Artist: Doechii
Album: Alligator Bites Never Heal
Song Title: WAIT
概要
Doechiiのミックステープ『Alligator Bites Never Heal』に収録された本作は、猛スピードで消費される現代の音楽業界において「待つこと(忍耐)」の重要性と、自己のペースを保つことへの渇望を描いたチルな内省的トラックである。焦燥感に駆られる現代人に対し、秋(Fall)と休むこと(Fall back)を掛けたワードプレイを用いて「急ぐ必要はない」と語りかける。その一方で、ヴァースでは1990年代のシットコム『The Nanny』や、アフリカ系アメリカ人に伝わる「魚の夢」の迷信など、ブラックカルチャーと世代間のトラウマを極めて高度なリファレンスで織り交ぜている。成功のプレッシャー(グラミー賞)と、ゲットーの日常(取り立て屋や害虫駆除業者)がシームレスに交差する、彼女のリリシストとしての恐るべき解像度が光る名曲だ。
和訳
[Chorus]
No need to bring fall back in August, September
8月や9月に「秋(フォール)」を前倒しする必要なんてないのよ
※季節の「Fall(秋)」と、スラングの「Fall back(一歩引く、リラックスする、落ち着く)」を掛けた秀逸なワードプレイ。まだ夏(時期尚早)なのに、無理に物事を進めたり結果を急いだりする必要はないというメッセージ。
You should just fall back and wait (Wait, wait)
アンタはただ一歩引いて、待ってればいいのさ(待つんだ)
Who wants to clear the fog and all the smog in your mirrors
鏡を覆う霧(フォグ)やスモッグを、一体誰が晴らしたいって言うの?
※「鏡の中の曇り」は、名声や周囲の意見によって歪められた自己認識や、将来に対する不透明感のメタファー。それを無理にこじ開けて真実を直視するよりも、時には視界がクリアになるまで待つ(放置する)ことも必要だという教訓。
When you could just fall back and wait? (Wait, wait, wait)
ただリラックスして待ってりゃいい時にさ(待つんだ)
Delete your call log and clear your agenda
着信履歴を全消しして、スケジュール帳も空っぽにしな
You should just eat what's on your plate (Woo, woo)
アンタはただ、自分のお皿に乗ってるものを食べればいいのよ(ウー、ウー)
※「Eat what's on your plate」は、他人の成功(他人の皿)を羨むのではなく、今自分が持っているもの、目の前にある現状(自分の皿)に集中し、感謝しろというストリートの哲学。
[Verse 1]
What do you think would happen? You wait on it like a laxative
どうなると思ってたの? 便秘薬(ラクサティブ)みたいに結果が出るのを待ってるわけ?
※「Laxative(便秘薬・下剤)」は、飲んでから効果が現れる(クソが出る)までじっと待たなければならない。物事の成果もそれと同じで、焦ってもすぐには出ないというDoechiiらしい下品で的確なブラックジョーク。
Life is just like a settlement, waiting for you to cash on it
人生は示談金(セツルメント)みたいなもの、アンタが換金するのを待ってるのさ
※法的な和解金や保険金(Settlement)は、手続きに膨大な時間がかかるが、最終的には大きな見返り(Cash)をもたらす。大器晩成のメタファー。
Life is just like a bike, it don't move unless you pedaling
人生は自転車と同じ、ペダルを漕がないと前に進まない
Less about who is better and more 'bout who blessing them
「誰が優れているか」より、「誰が彼らを祝福しているか(恩恵を与えているか)」が大事なの
Softer than gelatin, peanuts to elephants
ゼラチンよりも柔らかくて、象にとってのピーナッツみたいなもんよ
※前行の「優劣の争い」がいかに無意味で取るに足らないものかを「象にとってのピーナッツ(些細なこと)」ということわざで表現している。
You dumb as a box of rocks if you think it's irrelevant
これが無関係だと思ってるなら、アンタは石が入った箱みたいにバカ(空っぽ)ね
My granny been poppin' Xannies since CBS met The Nanny
アタシのおばあちゃんは、CBSで『ザ・ナニー』が始まった頃からザナックスをキメてるの
※『The Nanny(ザ・ナニー)』は1993年から1999年に米CBSネットワークで放送された大ヒットシットコム。「Xannies(抗不安薬のザナックス)」を90年代前半から常用している祖母の姿を通じて、ブラックコミュニティにおけるメンタルヘルスの問題と、世代を超えて連鎖する自己治療(トラウマ)の歴史をサラリと描写している。
My mammy dandy, she chipper than Annie and I'm not talkin' a family
アタシのママはご機嫌で、『アニー』みたいに陽気なの、家族の話をしてるわけじゃないわよ
※ミュージカル『アニー』の主人公のように空元気を振る舞う母親。家庭内の薬物依存や崩壊(トラウマ)を隠すための不自然な明るさを示唆している。
But I's been dreamin' of fishes since I been watching the Grammys
でもアタシはグラミー賞を見てからずっと、「魚の夢」を見てるの
※米国南部のブラックカルチャー(フードゥー等の土着信仰)において、「魚の夢を見る(dreaming of fish)」ことは「身近な誰かの妊娠(新たな命の誕生)」を意味する強力な迷信。ここでは、テレビでグラミー賞を見たことで、自分自身の輝かしいキャリアと成功(新たな人生)が「誕生」する予感を抱いているという極めて文学的なパンチライン。
And I'm here to stay like the shit in your panties
アタシはアンタのパンティーについたクソみたいに、ここに居座り続けるわ
