Artist: Thundercat & Tame Impala
Album: Distracted
Song Title: No More Lies
概要
サンダーキャットとテーム・インパラ(ケヴィン・パーカー)という、現代のサイケデリック・ファンクとインディー・ポップの頂点に立つ二人の天才による奇跡のコラボレーション楽曲だ。本作は、LAの華やかなライフスタイルの中で摩耗していく感情や、恋愛関係における「痛みを伴う誠実さ」をテーマにしている。流麗で浮遊感のあるケヴィンのシンセポップ・サウンドと、サンダーキャットの変態的かつメロディアスなベースラインが完璧に融合。長年の盟友マック・ミラーの喪失以降、自己内省やセラピーに向き合ってきたサンダーキャットの「悲哀」が、彼特有の自虐的なユーモアやオタク的な逃避願望と交錯しながら生々しく描かれており、単なる失恋ソングの枠を超えた深い人間ドラマを提示している。
和訳
[Intro: Thundercat]
Ooh-ooh, ooh-ooh-ooh
ウー、ウー
※サンダーキャット特有のファルセット・ボイス。哀愁を帯びたコーラスワークが、これから語られる関係の終焉とメランコリーを暗示している。
Ooh-ooh, ooh-ooh-ooh
ウー、ウー
※LAのサイケデリックな夕暮れを思わせる、テーム・インパラの手による浮遊感のあるシンセサイザーの音色が響き渡る。
[Verse 1: Thundercat]
I'm sorry, girl, didn't mean to drag you in my dreams
ごめんよ、君を俺の夢の中に巻き込むつもりはなかったんだ
※「夢」はサンダーキャットの非現実的なライフスタイルや、アーティストとしての途方もない野心、あるいはアニメやゲームのような彼自身の空想世界を指す。自分の破滅的なペースに相手を付き合わせてしまったことへの謝罪から曲が幕を開ける。
Baby, no more lies
ベイビー、もう嘘はつかないよ
※タイトルにもなっているこのフレーズは、決意というよりも一種の諦念に近い。後のアウトロで明かされるように、「嘘をつかないこと(=残酷な真実を告げること)」が必ずしも相手を幸せにするわけではないというパラドックスの伏線となっている。
Feelin' free, that's the way it's s'posed to be
自由を感じるよ、本来はこうあるべきなんだ
※関係を終わらせることで得られる一時的な解放感。LAビートシーン特有の「自由に縛られずに生きる」というノリが、恋愛関係においては無責任さとして作用してしまう悲劇を描いている。
For you and me
君と俺の、二人のためにもね
※別れを正当化するための常套句であるが、彼の優しい声色によって自己中心的な言い訳のようにも響く。
You and I both know it's harder than it seems
言葉で言うほど簡単じゃないって、君も俺も分かってるけどさ
※長年連れ添った関係性を断ち切る痛みが表現されている。Redditの考察でも、単なる恋人への未練だけでなく、依存症や古い自分自身との決別を重ね合わせているのではないかと議論されている。
Love is a two-way street
愛ってやつは対面交通(双方向)だからね
※英語のクリシェ(決まり文句)である「two-way street(お互いの歩み寄りが必要であること)」を引用している。
I'm lettin' go because the both of us don't need to drive
俺はハンドルから手を離すよ、だって二人で同時に運転する必要なんてないだろ
※前の行の「street」を受けたドライビングの秀逸なメタファー。主導権争い(コントロール・フリークとしての自分)を放棄し、関係性のクラッシュを避けるために自ら身を引くという、彼なりの不器用な優しさである。
Baby, it's one at a time
ベイビー、運転は一人ずつじゃないとな
※マルチタスクができない、あるいは複雑な感情の処理が追いつかない彼自身のキャパシティの限界も示唆している。
[Break: Thundercat]
Ooh-ooh, ooh-ooh-ooh
ウー、ウー
※複雑なベースフレーズがうねるように挿入され、心の動揺や葛藤を音で表現している。
Ooh-ooh, ooh-ooh-ooh
ウー、ウー
※テーム・インパラのプロデュース特有の、空間を歪めるようなエフェクトが掛かっている。
[Verse 2: Thundercat]
That's just the way it works or you and I keep getting hurt
世の中そういう風に出来てるんだよ、じゃないと俺たちは傷つけ合うばかりだ
※RPGゲームのシステムを悟ったかのような、オタク気質を持つ彼特有の俯瞰的な諦観が感じられる。
We're gonna lose control of the wheel
このままじゃハンドルの制御を失っちまう
※再び車(関係性)のコントロールについての言及。感情が暴走し、引き返せない事態になることへの恐怖を語っている。
So put your seatbelt on, I think we're about to crash
だからシートベルトを締めておいて、俺たちそろそろクラッシュするからさ
※破局という「衝突事故」が避けられない未来をユーモアを交えて警告している。悲惨な状況でもジョークを飛ばしてしまう彼の防御機制(ディフェンス・メカニズム)の表れだ。
In a world of pain
痛みに満ちた、この世界でね
※マック・ミラーの死や、数々の別れを経験してきたサンダーキャットにとって、「痛み」はLAを生き抜くためのデフォルトの設定(初期状態)となってしまっている。
There's so much work to do
やらなきゃいけないタスクが山積みなんだ
※音楽制作に忙殺されている現実。フライング・ロータス率いるBrainfeederの看板アーティストとしての重圧や、ツアー生活の過酷さが恋愛を破綻させる要因であることを示唆している。
