Artist: Kendrick Lamar
Album: Youngest Head Nigga in Charge (Hub City Threat: Minor of the Year)
Song Title: Biggie
概要
2004年、ケンドリック・ラマーが16歳の時に「K.Dot」名義でリリースした初ミックステープ『Y.H.N.I.C.』に収録された本楽曲は、彼のキャリア全体を貫く「ギャング文化からの脱却と自己探求」という極めて重要なテーマが初めて明言された記念碑的なトラックである。The Notorious B.I.G.(ビギー)の楽曲を数多く手掛けたナシーム・マイリック(Nashiem Myrick)プロデュースのビートを借用したと思われる重厚なトラック上で、彼は「クリップスでもブラッズでもない、ただのケンドリックだ」と宣言する。これは後に名盤『good kid, m.A.A.d city』で確立される「過酷なフッドで生きる善良な若者(good kid)」という彼自身のアイデンティティの萌芽に他ならない。ニンジャ・タートルズやスティーブ・アーケルなどのポップカルチャーを用いた16歳らしいコミカルなワードプレイを散りばめつつも、アウトロで同世代に向けて「ギャングスタのフリをするな、自分自身であれ」と説教する姿には、後のコンシャス・ラッパーとしての片鱗がはっきりと表れている。Genius等のコアなファンコミュニティにおいても、ケンドリックの「精神的オリジン」を知る上で欠かせない一曲として語り草となっている。
和訳
[Intro]
Uh
アー
I see everybody wanna play gangsta now, huh?
今じゃ誰もがギャングスタを演じたがってるみたいだな、あ?
※当時のヒップホップシーンや地元の若者たちの間に蔓延していた、フェイクなギャングスタ・ペルソナへの冷ややかな視線。
Well you know what, niggas?
でもよ、知ってるかニガども?
※リスナーへの問いかけ。
I'ma just play Kendrick
俺はただ「ケンドリック」を演じるだけさ
※ギャングの型に嵌るのではなく、自分自身(Kendrick)というアイデンティティを貫くという強烈な宣言。この曲の、そして彼のキャリアにおける最大の核となるメッセージ。
You gotta respect it
お前らもそれをリスペクトするこった
※本物(リアル)であることを尊重せよという忠告。
Feel this, uh
これを感じてくれ
※曲の本編への導入。
Let me shit on these niggas, man
この偽物どもにクソをぶっかけてやるよ
※「shit on」は圧倒する、こき下ろすという意味の定番スラング。
[Verse 1]
Look, homie, I'm not your Crip or your Blood
見な、ホーミー、俺はお前らのクリップスでもブラッズでもねぇ
※「Crips」と「Bloods」は、ケンドリックの地元LA・コンプトンを二分する巨大ギャング組織。自分はいずれのカラーにも染まらないという明確な中立(非行からの離脱)宣言であり、後の『good kid, m.A.A.d city』のコンセプトそのものである。
Homie, I'm just Kendrick
ホーミー、俺はただの「ケンドリック」だ
※ストリート・ネームやギャングの肩書きではなく、本名としての自分をレペゼンしている。
See me other than him, might plead the Fifth Amendment
それ以外の俺を見たって言うなら、黙秘権(修正第5条)を行使するかもな
※「Fifth Amendment」はアメリカ合衆国憲法修正第5条(自己負罪拒否特権=黙秘権)。「俺がギャングとして振る舞っているのを見たというなら、それは濡れ衣だから法廷で黙秘してやる」というような皮肉めいたジョーク。
Hard headed nigga, shit, all it take is an instant
頑固なニガさ、クソ、一瞬で終わらせてやる
※意志が固く、敵対者には一瞬で引導を渡すという姿勢。
Shocked to have scored, just as soft as an infant
スコアを決めて衝撃を受けてるが、赤ん坊みたいにソフト(軟弱)だぜ
※「score」は点を取る、あるいは女を落とす、ヤクを手に入れる等の意味。少し上手くいっただけで有頂天になっている未熟なフェイク野郎を、赤ん坊の柔らかさ(soft)に例えて馬鹿にしている。
Say you bust your guns, but never totin' it
お前は銃をブッ放すって言うが、持ち歩いてすらいねぇだろ
※「tote」は携帯すること。リリックでタフぶっているだけのスタジオ・ギャングスタへのディス。
You say your man is dope? I think he's smokin' it, homie
お前のダチがドープ(最高)だって? そいつはドープ(麻薬)を吸ってるだけだと思うぜ、ホーミー
