は、カリフォルニア州ロングビーチ出身の異端児ラッパーVince Staplesによる、映画『スパイダーマン:スパイダーバース』のサウンドトラック収録曲だ。冷徹なまでのリアリズムと鋭い社会観察眼を持つVinceが、予期せぬスーパーパワーと過酷な運命を背負わされたマイルス・モラレスの精神的な葛藤を見事に言語化している。大衆が「救世主」を求める一方で、本人はただ「安全」と「帰るべき場所(Home)」を求めているというヒーローの根源的な矛盾を突いたリリックは圧巻である。インダストリアルで不穏なビートと、Richie Kohanによるエモーショナルなコーラスが交差する本作は、ストリートの冷酷な現実と、自分自身の居場所を確立しようとする少年の痛切なアイデンティティ探求の旅を音像化した傑作である。
和訳
[Verse 1: Vince Staples]
This morning I woke up in a fortress of distortion
今朝、歪みきった要塞の中で目が覚めたんだ
※「fortress of distortion(歪みの要塞)」は、突如としてスパイダーマンの能力に目覚め、感覚が鋭敏になりすぎて周囲の世界が歪んで見えるマイルスの混乱状態を表現している。同時に、ギャングの抗争や貧困が蔓延するストリート(要塞)という、Vince Staples自身が育った過酷な環境のメタファーでもある。
I'm at war with my emotions, I'm at war with they enforcement
自分の感情と戦争中で、奴らの押し付けてくるルールとも戦ってる
※「they enforcement」は、警察権力(Law enforcement)や社会の抑圧的なシステムを指す。また、劇中においては先代スパイダーマン達から押し付けられる「ヒーローとしての義務や期待」に対する反発心ともリンクしている。
Tryna fight for what's right and got sidetracked
正しいことのために戦おうとしてるのに、道を踏み外しちまう
※「got sidetracked(横道に逸れる、脱線する)」は、良心に従って行動しようとしても、複雑な状況や誘惑、あるいは自身の未熟さによって本来の目的を見失ってしまう若者の葛藤を描いている。
Where your mind at? Never mind that
お前の心はどこにある? まあいい、そんなこと気にするな
※自問自答のライン。自分の真意やアイデンティティ(Where your mind at?)を問いただすが、生き残るためには哲学的な悩みに耽っている余裕はない(Never mind that)というストリートの過酷な現実主義。
Can we think in a blink, you swimmin', you sinkin'
一瞬で判断できるか? お前は泳ぎ切るか、それとも沈むかだ
※「in a blink(瞬きする間に)」は、スパイダーセンスのような一瞬の判断力が生死を分ける状況。ストリートにおける「Sink or swim(生き残るか、破滅するか)」という究極の二択を突きつけている。
You win, you leavin' a head where I've loaded my weapon
勝てば生き残れる、俺が武器を装填した場所に頭を置いていくんだな
※難解なライン。「leavin' a head」は敵の首を置いていく=倒すというギャングスタ的な表現。武器(Vinceにとってはラップのスキル、マイルスにとってはウェブシューターやヴェノム・ブラスト)を準備し、確実に敵を仕留めるという冷酷なまでのサバイバル精神。
I stay with my brethren, I pray for protection
俺は兄弟たちと行動を共にし、身の安全を祈り続ける
※「brethren(兄弟、同胞)」はストリートのクルー、あるいはスパイダーバースにおける別次元のスパイダーマン達(スパイダー・ギャング)を指す。強がっていても、心の底では常に死の恐怖と隣り合わせであり、神の加護(protection)を必要としている。
My prey in my sight so I'm doing what's right and not askin' no questions
獲物は視界のど真ん中だ、だから余計な質問は抜きにして、やるべきことをやるだけさ
※躊躇(ask questions)は死を意味する。標的(ヴィランや自身の恐怖)を前にして、ヒーローとしての使命(what's right)を冷徹に遂行する覚悟。
I wanna be home free, where's one that was lonely?
完全に自由(ホーム・フリー)になりたいんだ、あの孤独だった奴はどこへ行った?
