Artist: JID
Album: The Forever Story
Song Title: Money
概要
JIDの3rdアルバム『The Forever Story』(2022年)に収録された本作は、「金」という資本主義の絶対的な尺度をテーマに、彼が経験した貧困、アメリカ社会の構造的な搾取、そして家族の歴史を痛烈に描き出した内省的なバンガーである。Khrysisが手掛けた、子供たちのイノセントな歌声をサンプリングしたコーラスが、現実の冷酷さをより際立たせている。アメリカの紙幣に描かれた「かつての奴隷主たち(Massa)」の顔を見つめながら、貧しさゆえに追い詰められるストリートの若者たちや、偽りの救済を売るテレビ牧師、そして自分自身が貧困から抜け出すためにどれほど這いずり回ったかを生々しくラップする。曲の前半と後半で「ボローニャ・サンドイッチ(貧困の象徴)」に対する感情が変化する描写など、JIDの高度なストーリーテリングと哲学が詰まった名曲だ。
和訳
[Intro]
It's gon' be a bunch of little kids, a lot
小さな子供たちがたくさん集まって
A bunch of little boys and girls singin' this lil' part right here
小さな男の子や女の子たちが、この部分を歌うんだ
Make— Make it easy where it's somethin' like this
シンプルに、こんな感じの歌にするんだよ
※児童合唱団の歌声をディレクションするようなイントロ。無邪気な子供たちの声で「金への執着」を歌わせるというダークな皮肉。
[Chorus]
Money, money, all I need, all I want (Yeah)
お金、お金、それだけが必要で、それだけが欲しいの(イェー)
Take it from me, leave you stank, smell the funk (You stink)
私からお金を奪ったら、悪臭(ファンク)を残してやるわ(臭いよ)
Money, money, all they need, all they want (Yeah, uh-uh, uh)
お金、お金、大人はそれしか必要としてないし、それしか欲しがらない(イェー、アー)
Take it from me, no, you can't, no, you don't (Uh, uh)
私から奪おうたって、そうはいかないわ(アー、アー)
[Verse 1]
Look, nigga, money on my mind more than half the time
見な、俺の頭の中の半分以上の時間は、金(マネー)のことでいっぱいだ
They put our massa on the money so I mastermind
奴らは俺たちのマッサ(白人の奴隷主)の顔を紙幣に印刷しやがった。だから俺は黒幕(マスターマインド/支配者)になるのさ
※「Massa」は奴隷が白人の主人(Master)を呼ぶ際の黒人英語。アメリカの紙幣(ジョージ・ワシントンやベンジャミン・フランクリンなど)に描かれている建国の父たちの多くが奴隷所有者であった歴史を批判し、彼らに支配されるのではなく、逆に金を支配する存在(マスターマインド)になるという宣言。
Don't mind the mess, I’m a mad scientist rappin' rhymes
この散らかりようは気にすんな、俺はライムを吐き出すマッドサイエンティストだ
JID really Jimmy Neutron mixin' a nuclеar bomb
JIDはまるで『ジミー・ニュートロン(天才少年のアニメ)』さ、核爆弾(ニュークリア・ボム)を調合してるんだ
And, as they eyes arе watchin' God, I'm tryna rise above
あいつらの目が「神」を見つめている間、俺はさらにその上へと這い上がろうとしてる
※黒人女性作家ゾラ・ニール・ハーストンの名作小説『Their Eyes Were Watching God(彼らの目は神を見ていた)』の引用。
Poverty, philosophies, and prophecies arise
貧困、哲学、そして予言が立ち上がる
Follow me for forever, never fall too far behind
永遠(フォーエバー)に俺についてこい、絶対に遅れを取るなよ
As I tell my testimonies, Testaverdes at a time (Sixteen)
俺が自分の証言(テスティモニー)を語る時、一度に「テスタヴェルデ」するんだ(16番さ)
※NFLの伝説的クォーターバック、ビニー・テスタヴェルデ(Vinny Testaverde)の背番号「16」と、ラップの「16小節(16 bars)」を掛けた秀逸なワードプレイ。
Uh, he was done without a dime
あぁ、あいつは一文無し(ダイム)で終わっちまった
Youngest in the family, succumb from outta crime
家族の末っ子(JID自身)は、犯罪の誘惑から屈せずに生き延びた
Came from East Atlanta, Moreland Ave to South Deshon
イースト・アトランタのモアランド・アベニューから、サウス・デションへと移り住んできた