※「dope」が持つ「素晴らしい」と「麻薬」という2つの意味を使ったシンプルな言葉遊び。
Why you provokin' it? Don't mean to boast a bit
なんで挑発してくるんだ? 少しも自慢するつもりはねぇが
※相手の無意味な喧嘩腰に対する呆れ。
But you can call me a fly, 'cause your boy be on some shit
俺のことは「ハエ(fly)」と呼んでくれ、だってお前らボーイは「クソ(shit)」の上にいるからな
※「fly」には「ハエ」と「最高にイケてる」の2つの意味があり、「shit」には「糞便」と「最悪の事態(または最高のモノ)」の2つの意味がある。「ハエはクソの上にたかる」という生態を利用し、「俺がイケてる(fly)のは、お前らがクソ(shit)だからだ」と見下す秀逸なワードプレイ。
Plus I'm fly, so all the girlies think I'm the shit
それに俺はフライ(イケてる)だから、女どもは俺をザ・シット(最高)だと思ってる
※前行の「fly」と「shit」の意味をポジティブなスラングに反転させ、自分がモテる理由に繋げている。
I got it to spend, but still never buy 'em shit
使う金はあるが、女には何も買い与えねぇよ
※女に金を貢がない(No tricking)というピンプとしてのスタンス。当時の彼が頻繁に用いたフレーズ。
You better guard your bitch
お前のビッチをガードしといた方がいいぜ
※いつでも寝取れるというボースト。
'Cause all it takes is a finger to turn her on, holmes
だって指一本で彼女のスイッチを入れられる(ターン・オン)からな、ホームズ
※「turn on」は興奮させるという意味と、次行のスイッチを入れるという物理的な動作のダブルミーニング。
Somethin' like a light switch
照明のスイッチみたいにな
※前行のセットアップを回収。
Hands down but still dark, think I might switch the Jag' for the Porsche
手は下げてるがまだ暗い、ジャガーをポルシェに乗り換えようかと思うぜ
※「Hands down(間違いなく/手を下ろす)」と車の運転姿勢、そして高級車(JaguarとPorsche)を乗り換えるという成功者の誇張された日常。
'Cause it got a better steering grip
ポルシェの方がステアリングのグリップがいいからな
※ラップの主導権(ステアリング)をしっかり握っていることのメタファー。
Young, but been a man, and you won't understand
若いが、とうに「男」になってる。お前には分からねぇだろうが
※フッドの過酷な環境が、16歳の少年を強制的に大人にしてしまったという現実への達観。
Spree wheels looking like a bedroom ceilin' fan
スプリー・ホイールが、ベッドルームのシーリングファンみたいに回ってるぜ
※「Spree wheels(Sprewells)」は当時大流行した、車が止まっても回転し続けるスピナー・ホイールのこと(NBA選手のラトレル・スプリーウェルが流行らせた)。その激しく回る様を、寝室の天井で回るファンに例えたユーモラスな描写。
[Chorus]
When the beef start cookin'
ビーフ(抗争)が料理され(始まり)
※「beef」を「牛肉」と「抗争」にかけて、「cookin'(始まる/料理される)」と表現。
And the shots start comin'
銃弾が飛んできたら
※抗争が物理的な銃撃戦に発展する状況。
Don't hesitate to pop that thing
ためらわずにソイツ(銃)をブッ放せ
※殺るか殺られるかの状況では躊躇は命取りになるというストリートの掟。
People start lookin'
人々が注目し始め
※野次馬が集まる様子。
And people start runnin'
そして人々が逃げ惑い始めたら
※パニック状態の描写。
Don't hesitate to pop that thing
ためらわずにソイツをブッ放せ
※繰り返しの警告。
Rolling down Rosecrans, I fear no man
ローズクランズを流す、俺は誰も恐れねぇ
※「Rosecrans」はコンプトンを東西に貫く主要な通り。地元を恐れず堂々とクルージングする度胸。
I be God damned if I live on my knees, I rather die on my feet
膝をついて生きるくらいなら、神に誓って、自分の足で立って死ぬ方を選ぶぜ