※「home free」は野球のベースボール用語から転じて「危険や困難を完全に脱した状態」を意味する。スーパーヒーローという孤独な存在になる前の、ただの孤独だったティーンエイジャーの自分へのノスタルジー。
But I'm ready and waitin'
でも、俺は準備万端で待ち構えてるぜ
For my day of salvation, and I'm patient
自分が救済されるその日をな、俺は辛抱強いんだ
[Chorus: Richie Kohan]
(Oh, oh, oh, oh, oh)
(オー、オー)
I’m coming home now
今、俺は自分の居場所へ帰るんだ
I’m coming home
自分の居場所へな
(Oh, oh, oh, oh, oh)
(オー、オー)
Right where I belong now
俺が本来いるべき、あの場所へ
Right where I belong
俺がいるべき場所へ
[Verse 2: Vince Staples]
They're looking for saviors, I'm looking for safety
奴らは「救世主」を探してるが、俺は「安全」を求めてるんだ
※本楽曲、ひいてはヒップホップとスーパーヒーローの交差点における最も鋭利なパンチライン。大衆やメディアは自己犠牲を厭わない完璧な救世主(Savior)を求めるが、その重圧を背負わされた若者は、ただ平和で安全(Safety)な生活を送りたいだけだという、残酷なパラドックスを見事に突いている。
They never gon' break me, take me
奴らが俺を壊すことも、連れ去ることも絶対にできねえ
Down on my knees, believe I'm never gon' beg or plead
地面に膝をつくことはあっても、俺が命乞いをしたり懇願するなんて絶対に思わないことだな
※「Beg or plead(懇願する、命乞いをする)」。どんなに追い詰められようと、ストリートの誇りとヒーローとしてのプライドだけは絶対に手放さないというVinceらしいストイックな宣言。
Yeah, I never say never, but I guarantee
ああ、「絶対」なんて言葉は使わねえが、これだけは保証してやる
Gather my strength, goin' hard in the paint
力を振り絞って、ペイントエリアで激しくぶちかましてやるよ
※「Goin' hard in the paint」はバスケットボール用語で、ゴール下の激しいコンタクトゾーン(ペイントエリア)で恐れずにプレイすること。転じて「どんな危険な状況でも全力で挑む」というヒップホップの定番スラング(Waka Flocka Flameの同名曲が有名)。
Paint you a picture, it's put on display
お前らに絵を描いて見せてやる、それが展示されるんだ
※前行の「paint」と掛けたワードプレイ。マイルスの特技であるグラフィティ・アートを示唆しており、自分の生き様やストリートの現実をアート(あるいはラップ)として世間に提示(display)するというアーティスト宣言。
I'm gonna get, they don't give then I take
俺は手に入れるぜ、もし奴らが与えないなら、俺から奪い取ってやる
※資本主義や白人社会が黒人から搾取し、何も与えない(They don't give)のであれば、自分たちの力で実力行使(I take)してでも権利や成功を勝ち取るというハングリーなアティチュード。
Can't take me down now
もう誰にも俺を引きずり下ろせやしない
My feet on the ground now
俺の両足は今、しっかりと地面を踏みしめてるからな
※能力を持て余して宙に浮いていた状態から、自分の進むべき道を理解し、地に足をつけて(Feet on the ground)現実と向き合う覚悟を決めた状態。
Fight 'til I'm down now
倒れるその瞬間まで戦い抜いてやる
Say it out loud now
さあ、大声で叫んでみろ
Say it out loud, are you ready for war?
大声で叫べよ、戦争の準備はできてるか?ってな
[Chorus: Richie Kohan]
(Oh, oh, oh, oh, oh)
(オー、オー)
I’m coming home now
今、俺は自分の居場所へ帰るんだ
I’m coming home
自分の居場所へな
(Oh, oh, oh, oh, oh)
(オー、オー)
Right where I belong now
俺が本来いるべき、あの場所へ
Right where I belong
俺がいるべき場所へ
[Outro: Richie Kohan]
Oh, oh, oh, oh, oh
(オー、オー)
Oh, oh, oh, oh, oh
(オー、オー)
Oh, oh, oh, oh, oh
(オー、オー)
Oh, oh, oh, oh, oh
(オー、オー)
