Artist: Pink Floyd
Album: The Wall
Song Title: Bring The Boys Back Home
概要
1979年発表のロック・オペラ『ザ・ウォール(The Wall)』に収録された、わずか1分半の楽曲ながらアルバム全体のテーマを総括する極めて重要なトラックである。前曲「Vera」で呼び起こされた第二次世界大戦の記憶が、ここではミリタリー・スネアと荘厳なオーケストラ、そして大合唱による強烈な反戦のメッセージへと昇華されている。「子供たちを一人にしないでくれ」という叫びは、生後間もなく父親を戦争で亡くしたロジャー・ウォーターズの極めてパーソナルな悲痛の吐露であると同時に、国家の都合で引き裂かれるすべての家族の悲劇を普遍化したものだ。アウトロではこれまで主人公ピンクの心を壊してきたトラウマ(教師の怒声、妻の不倫、狂気の笑い声)が走馬灯のようにフラッシュバックし、限界を超えた彼の精神が次曲「Comfortably Numb(心地よく麻痺して)」へと雪崩れ込んでいく決定的な転換点となっている。
和訳
[Verse: Roger Waters]
Bring the boys back home
少年たちを、故郷へ帰してやってくれ。
Bring the boys back home
彼らを家に帰してやってくれ。
※「boys」は戦地に送られた若い兵士たちを指す。国家権力の犠牲となる若者たちへの反戦の叫びであると同時に、戦死した父親(エリック・フレッチャー・ウォーターズ)の帰還を生涯待ち望んでいたウォーターズ自身の根源的な祈りでもある。
Don't leave the children on their own, no, no
子供たちを、決して一人きりにしないでくれ。
※父親の不在というトラウマが、どれほど子供の精神に深い傷(壁の最初のレンガ)を残し、その後の人生を狂わせてしまうかを知り尽くしたウォーターズによる、悲劇の連鎖を断ち切ろうとする切実な訴えである。
Bring the boys back home
少年たちを、故郷へ帰してやってくれ。
※壮大なオーケストラと合唱が、個人の悲哀を人類普遍のメッセージへと拡張していく。
[Outro]
“Wrong, do it again!”
「間違っている、もう一度やり直せ!」
※「Another Brick In The Wall (part II)」におけるサディスティックな教師の暴言。ここから、主人公ピンクの精神を崩壊させてきた過去のトラウマが次々とフラッシュバックし始める。
Knock “Time to go!”
(ノックの音)「出発の時間ですよ!」
※ツアーマネージャーがホテルのドアを叩く声。精神が限界に達しているにもかかわらず、ロック・スターとしてステージに立つことを強要する「音楽産業(マシーン)」という冷酷な現実の催促である。
“Are you feeling okay?”
「ねえ、気分でも悪いの?」
※「One Of My Turns」でピンクの部屋にやってきたグルーピーの無神経な言葉。愛のない空虚なコミュニケーションの記憶。
“He keeps hanging up, and it's a man answering!”
「ほら、また切られてしまいましたよ。それに、電話に出ているのは男の人ですわ」
※「Young Lust」の終盤に登場した電話交換手の声。妻の不倫が発覚し、ピンクが決定的に壁を塞ぐ原因となった最大の絶望の瞬間。
“Hahahahaha!!!!!!”
「ハハハハハハ!!!!」
※狂気を象徴する、引き裂かれたような笑い声。過去のトラウマの濁流に飲み込まれ、ピンクの理性が完全に崩壊したことを音響的に示している。
Is there anybody out there?
外には、誰かいるのか?
※絶望のフラッシュバックの中で、最後の頼みの綱として外界へ発せられる孤独な問いかけ。この悲痛な叫びを最後に、ピンクは過酷な現実から逃避するため、次曲「Comfortably Numb」において薬物による完全な「精神の麻痺」へと自らを委ねることになる。
