Artist: Michael Jackson
Album: Forever, Michael
Song Title: Dear Michael
概要
1975年発表のモータウン期最後のソロ・アルバム『Forever, Michael』に収録された、極めて自己言及的(メタ的)なファンレター・ソングである。ハル・デイヴィスとエリオット・ウィレンスキーによって書かれた本作は、熱狂的なファンから届いた手紙の文面を読み上げ、それにマイケル自身が返事をするという特異な構成を持つ。当時16歳、世界的なティーン・アイドルとして絶大な人気を誇っていた彼が抱えていた巨大なファンダムとの「パラソーシャルな関係性(疑似恋愛的な一方向の繋がり)」を浮き彫りにしている。過去のジャクソン5のヒット曲やモータウン・クラシックへのオマージュを散りばめつつ、無数の手紙に埋もれる孤独な少年の実像と、ファンへの誠実な愛が交錯する、ポップス史において非常に興味深いメタ・ポップスである。
和訳
[Verse 1]
She wrote: "Dear Michael
彼女はこう書き出した。「親愛なるマイケルへ
You'll probably never get this letter, Michael
きっとこの手紙があなたの元に届くことはないのでしょうね、マイケル
※世界中から殺到するファンレターの山に埋もれてしまうという、スーパースター特有の残酷な現実をファン自身が理解している。マイケルと大衆の間の越えられない物理的・社会的距離を冒頭から残酷なまでに提示している。
I wrote you a hundred times before
私はこれまでにも100回はあなたに手紙を書いたわ
Knowing how I feel, I'll write a hundred more"
自分のこの抑えきれない気持ちが分かっているからこそ、これからさらに100回だって書くつもりよ」
※狂気的とも言えるファンの執着と純粋な愛情。マイケルはキャリアを通じてこのような熱狂的な愛と、その裏返しであるストーカー的な恐怖(後の『Billie Jean』や『Dirty Diana』のモチーフ)に晒され続けることになる宿命を背負っていた。
[Verse 2]
"Dear Michael (Michael, Michael)
「親愛なるマイケルへ(マイケル、マイケル)
Every time (She wrote) your record's on, Michael (Michael, Michael)
あなたのレコードがかかるたびに(と彼女は書いた)、マイケル(マイケル、マイケル)
I close my eyes (She wrote) and sing along
私は目を閉じて(と彼女は書いた)、一緒に歌うの
Dreaming you're singing to me"
あなたが私一人だけのために歌ってくれていると夢見ながら」
※「レコードを通じて一対一の関係を錯覚する」という、大衆音楽におけるパラソーシャル関係の極致。マイケルは自らの声が、孤独な少女たちの寝室でどのように機能しているかを、極めて冷静かつメタ的な視点で歌い上げている。
[Chorus]
And then, she wrote: "Michael, I love you
そして、彼女はこう綴った。「マイケル、愛しているわ
I've held the tears back long as I can
ずっと、できる限り涙を堪えてきたの
I'm sealing my feelings in this envelope
私のすべての感情を、この封筒の中に封じ込めるわ
'Cause I wanna be more than just your number one fan"
だって私は、ただの『あなたの一番のファン』以上の存在になりたいから」
※「number one fan(一番のファン)」という称号の限界。偶像(アイドル)と崇拝者という関係性を打ち破り、一人の生身の人間として愛されたいというファンの切実なエゴイズムが露わになる瞬間である。
[Verse 3]
I'm gonna answer your letter (Michael, Michael)
僕は君の手紙に返事を書くよ(マイケル、マイケル)
※ここから視点がマイケル本人へと切り替わる。雲の上のスターが、何百万分の一の確率でファンに直接応答するという奇跡的な展開へと突入する。
I'll start beginning (She wrote) with the ABC's of loving you (Michael, Michael)
まずは、君を愛するための「ABC」から書き始めようか(と彼女は書いた)(マイケル、マイケル)
※「ABC's of loving you」は、言わずと知れたジャクソン5の1970年の大ヒット曲「ABC」への強烈なセルフ・リファレンス。モータウンというレーベルが自らの黄金期の遺産を引用し、ファンのノスタルジーを刺激する巧妙なプロデュース手腕である。
Your letter (She wrote) really touched my heart
君の手紙は(と彼女は書いた)、本当に僕の心を打ったんだ
I've been dreaming of
僕だってずっと夢見ていたんだよ
Meeting the picture that you sent along
君が同封してくれた写真の女の子に会うことを
Signed with all your love
君のありったけの愛がサインされた、その写真の君にね
※スーパースターもまた、一方的な崇拝を受け取るだけでなく、手紙や写真を通じて「本当の愛」や「生身の人間との繋がり」を渇望しているという、16歳の少年の孤独な実像が描写されている。
[Break]
(Michael, Michael)
(マイケル、マイケル)
(I wrote you)
(あなたに手紙を書いたの)
(She wrote)
(彼女はそう書いた)
I'm going to write you back, ooh
君に返事を書くからね、あぁ
I promise you that
約束するよ
[Outro]
Girl, I think I love you
ねぇ、僕も君を愛しているみたいだ
(Michael, Michael) (I wrote you, she wrote)
(マイケル、マイケル)(手紙を書いたの、と彼女は書いた)
Hurry, hurry, Mr. Postman (Won't you write me back?)
急いで、急いでよ、郵便屋さん(私に返事をくれないの?)
※モータウンの先輩グループであるマーヴェレッツの1961年の初の全米1位曲「Please Mr. Postman」への明確なオマージュ。モータウンの歴史と系譜への敬意を示すとともに、愛の便りを運ぶ普遍的なポップ・アイコンとして「ミスター・ポストマン」を召喚している。
(Please write me back) Take my letter, tell her I love her
(どうか返事を書いて)僕の手紙を受け取って、彼女に愛していると伝えてくれ
(Michael, Michael) (I wrote you, she wrote)
(マイケル、マイケル)(手紙を書いたの、と彼女は書いた)
Hurry, hurry, Mr. Postman (Won't you write me back?)
急いで、急いでよ、郵便屋さん(私に返事をくれないの?)
(Please write me back) Take my letter, tell her I love her
(どうか返事を書いて)僕の手紙を受け取って、彼女に愛していると伝えてくれ
(Michael, Michael) Yeah
(マイケル、マイケル)そうさ
(I wrote you) (She wrote)
(手紙を書いたの)(と彼女は書いた)
I'm gonna write you back
君に返事を書くからね
I promise you that
約束するよ
Tell her I love her
彼女に僕の愛を伝えてくれ
※アウトロでの切羽詰まったようなフェイクと叫びは、孤独なアイドルがファンとの「本物の繋がり」をどれほど希求していたかを生々しく伝えている。モータウンを去る直前の彼が、ファン(大衆)との間に永遠の愛を誓い合う、感動的かつ重層的なメタ構造を持った傑作である。
(Ooh)
(Ooh)
