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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Album Intro - Nas 【和訳・解説】

Artist: Nas

Album: I Am...

Song Title: Album Intro

概要

本作は、クイーンズブリッジが生んだリリシストNasの3rdアルバム『I Am...』(1999年)の幕開けを飾るイントロダクションであり、彼のキャリアを時系列順に辿る「音の自伝」として機能している。1991年のMain Source「Live at the Barbeque」での衝撃的なデビューバースから始まり、ヒップホップ界の金字塔である1st『Illmatic』(1994年)、そしてマフィオソ・ラップへと傾倒し商業的成功を収めた2nd『It Was Written』(1996年)までの代表曲が次々とサンプリングされていく。この構成は単なるベスト盤的な振り返りではなく、「ストリートの神童」から「巨大なスター」へと変貌を遂げる過程で生じた、一部のコアなヘッズや評論家からの「ポップになった」「セルアウトした」という批判に対するNasなりの静かな回答である。アウトロでの実弟Jungleと盟友Horseによるスキットは、本作が「3度目の証明」であり、アンチを黙らせる真のギャングスタ・シットであることを宣言している。自己のアイデンティティ("I Am")を再定義する上で欠かせない、ヒップホップ史において最も象徴的かつコンセプチュアルなイントロの一つである。

和訳

[Intro]

La la
ラ・ラ……

La la, la la, la la la la la la la
ラ・ラ、ラ・ラ……

La la, la la, la la la la la la la
ラ・ラ、ラ・ラ……

[Sample 1: Live at the Barbeque]

Street's disciple, my raps are trifle
ストリートの使徒、俺のラップは次元が違うぜ
※1991年にリリースされたMain Sourceの楽曲「Live at the Barbeque」からのサンプリング。当時弱冠17歳だった"Nasty Nas"のデビューバースであり、シーンに彼の名を知らしめた歴史的瞬間である。「trifle」は本来「些細な、くだらない」という意味だが、当時のNY界隈のスラングとして「(常軌を逸していて)ヤバすぎて手に負えない」「他とは比較にならない」という逆説的なニュアンスで使われている。

I shoot slugs from my brain just like a rifle
ライフルのように、脳内から弾丸(言葉)をブチ込んでやる
※「slugs」は銃弾と、スラングとしてのパンチライン(強力なリリック)のダブルミーニング。Nasのリリシストとしての才能が、圧倒的な火力を持つ武器であることを示唆している。

Stampede the stage
ステージを蹂躙してやるよ

[Sample 2: Halftime]

Nas, why did you do it
Nas、なんでこんなヤバいことしちまったんだ
※1994年の伝説的1stアルバム『Illmatic』からのリードシングル「Halftime」のサンプリング。プロデューサーであるLarge Professorが、Nasの天才的なラップに驚愕している様子を表現したイントロの語りである。

You know you got the mad fat fluid when you rhyme, it's halftime
お前がラップすりゃ最高にドープなフロウが溢れ出すんだ、ハーフタイムだぜ
※「fluid」は「流体」だが、ここでは「流れるような完璧なフロウ」を意味する。「mad fat」は90年代特有の「最高にヤバい、イカしてる」という褒め言葉。

Check me out y'all
お前ら、俺を見とけよ

[Sample 3: It Ain't Hard to Tell]

From the spliff that I lift and inhale, it ain't hard to tell
俺が持ち上げて吸い込む極太のジョイント、理由は説明するまでもないだろ
※同じく『Illmatic』収録の名曲「It Ain't Hard to Tell」から。Michael Jacksonの「Human Nature」を大胆にサンプリングしたビート上で、大麻(spliff)を吸いながら宇宙的な悟りを開くNasの姿を描写している。この曲の大ヒットが彼を真のスターダムに押し上げた。

[Sample 4: The World is Yours]

It's yours
お前のものだ

Whose world is this?
この世界は誰のものだ?
※『Illmatic』収録の「The World is Yours」(Pete Rockプロデュース)からのサンプリング。映画『スカーフェース(Scarface)』の主人公トニー・モンタナが空を見上げるシーンに登場する飛行船のメッセージ「The World Is Yours」からインスピレーションを得た、ヒップホップ史に残るアイコニックなフレーズ。

The world is yours, the world is yours
世界はお前のもの、お前のものさ

It's mine, it's mine, it's mine; whose world is this?
俺のもの、俺のもの、俺のものだ。この世界は誰のものだ?

