Artist: Radiohead
Album: Pablo Honey
Song Title: Thinking About You
概要
1993年発表のデビューアルバム『Pablo Honey』に収録されたアコースティック主体のバラードである。初期のRadioheadが持っていたストレートなギターポップの側面を色濃く残しているが、その甘いメロディとは裏腹に、歌詞は異常なまでの執着、自己嫌悪、そして痛烈なルサンチマン(怨恨)に満ちている。かつての恋人が名声を得て手の届かない存在になったことへの嫉妬と、一人残された自身の惨めな性的欲求(マスターベーション)が赤裸々に綴られており、「Creep」と双璧をなす自己卑下の極地を描いた楽曲だ。他者の成功を祝福できず、相手の取り巻きを軽蔑しながらも強烈に承認を渇望するトム・ヨークの極めてパーソナルで歪んだ愛情表現が、このトラックに特異な生々しさを与えている。
和訳
[Verse 1]
Been thinking about you
君のことばかり考えている。
Your records are here
君のレコードはここにある。
Your eyes are on my wall
君の瞳は僕の部屋の壁に、
Your teeth are over there
君の歯はあっちに散らばっている。
※壁に貼られたポスターや写真を指していると思われるが、「瞳」や「歯」といった身体のパーツとして切り刻んで描写することで、猟奇的な執着心や、対象をオブジェ化して所有しようとする病的な心理を浮き彫りにしている。
But I'm still no one
なのに、僕は未だに何者でもないまま。
※「Creep」でも歌われた「I wish I was special」と同質の劣等感。相手の成功に対する嫉妬と、取り残された自身の虚無感が交錯している。
And you're now a star
そして君は今やスター気取りだ。
What do you care?
僕のことなんて、気にも留めないくせに。
[Verse 2]
Been thinking about you
君のことばかり考えている。
And there's no rest
休まる時などない。
Shit, I still love you
クソ、まだ君を愛しているんだ。
Still see you in bed
ベッドにはまだ、君の幻影が見える。
But I'm playing with myself
でも、僕は一人で自分を慰めている。
※「playing with myself(マスターベーション)」という、初期Radioheadの中でも極めて直接的で生々しい表現。喪失感と孤独の中で、対象不在のまま自己完結するしかない性的欲求の惨めさを赤裸々に暴露している。トム・ヨークの自暴自棄な自己開示の極致である。
And what do you care
僕がどうなろうと、知ったことではないのだろう。
When the other men are far, far better?
他の男たちのほうが、遥かにマシなのだから。
※性的劣等感と自己卑下。自分よりも優れた存在(地位、あるいは性的魅力を持つ男たち)に恋人を奪われたという敗北感が、痛ましいほどの自虐として吐き出されている。
[Bridge]
All the things you've got
君が手に入れたすべてのもの。
All the things you need
君が求めてやまないすべてのもの。
Who bought you cigarettes?
タバコを買ってやったのは誰だ?
Who bribed the company to come and see you, honey?
レーベルの連中を買収して、君に会わせたのは誰だっていうんだ?
※相手が無名だった頃に自身が尽くした過去の献身を恩着せがましく突きつけている。見返りを求める醜悪なエゴイズムと、「自分のおかげで成功したはずだ」という惨めなルサンチマンが剥き出しになっている。
[Verse 3]
I've been thinking about you
ずっと君のことを考えている。
So how can you sleep?
なのに、よく平気で眠れるな?
These people aren't your friends
周りの奴らは、君の友達なんかじゃない。
They're paid to kiss your feet
金をもらって、君の足元に跪いているだけだ。
※音楽業界やエンターテインメントビジネスの虚飾に対する痛烈な批判。名声に群がる人々(sycophants)の薄っぺらさを指摘することで、相対的に「君の本当の理解者は自分だけだ」と信じ込もうとする、歪んだ救世主願望が垣間見える。
They don't know what I know
奴らは、僕の知っている君を知らない。
※スターとしての「偶像」ではなく、無防備で生身の「かつての君」を知っているという特権意識。執着を手放せない人間の典型的な防衛機制である。
And why should you care
なぜ君が、気に病む必要がある?
When I'm not there?
そこに僕がいないからといって。
[Instrumental Break] [Verse 4]
Been thinking about you
君のことばかり考えている。
And there's no rest
休まる時などない。
Shit, I still love you
クソ、まだ君を愛しているんだ。
Still see you in bed
ベッドにはまだ、君の幻影が見える。
But I'm playing with myself
でも、僕は一人で自分を慰めている。
And what do you care
僕がどうなろうと、知ったことではないのだろう。
When I'm not there?
そこに僕がいないからといって。
[Bridge]
All the things you've got
君が手に入れたすべてのもの。
That you'll never need
本当は必要などないすべてのもの。
※相手が手に入れた富や名声を「無価値」と切り捨てることで、自身の劣等感を埋め合わせようとする酸っぱい葡萄(認知不協和)の心理描写である。
All the things you've got
君が手に入れたすべてのもの。
I've bled and I bleed to please you
僕は血を流したし、君を喜ばせるために今も血を流し続けている。
※文字通りの流血ではなく、精神的・金銭的・肉体的な自己犠牲のメタファー。「あなたのためにここまで犠牲になった」という被害者意識の極致であり、愛という名目のもとに相手に罪悪感を植え付けようとする有毒な関係性(トキシックな共依存)を描写している。
[Outro]
Been thinking about you
君のことばかり考えている。
※楽曲は未練を断ち切れないまま、執着のループに囚われた状態で幕を閉じる。カタルシスのないこの結末が、聴き手に生々しい居心地の悪さと余韻を残す。
