Artist: John Lennon
Album: Imagine
Song Title: How Do You Sleep?
概要
1971年に発表されたアルバム『Imagine』に収録された、ポピュラー音楽史上最も有名で、かつ最も辛辣なディス・トラックである。標的は他でもない、かつての絶対的な盟友ポール・マッカートニーだ。ビートルズ解散時の泥沼の法廷闘争や、ポールのアルバム『Ram』に収録された楽曲「Too Many People」でのジョンへの当てつけ、さらには同作の裏ジャケットでカブトムシ(ビートルズ)が交尾している写真を掲載したことに対する、ジョンからの容赦ない報復として制作された。ジョージ・ハリスンが鋭利なスライド・ギターで参加し、クラウス・フォアマンの重いベースがうねるブルージーで重圧なサウンドに乗せて、ジョンの怒りと皮肉がマシンガンのように撃ち込まれる。ポールの音楽性を「BGM」と切り捨て、彼の代表曲やソロ曲のタイトルを引用して嘲笑するこの楽曲は、愛憎入り交じる複雑な人間関係の最終局面に咲いた、残酷なまでに美しい悪の華である。
和訳
[Instrumental Intro]
※ビートルズの名盤『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』の冒頭を彷彿とさせる、オーケストラのチューニング音から不穏な空気を漂わせて楽曲が幕を開ける。
[Verse 1]
So Sgt. Pepper took you by surprise
サージェント・ペパーは君にとって不意打ちだったんだな
※ビートルズの金字塔『Sgt. Pepper's...』はポールの主導で制作されたが、ジョンは「あれはポールの作品であり、自分はそれに巻き込まれただけだ」と冷ややかに振り返っている。また一説には、あのアルバムの成功そのものが、ポール自身にとっても予想外の重圧になっていたというジョンの皮肉とも解釈されている。
You better see right through that mother's eyes
あのクソ野郎の目を通して、しっかり物事を見通した方がいい
※「mother」は「motherfucker(クソ野郎)」の隠語。ここではポールを取り巻く弁護士や取り巻きたちを指していると言われている。
Those freaks was right when they said you was dead
君が死んだと言っていたあの変わり者たちの言う通りだったのさ
※1969年頃にファンの間で世界的な騒動となった「ポール・マッカートニー死亡説(Paul is dead)」を引用した痛烈なパンチライン。「肉体的な死」の噂はデマだったが、「アーティストとしての才能や精神はすでに死んでいる」というジョンの容赦ない宣告である。
The one mistake you made was in your head
君が犯した唯一の過ちは、君の頭の中にあったんだ
※法的な権利やビジネスの主導権ばかりを主張し、エゴに囚われてしまったポールの思考回路に対する批判。
[Chorus]
Ah, how do you sleep?
ああ、君はどうやって眠っているんだ?
※かつての仲間を裏切り、訴訟を起こしておきながら、よく平気な顔で眠れるものだという道徳的な問い詰め。
Ah, how do you sleep at night?
ああ、夜はどうやって眠りについているんだ?
※サビのメロディ自体は非常に美しくメランコリックであり、単なる怒りだけでなく、かつての親友を失ったジョンの深い哀哀も滲み出ている。
[Verse 2]
You live with straights who tell you you was king
君は、君を王様だとおだてるお堅い連中と一緒に暮らしているんだな
※「straights」は当時のカウンターカルチャーにおける保守層や体制側の人間を指すスラング。ここでは、ポールの妻リンダの親族であり、彼のビジネスを牛耳っていたエスタブリッシュメント層の弁護士(イーストマン家)に対する嫌悪感が露骨に表現されている。
Jump when your momma tell you anything
ママに何か言われれば、すぐに飛び跳ねる
※「momma(ママ)」は、ポールの妻リンダ・マッカートニーを暗に指しているとファンの間では解釈されている。妻の言いなりになっているポールを小馬鹿にした表現だ。
The only thing you done was Yesterday
君が成し遂げたのは「イエスタデイ」だけさ
※ポールの最大の功績であり、20世紀を代表する名曲「Yesterday」を引き合いに出し、「君の才能のピークは過去(昨日)のものであり、それ以外は大したことがない」と切り捨てる、音楽史に残る残酷なダブルミーニング。
And since you're gone you're just another day
そして君が去ってからは、ただの「アナザー・デイ」に成り下がった
※「Another Day」はポールのソロキャリア初期(1971年)のヒット曲。前行の「Yesterday」と対比させ、今の君の音楽は平凡で退屈な「ただの別の一日(アナザー・デイ)」に過ぎない、という強烈な当てつけである。
[Chorus]
Ah, how do you sleep?
ああ、君はどうやって眠っているんだ?
Ah, how do you sleep at night?
ああ、夜はどうやって眠りについているんだ?
[Instrumental Break]
※元ビートルズのジョージ・ハリスンによる、まるで泣き叫ぶようなスライド・ギターのソロが展開される。ポールへのディス・トラックにジョージが嬉々として参加し、極上のプレイを残しているという事実が、解散当時のポールがいかに孤立し、他のメンバーから疎まれていたかを物語る生々しいドキュメンタリーとなっている。
[Chorus]
Ah, how do you sleep?
ああ、君はどうやって眠っているんだ?
Ah, how do you sleep at night?
ああ、夜はどうやって眠りについているんだ?
[Verse 3]
A pretty face may last a year or two
可愛い顔は1年か2年はもつかもしれない
※ビートルズ時代から「可愛いポール」としてアイドル的な人気を博していた彼のルックスに対する皮肉。
But pretty soon they'll see what you can do
だがそのうち、君の底の浅さにみんな気づくだろう
※ルックスやキャッチーなメロディだけで本質的なメッセージを持たない音楽はいずれ飽きられる、というジョン側の芸術的優位性の主張。
The sound you make is muzak to my ears
君が作る音は、僕の耳にはただのミューザックにしか聞こえない
※「muzak(ミューザック)」とは、エレベーターやスーパーマーケットで流れるような、当たり障りのない商業用のBGMのこと。ポールのポップで洗練されたソロ作品を「毒にも薬にもならない薄っぺらいBGM」と完全に否定している。
You must have learned something in all those years
あの何年もの間で、君だって何かを学んだはずだろうに
※ビートルズとして共に世界を変え、あれだけの修羅場をくぐり抜けてきたのに、なぜもっと深い表現ができないのかという、失望と裏切られた愛情が入り混じったジョンからの最後通牒。
[Chorus]
Ah, how do you sleep?
ああ、君はどうやって眠っているんだ?
Ah, how do you sleep at night?
ああ、夜はどうやって眠りについているんだ?
[Instrumental Outro]
※ストリングスとスライド・ギターが渦を巻くように絡み合い、フェードアウトしていく。この楽曲が発表された後、ポールはこの痛烈な批判に対して直接的な反論の曲を作ることなく、沈黙を守りつつ自分の音楽を作り続ける道を選んだ。この曲は、ロック史における最大のコンビの間に横たわる、決して埋まることのなかった巨大な亀裂の象徴として語り継がれている。
