Artist: Michael Jackson
Album: Music & Me
Song Title: Doggin’ Around
概要
1973年リリースのサード・ソロ・アルバム『Music & Me』に収録された本作は、マイケルが敬愛してやまない「ミスター・エンターテインメント」ことジャッキー・ウィルソンが1960年に放ったR&Bクラシックの秀逸なカバーである。浮気や不誠実な態度(Doggin' around)を非難し、別れを切り出すという大人の泥沼の恋愛模様を描いた楽曲だが、当時わずか14歳のマイケルは、原曲の持つソウルフルな熱情を見事なボーカル・コントロールで再現している。ジャッキー・ウィルソンはジェームス・ブラウンと並び、マイケルのダンスやステージングに最も多大な影響を与えたルーツの一人である。本作は単なるモータウンのカバー企画を超え、幼き天才が自身の音楽的系譜とブラック・ミュージックの偉大な歴史に深い敬意を捧げた、ボーカリストとしての真骨頂を示す歴史的テイクである。
和訳
[Chorus]
You better stop
もうやめたほうがいい
※「You better stop(やめないと承知しないぞ)」という強い警告。14歳の少年が発するにはあまりにも大人びた、恋人の不誠実さに対する怒りの表現である。モータウン時代、マイケルは自身の年齢や経験を遥かに超えた大人の愛憎劇を歌うことを強いられたが、その卓越した憑依的な表現力は、幼い頃から大人の世界(ショービジネス)の愛憎と裏切りを身近で見てきた彼の早熟なリアリズムに裏打ちされている。
You're doggin' around
君は僕をコケにして、遊び歩いているじゃないか
※「dog around」は「浮気する、不誠実に扱う、犬のように扱う」という意味のスラング。マイケルのボーカルのルーツであるジャッキー・ウィルソンの原曲特有の粘り気のあるソウルを、マイケルは見事に自身のスタイルへと落とし込んでいる。裏切りに対する怒りと悲哀が入り交じるこのテーマは、後年の『Billie Jean』や『Who Is It』などで彼が生涯描き続けた「ファム・ファタール(魔性の女)による搾取と裏切り」というモチーフの原点として位置づけることができる。
Yeah, yeah, yeah, yeah
イェー、イェー、イェー、イェー
'Cause if you don't stop
だって、もし君がその態度を改めないなら
I'm gonna have to put you down
僕は君を捨てなきゃならなくなるんだから
※「put someone down」はここでは「関係を終わらせる、見限る」の意。マイケルの少し掠れた変声期の歌声が、強がりながらも別れを恐れる主人公の痛切なジレンマを、原曲以上にドラマチックに響かせている。
[Verse 1]
I can't take it much longer
もうこれ以上は耐えられないよ
My heart's getting weak
僕の心はどんどん弱っていくんだ
It's not getting any stronger
少しも強くなんてなれやしない
※愛する人の裏切りによって心がすり減っていく様を描写している。マイケルがキャリアを通じて歌い続けた「無償の愛」と、それに応えない他者との間に生まれる埋めがたいパラドックス。彼の歌声の根本にある「傷つきやすさ(Vulnerability)」が、このシンプルなフレーズに最大限の説得力を持たせている。
You keep me so upset
君はいつも僕をひどく動揺させる
My head's in a whirl
頭の中がぐちゃぐちゃに混乱しているよ
But if you want to be, yeah
でも、もし君が望むのなら、そう
Be my girl
僕の女の子でいてほしいんだ
[Chorus]
You better stop
もうやめたほうがいい
You're doggin' around
君は僕をコケにして、遊び歩いている
You know what I'm talkin' 'bout
僕が何の話をしてるか、分かってるだろ
※アドリブ的に挿入されるこの一言には、ブラック・ミュージック特有のコール・アンド・レスポンス的なグルーヴが宿っている。ジャッキー・ウィルソンへの深いリスペクトを込めつつも、単なるモノマネではなく、完全に「マイケル・ジャクソンのソウル」として血肉化している証明である。
Yeah, yeah, yeah
イェー、イェー、イェー
If you don't stop
もし君がやめないなら
I'm gonna have to put you down
僕は君を捨てなきゃならなくなる
Baby, yes, I do, yes, I do
ベイビー、あぁ本当に、そうするしかないんだ
Gonna put you down
君を見限るしかないんだよ
You're doggin' me
君は僕をコケにしている
I'm going to have to put you down, yeah
僕は君を捨てなきゃならなくなるんだ、あぁ
[Outro]
Yes, you do, you're doggin' me
そうさ、君は僕を犬みたいに扱ってるんだ
※アウトロにおける執拗なまでのフェイクとシャウトの応酬。ジャッキー・ウィルソンが得意とした情熱的なボーカル・パフォーマンスを14歳にして完全にマスターしているマイケルの底知れぬ才能に戦慄を覚える。この荒々しくも感情的なシャウトは、後の『Off The Wall』や『Thriller』のレコーディング・セッションにおいてプロデューサーのクインシー・ジョーンズを驚嘆させることになる、彼の「声の身体性」の初期の完成形と言える。
You better stop
もうやめたほうがいい
You're doggin' me around
君は僕をコケにして、遊び歩いているんだから
