UGMKM

Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

“Something More Abstract” - Yoko Ono 【和訳・解説】

Artist: Yoko Ono

Album: Yoko Ono/Plastic Ono Band

Song Title: “Something More Abstract”

概要

1970年に発表された歴史的アルバム『Yoko Ono/Plastic Ono Band(ヨーコの心)』のセッション音源から切り取られた、わずか数十秒のインタールード(後のCDリイシュー版などにボーナストラックとして収録)である。本作は楽曲というよりも、ヨーコとジョン・レノンの間の極めて私的でスリリングなクリエイティブのやり取りを記録したドキュメンタリーだ。ヨーコがジョンに対して「もっと抽象的な何か」を求めて指示を出しているこの短い会話からは、前衛芸術運動フルクサス出身のヨーコが音楽的ディレクションの主導権を握り、希代のロックスターであるジョンを自身の実験的な音響世界へと引き摺り込もうとする力関係が明確に読み取れる。ロックンロールの定型的なビートに無意識に寄ってしまうジョンに対し、より自由で前衛的なアプローチを要求するヨーコの姿勢は、このアルバム全体を貫く「ポップスの解体」への確固たる美学を示しており、二人の才能が衝突し融合するスタジオの密室の空気を生々しく伝える貴重なピースである。

和訳

[Interlude]

Mm, John
ねえ、ジョン
※夫であり、このセッションのギタリストであるジョン・レノンへの呼びかけ。妻としての親密なトーンでありながらも、前衛芸術家・プロデューサーとして指示を出すディレクターの響きを含んでいる。

There's something more abstract that's buried in there, y'know...
そこにはもっと抽象的な何かが埋もれているのよ、わかるでしょ
※タイトルにもなっている重要なステートメント。既存のロックのコード進行やメロディという枠組みの下に隠された、より原初的で形のない(抽象的な)エネルギーを引き出そうとするヨーコの芸術家としての嗅覚が表れている。ポップソングの定型を脱構築しようとする彼女の狙いが明確に言語化された瞬間である。

Y'know, with the beat
そのビートと一緒にね
※ただのノイズ・アートにするのではなく、リンゴ・スターやクラウス・フォアマンが刻むロックの力強いリズム(ビート)と、前衛的な不協和音をいかに同居させるかという、プラスティック・オノ・バンドの核となる音楽的実験について語っている。

But like, the guitar you were doing before, y'know like...
でも、さっきあなたが弾いていたギターみたいな感じで、そうね…
※ジョンのプレイスタイルに対する具体的なディレクション。ジョンはビートルズ時代(「I Feel Fine」や「Tomorrow Never Knows」など)からフィードバック・ノイズを実験的に取り入れていたが、ヨーコは彼の中にあるその直感的な前衛性を高く評価し、このソロ・アルバムにおいてさらに極端な形で引き出そうと焚き付けている。

Ooh-ooh
※言葉による論理的な指示を途中でやめ、自らの声(ハミングや擬音)を使って直接的なイメージをジョンに伝えようとしている。言語の限界を超えた音響的なコミュニケーションであり、彼女自身のボーカル・パフォーマンスのスタイルの片鱗をここでも見せている。