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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

The South Wind - Yoko Ono 【和訳・解説】

Artist: Yoko Ono

Album: Yoko Ono/Plastic Ono Band

Song Title: The South Wind

概要

本作は、1970年に発表されたオノ・ヨーコの初ソロ・アルバム『Yoko Ono/Plastic Ono Band(ヨーコの心)』のレコーディング・セッションからのアウトテイク(後のCDリイシュー版等でボーナストラックとして収録)であり、ジョン・レノンとヨーコによるスタジオでの親密かつ実験的な即興演奏を記録したドキュメンタリー音源である。アーサー・ヤノフ博士のプライマル・セラピー(原初療法)によって引き出された重苦しいトラウマの吐露や、世間のバッシングに対する怒りの絶叫が渦巻く本編のトラックとは対照的に、「南風」というタイトルが示す通り、ここでは自然現象や目に見えない空気のうねりに対する東洋的でアニミズム的なアプローチが試みられている。曲の始まりと終わりに収められたジョンの肉声は、二人が音楽的なヒエラルキーを取り払い、対等な芸術家としてインプロヴィゼーション(即興)の空間を共有していたことを証明する貴重な歴史的記録である。

和訳

[Spoken: John Lennon]

Okay...no, hold on, no, not yet, let me-
分かった…いや、待って、いや、まだだ、僕に…
※セッションが始まる直前、ギターのセッティングや演奏のタイミングを計っているジョンの生々しい肉声。彼がプロデューサーや伴奏者としてではなく、ヨーコという前衛芸術家と音を通じて対話するために、慎重に間合いを図っている様子が伝わってくる。

[Instrumental]

※ジョン・レノンによるギターの即興演奏。彼のロックンローラーとしての手癖を極力排除し、ヨーコの求める「抽象的な音響」に寄り添おうとする実験的なアプローチが窺える。

[Vocalizations: Yoko Ono]

※ヨーコによる非言語的なボイス・パフォーマンス。「南風」というタイトルに呼応するように、まるで風のうねりや自然の息吹そのものになり代わるかのような、微細で繊細な声帯の震えが展開される。言葉による意味の伝達を放棄し、音という物理現象によって直接的にリスナーの無意識に働きかける、彼女のフルクサス(前衛芸術運動)的な美学の実践である。

[Outro]

[Spoken: John Lennon]

That's the end of it
これで終わりだ
※即興演奏が自然な収束を迎えたことを示すジョンの宣言。フェードアウトや人為的な編集に頼るのではなく、音楽が生まれ、そして消えていくプロセスそのものを「ひとつの完成されたアート」としてそのまま提示する彼らのコンセプチュアルな姿勢が、この飾らない一言に凝縮されている。