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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Planet Telex - Radiohead 【和訳・解説】

Artist: Radiohead

Album: The Bends

Song Title: Planet Telex

概要

1995年発表の2ndアルバム『The Bends』のオープニングを飾る本作は、グランジの呪縛から脱却し、のちの『OK Computer』や『Kid A』へと至るRadioheadの音響的・エレクトロニックな進化の歴史的出発点である。当初のタイトルは「Planet Xerox(コピー機の世界)」だったが、商標権の問題で「Telex(テレックス=通信機器)」に変更された。特筆すべきは、DJシャドウらに影響を受けたドラムループと、トレモロのかかったフェンダー・ローズ・ピアノの大胆な導入である。プロデューサーのジョン・レッキーと当時エンジニアだったナイジェル・ゴドリッチの貢献により構築された重層的なサウンドスケープの中、泥酔したトム・ヨークがスタジオの床に寝転がったままボーカルを一発録りしたという逸話は有名だ。「すべては壊れている」という根源的な絶望と、高度情報化社会(Planet Telex)におけるコミュニケーションの無力さを歌った、バンドのパラダイムシフトを高らかに告げる重要曲である。

和訳

[Verse 1]

You can force it, but it will not come
無理強いすることはできても、それが実を結ぶことはない。
※「force it(力尽くでやろうとする)」は人為的なコントロールの限界を示す。創作の苦悩や、「Creep」の爆発的ヒットの後にレーベルや大衆から押し付けられた「ヒット曲の再生産」という強要に対する、バンドの無力感と拒絶を暗喩している。

You can taste it, but it will not form
味わうことはできても、形を成すことはない。

You can crush it, but it's always here
叩き潰したところで、それは常にここにある。
※「it(それ)」は明確に定義されていないが、自己嫌悪、うつ病の黒い犬(Black dog)、あるいは資本主義社会における見えない抑圧を指す。物理的に破壊しても消え去ることのない、実存的な恐怖の表現である。

You can crush it, but it's always near
叩き潰したところで、それは常にすぐ傍にある。

Chasing you home
家まで君を追いかけてくる。
※最も安全であるはずの「家(Home)」でさえも、その不可視の脅威から逃れる場所としては機能しない。高度に情報化された社会(TelexやXeroxが象徴する複製の時代)においては、外部のノイズや圧力がプライベートな領域まで容赦なく侵食してくるというパラノイアを描写している。

Saying
そして、こう告げるんだ。

[Chorus]

Everything is
すべてのものは。

Broken
壊れている。
※完璧なものなど存在しないという、徹底した虚無主義的なアンセム。泥酔し床に倒れ込みながら歌われたこのフレーズは、90年代の大量消費社会や、表層的な豊かさの裏で崩壊していく人間関係そのものに対する冷徹な診断である。

Everyone is
すべての人間は。

Broken
壊れている。

[Verse 2]

You can force it, but it will stay stone
無理強いしたところで、それは石のように冷たいままだ。
※生命力や感情を失った無機質な現代社会のメタファー。初期の楽曲「Blow Out」における「触れるものが石に変わる(Turns to stone)」という自己嫌悪のモチーフがここでも反復されており、ミダス王の呪いのような絶望感が漂う。

You can crush it as dry as a bone
骨のようにカラカラになるまで、そいつを粉砕することはできる。

You can walk it home straight from school
学校から真っ直ぐ家まで、そいつを連れ帰ることもできる。
※日常の極めて平凡な風景(学校から家への帰路)の中に、「it(破壊的な何か、あるいは虚無)」が当たり前のように同伴しているという不気味さ。制度化された教育システムから逃れられない若者の無力感も暗示されている。

You can kiss it, you can break all the rules
そいつにキスをして、すべてのルールを破ることだってできる。

All of the rules
すべてのルールを。

But still
だが、それでも。

[Chorus]

Everything is
すべてのものは。

Broken
壊れている。

Everyone is
すべての人間は。

Broken
壊れている。

Everyone is
すべての人間は。

Everyone is broken
すべての人間は壊れている。
※反復される「壊れている」という宣言は、究極の諦念であると同時に、逆説的に「世界も人間も最初から壊れているのだから、無理に繕う必要はない」というダークなカタルシスをリスナーに与えている。グランジ的な自己否定から、より普遍的なシステム批判への精神的な飛躍が見て取れる。

Everyone is
すべての人間は。

Everything is broken
すべてのものは壊れている。

[Outro]

Why can't you forget?
なぜ、君は忘れることができないんだ?

Why can't we forget?
なぜ、僕らは忘れることができないんだ?
※過去のトラウマ、あるいは社会のシステムに刻み込まれた消えない傷痕への言及。テクノロジー(Telex=記録・伝達メディア)の進化によって「忘却」が許されなくなった現代人に対する、実存的な問いかけとして響く。

Why can't you forget?
なぜ、君は忘れることができないんだ?
※永遠に終わりのないループ音(情報や複製物の残響)と共に、記憶という牢獄に閉じ込められたまま楽曲は幕を閉じる。