※エミリアーノ・サパタ(メキシコ革命の指導者)の有名な名言「跪いて生きるより、立って死ぬ方がいい」の引用。権力や敵に屈従して惨めに生きながらえるくらいなら、誇り高く戦って死ぬというヒップホップにおける究極の反骨精神。
That Hub City threat shit is me
あの「ハブ・シティ(コンプトン)の脅威」ってのは俺のことさ
※ミックステープのサブタイトル(Hub City Threat)を回収し、自身がコンプトンの最強の存在であると宣言。
[Verse 2]
Nigga, I'm from the land where fiends fly like Peter Pan
ニガ、俺はピーターパンみたいにジャンキーどもが飛んでる(ハイになってる)土地の出身だ
※「fiends」は麻薬中毒者。ドラッグでハイになってトランス状態(fly)にある中毒者たちを、空を飛ぶ「ピーターパン」という童話のキャラクターに例えるという、残酷さと無邪気さが混在するGeniusでも高く評価される対比表現。
And the average man got a heat up in them Dickie pants
そして普通の男でも、ディッキーズのパンツに熱(銃)を忍ばせてる
※「heat」は銃。「Dickie pants」は西海岸のギャングや労働者階級の定番ファッション。ギャングでなくても、自衛のために誰もが武装しているコンプトンの異常な日常。
I got some plans to stack riches
俺には富を積み上げる計画があるんだ
※ゲットーから抜け出すための野心。
Own seven 6′s like a Philadelphian
フィラデルフィアの人間みたいに、7台の6シリーズを所有する
※NBAチームの「フィラデルフィア・76ers」と「7台のBMW 6シリーズ」をかけた非常にクレバーなナンバー・ワードプレイ。16歳にしてこのレベルのライムを構築している。
If you don't know by now, I'm focused like camera lens
まだ分かってねぇなら教えてやる、俺はカメラのレンズみたいにフォーカスが合ってるんだ
※目標(成功)に対して、一点の曇りもなく集中(フォーカス)している状態。
And if I know your mans, I might give a second chance
もしお前のダチを知ってたら、セカンドチャンスを与えてやるかもな
※知り合いの顔に免じて、一度だけ命を助けてやるというギャングスタ的な恩情。
'Cause I don't wanna hurt you, have 'em runnin' in Herschels
だってお前を傷つけたくないからな。奴らをハーシェル(バッグ)で走らせる
※「Herschels」は人気のバッグブランド。相手を本気で傷つけず、走って逃げ帰らせる(あるいはバッグに荷物を詰めて夜逃げさせる)程度の脅しで済ますというニュアンスか。
Shells stick to his back like a Ninja Turtle
薬莢(シェル)がニンジャ・タートルズみたいに奴の背中にくっつくぜ
※「Shells」は銃弾の薬莢と、亀の甲羅のダブルミーニング。背中から撃たれた弾丸が背中に突き刺さっている凄惨な様子を、子供向けアニメ「ミュータント・タートルズ」の甲羅に見立てるブラックジョーク。
Crack sells, drug sell all in the virtue
クラックが売れ、ドラッグが売れるのが美徳(現実)になってる
※犯罪行為がフッドにおける経済的な「美徳(virtue)」として肯定されてしまっている歪んだ社会構造への批判的視点。
Been a artist since Prince played in color purple
プリンスがカラー・パープル(パープル・レイン)に出た頃からのアーティストさ
※プリンスの象徴である「紫」と主演映画『Purple Rain』を、同時代の映画『The Color Purple』と意図的に混ぜ合わせた表現。自分が物心ついた時から根っからのアーティストであることを主張している。
Weed smoke, hydro blow on that purple
ウィードの煙、パープルのハイドロを吹かす
※前行の「purple」を受け、最高級のマリファナ(Purple Haze / Hydroponic weed)を吸うストリートの描写に繋げている。
2 straps on my side, like suspenders on Urkel
アーケルみたいに、両脇に2丁の銃(ストラップ)を下げてな
※「Urkel」は90年代のシットコム『Family Matters』に登場するスティーブ・アーケルのこと。サスペンダー(肩ひも=strap)がトレードマークのオタクキャラクターだが、それを両脇に装備した2丁の銃(strap)に見立てるという、このヴァース最高のコミカルなパンチライン。
I suspend you, they irk you, what you lyin' for?
お前をサスペンド(停学/吊るす)してやるよ、奴らはお前をイラつかせる(irk)、なんで嘘をつくんだ?
