Artist: Pink Floyd
Album: The Wall
Song Title: Comfortably Numb
概要
1979年の歴史的ロック・オペラ『ザ・ウォール(The Wall)』の中核をなし、ピンク・フロイドを代表する至高の名曲である。極限の重圧とトラウマによりホテルの部屋で昏睡状態に陥った主人公ピンクに対し、冷酷な医師がステージに立たせるための強烈な興奮剤を注射する場面を描く。1977年のツアー中に胃痙攣で倒れたロジャー・ウォーターズが、強引に鎮痛剤を打たれてステージに立たされた実体験が基になっている。ウォーターズの冷徹で反復的なボーカル(医師)と、デヴィッド・ギルモアによる夢幻的なボーカル(ピンク)の対比が絶妙であり、後半で炸裂するギルモアのギター・ソロはロック史における最高傑作の一つとして今なお語り継がれている。自己防衛のための「壁」が、ついに自己の精神すらも完全に麻痺させてしまった究極の疎外感を描き出したプログレッシブ・ロックの金字塔だ。
和訳
[Intro]
[Verse 1: Roger Waters]
Hello? (Hello, hello, hello)
もしもし?(もしもし、もしもし……)
Is there anybody in there?
そこ(壁の中)に、誰かいるのか?
※前々曲「Is There Anybody Out There?」でピンクが「外(out there)」に向かって放った問いかけに対し、ここでは医師(外界)からピンクの「内側(in there)」への問いかけとして皮肉に反復されている。
Just nod if you can hear me
もし私の声が聞こえるなら、ただ頷いてくれ。
Is there anyone home?
家(頭の中)には誰かいるのか?
※前曲「Nobody Home」のテーマと呼応している。ピンクの肉体はここにあっても、精神はすでに「不在(誰もいない)」状態に陥っている。
Come on (Come on, come on), now
さあ(さあ、さあ)、どうした。
I hear you're feeling down
ひどく落ち込んでいると聞いたぞ。
Well, I can ease your pain
なに、私がその痛みを和らげてやろう。
And get you on your feet again
そして君を再び立ち上がらせてやろうじゃないか。
Relax (Relax, relax, relax)
リラックスするんだ(リラックス、リラックス……)。
I'll need some information first
まずは、いくつか情報が必要だ。
Just the basic facts
ほんの基本的な事実だけでいい。
Can you show me where it hurts?
どこが痛むのか、私に教えてくれないか?
※医師はピンクの「肉体的な痛み」を治療しようとしているが、ピンクが抱えているのは壁による「実存的・精神的な苦痛」である。両者の間の決定的なコミュニケーションの断絶を示している。
[Pre-Chorus 1: David Gilmour]
There is no pain, you are receding
痛みはない。あんたの姿が遠ざかっていく。
※ここからデヴィッド・ギルモアのボーカルへ切り替わる。薬物が回り始め、現実世界(医師の声)が急速にフェードアウトしていくピンクの内的体験の描写。
A distant ship, smoke on the horizon
水平線に浮かぶ煙のように、遠く離れた船のように。
You are only coming through in waves
あんたの声は、ただ波のように押し寄せてくるだけだ。
Your lips move, but I can't hear what you're saying
あんたの唇は動いているが、何を言っているのか俺には聞こえない。
※外界の音や意味が完全に遮断され、分厚い壁の向こう側の出来事のようになっている。
When I was a child, I had a fever
子供の頃、俺は熱病にうなされた。
My hands felt just like two balloons
両手がまるで、二つの風船のように膨れ上がったように感じたんだ。
※「Nobody Home」で歌われた「手が腫れ上がるブルース」の伏線回収。ロジャー・ウォーターズが幼少期に高熱を出した際、手が巨大化したように感じたという幻覚(不思議の国のアリス症候群的な体験)を反映している。
Now I've got that feeling once again
今、あの時の感覚が再び蘇ってきている。
I can't explain, you would not understand
うまく説明できないし、あんたには到底理解できないだろう。
This is not how I am
これが本当の俺の姿なんかじゃないんだ。
[Chorus: David Gilmour]
I have become comfortably numb
俺は「心地よく麻痺した」状態になってしまったんだ。
※苦痛から逃れるために築き上げた「壁」が、ついには彼自身の感情や感覚すらもすべて麻痺させてしまった究極の逃避の完成。痛みはないが、そこには生も存在しないという、アルバム最大のパラドックスである。
[Guitar Solo 1]
※デヴィッド・ギルモアによる1度目のギター・ソロ。薬物が全身を駆け巡り、甘美な眠りと安らぎへと沈んでいく主人公の陶酔を見事に表現している。
[Chorus: David Gilmour]
I have become comfortably numb
俺は「心地よく麻痺した」状態になってしまったんだ。
[Verse 2: Roger Waters]
Okay (Okay, okay, okay)
よし(よし、よし……)。
Just a little pinprick
ほんの少し、針でチクッとするだけだぞ。
※再び冷徹な医師の視点へ。興奮剤(ステロイドや精神安定剤の混合)をピンクの肉体へ注射する生々しい描写。
There'll be no more
すぐに終わるからな。
But you may feel a little sick
だが、少しばかり気分が悪くなるかもしれない。
Can you stand up? (Stand up, stand up)
立ち上がれるか?(立て、立て……)
I do believe it's working, good
効いてきたようだな、よし。
※医師(音楽産業のシステム)にとって、ピンクの心がどれほど壊れていようが関係ない。「商品」として再び機能し始めたことへの機械的な確認に過ぎない。
That'll keep you going through the show
これでショーの最後までもつはずだ。
Come on, it's time to go
さあ来い、出発の時間だ。
※ここで無理やり起こされたピンクは、自分の意志を失ったまま、狂気に満ちたファシスト的独裁者のペルソナへと変貌し、ステージへと向かっていくこととなる。
[Pre-Chorus 2: David Gilmour]
There is no pain, you are receding
痛みはない。あんたの姿が遠ざかっていく。
A distant ship, smoke on the horizon
水平線に浮かぶ煙のように、遠く離れた船のように。
You are only coming through in waves
あんたの声は、ただ波のように押し寄せてくるだけだ。
Your lips move, but I can't hear what you're saying
あんたの唇は動いているが、何を言っているのか俺には聞こえない。
When I was a child, I caught a fleeting glimpse
子供の頃、俺は一瞬だけ垣間見たんだ。
Out of the corner of my eye
視界の隅で、ふとそれを。
I turned to look, but it was gone
振り返って見ようとしたが、それはすでに消え去っていた。
I cannot put my finger on it now
今となっては、それが何だったのか、はっきりと思い出すことができない。
※「それ」は幼少期の純粋な希望、幸福、あるいは人生の真実といったもの。過酷な現実(壁)に囲まれる前の無垢な記憶が、完全に失われてしまったことへの絶望。
The child is grown, the dream is gone
子供は大人になり、あの夢は消え失せてしまった。
[Chorus: David Gilmour]
I have become comfortably numb
俺は「心地よく麻痺した」状態になってしまったんだ。
[Guitar Solo 2]
※ロック史上に燦然と輝く、後半の長大なギター・ソロ。前半の甘美なソロとは打って変わり、感情を押し殺したまま泣き叫ぶような、圧倒的なカタルシスと悲哀に満ちた絶唱である。ピンクの心が完全に死に絶え、悲劇的なペルソナへと生まれ変わる断末魔のサウンドトラックとして響き渡る。
