Artist: Noah Kahan
Album: The Great Divide
Song Title: All Them Horses
概要
Noah Kahanの「All Them Horses」は、世界的成功を収めたがゆえに故郷(ニューイングランド)を永遠に失ってしまったアーティストの、深い疎外感とアイデンティティの喪失を描いた楽曲である。自身のトラウマを歌にして稼ぐことへの痛烈な自己批判(「痛みを歌って踊る、まあ金にはなるが」)から始まり、都会の富裕層に買い取られていく地元の農場など、ジェントリフィケーションによる田舎町の変容がリアルに描写されている。タイトルの「馬たち」は、過去の洪水の記憶の中で、泣き叫ぶ人間たちとは対照的に少しも怯えていなかった存在であり、大げさに傷ついてきた彼自身の自意識に対する強烈なアンチテーゼとなっている。名声というジェット機から見下ろす故郷は遠く、彼はもう二度と「あの頃の無名な自分」には戻れないという決定的な断絶を、アコースティックな響きに乗せて歌い上げる傑作だ。
和訳
[Verse 1]
Window seat in a '90s plane
90年代製の飛行機の窓際席
See the rivers meet and spread like veins
川が交わり、血管のように広がっていくのが見える
※飛行機から見下ろす風景。自分を育んだ土地から物理的にも精神的にも完全に切り離されてしまった、成功者の俯瞰的な孤独を示している。
'Nother airport lounge, 'nother time zone change
また別の空港のラウンジ、また別のタイムゾーンへの変更
Gonna dance around and sing about my pain
あちこち飛び回って、自分の痛みについて歌って踊るのさ
Okay, it pays
まあ、金にはなるからな
※自身の精神疾患や地元でのトラウマをエンターテインメントとして消費させ、富を得ていることへの強烈な自己嫌悪とメタ的な皮肉である。
See the dried flood lines on the neighbors' porches
近所のポーチに残る、乾いた洪水の跡を見る
Do you remember cryin' for all them horses?
あの馬たちのために泣いたことを覚えているか?
※バーモント州などのニューイングランド地方は頻繁に水害に見舞われる。過去の災害の記憶への回帰。
They did not look scared at all
あいつらは少しも怯えているようには見えなかった
They did not look scared, they did not look scared at all
怯えているようには見えなかった、少しも怖がっているようには見えなかったんだ
※人間(自分)は勝手に同情して泣き叫んでいたが、馬たち(自然や厳しい現実を生きる者たち)はただ静かに耐えていた。自分の過剰な被害者意識や感傷を突き放す重要なメタファーである。
[Verse 2]
So tell me when it feels you cannot escape me
だから、俺から逃げられないと感じた時は教えてくれ
Just yell like Dad would yell at all the noise I'm makin'
俺が立てる騒音に向かって親父が怒鳴ったように、ただ怒鳴ってくれればいい
※家族や親しい人間に対して、自分がプレッシャーやノイズ(重荷)になっているという自覚と申し訳なさ。
I'm just happy you still call
君がまだ電話をかけてくれるだけで、俺は嬉しいんだ
I'm just happy, I'm just happy you still call
ただ嬉しいんだ、まだ電話をくれるだけで十分さ
City kid bought thе farm, he's a real nice guy
都会のガキがあの農場を買い取った、本当にいい奴だよ
※富裕層の移住によるジェントリフィケーション。地元民の土地が奪われている現実を、「いい奴(a real nice guy)」と皮肉交じりに表現している。
Lеft a lifetime invitation for my friends and I
俺と友達のために「いつでも来ていいよ」なんて、一生ものの招待状を置いていきやがった
Couldn't make it back even if I tried
努力したところで、もうあそこには戻れないんだよ
※かつて自分たちの居場所だった場所が「よそ者の所有物」になり、客としてしか入れなくなってしまった喪失感。もう故郷は失われたという決定的な絶望である。
Oh, some things live forever, even when they die
ああ、死んでしまっても永遠に生き続けるものがあるんだ
Oh my
ああ、なんてことだ
My, my, my, my, my, my
ああ、全く
[Chorus]
Know I wanna beat it, wanna beat it bad
ここから逃げ出したい、どうしても逃げ出したいって分かっている
Oh, everyone looks happy in a photograph
ああ、写真の中じゃ、みんな幸せそうに見えるもんな
I've crossed the county line, I cannot go back