In his path, Twenty East was probably like the Autobahn
その道のりじゃ、州間高速道路20号線東行き(I-20 East)が、まるでアウトバーン(速度無制限道路)みたいに思えたよ
Better get his autograph, he gon' have Grammys and noms
あいつのサインをもらっておいた方がいいぜ。いつかグラミー賞とノミネートを獲得する男だからな
'Member he was smokin' little grammies in the slums
あいつがスラムで数グラム(グラミーズ)の安ウィードを吸ってた頃を覚えてるよ
※「Grammy(音楽賞)」と「Grammies(グラム単位の大麻)」の同音異義語。
Tryin' not to panic, couldn't imagine what was done
パニックにならないように必死だった。何が起きたかなんて想像もできなかったからな
Father Time fucked Mother Earth and had an Uncle Tom
「時の父(ファーザー・タイム)」が「母なる大地(マザー・アース)」を犯して、「アンクル・トム(白人に媚びる黒人)」が生まれたんだ
※自然の摂理(時間と大地)が歪められ、抑圧された社会システムの中で、白人社会に迎合する黒人(アンクル・トム)が生み出されてしまったという文学的かつ強烈なメタファー。
Now, them crackers snatchin' black cats by they tongue
今や白人ども(クラッカー)は、黒猫(黒人)たちを舌(言葉/ラップ)ごと奪い取っていく
※黒人の文化や言葉(ヒップホップ)が白人産業に搾取・消費されている現状への批判。
For the cheese, rats creepin' on yo' T.V. screen, sellin' you dreams
チーズ(金)のために、ネズミ(偽善者)どもがテレビの画面を這い回り、お前に「夢」を売りつけてる
Granny buyin' holy waters off of Joel Osteen
ばあちゃんは(テレビ牧師の)ジョエル・オスティーンから「聖水」を買ってるんだ
※ジョエル・オスティーンはアメリカの有名なメガチャーチの牧師(テレーヴァンジェリスト)。貧しい人々から寄付を集めながら自身は大富豪であるため、しばしば批判の的となる。貧しい祖母がテレビの偽善者にすがる悲痛な情景。
Rubbin' it in my brother head, say a prayer on her knees
その聖水を俺の兄貴の頭にこすりつけ、膝をついて祈りを捧げてた
I used to be jealous of Jared and Patrel Ahkim, even Farad
俺は昔、ジャレッドやパトレル・アキム、ファラドにすら嫉妬してたよ
Had the new Js and new jeans on, it's what I wanted at the time
あいつらは新品のジョーダン(J's)と新しいジーンズを履いてた。当時の俺が一番欲しかったものだ
As a pre-teen, pretend I'm a star
思春期前のガキの頃、俺は自分がスターになったフリをしてた
Pretty model in a G-string, sitting on top the car
Gストリングを履いた可愛いモデルが、車のボンネットに座ってて
With the bottle that she drinkin', leavin' from out the bar
酒のボトルをラッパ飲みしながら、バーから出てくるような情景をな
Scheme on the dollar, thinkin' if anybody is talkin' put some green on his head, he better be Marcus Smart
どうやって1ドル(金)を稼ぐか企む。「もし誰かが俺の陰口を叩くなら、そいつの頭にグリーン(懸賞金/緑色)をかけてやる。そいつはマーカス・スマート(ボストン・セルティックスの選手)くらいディフェンスが上手くなきゃ命はねえぞ」って考えてた
※「Green(金/セルティックスのチームカラー)」と、優秀なディフェンダーである「Marcus Smart(緑に髪を染めていた時期もある)」を掛けた高度なライム。
But, we never had a thing, so, he's always in my thoughts
でも、俺たちには何一つ持っていなかった。だから、その考えが常に頭から離れなかったんだ
Because I ate so many bologna sandwiches as a child
子供の頃、数え切れないほどの「ボローニャ・サンドイッチ」を食わされたからな
※ボローニャ・ソーセージのサンドイッチは、アメリカの貧困家庭における最も安価で定番の食事(アルバム内の曲「Crack Sandwich」でも言及されている)。
I'll kill a nigga if he made one for me right now
もし今誰かが俺にそれを作ってきたら、そいつを殺してやるよ
※貧しさの象徴であるボローニャ・サンドイッチに対する、強烈な嫌悪感とトラウマ。
