Artist: Yoko Ono
Album: Yoko Ono/Plastic Ono Band
Song Title: AOS
概要
1970年に発表されたオノ・ヨーコの初ソロ・アルバム『Yoko Ono/Plastic Ono Band(ヨーコの心)』に収録された、前衛音楽史に残る極めて特異なトラックである。同アルバムの他の楽曲が1970年にジョン・レノンやリンゴ・スターらと録音されたのに対し、本作のみ1968年初頭に録音された音源が使用されている。特筆すべきは、フリージャズの巨匠であるオーネット・コールマン(トランペット)をはじめ、チャーリー・ヘイデン、デヴィッド・アイゼンゾン(共にベース)、エド・ブラックウェル(ドラムス)というジャズ史に名を刻む伝説的なカルテットがバックを務めている点だ。彼らの先鋭的なインプロヴィゼーション(即興演奏)と、ヨーコの喘ぎ声や絶叫が激しく交錯するこの楽曲は、西洋音楽の伝統的な構造やポップスのセオリーを完全に解体している。明確な歌詞は「Not yet...(まだよ)」の一言しか存在しないが、そこに込められたエロスとタナトス(生と死の欲動)、そして女性の抑圧された身体性の解放は、後のノイズ・ミュージックやアヴァンギャルド・シーンに計り知れない影響を与えた。
和訳
[Part 1]
[Instrumental]
※オーネット・コールマンによる鋭いトランペットと、ツイン・ベース、ドラムが織りなす緊迫感のあるフリージャズの即興演奏。ヨーコの声を持たないこのセクションは、嵐の前の静けさのように、次に起こる感情の爆発や肉体的な交感を予感させる。
[Part 2]
[Moaning]
※ヨーコの喘ぎ声やうめき声がオーネットのトランペットと絡み合う。言葉による意味の伝達を完全に放棄し、人間の最も原初的な肉体の反応をそのまま音響として空間に放っている。ファンの間やディープな考察では、これが性的なメタファーであると同時に、家父長制や社会規範によって抑圧されてきた女性の痛みとエネルギーを解放している表現だと解釈されている。
Not yet...
まだよ…
※本作において唯一、明確な意味を持つ言葉。極限の感情の高ぶりやジャズ・セッションの白熱の中で発せられるこの一言は、性的な絶頂を遅延させるエロティックな囁きとも、あるいは死や狂気の淵で踏みとどまろうとする人間の切実な抵抗とも受け取れる。言葉の少なさが、逆にその背後にある巨大な感情を想像させるヨーコのコンセプチュアル・アートの真骨頂である。
[Moaning and screaming]
※うめき声は次第に狂気を帯びた金切り声(スクリーム)へと変貌していく。フリージャズの混沌としたサウンドと肉声が完全に一体化し、理性や論理が崩壊した人間の無意識の深淵を描き出しながら、楽曲はアヴァンギャルドの極致として幕を閉じる。