I sip the Dom P, watching Gandhi til I'm charged
ドン・ペリニヨンを啜り、エネルギーが満ちるまでガンジーの映画を観る
※高級シャンパンであるドン・ペリニヨン(物質的な成功・ストリートの欲望)と、非暴力・禁欲を貫いたマハトマ・ガンジー(精神的な悟り)という対極の要素を並置することで、Nasの持つ二面性と葛藤(ゲットーの現実と精神的高みへの渇望)を見事に表現した文学的なパンチライン。

Then writing in my book of rhymes, all the words past the margin
それからリリック帳に書き殴るのさ、マージン(余白)をはみ出すほどの言葉をな
※インスピレーションが爆発し、ノートの罫線や余白の枠に収まりきらないほどにリリックが溢れ出る、抑えきれない天才的な創造性を描写している。

[Sample 5: One Love]

One what?
One 何だって?

One love, one love, one love, one love
One love、愛はひとつだぜ
※『Illmatic』収録の「One Love」(Q-Tipプロデュース)から。刑務所に服役しているフッドの仲間たちへ向けた手紙というストーリーテリングの手法をとった楽曲。ストリートの過酷な現実の中で、仲間との絆(One Love)を確かめ合うNasの深い情が込められている。

[Sample 6: The Message]

It Was Written
運命にはそう記されてるのさ
※2ndアルバム『It Was Written』(1996年)からのサンプリング開始。Nasがアンダーグラウンドの神童から、マフィオソ・ラップのドン(Nas Escobar)へとペルソナを変化させたターニングポイントである。

Fake thug, no love
フェイクなチンピラどもに、愛なんてねえ
※『It Was Written』の1曲目「The Message」から。このラインは、2Pacへのサブリミナル・ディスだったと後年広く考察されている。Nas本人は後に「特定の誰かを指したものではなかった」と弁明しているが、当時の東西抗争の緊張状態において、2Pacはこの曲を明確なディスと受け取り、「Against All Odds」等でNasへ猛烈な反撃を行うこととなった。ヒップホップ史に残る歴史的ビーフの火種となった一節である。

You get the slug CB4 Gusto
映画『CB4』のガストみたいに、鉛の弾(スラング)を喰らうことにな
※1993年のヒップホップ・コメディ映画『CB4』に登場するギャングスタ・ラッパー「MC Gusto」を引き合いに出している。MC Gustoは実は中産階級の優等生だが、本物の犯罪者の名前と経歴をパクってハードコアなギャングスタを演じているキャラクター。つまり「お前らはストリートの背景をでっち上げている偽物(スタジオ・ギャングスタ)だ」という強烈な批判。

Your luck low, I didn't know 'til I was drunk though
お前の運も尽きたな、酔っ払うまで気づかなかったけどよ

[Sample 7: Street Dreams]

QB since 1933
1933年から続くQB(クイーンズブリッジ)の系譜だ
※1996年の大ヒットシングル「Street Dreams」から。1933年は、Nasの地元であり、全米最大の公営住宅であるクイーンズブリッジ・ハウジング・プロジェクト(Queensbridge Houses)の建設が承認(あるいは計画が開始)された時期を指す。自身のルーツとストリートの歴史に対する深い誇りを示している。

Street dreams are made of these
ストリートの夢ってのは、こういうもんで出来てるのさ
※Eurythmicsの1983年の世界的ヒット曲「Sweet Dreams (Are Made of This)」を大胆にサンプリング(ボーカルのメロディと歌詞のフリップ)し、ゲットーでハスリングして成功を掴み取る「ストリートの夢」へと意味を巧みに書き換えている。

Everybody's looking for something
誰もが何かを求めて彷徨ってるんだ

[Sample 8: If I Ruled the World]

Just some thoughts for the mind
頭をよぎる、ちょっとした考えさ

I take a glimpse into time
時の中に垣間見るんだ

Watch the blimp read "The World Is Mine"
「The World Is Mine」と書かれた飛行船を見上げながらな
※Lauryn Hillをフィーチャーした大ヒット曲「If I Ruled the World (Imagine That)」から。再び映画『スカーフェース』の飛行船のモチーフが登場する。この曲の特大ヒットによりNasは完全にメインストリームの頂点に立ったが、同時にコアなヘッズからは「ポップになりすぎた」という激しいバッシングも浴びることになる。

If I ruled the world (Imagine that)
もし俺が世界を支配したなら(想像してみてくれよ)

[Skit]