Ironic that being broke is an expensive lifestyle
「貧乏」ってのが、実は一番金のかかる(高くつく)ライフスタイルだってのは皮肉な話だ
※貧困層は手数料の高いサービスを利用せざるを得ず、健康的な食事ができないため医療費もかさむ等、結果的に貧困がさらなる貧困を生む「貧困のペナルティ」という社会問題を突いている。
No wonder they sellin' dope from sun rose to sundown
奴らが日の出から日没まで、ドープ(麻薬)を売りさばくのも無理はねえよ
Tryna get mo', screamin' out the window
もっと稼ごうと、窓から身を乗り出して叫んでるんだ
[Chorus]
Money, money, all I need, all I want (Yeah)
お金、お金、それだけが必要で、それだけが欲しいの(イェー)
Take it from me, leave you stank, smell the funk (You stink)
私からお金を奪ったら、悪臭を残してやるわ(臭いよ)
Money, money, all they need, all they want (Yeah, uh-uh, uh)
お金、お金、大人はそれしか必要としてないし、それしか欲しがらない(イェー、アー)
Take it from me, no, you can't, no, you don't (Uh, uh)
私から奪おうたって、そうはいかないわ(アー、アー)
[Verse 2]
Look, nigga, money on my mind more than most the time
見な、俺の頭の中はほとんどの時間、金のことばかりだ
And most of my grind go to promotin' my rhymes, a nigga don't blow, I shine
そして俺のハッスルの大半は、自分のライムを売り込むことに費やされる。俺は吹き飛ばされる(吹く)んじゃねえ、輝く(シャイン)んだ
I feel like Coach Prime, I throw a bomb if they encroach the line
まるで「コーチ・プライム(ディオン・サンダース)」みたいな気分だ。奴らがラインを越えて(エンクローチ)くれば、俺は爆弾(ロングパス)を投げてやる
※NFLの伝説的選手であり、現在は大学アメフトの監督を務める「Prime Time」ことディオン・サンダース。アメフトの反則「エンクローチメント」と掛けたスポーツ比喩。
And, don't socialize, the goal is to get the most dimes before it's the end of yo' time (Aw, man)
馴れ合い(ソーシャライズ)はしねえ。お前の時間(人生)が終わる前に、いかに多くのダイム(10セント/大金/イイ女)を手に入れるかが目標(ゴール)なんだ(あぁ、まったくだ)
It's hard for a nigga to score when they keep on movin' the goal line (It's time to get some money dawg)
奴らがゴールライン(成功の基準)を動かし続けるから、黒人が得点(スコア)するのは本当に難しいんだよ(金を稼ぐ時間だぜ、兄弟)
※「Moving the goalposts(ルールや基準を不当に変更する)」という表現。黒人が努力して成功しそうになっても、白人社会のシステムが不当にハードルを上げる構造的差別のこと。
Now, he outside the liquor store with a lottery ticket
今、あいつは酒屋の外で宝くじ(ロタリー)を握りしめてる
Leavin' a double shift at the Walmart on Gresham Road (Life for me ain't been no crystal stair dawg)
グレシャム・ロードのウォルマートで、ダブルシフト(2回分の長時間労働)を終えた帰りにな(俺の人生は、水晶の階段なんかじゃなかったぜ)
※Langston Hughesの有名な詩「Mother to Son」の一節「Life for me ain't been no crystal stair(私の人生は水晶の階段ではなかった=苦労の連続だった)」の引用。
Still tryna keep composure rollin' past the gas station where he owe niggas
借金がある奴らがたむろするガソリンスタンドを通り過ぎながら、必死に平静(コンポージャー)を保とうとしてる
Fuckin' with that parlay play and a nigga may spray 'bout that dough
スポーツ賭博(パーレー)に手を出せば、あの金(ドウ)のために誰かが銃を乱射(スプレイ)するかもしれない
So, a nigga don't play 'bout no code
だから、ストリートの掟(コード)に関しては絶対にふざけちゃダメなんだ
Back in the day, we was told 'bout reparations, get a mule, 40 acres or so
