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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Suspect - Nas 【和訳・解説】

Artist: Nas

Album: It Was Written

Song Title: Suspect

概要

Nasの2ndアルバム『It Was Written』(1996年)の終盤を飾る、L.E.S.プロデュースによるバンガーである。重厚で不穏なベースラインに乗せ、Nasはストリートの殺人事件の生々しい現場から、自身のルーツやアメリカ社会の構造的搾取へと視点を広げていく。タイトルの「Suspect(容疑者)」は、警察に情報を売る密告者や偽物のギャングを指しており、フックでは彼らに対する強烈な殺害予告が歌われる。ストリートの冷酷な掟(スニッチは死ぬ)を描きながらも、ヨハネの黙示録や「ミリオン・マン・マーチ」などの宗教的・政治的なメタファーを織り交ぜることで、単なるギャングスタ・ラップを超えた深い精神性と社会性を獲得している一曲だ。

和訳

[Intro: Nas & random guy]
Yo, what up, dunn?
よぉ、調子はどうだ、兄弟?

Son, what up?
兄弟、どうした?

Yo, I just got my hands on this new biscuit, nahmsayin'?
よぉ、新しいビスケット(チャカ)を手に入れたところだ、分かるか?
※biscuit=銃(特に拳銃)を指すストリート・スラング。

Word?
マジで?

I gotta go see somethin' real qui-
ちょっとすぐに見に行かなきゃなんねぇもんが——

Yo, walk with me here real fast, yo
よぉ、ちょっとこっち歩きながら話そうぜ。

Word? Right
マジか? 分かった。

Yo, yo, son, man
なぁ、兄弟。

See them niggas right there, man?
あそこにいる野郎どもが見えるか?

Yeah
あぁ。

I'm sayin', man, it's about time, man
つまりさ、そろそろ潮時だってことだよ。

These niggas are shoutin' at everythin', you know what I'm sayin'?
あの野郎ども、何にでも首を突っ込んで騒ぎ立てやがる、言ってる意味分かるか?

Them niggas is gettin' my money, yo!
あいつら、俺の金に手を出してやがるんだよ!

Them niggas is gettin' MY money, yo!
あいつら、俺の金を奪ってやがるんだ!

Yo, fuck that, man, I'mma get that nigga, yo
ふざけんな、俺があの野郎をブチ殺してやるよ。

[Verse 1]
It was a murder — Jake just hit the corner, people swarmin'
殺人事件だった——ジェイク(サツ)が角を曲がってきて、野次馬が群がってた。
※Jake=警察を指すスラング。

Three in the mornin', I jumped out my cab like "Fuck!"
午前3時、俺は「クソッ!」って言いながらタクシーを飛び出した。

Niggas is buck, mega bloodshed, the tape's red
野郎どもはパニクり、すげぇ血溜まりで、規制線(テープ)が張られてる。

I heard some bird whisper, "Yo, he should've ducked"
どっかの女が「よぉ、あいつ伏せとくべきだったのに」って囁くのが聞こえた。
※bird=女性を指すスラング。

I puffed the lila, just before I hit the scene for real-er
俺は現場に近づく直前に、ライラ(ハッパ)を吹かして落ち着いた。
※lila=マリファナのこと(パープルやライなどと同様の表現)。

I'm all high, it's late, I'm lookin' down at the fella
俺はすっかりハイになってて、時間も遅い。倒れてる男を見下ろす。

Shit's pushed in, ambulance placed him on some cushion
頭がブチ抜かれてやがる。救急隊員がそいつをストレッチャーのクッションに乗せた。
※pushed in=顔面や頭部を銃撃されて陥没している凄惨な状態。

His moms had a stare I wouldn't dare second look when I murk
あいつの母親の悲痛な視線ときたら、俺が立ち去る時に二度見すらできないほどだったぜ。

It hurt, kinda took it as a brief reminder
胸が痛んだよ。これはちょっとした警告なんだって受け取った。

That the street's designed to stop ya life clock, the beast'll time ya
ストリートってお前らの寿命(ライフクロック)を止めるように設計されてて、ビースト(警察・システム)がお前らの時間を測ってるんだってな。

Cell to cell, suspect-ass nigga, you fail
監房から監房へ。怪しい野郎(スニッチ)め、お前は終わり(失格)だ。

First time locked in Comstock, my mind blocks the frail
コムストックに初めてブチ込まれた時、俺の精神は弱音をシャットアウトした。
※Comstock=ニューヨーク州北部にある重警備の刑務所(Great Meadow Correctional Facility、通称コムストック)。

Burstin', blastin' at you, forty cal' shells split your dry cell
お前に向かってブッ放す。40口径の薬莢が、お前の乾いた脳細胞(独房)をカチ割る。
※dry cell=「独房」と「脳細胞(または乾電池)」のダブルミーニング。

My niggas never snitch, why tell?
俺の仲間は絶対にスニッチ(密告)しねぇ。なんで喋る必要がある?