So much to unpack
整理(解きほぐす)しなきゃいけない問題が多すぎるんだ
※「unpack」は「荷解きをする」という意味と、セラピー用語としての「複雑な感情やトラウマを分析し、整理する」という意味のダブルミーニングである。
But it's not your fault
でも、君のせいじゃないよ
※相手を責めず、すべての原因を自分に帰着させる言葉。
I'm just kind of ass
俺って、どうしようもないクズなだけだからさ
※自己正当化と自虐が入り交じったサンダーキャットらしいコミカルかつ悲痛なパンチライン。Geniusでも「最も彼らしい表現」としてファンから絶賛されている。シリアスな場面で突然不器用な本音が出るのは、彼のオタク的なコミュニケーション不全の表れでもある。
[Pre-Chorus: Kevin Parker]
It's lookin' like I won't be home for another year
どうやらあと1年は家に帰れそうもないな
※ケヴィン・パーカーの歌唱パート。世界中を飛び回るトップミュージシャンの孤独と、定住を持たない(あるいは持ちたくない)逃避願望が歌われている。
Long left undone
ずっとやり残したまま放置して
※関係修復のための努力や、自分自身の心と向き合う作業を放棄している状態。
'Cause I might just drift on out of here
だって俺は、このままここからフワッと漂うように消えちゃうかもしれないから
※テーム・インパラの楽曲でもお馴染みの「現実からの遊離」や「孤立」のテーマ。重苦しい現実から、文字通りサイケデリックな音の波に乗って逃避しようとしている。
On the run
逃げるみたいにね
※責任や深い人間関係から常に逃走(オン・ザ・ラン)し続けるミュージシャンの業。
[Chorus: Kevin Parker & Thundercat]
I'll just be on my own, I'll just be homе alone
俺はただ一人でいるよ、家で一人ぼっちで過ごすんだ
※アニメを見たりゲーム(ストリートファイターなど)をしたりして、誰にも干渉されずに引きこもる彼自身のオタク的な日常の情景。
My troubles are my own
俺の抱えるトラブルは、俺だけのものだから
※他者に自分の重荷(トラウマや精神的負債)を背負わせまいとする孤高のスタンス。マック・ミラーの喪失という誰にも共有しきれないパーソナルな悲しみが背景にある。
Unlеss she wants to come back
もし彼女が戻ってきたいって言わない限りはね
※散々突き放しておきながら、土壇場で相手に選択権を委ねるという優柔不断さ。強がりと寂しさが同居している。
I'll just be on my own (Yeah), I'm dancin' on my own
俺はただ一人でいるよ(ああ)、一人で踊り続けるんだ
※「Dancing on my own」はポップスの定番フレーズ(Robynの同名曲など)だが、ここではLAのクラブの片隅でベースを弾きながら孤独に揺れる彼の姿を連想させる。
I'll just stay on my own (Unless she wants to)
ただ一人でいるよ(彼女が望まない限りは)
※コーラスが繰り返されることで、言い聞かせているような呪術的な響きを生んでいる。
Unless she wants to come back
彼女が戻ってきたいって言わない限りはさ
※孤独を受け入れつつも、完全にはドアを閉めきれない未練。
[Post-Chorus: Thundercat]
Yeah
イェー
※自己確認の呟き。
Yeah
イェー
※ベースの旋律と共に静かにフェードしていく。
[Bridge: Thundercat]
As you go out in the world
君が広い世界へと羽ばたいていくなら
※相手の新しい人生や可能性を祝福するような、親目線にも似た温かい眼差し。
Don't look back to move forward, there's no time in our lives
前に進むために後ろを振り返っちゃダメだ、俺たちの人生にはそんな時間はないんだから
※友人の早すぎる死(マック・ミラーら)を経験した彼だからこそ、「人生の時間は有限である」という言葉には圧倒的な説得力と切実さが伴う。
As you know
君も知っての通り
※二人の間で共有された痛ましい記憶への言及。
There's something wrong in your mind (In your mind)
君の心の中にも、何かおかしくなっちゃってる部分があるだろ(心の中に)
※相手を非難しているのではなく、LAという街や業界に身を置くことで、誰もが精神的に少しずつ壊れていくという事実を指摘している。
If you think there's no pain in my heart to say goodbye
さよならを言う俺の心に痛みがないなんて思ってるなら
※冷酷に別れを告げているように見える彼自身の内側で、どれほど血が流れているかを切々と訴えている。
Please don't cry, I'm letting go
お願いだから泣かないで、俺はもう手放すんだから
※相手の涙を見ると決意が鈍ってしまうため、必死に断ち切ろうとする悲痛なフレーズ。
[Chorus: Kevin Parker & Thundercat]
I'll just be on my own, I'll just stay home alone
俺はただ一人でいるよ、家で一人ぼっちで過ごすんだ
※(解説省略)
My troubles are my own
俺の抱えるトラブルは、俺だけのものだから
※(解説省略)
Unless she wants to come back
もし彼女が戻ってきたいって言わない限りはね
※(解説省略)
