Artist: Radiohead
Album: Pablo Honey
Song Title: Vegetable
概要
1993年のデビューアルバム『Pablo Honey』に収録された本作は、グランジ・ムーブメントの波と共鳴しつつも、トム・ヨークが抱える社会や他者への強烈なフラストレーションと自己主張が爆発した楽曲である。タイトルの「Vegetable(植物状態の人間、無気力な人間)」は、システムに順応し思考を停止した人々、あるいは他者からコントロールされる受動的な自己に対する痛烈なメタファーだ。のちに『OK Computer』等で展開される「消費社会における個人の埋没」というテーマの初期衝動的な表出であり、「飼い主の手に唾を吐く」というパンク的な怒りが生々しいギターサウンドと共に叩きつけられている。
和訳
[Verse 1]
I never wanted anything but this
僕はこれ以外のものなんて、何も望んでいなかった。
※「これ」が具体的に何を指すかは明言されないが、音楽的な成功や、真に理解し合える関係性など、純粋な願望を示唆している。しかし、過去形(never wanted)が使われていることから、その理想がすでに崩れ去っていることが暗示される。
I worked hard, tried hard
懸命に働き、必死に努力した。
I ran around in domestic bliss
偽りの家庭的な幸福の中で、空回りし続けていた。
※「domestic bliss(家庭の幸福)」という表現は、イギリスの中産階級的な「平凡で安定した生活」に対する強烈な皮肉である。社会が押し付けるステレオタイプな幸福像に無理に合わせようとして疲弊したトムの心理が窺える。
I fought hard, died long
激しく戦い、そして長く死に絶えていた。
※精神的な死、あるいは「Vegetable(無気力状態)」としての長い停滞期間を表している。
[Pre-Chorus 1]
Every time you're running out of here
君がここから逃げ出すたびに。
Every time you're running I get the fear
君が逃げていくたびに、僕は恐怖に襲われる。
※自己防衛のために他者を突き放そうとする怒りがある一方で、見捨てられることへの深い恐怖(見捨てられ不安)を抱えるアンビバレントな精神状態を描写している。
[Instrumental Break] [Verse 2]
I never wanted any broken bones
骨を折られることなど、望んでいなかった。
Scarred face, no home
傷ついた顔も、帰る場所を失うことも。
※肉体的な暴力のメタファーを用いて、精神的な虐待や社会から受ける痛みを表現している。パブリックスクール時代のトラウマや、音楽業界の容赦ない競争に巻き込まれたことへの拒絶反応とも取れる。
Your words surround me and asphyxiate
君の言葉が僕を取り囲み、窒息させる。
※「asphyxiate(窒息させる)」。Radioheadの歌詞において頻出する「息ができない(窒息・水没)」というメタファー。同調圧力や、他者の無神経な言葉によって個人のアイデンティティが圧殺されていく息苦しさを表現している。
And I burn all hate
だから僕は、すべての憎悪を燃やし尽くす。
[Pre-Chorus 2]
Every time you're running out on me
君が僕を見捨てるたびに。
Every time you're running I can see
君が逃げていくたびに、僕にははっきりと見えるんだ。
[Chorus]
I'm not a vegetable
僕は「植物人間」なんかじゃない。
※「vegetable」はスラングで「(脳死などの)植物状態の患者」や「無気力な人間」を指す。周囲からコントロールされ、何も感じず何も考えない「ただ生かされているだけの存在」になることへの激しい抵抗の宣言である。
I will not control myself
僕は自分自身を抑えつけたりしない。
※社会のルールや他者の期待に合わせて「行儀よく(control)」振る舞うことを拒絶している。理性をかなぐり捨てた、純粋な怒りの解放である。
I spit on the hand that feeds me
餌を与えてくれるその手に、唾を吐きかけてやる。
※「bite the hand that feeds one(恩を仇で返す/飼い犬が手を噛む)」という慣用句の変形。レコード会社、メディア、あるいは保守的な社会といった「庇護者」面をする権力構造に対し、徹底的な反逆(spit)を表明する強烈なパンク的ステートメントである。
I will not control myself
僕は自分自身を抑えつけたりしない。
[Bridge]
The waters spray, the waters run all over me
水飛沫が上がり、水流が僕の全身を駆け巡る。
※冷水(現実)を浴びて覚醒するイメージ、あるいは感情の決壊を暗示している。「Vegetable(植物)」に水が与えられているという皮肉なダブルミーニングとも解釈でき、ただ受動的に生かされるだけの状況を冷笑している。
The waters spray, the waters run
水飛沫が上がり、水が流れていく。
And this time you're gonna pay
そして今度こそ、君に代償を払わせる。
※抑圧者に対する明確な復讐の宣言。無力な被害者からの脱却を図る、攻撃的なルサンチマンの爆発である。
[Guitar Solo] [Chorus]
I'm not a vegetable
僕は「植物人間」なんかじゃない。
I will not control myself
僕は自分自身を抑えつけたりしない。
I spit on the hand that feeds me
餌を与えてくれるその手に、唾を吐きかけてやる。
I will not control myself
僕は自分自身を抑えつけたりしない。