We roll wit' no regrets, destinies, fifties and equities
俺たちは後悔なしで生きる。運命、50ドル札、そして純資産と共にな。

Queens'll be the death of me!
クイーンズが俺の死に場所になるだろうぜ!

[Chorus]
To the suspect witness — don't come outside
怪しい目撃者(スニッチ)どもへ——外に出てくるなよ。

You might get your shit pushed back tonight
今夜、頭を後ろにブチ抜かれるかもしれないぜ。
※pushed back=銃弾を頭部に受けて後方にのけぞる、あるいは生え際が後退するように頭が吹き飛ぶ様子を残酷に表現したスラング。

(Suspect witness — don't come outside
(怪しい目撃者どもへ——外に出てくるなよ。

You might get your shit pushed back tonight)
今夜、頭をブチ抜かれるかもしれないぜ)

Suspect witness — don't come outside
怪しい目撃者(スニッチ)どもへ——外に出てくるなよ。

You might get your shit pushed back tonight
今夜、頭を後ろにブチ抜かれるかもしれないぜ。

(Suspect witness — don't come outside
(怪しい目撃者どもへ——外に出てくるなよ。

You might get your shit pushed back tonight)
今夜、頭をブチ抜かれるかもしれないぜ)

[Verse 2]
Dear God, I want the riches, money-hungry bitches infested
親愛なる神よ、俺は富が欲しい。金に飢えたビッチどもが蔓延してる。

Givin' the jealous niggas sickness to witness
嫉妬深い野郎どもには、俺の成功を見せつけて病気(精神的苦痛)を与えてやる。

My crew dresses in vests-es, feel the essence
俺のクルーは防弾チョッキを着込んでる。この本質(エッセンス)を感じな。

Try to test this scientist, able and reckless
この科学者を試してみろよ、有能で命知らずだぜ。
※scientist=高度なリリシズムで言葉を組み立てるNas自身を「科学者」に例えている。Five Percent Nationの文脈において、真理を探求する知的な存在を意味することもある。

Slaughter, Nautica down, frames look petite
殺戮の現場、ノーティカのダウンジャケット、眼鏡のフレームは細め(小ぶり)だ。

Ten millies, minks designed just for my physique
10ミリ口径の銃。俺の体格に合わせて仕立てられたミンクのコート。

I keep a low pro' as if I owe, bless the flow lovely
まるで借金があるかのように目立たず(ロー・プロファイル)行動するが、この素晴らしいフロウには祝福がある。

My pants hang while I'm dancin', sippin' the bubbly
バブリー(シャンパン)をすすりながら踊ると、俺の腰パンが揺れる。

Hey! Me no worry, hashish keep my eyes Chinese
ヘイ! 心配なんてねぇよ。ハシシ(大麻樹脂)のせいで俺の目は細く(チャイニーズみたいに)なってるからな。
※eyes Chinese=マリファナを吸って目が赤くトロンと細くなる状態を表す、当時のヒップホップでよく使われたスラング表現。

Rollin' two Phillies together make blunts Siamese
2つのフィリーズ(葉巻)を一緒に巻いて、シャム双生児みたいな極太のブラントを作る。

I meant it, I represent it, descendant made of early natives
俺は本気だ。俺はレペゼンしてる。初期の先住民たちから作られた末裔だ。

That were captured and taught to think backwards
奴らは捕らえられ、物事を逆行して(劣等感を持つように)考えるよう教え込まれた。

Trapped us in a cracker's psychiatric, it's massive
白人(クラッカー)の精神支配の中に俺たちを閉じ込めたんだ。その規模はデカい。
※cracker=白人を指す蔑称。アメリカ社会の制度的・精神的な人種差別構造を「精神科病棟(psychiatric)」に例え、黒人コミュニティが洗脳状態にあると指摘している。

A Million Man March, alert the masses
ミリオン・マン・マーチ、大衆に警告を発しろ。
※A Million Man March=1995年にワシントンD.C.で行われた、黒人男性の連帯と地位向上を訴える大規模な平和行進。

Tan Clarks, Armani in small print upon my glasses
日焼けした(タンカラーの)クラークスの靴。眼鏡には小さくアルマーニの印字。