I'll just be on my own (Yeah), I'm dancin' on my own
俺はただ一人でいるよ(ああ)、一人で踊り続けるんだ
※(解説省略)
I'll just stay on my own (Unless she wants to)
ただ一人でいるよ(彼女が望まない限りは)
※(解説省略)
(I mean, my longest relationship was like, seven years)
(ていうか、俺の最長の交際期間って7年くらいだったんだけどさ)
※曲中で突然挿入される、友人にボヤくようなスポークンワード。音楽の魔法が解け、生々しい日常のトークに引き戻されるサンダーキャットならではの演出。
Unless she wants to come back
彼女が戻ってきたいって言わない限りはさ
※(解説省略)
[Outro: Thundercat]
And she, she was fine (Yeah)
それで、彼女は、彼女はまあ元気だったよ(うん)
※この長尺のアウトロは、実際のセラピーでの独白、あるいは友人に電話で言い訳をしているかのような生々しいセリフ(スポークンワード)で構成されている。
But I need to know what I'm doin' between one to two years with you (Yeah)
でもさ、君と1〜2年付き合ってる間に自分が何をしてるのか、ちゃんと把握しておく必要があるんだよね(うん)
※先の見えないアーティスト活動と恋愛を両立させることの現実的な困難さについてのボヤき。
And either way it goes
で、どっちに転んだとしてもさ
※話を本筋(嘘と真実について)に戻そうとする。
My therapist told me that I should tell you the truth
俺のセラピストが「本当のことを話すべきだ」って言うわけよ
※「セラピストの助言」を持ち出すのは、LAのカルチャーや現代のインディーR&Bにおけるある種のトロープ(お約束)である。自分の決断の責任を専門家に転嫁する弱さが見える。
And you're, but you're still angry, so sometimes I still like I still should've lied
でも君は、君はやっぱり怒ってるわけでしょ、だから時々「やっぱり嘘をついておけばよかった」って思うんだよね
※誠実さ(No More Lies)が必ずしも平和をもたらさないというジレンマ。子供のような素直な後悔が笑いと哀愁を誘う。
I tell you the truth because I care, but I also lie to you because I care
君を大切に思ってるから本当のことを言うけど、同時に君を大切に思ってるから嘘もつくんだ
※関係性の維持と自己防衛の間で引き裂かれるパラドックス。Redditでも「この一文が人間関係のすべてを表している」と共感を呼んだ深い心理的葛藤である。
But if I tell you the truth, I guess I can sleep better at night?
でも本当のことを言えば、俺は夜ぐっすり眠れるようになるのかな?
※結局のところ、「嘘をつかない」というのは相手のためではなく、自分の罪悪感を消すため(エゴ)ではないかと自問自答している。
But then it looks like I don't care because I'm telling you the truth
でもそうすると、本当のことを言ってるからこそ「君のことなんて気にしてない」みたいに見えちゃうんだよな
※「君のことは好きだけど別れたい」という残酷な真実を告げることで、冷酷な人間に見られてしまうことへの不満。
I mean, I, I guess I'm just not a f—
ていうか、俺、たぶんただのファッ…
※放送禁止用語(fucker等)を言い淀む。自己嫌悪の極致。
Everybody hates when they get to that part when they realize that
みんな、その現実に気付く「あのパート」に差し掛かると嫌がるんだよね
※彼のオタク的な「俯瞰視点」が発揮されている。RPGゲームやアニメのシナリオ展開において、残酷な真実が明かされるフェーズを「that part(そのパート)」とメタ的に表現している。
I don't wanna tell you I don't care, but if it seems like I don't care
君に「どうでもいい」なんて言いたくないけど、もし俺が気にしてないように見えたとしても
※誤解されたくないという必死な弁明。
It doesn't mean I don't care, it just looks like I don't care
それは君を気にかけてないってことじゃなくて、ただ単に「気にしてないように見える」だけなんだ
※禅問答のような言い訳だが、彼の心の中のパニック状態がリアルに伝わってくる。
Because my emotions have been sanded off
だって、俺の感情はヤスリで削り取られちゃったんだから
※この曲で最も悲痛なフレーズ。「sanded off(研磨される、削り落とされる)」は、相次ぐ友人の死や複雑な音楽業界の人間関係を経て、自己防衛のために感情のスイッチを切断し、心を麻痺させるしかなかった彼の深いトラウマの吐露である。
I live in L.A., sweetie, what do you expect?
俺はLAに住んでるんだぜ、お嬢ちゃん。他に何を期待してるって言うのさ?
※曲を締めくくる強烈なパンチライン。華やかで残酷なエンターテインメントの街・ロサンゼルスにおける精神的な搾取と、そこで生き抜くために冷笑的にならざるを得ない自分自身への諦念。シニカルなユーモアの裏に、底知れぬメランコリーが横たわっている。
