Artist: JPEGMAFIA
Album: All My Heroes Are Cornballs
Song Title: Kenan Vs. Kel
概要
本作は、JPEGMAFIA(通称:Peggy)の3rdアルバム『All My Heroes Are Cornballs』(2019年)に収録された、彼の音楽的変態性と多面的なペルソナを象徴する2部構成の楽曲だ。タイトルは90年代の人気コメディ番組『Kenan & Kel』からの引用であり、曲の前半と後半でビートとフロウが完全に切り替わる構成は、主人公二人の対照的なキャラクター性を自身の内面に重ね合わせている。前半(Part I)では、インダストリアルなノイズと不規則なドラムの上で、業界の陰謀論やジェンダー規範への反逆、同業者へのシニカルな視線を吐露しつつ、クリエイターとしての苦悩も覗かせる。打って変わって後半(Part II)では、攻撃的なトラップビートに乗り、ストリートの冷酷さと競争社会を冷徹に描写する。カニエ・ウェストの未発表アルバムへの言及やゲームネタなど、インターネット・カルチャーとハードコアなヒップホップ・マナーをシームレスに融合させる手腕は、彼が現代シーンにおける真の異端児であることを証明している。
和訳
[Part I: Kenan]
[Intro]
Celebration hit, shit
祝杯のヒットだ、クソが
You think you know me
お前らは俺を分かってるつもりなんだろ
※プロレス団体WWEの元スーパースター、エッジ(Edge)の入場テーマ曲からのサンプリング。JPEGMAFIAの楽曲で頻繁に使用されるシグネチャータグであり、「俺の表面的な部分しか見ていないお前らに、本当の俺は理解できない」というリスナーへの挑発的なメッセージを含んでいる。
Yo
(Yeah, throwin' it up, ayy)
(Yeah、ブチ上げてるぜ、ayy)
I wish I had more fuckin' water
もっとクソほど水があればよかったのにな
※パフォーマンス中の極度の発汗や、熱狂的なライブの熱量を暗示している。
Uh, uh
[Verse 1]
Man, I really, really wish I was Illuminati
なあ、俺は心の底からイルミナティになりたいと願ってるよ
※ヒップホップ界隈で頻繁に囁かれる「成功者はイルミナティ(秘密結社)に属している」という陰謀論に対する皮肉。自分がまだそこまでの権力や富を得ていないことへの自虐的なジョーク。
Niggas waitin' on the Peg like I'm droppin' Yandhi
連中はまるで俺が『Yandhi』をドロップするかのようにペギーを待ち侘びてる
※「Peg」はJPEGMAFIAの愛称。『Yandhi』はカニエ・ウェスト(Kanye West)が2018年にリリースを予告しながら結局お蔵入りとなった幻のアルバム。ファンの過剰な期待をカニエの狂騒に例えている。
Too black, too strong, I'm a lil' thotty (Yeah)
黒すぎるし、強すぎる、俺はちょっとしたビッチさ (Yeah)
※「Too black, too strong」はパブリック・エネミー(Public Enemy)の楽曲からの引用であり、黒人の誇りと力強さを表す。そこにネットスラングである「thotty(尻軽女)」を意図的にぶつけ、マッチョイズムと相反するジェンダー・フルイディティや自己嘲笑を同居させている。
But fuck a big speech
だが大層なスピーチなんてクソくらえだ
'Cause when I'm rollin'
俺が動き出す時は
I'm dressin' up like I'm Prince Peach
プリンス・ピーチみたいに着飾るんだ
※「Princess Peach(ピーチ姫)」ではなく「Prince Peach(ピーチ王子)」とすることで、ヒップホップにおける有害な男らしさ(Toxic Masculinity)を嘲笑し、意図的にフェミニンな要素を取り入れる彼のオルタナティブなスタンスを示している。
And if you sendin' in Marios to defend me
もし俺を守るためにマリオどもを送り込んでくるなら
You better make sure to break all the Grammys
グラミー賞のトロフィーを全部ぶっ壊す覚悟をしておけよ
※ピーチ姫を助けに来るマリオ(権威ある救世主や業界の人間)に対する牽制。権威の象徴であるグラミー賞への軽蔑と、メインストリームの評価基準を破壊するという宣言。
Kill all the winners, losers, nominees
勝者も敗者も、ノミネートされた奴らも全員殺してやる
Off probation, crackers hatin' accusations
執行猶予が明けて、白人どもは告発されるのを嫌がってる
※「crackers」は白人に対する蔑称。白人中心の業界構造や、自分たちの特権を脅かされることを恐れる層への冷笑的な視点。
Only on occasions (Yeah)
たまにだけどな (Yeah)
I don't want relations (Huh), had some thotty phases
関係なんて持ちたくねえ (Huh)、ビッチみたいに振る舞ってた時期もあったがな
Strip, home invasion, fuck with me, man
身ぐるみ剥がす家宅侵入だ、俺に歯向かってみろよ
Y'all better miss me (Yeah)
お前ら、俺に関わらない方が身のためだぜ (Yeah)
'Cause if you rollin', I'm stonin' niggas like Rich Keith (For real)