郡の境界線を越えてしまった、もう戻ることはできない
I'm always on my own
俺はいつだって一人ぼっちだ
Couldn't make it home 'cause of all that rain
あの雨のせいで、家に帰ることができなかった
※物理的な雨(洪水)と、自身の心に降り注ぐ憂鬱のダブルミーニング。
Oh, run of bad luck in a nowhere state
ああ、どこでもない州での不運の連続
I'm high above us now in a big jet plane
俺は今、大きなジェット機に乗って、かつての俺たちの遥か上空にいる
I'm always on my own
俺はいつだって一人ぼっちだ
I'm always on my own
いつだって孤独なんだ
[Post-Chorus]
Oh
オー
Woah
ウォー
Oh-oh-oh-oh
オーオーオー
Oh-oh
オーオー
[Verse 3]
I ain't planned it, the plane, the plane just landed out here
計画したわけじゃない、飛行機が、ただここに着陸しただけさ
Rubbed my eyes on 89, double yellow, murdered deer
89号線で目をこする、二重の黄色いセンターライン、そして轢き殺された鹿
※「89」はバーモント州を走る州間高速道路。深夜の田舎道特有の生々しく残酷な風景(轢かれた鹿=ロードキル)が、彼を引き戻す現実のアイコンとして機能している。
You can vanish, yes, love, you can try to disappear
君は姿を消せる、ああ愛しい人、消えようとすることはできるさ
A thousand eyes on a dirt road, strike a light, let it burn slow
未舗装の道に突き刺さる千の視線、マッチを擦って、ゆっくりと燃えさせておけ
Maybe I'm manic again, but I think this time I'm out for good
また躁状態(ハイ)になっているのかもしれないが、今回ばかりはもう完全におさらばだと思う
I'm a sidewalk preacher with a record deal
俺はレコード契約を結んだ、ただの道端の説教者だ
※自らの音楽を「道端での説教」に貶めることで、アーティストとしての高慢さを自己解体している。
I'm the weight of new sneakers on some dead wood
枯れ木の上に立つ、真新しいスニーカーの重みさ
※「dead wood(枯れ木)」は衰退した田舎町や死んだ過去。「new sneakers(新しいスニーカー)」は成功して洗練された現在の自分。自分がいかに故郷にとって異物(重荷)になってしまったかを端的に表す秀逸なメタファーである。
This ain't mine anymore, I made too much goddamn noise
ここはもう俺の場所じゃない、俺はいまいましい騒音を立てすぎた
Done starin' at the void, spin-castin' with the boys
虚無を見つめるのはもう終わりだ、仲間たちと一緒にルアーを投げるのさ
※「spin-casting(スピンキャスト)」は釣りの手法。地元の仲間との素朴な娯楽に戻りたいという、手の届かない郷愁である。
[Chorus]
Know I wanna beat it, wanna beat it bad
ここから逃げ出したい、どうしても逃げ出したいって分かっている
Oh, everyone looks happy in a photograph
ああ、写真の中じゃ、みんな幸せそうに見えるもんな
I've crossed the county line, I cannot go back
郡の境界線を越えてしまった、もう戻ることはできない
I'm always on my own
俺はいつだって一人ぼっちだ
Couldn't make it home 'cause of all that rain
あの雨のせいで、家に帰ることができなかった
Oh, run of bad luck in a nowhere state
ああ、どこでもない州での不運の連続
I'm high above us now in a big jet plane
俺は今、大きなジェット機に乗って、かつての俺たちの遥か上空にいる
I'm always on my own
俺はいつだって一人ぼっちだ
I'm always on my own
いつだって孤独なんだ
[Outro]
See the dried flood lines on the neighbors' porches
近所のポーチに残る、乾いた洪水の跡を見る
Do you remember cryin' for all them horses?
あの馬たちのために泣いたことを覚えているか?
They did not look scared at all, they did not look scared
あいつらは少しも怯えているようには見えなかった、怯えているようには見えなかった
They did not look scared at all
少しも怖がっているようには見えなかったんだ