※前行からの高度な言葉遊びの連鎖。「suspenders」から「suspend(吊るす/停学にする)」を引き出し、「Urkel」から「irk(イラつかせる)」を引き出している。嘘つきなラッパーを吊し上げ、イラつかせるというディス。
You know you ain't eatin' like Feed The Children commercials
お前が「フィード・ザ・チルドレン」のCMみたいに、ロクに食えてない(稼げてない)のは分かってるんだぜ
※「Feed The Children」は飢餓に苦しむ子供たちへの寄付を募る団体のCM。大金持ちのギャングスタを気取っているが、実際は飢え死に寸前のフェイク野郎だという痛烈な皮肉。
Man, my children'll circle around your block
なあ、俺の子供たち(仲間のギャング)がお前のブロックの周りを包囲して
※「children」を自分が養う手下たち(ストリートの若者たち)に転換。
Let out shots and be home 30 minutes before they curfew
銃弾をブッ放して、門限の30分前には家に帰ってくるぜ
※ドライブバイ・シューティング(車からの銃撃)という残虐な殺人行為を、子供が「門限(curfew)までに帰宅する」という日常のルーティンと同じレベルの気軽さでこなしてしまうという、コンプトンの少年兵たちの恐るべき実態を描き出している。
[Chorus]
When the beef start cookin'
ビーフ(抗争)が料理され(始まり)
And the shots start comin'
銃弾が飛んできたら
Don't hesitate to pop that thing (Right)
ためらわずにソイツ(銃)をブッ放せ(そうだろ)
People start lookin'
人々が注目し始め
And people start runnin'
そして人々が逃げ惑い始めたら
Don't hesitate to pop that thing (Yeah)
ためらわずにソイツをブッ放せ(イェー)
Rolling down Rosecrans
ローズクランズを流す
I fear no man
俺は誰も恐れねぇ
I be God damned (Damn)
神に誓って(クソ)
If I live on my knees I rather die on my feet
膝をついて生きるくらいなら、自分の足で立って死ぬ方を選ぶぜ
That hub city threat shit is me (Bitch)
あの「ハブ・シティ(コンプトン)の脅威」ってのは俺のことさ(ビッチ)
[Outro]
Yeah, it's real
イェー、これはリアルだ
※ここから、K.Dotによる同世代への熱い説教(スポークン・ワード)が始まる。
Kendrick
ケンドリック
※自身の本名の強調。
You see me in the streets, man, come to me as a man, man
ストリートで俺を見かけたら、一人の「男」として俺のところへ来いよ
※ギャングの看板やカラーを外して、一人の人間同士として向き合えという要求。
It's real, nigga
マジな話だぜ、ニガ
※真剣さの念押し。
Kendrick, you gotta respect it, niggas respect me, man (K. Dot)
ケンドリックだ、お前もリスペクトしなきゃならねぇ。ニガどもは俺をリスペクトしてるんだ(K.Dot)
※虚勢を張らなくとも、自分自身のままでいるからこそストリートからの尊敬を集めているという自負。
Stop being some yank, nigga, it's real
偽物ぶるのはやめな、ニガ。これがリアルだ
※「yank」は文脈的に「見せかけのやつ」「間抜け」といったニュアンス。
Lotta niggas tryna play gangsta, huh?
多くのニガどもがギャングスタのフリをしようとしてるよな?
※イントロの問いかけを再び繰り返す。
It's 2004, man, you wanna be in this shit, quit it
今は2004年だぜ。この世界(ラップゲーム/ストリート)にいたいなら、そんなフリはやめな
※ステレオタイプなギャングスタ・ラップの時代は終わり、これからは「リアルな自分自身を語る」時代だという、音楽的な転換点を見据えたかのような先見の明。
Be yourself, man
自分自身であれよ
※ケンドリック・ラマーの音楽哲学の真髄。血で血を洗うコンプトンのストリートにおいて、彼が銃を持たず「言葉」だけで頂点に上り詰めるための魔法の言葉。
Still affiliated, huh?
まだ(ギャングと)つるんでるフリか?
※最後まで色(カラー)にこだわっている連中への冷笑。
Niggas respect me, bitch
ニガどもは俺をリスペクトしてるんだよ、ビッチ
※自分を貫くことこそが最大の力であるという確信と共に、トラックは幕を閉じる。
