Artist: Michael Jackson
Album: Dangerous
Song Title: Who Is It
概要
1991年発表のアルバム『Dangerous』に収録された、マイケル・ジャクソン単独の作詞作曲による極めてダークで内省的な傑作である。「Billie Jean」や「Dirty Diana」の系譜を継ぐ「ファム・ファタール(魔性の女)」をテーマにしているが、本作における絶望と孤独の色合いは過去作を凌駕している。信じていた恋人に裏切られ、その相手が親しい友人や兄弟ではないかと猜疑心(パラノイア)に苛まれる男の精神崩壊を、地を這うようなシンセベースと自身のヒューマン・ビートボックスで構築した。デヴィッド・フィンチャーが監督したショートフィルムでは、マイケル本人はほとんど登場せず、高級コールガールと彼女を利用する男たちの退廃的な世界が描かれており、彼のスターダムの裏側にある癒やしがたい人間不信と孤独が冷徹に表現されている。
和訳
[Verse 1]
I gave her money, I gave her time
僕は彼女に金を与え、時間を与えた
I gave her everything inside
心の中にあるすべてを与えたんだ
One heart could find
一つの心が持ち得るすべてをね
I gave her passion, my very soul
彼女に情熱を、僕の魂そのものを捧げた
I gave her promises and secrets so untold
誓いの言葉と、誰にも言えない秘密までも彼女に打ち明けたんだ
※すべてを捧げたがゆえに、裏切られた時の喪失感も計り知れない。特にスーパースターにとって「誰にも言えない秘密(secrets so untold)」を共有することは、究極の信頼の証であった。
[Pre-Chorus]
And she promised me forever
そして彼女も、永遠を約束してくれた
And a day we'd live as one
僕らが一つになって生きる日を
We made our vows, we'd live a life anew
僕らは誓いを立て、新たな人生を共に歩むはずだった
And she promised me in secret that
彼女は秘密裏に約束してくれたんだ
She'd love me for all time
僕を永遠に愛し続けると
It's a promise so untrue
でも、それはひどく嘘にまみれた約束だった
Tell me what will I do?
教えてくれ、僕はどうすればいいんだ?
[Chorus]
And it doesn't seem to matter
今となってはどうでもいいことのように思える
And it doesn't seem right
すべてが間違っているように思えるんだ
'Cause the will has brought no fortune
だって、あの強い意志(遺言)は何の幸せももたらさなかったから
※「will(意志、または遺言)」「fortune(幸運、または財産)」。愛を信じようとした意志が無駄に終わったこと、あるいは結婚の誓いが反故にされたことを法的・経済的な暗喩を交えて表現している。
Still, I cry alone at night
それでも、僕は夜になると一人で泣いているんだ
Don't you judge of my composure
僕の平静を装った態度を責めないでくれ
'Cause I'm lying to myself
だって、僕は自分自身に嘘をついているだけなんだから
※「composure(平静、沈着)」。パブリックな場ではスターとして冷静を装わなければならないという、彼特有の悲劇的なペルソナ(仮面)の告白。
And the reason why she left me
そして、彼女が僕を置いていった理由
Did she find in someone else?
彼女は、他の誰かの中にそれを見つけたというのか?
[Post-Chorus]
(Who is it?)
(誰なんだ?)
※囁き声のコーラス。猜疑心(パラノイア)が頭の中で反響している様を音響的に表現している。
It is a friend of mine?
僕の友人なのか?
(Who is it?)
(誰なんだ?)
Is it my brother?
僕の兄弟なのか?
※裏切りの相手が、あろうことか最も信頼すべき「友人」や「兄弟」かもしれないという究極の人間不信。世界的な成功を収めた後、周囲の人間がすべて敵に見えてしまうという彼の精神的な孤立状態が窺える。
(Who is it?)
(誰なんだ?)
Somebody hurt my soul now
誰かが今、僕の魂を傷つけている
(Who is it?)
(誰なんだ?)
I can't take this stuff no more
もうこれ以上、こんな仕打ちには耐えられない
[Verse 2]
I am the damned, I am the dead
僕は呪われた存在、僕は死んだも同然だ
I am the agony inside the dying head
僕は、死にゆく頭脳の中で蠢く苦悩そのものだ
※「the damned(呪われし者)」。失恋の痛みを通り越し、自己の存在そのものを否定する凄まじい絶望感。エドガー・アラン・ポーなどのゴシック文学を彷彿とさせるダークなポエトリーである。
This is injustice, woe unto thee
これは不正義だ、お前に災いあれ
※「woe unto thee(汝に災いあれ)」。聖書などで用いられる古風で呪術的な表現。裏切った相手に対する激しい憎悪と呪い(カーズ)の言葉。
I pray this punishment
僕は祈る、この罰が
Would have mercy on me
どうか僕に慈悲を与えてくれるようにと
※裏切られた自分がなぜ「罰(punishment)」を受けているのか。愛を信じたこと自体が罪であったかのような、歪んだ自己処罰の念。
[Pre-Chorus]
And she promised me forever
彼女は永遠を約束してくれたのに
That we'd live our life as one
僕らが一つになって生きる人生を
We made our vows
僕らは誓いを立てた
We'd live a love so true
あんなにも真実の愛を生きるはずだった
It seems that she has left me
どうやら彼女は、僕の元を去ってしまったらしい
For such reasons unexplained
何の説明もないままにね
I need to find the truth
僕は真実を見つけ出さなければならない
But see, what will I do?