※前行のグラミー賞という崇高な目標から一転、「パンツのウンコ(絶対に落ちないシミ)」という下品な比喩へ急降下させる。決して消え去ることなく音楽業界に定着し続けるという、彼女の沼地(Swamp)仕込みのグロテスクなフレックス。
I need some standing ovations since y'all can't seem to understand me
アンタらにはアタシのことが理解できないみたいだから、スタンディング・オベーションでも頂こうかしら
I might look fly in the matrix, I hope I'm sticking my landing
マトリックスの中で、アタシは最高にイケてる(空を飛んでる)ように見えるかもね。上手く着地(ランディング)できるといいけど
※映画『マトリックス』のネオやトリニティのように、業界という仮想現実(マトリックス)のシステムをハックして華麗に宙を舞う自身を重ね合わせている。同時に「sticking the landing(体操競技などで完璧に着地すること)」で、ブレイク後のキャリアの着地点への不安も覗かせている。
[Chorus]
No need to bring fall back in August, September (September)
8月や9月に「秋(フォール)」を前倒しする必要なんてないのよ(9月にね)
You should just fall back and wait (Wait, wait)
アンタはただ一歩引いて、待ってればいいのさ(待つんだ)
Who wants to clear the fog and all the smog in your mirrors (Your mirrors)
鏡を覆う霧やスモッグを、一体誰が晴らしたいって言うの?(アンタの鏡のね)
When you could just fall back and wait? (Wait, wait, wait)
ただリラックスして待ってりゃいい時にさ(待つんだ)
Delete your call log and clear your agenda (Your agenda)
着信履歴を全消しして、スケジュール帳も空っぽにしな(スケジュールをね)
You should just eat what's on your plate (Woo, woo)
アンタはただ、自分のお皿に乗ってるものを食べればいいのよ(ウー、ウー)
[Post-Chorus]
Da-da-da-da (Da-da), da-da-da-da (Da-da-da-da)
ダダダダ(ダダ)、ダダダダ(ダダダダ)
Da-da-da-da-da-da-da (Da-da-da-da-da)
ダダダダダダダ(ダダダダダ)
[Verse 2]
Hope I'm comin' off chill, hope I'm keepin' it real
アタシがチル(冷静)に見えてるといいな、リアルさを保ててるといいな
Hope that people feel safe when they enter my crib
アタシの家(クリブ)に来る人が、安心感を持てるといいな
※自身の攻撃的なペルソナ(Black Bitch)の裏にある、他者への気遣いや平穏を求める無防備な一面。
Still a baby by day, bad bitch by night
昼間はまだただの赤ん坊、でも夜になればバッドなビッチよ
Still applying my gloss from red to green light
今でも赤信号から青信号に変わる瞬間に、リップグロスを塗ってるの
※「red to green light」は交差点の信号機。車を運転中、信号待ちのわずかな時間でメイクを直すという、常に移動し続け、息つく暇もなくハッスルしているインディペンデントな女性の日常風景をリアルに切り取っている。
Niggas callin' my phone, bitches callin' my phone (My phone)
野郎どもがアタシの電話を鳴らす、ビッチ共もアタシの電話を鳴らす(アタシの電話をね)
Private callin' my phone (My phone), blockin' you off my phone (My phone)
非通知からの着信(アタシの電話に)、アンタは着信拒否してやる(アタシの電話から)
Bill collectors, roach and bug inspectors calling my phone (My phone)
借金の取り立て屋、ゴキブリや害虫の駆除業者までがアタシの電話を鳴らすのよ(アタシの電話をね)
※名声を得て富を築いた現在でも、過去の借金(Bill collectors)や、ゲットーの劣悪な住環境(roach and bug inspectors)の呪縛が完全に消え去ったわけではなく、絶えず彼女の平穏(電話)を脅かしているというストリートの泥臭い現実。
Who you checkin' if I'm disrespecting you with my tone? (My tone)
アタシの口調(トーン)が無礼だからって、アンタ一体誰に文句つけてるつもり?(アタシの口調にね)
[Chorus]
No need to bring fall back in August, September (September)
8月や9月に「秋」を前倒しする必要なんてないのよ(9月にね)
You should just fall back and wait (Wait, wait)
アンタはただ一歩引いて、待ってればいいのさ(待つんだ)
Who wants to clear the fog and all the smog in your mirrors (Your mirror)
鏡を覆う霧やスモッグを、一体誰が晴らしたいって言うの?(アンタの鏡のね)
When you could just fall back and wait? (Wait, wait, wait)
ただリラックスして待ってりゃいい時にさ(待つんだ)
Delete your call log and clear your agenda (Your agenda)
着信履歴を全消しして、スケジュール帳も空っぽにしな(スケジュールをね)
You should just eat what's on your plate (Woo, woo)
アンタはただ、自分のお皿に乗ってるものを食べればいいのよ(ウー、ウー)
[Post-Chorus]
Da-da-da-da, da-da-da-da
ダダダダ、ダダダダ
Da-da-da-da-da-da-da
ダダダダダダダ