[Horse]: Yo Jungle, how you feel about that Nas shit?
[Horse]: おいJungle、今回のNasのヤバい新作、お前はどう思ってる?
※スキット部分の開始。話しているのはNasの実弟であるJungleと、Nasが率いたグループ「Bravehearts」のメンバー(当時は取り巻き)であったHorse。アルバム『I Am...』のリリース直前のストリートの空気感や、Nasを取り巻く状況をリアルな会話で再現している。

[Jungle]: Niggas heard that shit, man, the fuck is that, man? Sorry man, y-you gotta play that shit to niggas man, niggas know what the fuck time it is man. (Horse: Okay man) Word man, it's your shit man, it's your time man, fuck all these niggas out man.
[Jungle]: あいつらあの曲を聴いたらしいけど、マジで何言ってんだって感じだよな。悪いけど、あいつらにあの曲を聴かせてやらなきゃダメだぜ、今がどういう状況か(Nasが王座にいること)分からせてやるんだ。(Horse: だな)マジでよ、これはお前の作品(Nasの時代)だし、お前の時間だ、他の連中なんて全員クソ食らえだ。

Word is bond man, we ain't gonna fuck about none of these motherfuckers man. It's your time man. Word [?]. It's real man.
マジで誓って言うけど、俺らはこんなクソ野郎どもに構ってる暇はねえんだよ。お前の時代なんだからな。マジで。これがリアルだぜ。

Try to tell these niggas one, two times man. This the motherfucking third time we telling these motherfuckers (Horse: What!?) man. The third time man. And this time gonna be the worse time man.
あいつらに1回、2回と教えてやっただろ。今回で連中に分からせてやるのは3回目になるわけだ。(Horse: マジでな!)3回目だぜ。しかも今回は、今までで一番容赦ない(ヤバい)仕上がりになってるからな。
※このスキットにおける最大のパンチライン。「one, two times」は1stアルバム『Illmatic』、2ndアルバム『It Was Written』を指し、「the third time」が本作、つまり3rdアルバム『I Am...』を指している。一部のファンや批評家からの「2ndで商業的になり過ぎた」という批判に対し、「今度こそストリートのリアルを見せつけて完全に黙らせてやる」という身内からの強烈な後押しと、アルバムへの絶対的な自信を表現している。

Word is bond man out for the ghetto man, for all the motherfucking corners, all the motherfucking thugs man, real gansters man. Niggas in jail and shit man.
ゲットーの連中のため、すべての街角、すべてのサグたち、リアルなギャングスタのためのもんだぜ。ムショにぶち込まれてる仲間たちのためのな。

Niggas with real-real motherfucking money, niggas with real motherfucking things on their minds man, word is bond man.
ガチで大金を稼いでるハスラーども、マジでヤバい信念を持ってる連中のためだ、間違いない。

[?] bitch ass niggas man (Horse: Fucking faggot emcees). Fucking weirdos man, y'all weirdos out there man. Fuck all of y'all niggas.
[?] ビッチみてえな野郎ども(Horse: クソみたいなオカマMCどもが)。マジでイカれたキモい連中だよ、外野で騒いでるお前らのことだ。お前ら全員クソ食らえだ。

Yeah man y'all niggas can write what y'all want. Suck my motherfucking dick. You're-you're a bitch! What the fuck y'all want, man.
ああ、お前らは雑誌でも何でも好き勝手に書きやがれってんだ。(文句があるなら)俺のチンポでもしゃぶってな。お前らは単なるビッチだ!マジで何を求めてやがるんだ。
※「write what y'all want(好き勝手に書け)」は、Nasに対して辛口な評価を下したり、「セルアウトした」と批判記事を書いたヒップホップ専門誌のライターや評論家たちに向けた強烈な中指。Nasが常に抱えていたメディアや『Illmatic』至上主義の批評家との確執を、実弟であるJungleが代弁し一蹴している。

Listen to this gangster shit, this is gangster. Real shit! How 'bout that? For the Nas, man. [?] Drugs, man
このギャングスタ・シットを聴きな、これぞ本物のギャングスタだ。リアルな代物だぜ!どうだ?これはNasのためのもんだぜ。[?] ドラッグみたいにドープだろ。
※Nasは『Illmatic』の神格化の裏で、常に「あの頃のNasに戻れ」というリスナーからの呪縛と戦っていた。ここでは彼らが作る音楽こそが妥協のない「リアルなギャングスタ・シット」であると定義し直し、Nasへの絶対的な忠誠とリスペクトを示している。

[Horse]: Fuck all y'all faggot motherfuckers

[Horse]: お前らクソ野郎ども、全員くたばっちまえ