でも、ほら、僕はいったいどうすればいいんだ?
[Chorus]
And it doesn't seem to matter
今となってはどうでもいいことのように思える
And it doesn't seem right
すべてが間違っているように思えるんだ
'Cause the will has brought no fortune
だって、あの強い意志は何の幸せももたらさなかったから
Still, I cry alone at night
それでも、僕は夜になると一人で泣いているんだ
Don't you judge of my composure
僕の平静を装った態度を責めないでくれ
'Cause I'm bothered everyday
だって、僕は毎日苛まれているんだから
And she didn't leave a letter
彼女は手紙一つ残さず
She just upped and ran away
ただ突然、逃げ去ってしまったんだ
[Post-Chorus]
Who is it?
誰なんだ?
It is a friend of mine?
僕の友人なのか?
(Who is it?)
(誰なんだ?)
Is it my brother?
僕の兄弟なのか?
(Who is it?)
(誰なんだ?)
Somebody hurt my soul, now
誰かが今、僕の魂を傷つけている
(Who is it?)
(誰なんだ?)
I can't take it 'cause I'm lonely
孤独すぎて、もう耐えられないんだ
[Bridge]
Hee-hee, hee-hee
Hee-hee, hee-hee
※泣き声とも冷笑とも取れる、感情が壊れたような独特のフェイク。
Don't try to make me
僕に強制しようとしないでくれ
Don't try do it, I can't quit it
そんなことをしないでくれ、僕はやめられないんだ
I never was, we never were
僕なんて存在しなかった、僕たちなんて存在しなかったんだ
※自己と関係性の完全な否定(ニヒリズム)。裏切られた現実を受け入れるあまり、過去の愛の記憶すらも幻であったと自らに言い聞かせている。
It just won't stop
ただ、痛みが止まらないんだ
Don't bother me, don't bother me
僕を悩ませないでくれ、もう構わないでくれ
[Pre-Chorus]
(Who is it?)
(誰なんだ?)
It is a friend of mine?
僕の友人なのか?
(Who is it?)
(誰なんだ?)
To me, I'm bothered
僕は、ただ苦しんでいるんだ
(Who is it?)
(誰なんだ?)
Somebody hurt my soul now
誰かが今、僕の魂を傷つけている
(Who is it?)
(誰なんだ?)
I can't take it 'cause I'm lonely
孤独すぎて、もう耐えられないんだ
(Ooh! Aouw!)
(Ooh! Aouw!)
[Chorus]
And it doesn't seem to matter
今となってはどうでもいいことのように思える
(Hee-hee)
(Hee-hee)
And it doesn't seem right
すべてが間違っているように思えるんだ
(Hee-hee)
(Hee-hee)
'Cause the will has brought no fortune
だって、あの強い意志は何の幸せももたらさなかったから
Still, I cry alone at night
それでも、僕は夜になると一人で泣いているんだ
Don't you judge of my composure
僕の平静を装った態度を責めないでくれ
(Body)
(体を)
'Cause I'm lying to myself
だって、僕は自分自身に嘘をついているだけなんだから
And the reason why she left me
そして、彼女が僕を置いていった理由
Did she find in someone else?
彼女は、他の誰かの中にそれを見つけたというのか?
And it doesn't seem to matter
今となってはどうでもいいことのように思える
(Don't bother me)
(僕を悩ませないでくれ)
And it doesn't seem right
すべてが間違っているように思えるんだ
(Da da da da)
(ダ・ダ・ダ・ダ)
(Da da, da da)
(ダ・ダ、ダ・ダ)
※アウトロに向けて、マイケルのスキャットやシャウトが幾重にもオーバーダブされていく。怒り、悲しみ、疑心暗鬼がコントロール不能となり、頭の中で渦巻いている状態を音響的にカオスへと導いている。
'Cause the will has brought no fortune
だって、あの強い意志は何の幸せももたらさなかったから
Still, I cry alone at night
それでも、僕は夜になると一人で泣いているんだ
(Jane isn't nothin' but a—)
(ジェーンは結局のところ、ただの—)
※「Jane(ジェーン)」。おそらくは「Billie Jean」や「Diana」に連なる、彼を陥れる不特定の女性のメタファー。文末が意図的に途切れており(nothin' but a whore/bitch等の汚い言葉を避けた)、聴き手にその正体と本性を想像させている。
Don't you judge of my composure
僕の平静を装った態度を責めないでくれ
'Cause I'm bothered every day
だって、僕は毎日苛まれているんだから
And she didn't leave a letter
彼女は手紙一つ残さず
She just upped and ran away
ただ突然、逃げ去ってしまったんだ
(Can't you really see I'm lonely?)