昔は「賠償(レパレーション)」について教えられたもんだ。ラバ1頭と、40エーカーほどの土地をもらえるってな
※南北戦争後、解放された黒人奴隷に対して政府が約束した(そして反故にされた)賠償案「Forty acres and a mule(40エーカーとラバ1頭)」。
Justification or re-payment for the pain in yo' soul
お前たちの魂が受けた苦痛に対する、正当化、あるいは返済として
Fast forward, fuck patience, I ain't waitin' no more
早送りして現在。忍耐なんてクソ食らえだ、俺はもうこれ以上待たねえ
I got to take it, paper chasin' like I'm Dre or I'm HOV
自分で奪い取らなきゃならねえ。ドクター・ドレーか、ホヴィ(Jay-Z)みたいに金を追いかける(ペーパー・チェイシン)んだ
Ye with the clothes
カニエ・ウェスト(Ye)みたいに服(アパレル)で稼ぐ
Fuck Hulk Hogan, and fuck Joe Rogan because it flows, you know how it goes
ハルク・ホーガンなんてクソ食らえ、ジョー・ローガンもクソ食らえだ。フロウ(韻)に乗るから言っただけさ、お前も分かるだろ
※人種差別発言で問題になったプロレスラーのハルク・ホーガンと、ポッドキャスターのジョー・ローガン。韻を踏む(Hogan, Rogan)ために名指しで批判している。
Need a bitch that's down with O-P-P, and down with IPO's
「O.P.P.(他人の恋人/浮気)」にノリ気で、なおかつ「IPO(新規株式公開/ビジネス)」にも明るいビッチが必要だ
※Naughty By Natureのクラシック曲「O.P.P.」と、株式投資の「IPO」を掛け合わせたライン。遊びもビジネスもできるパートナーを求めている。
Feel like ODB, you hoes better have my Pesos
まるでODB(Ol' Dirty Bastard)みたいな気分だ。お前らビッチは俺の金(ペソ)をちゃんと用意しとけよ
※Wu-Tang ClanのODBの楽曲「Got Your Money」や彼の破天荒なキャラクターへのオマージュ。
Thinkin' about them days mama said she had to pray more
ママが「もっと祈らなきゃ」って言ってた日々を思い出すよ
'Cause feedin' seven kids, plus the mortgage got to pay more
だって、7人の子供たち(JIDの兄弟)を食わせて、おまけに住宅ローン(モーゲージ)もさらに払わなきゃならなかったんだからな
The food from in the fridge from last night is on the table
昨日の夜、冷蔵庫に入ってた残飯がテーブルに並んでる
Y'all sit down and say y'all grace because we ate so many bologna sandwiches as a child
お前ら、座って食前の祈り(グレイス)を捧げろ。俺たちは子供の頃、数え切れないほどの「ボローニャ・サンドイッチ」を食ってきたんだから
I'd kill for one of them shits if I could have one right now
もし今それが食えるなら、人殺しだってやってやるよ
※Verse 1では「今あんなものを作られたら殺してやる」と貧困への嫌悪感を示していたが、ここでは視点が変わり、家族で分け合って食べた苦しい時代のサンドイッチを「今なら殺してでも食べたい(懐かしい)」と懐古している。JIDの感情の成熟と家族愛への変化が見事に表現された、鳥肌もののパンチラインである。
Ironic I'm havin' dope but don't promote the lifestyle
俺がドープ(最高のラップ/麻薬)を持ってるのに、そのライフスタイルをプロモートしないってのは皮肉な話だな
Just want my people to grow, let's make a toast to right now, get some money
俺はただ、俺の仲間たち(黒人コミュニティ)に成長してほしいだけなんだ。今のこの瞬間に乾杯(トースト)しようぜ。さあ、金を稼ごう
Say it with me loud now
俺と一緒に、大声で歌ってくれ
[Chorus]
Money, money, all I need, all I want (Yeah)
お金、お金、それだけが必要で、それだけが欲しいの(イェー)
Take it from me, leave you stank, smell the funk (You stink)
私からお金を奪ったら、悪臭を残してやるわ(臭いよ)
Money, money, all they need, all they want (Yeah, uh-uh, uh)
お金、お金、大人はそれしか必要としてないし、それしか欲しがらない(イェー、アー)
Take it from me, no, you can't, no, you don't (Uh, uh)
私から奪おうたって、そうはいかないわ(アー、アー)