Don assassins, Armageddon
ドン(ボス)の暗殺者たち、ハルマゲドン(世界の終末)。

The wedding of a freak and a beast
変人(Freak)と野獣(Beast)の結婚。

Seven heads, got the righteous threatened
7つの頭を持つ獣が、正義を脅かす。
※Armageddon / Seven heads=新約聖書の『ヨハネの黙示録』に登場する「七つの頭を持つ獣」や終末戦争のメタファー。堕落したストリートの現状や、邪悪な権力構造を黙示録的な世界観で表現している。

Life Was Written, the plot curves behind the settin'
人生はあらかじめ書かれていた(It Was Written)。物語の筋書きは、背景の裏側でうねっている。

Comprehend the grammar, math we own
俺たちが操る文法と数学(真理)を理解しな。
※math=Five Percent Nationの「Supreme Mathematics(万物を数字で解読する教え)」のこと。

Are you the type of nigga to shoot a leg to get your name known?
お前は自分の名前を売るためだけに、他人の脚を撃ち抜くようなタイプの野郎か?

I flip the brain tone, niggas get hit and wrapped in plastic
俺は脳の思考(トーン)を反転させる。野郎どもは撃たれ、ビニールシートに包まれる(死体袋に入れられる)。

The mic I strike in vain givin' the pain of what a MAC is
俺がマイクに打ち込む虚しい一撃は、MAC(サブマシンガン)がもたらすような痛みを与えるんだ。

What you wit'? Lucci or drama? No sleep means insomnia
お前は何と共にある? ルッチ(金)か、それともドラマ(抗争)か? 眠らないってことは不眠症だ。
※Lucci=お金を意味するスラング(クリスチャン・ディオールの財布などから由来)。

No need to check the clock, the streets'll time ya
時計を確認する必要はねぇ。ストリートがお前の時間を測ってるからな。

[Chorus]
Suspect witness — don't come outside
怪しい目撃者(スニッチ)どもへ——外に出てくるなよ。

You might get your shit pushed back tonight
今夜、頭を後ろにブチ抜かれるかもしれないぜ。

(Suspect witness — don't come outside
(怪しい目撃者どもへ——外に出てくるなよ。

You might get your shit pushed back tonight)
今夜、頭をブチ抜かれるかもしれないぜ)

[Verse 3]
Yeah, yeah, it justifies, Nas Escobar's leavin' shit mesmerized
イェー、これで正当化される。Nas Escobarが全てを魅了していく。

Mega live like the third world
第三世界(スラム)みたいに、最高に(メガ)生々しいぜ。

Decipher my deceiver, make him a believer
俺を騙そうとする奴(ディシーバー)の思惑を解読し、そいつを(俺の力を信じる)信者に変えてやる。

Spittin' Gem Stars, words in my mic type receiver
ジェムスター(カミソリ)を吐き出す。マイクという受信機を通した俺の言葉さ。
※Gem Stars=カミソリの刃のブランド名「Gem Star」。武器として使われるカミソリのように、リリックが鋭く切り裂く殺傷能力を持っていることの比喩。

Bond is my life, so I live by my word
絆(約束)が俺の人生だ。だから俺は自分の言葉(Word is Bond)に従って生きる。

Never fraudulent, Queensbridge don't make no herbs
絶対に偽物(フェイク)にはならねぇ。クイーンズブリッジはハーブ(臆病者)なんか育てねぇよ。
※herbs=ストリートのプレッシャーに耐えられない弱者やダサい奴を指すスラング。

Spread my name to deacons, politicians while they speakin'
俺の名前を、執事や政治家どもが演説してる間に広めてやれ。

Rebel to America civilization, caught you sleepin' (Blaow!)
アメリカ文明に対する反逆者だ。お前らが眠ってる間に捕まえてやるぜ。(ブラウ!)

[Outro]
Queensbridge, boy! Once again, boy!
クイーンズブリッジだ、ボーイ! もう一丁だ、ボーイ!

(Recognize, boy! Recognize!) Stupid motherfuckers!
(現実を見ろ、ボーイ! 認識しろ!) バカなマザファッカーども!

Yeah, yeah, street educated, created
イェー、ストリートで教育され、創造された。

Fly gangsta, Firm style
イケてるギャングスタ、The Firmのスタイルだ。

AZ — what up, what up?
AZ——調子はどうだ?

Jungle, Benny Blanco from the 'Bridge
弟のJungle、ブリッジのベニー・ブランコ。
※Benny Blanco=映画『カリートの道』に登場する若く野心的なギャングスターの名前。Nasの仲間をこれに例えている。

'Mega, Big Hi clap 'em down
Cormega、Big Hi、奴らを撃ち落とせ。

L.E.S. on a murder quest
L.E.S.が殺しの探求(ビート作り)に出てるぜ。
※L.E.S.=本楽曲のプロデューサー。

Yeah, yeah, y'all
イェー、お前ら全員な。