(僕が孤独だってことが、本当に分からないのかい?)
And it doesn't seem to matter
今となってはどうでもいいことのように思える
And it doesn't seem right
すべてが間違っているように思えるんだ
(Hee-hee!)
(Hee-hee!)
'Cause the will has brought no fortune
だって、あの強い意志は何の幸せももたらさなかったから
Still, I cry alone at night
それでも、僕は夜になると一人で泣いているんだ
(Da da da, da)
(ダ・ダ・ダ、ダ)
Don't you judge of my composure
僕の平静を装った態度を責めないでくれ
(Don't be, don't be, don't be judging)
(僕を裁こうとしないでくれ)
'Cause I'm lying to myself
だって、僕は自分自身に嘘をついているだけなんだから
And the reason why she left me
そして、彼女が僕を置いていった理由
(Don't you, don't you)
(やめてくれ、やめてくれ)
Did she find in someone else?
彼女は、他の誰かの中にそれを見つけたというのか?
(Can't take it, 'cause I'm lonely)
(もう耐えられない、孤独すぎるんだ)
And it doesn't seem to matter
今となってはどうでもいいことのように思える
(Don't bother me)
(僕を悩ませないでくれ)
And it doesn't seem right
すべてが間違っているように思えるんだ
(Just won't quit it)
(ただ、やめられないんだ)
'Cause the will has brought no fortune
だって、あの強い意志は何の幸せももたらさなかったから
Still, I cry alone at night
それでも、僕は夜になると一人で泣いているんだ
(Da da, da da, Jane isn't nothin' but a–)
(ダ・ダ、ダ・ダ、ジェーンは結局のところ、ただの—)
Don't you judge of my composure
僕の平静を装った態度を責めないでくれ
(Don't be judging)
(裁かないでくれ)
'Cause I'm bothered every day
だって、僕は毎日苛まれているんだから
(Don't be, don't be)
(やめてくれ、やめてくれ)
And she didn't leave a letter
彼女は手紙一つ残さず
She just upped and ran away
ただ突然、逃げ去ってしまったんだ
(Can't you really feel I'm lonely?)
(僕が孤独だってことが、本当に感じられないのかい?)
And it doesn't seem to matter
今となってはどうでもいいことのように思える
(Hee-hee!)
(Hee-hee!)
And it doesn't seem right
すべてが間違っているように思えるんだ
(Hee-hee!)
(Hee-hee!)
'Cause the will has brought no fortune
だって、あの強い意志は何の幸せももたらさなかったから
Still, I cry alone at night
それでも、僕は夜になると一人で泣いているんだ
(She don't, she don't want me)
(彼女は、彼女は僕を望んでなんかいない)
Don't you judge of my composure
僕の平静を装った態度を責めないでくれ
'Cause I'm bothered every day
だって、僕は毎日苛まれているんだから
(She don't, she don't, she don't need it)
(彼女には、彼女にはそんなもの必要ないんだ)
And she didn't leave a letter
彼女は手紙一つ残さず
(She don't, she don't want it)
(彼女は、彼女は望んでなんかいない)
She just upped and ran away
ただ突然、逃げ去ってしまったんだ
(Is it my brother?)
(僕の兄弟なのか?)
And it doesn't seem to matter
今となってはどうでもいいことのように思える
(Don't bother me, you just couldn't)
(僕を悩ませないでくれ、君には無理だったんだ)
And it doesn't seem right
すべてが間違っているように思えるんだ
'Cause the will has brought no fortune
だって、あの強い意志は何の幸せももたらさなかったから
(Da da, da da, da da, da)
(ダ・ダ、ダ・ダ、ダ・ダ、ダ)
Still, I cry alone at night
それでも、僕は夜になると一人で泣いているんだ
Don't you judge of my composure
僕の平静を装った態度を責めないでくれ
(Hee!)
(Hee!)
'Cause I'm lying to myself
だって、僕は自分自身に嘘をついているだけなんだから
(Hee!)
(Hee!)
And the reason why she left me
そして、彼女が僕を置いていった理由
Did she find in someone else?
彼女は、他の誰かの中にそれを見つけたというのか?
(I can't take it, 'cause I'm lonely)
(もう耐えられない、孤独すぎるんだ)
※楽曲は重苦しいベースラインを残したまま、決して答えの出ない「Who is it?(誰なんだ?)」という疑念の淵へとフェイドアウトしていく。ポップスターの栄光の陰に潜む、底知れぬ恐怖と圧倒的な孤独を真空パックした、彼の内面世界の真実の記録である。