お前らが来るなら、俺はリッチ・キースみたいに連中に石をぶつけるからな (For real)
※一部のファンの考察では、プロレスラーのキース・リー(Keith Lee)の誤称、あるいはローリング・ストーンズのキース・リチャーズ(Keith Richards)と「stoned(ドラッグでハイになる/石を投げる)」をかけた巧妙なダブルミーニングと推測されている。
And when I'm whippin' you niggas, it's not slavery (Damn, Peggy)
俺がお前らに鞭を打っても、それは奴隷制度なんかじゃねえぞ (Damn, Peggy)
※「whip」は車を運転する、薬物を精製する、あるいは文字通り「鞭打つ(相手を圧倒する)」のスラング。黒人である自分が相手を圧倒(鞭打ち)しても、それは歴史的な奴隷制度の文脈ではなく、単なるスキルの差だという強烈なブラックジョーク。「Damn, Peggy」は彼の代表的なプロデューサータグの一つ。
I'm on a mission to slaughter the competition
俺は競争相手を皆殺しにするミッションの真っ最中だ
And leave you slumpin' on the downbeat, bitch, work
ダウンビートでお前を前のめりに倒れさせてやるよ、ビッチ、働け
※音楽用語の「ダウンビート(拍の頭)」と、パンチで相手を沈める様を掛け合わせている。
[Chorus]
Huh, how we gon' make this bullshit work? For real
なあ、どうやってこのクソみたいな状況を上手くやるんだ? マジで
How we gon' make this work? Facts (Facts, facts)
どうやってこれを成立させるんだよ? 本当のことさ (Facts, facts)
But like, how can I make a good beat? (For real)
ていうか、どうやったら良いビートが作れるんだ? (For real)
※トッププロデューサーとしての名声を確立しつつある彼が、あえて「どうやったら良いビートを作れる?」と自問することで、クリエイターとしての不安やインポスター症候群(自己評価の低さ)を露わにしている。
I get nervous when niggas want features (For real)
連中から客演を頼まれると緊張しちまうんだ (For real)
How I'm gon' make this work?
どうやってこれを乗り切ればいいんだ?
[Post-Chorus]
I don't know this
俺には分からない
I don't know this
俺には分からない
I don't know this
俺には分からない
Oh
(How can I make a good beat? For real
(どうやったら良いビートが作れるんだ? マジで
How I'm gon'... this work)
どうやってこれを... 成立させるんだ)
[Part II: Kel]
[Intro]
Skrrt
Run it up
稼ぐぜ
Yeah, buddy, yeah, buddy

※伝説的なボディビルダー、ロニー・コールマンの有名な掛け声からの引用。あるいはストリートの仲間内でのフランクな挨拶。
Run it up
稼ぐぜ
Run it up, yeah
稼ぐぜ、yeah
Run it up
稼ぐぜ
Get 'em, ooh
やっちまえ、ooh
Yeah, uh
Huh, uh
[Verse 2]
Bitch, I came back with the Jak and Dax off the shelf
ビッチ、俺は棚から『ジャック×ダクスター』を引っ張り出して戻ってきたぜ
※『Jak and Daxter(ジャック×ダクスター)』は2001年に発売されたPlayStation 2の人気ゲーム。主人公ジャックと相棒ダクスターのコンビを、タイトルの「Kenan & Kel」のような相棒関係と重ねつつ、昔ながらのゲーマーカルチャーをレペゼンしている。
Shoppin' my target, I'm wishin' you well
ターゲットを物色してるんだ、お前の幸運を祈ってるよ
I don't think prayer can help (Woo)
祈りなんて何の役にも立たないと思うけどな (Woo)
This feel like Kenan and Kel, these niggas broke like a Dell
まるで『キーナン&ケル』の気分だ、こいつらはDellのパソコンみたいに壊れてやがる
※タイトルの回収。「broke」は「壊れる」と「金がない(一文無し)」のダブルミーニング。安いWindows PCの代名詞としてDellを引き合いに出し、相手の安っぽさと無能さをディスしている。
Niggas tell, niggas melt, I'ma shoot, you don't sell (Brrt)
連中は密告し、溶けていく、俺は撃ち放つが、お前の曲は売れねえな (Brrt)
※「tell」は警察に密告すること(スニッチ)。銃を撃つ(shoot)ことと、曲をドロップすること(相手は売れない=sell)を対比させたストリートライム。
I don't think prayers or poems or nothin' can help
祈りも詩も、何ひとつお前の助けにはならないさ
[Outro]
Nada, it's nothin'
全くだ、何の意味もない
Haha
Nigga boy, boy
You think you know me
お前らは俺を分かってるつもりなんだろ
