Album: The Wall
Song Title: Goodbye Blue Sky
概要
1979年発表のロック・オペラ『ザ・ウォール(The Wall)』の前半のハイライトであり、第二次世界大戦におけるロンドン大空襲(ザ・ブリッツ)のトラウマを美しい旋律で描いた楽曲である。ロジャー・ウォーターズの息子であるハリー・ウォーターズの無邪気な声で幕を開け、デヴィッド・ギルモアが奏でる優美なアコースティック・ギターと透明感のあるコーラスが、上空から飛来する爆撃機の影と凄惨な現実を不気味なまでに際立たせる。戦後の「すばらしい新世界」というプロパガンダと、永遠に消えない戦争の傷跡の対比を通して、主人公ピンクが平和で無垢な「青空」に完全に別れを告げ、自らの心を外界から遮断する「壁」の構築を加速させていく重要な転換点だ。
和訳
[Spoken Intro: Harry Waters]
Look, Mummy!
見て、ママ!
There's an aeroplane up in the sky
お空に飛行機が飛んでるよ。
※ロジャー・ウォーターズの実の息子(録音当時幼児)であるハリー・ウォーターズの肉声。純真無垢な子供の目に映る「空飛ぶ機械」への好奇心が、直後に襲い来るドイツ軍の爆撃機(死と破壊の使者)の恐怖をより一層残酷に引き立てている。
[Verse 1: David Gilmour]
Ooh-ooh, ooh, ooh, ooh
オー。
Ooh-ooh, ooh, ooh, ooh
オー。
Ooh-ooh, ooh, ooh, ooh
オー。
Did-did-did-did you see the frightened ones?
き、き、き、君は見たのかい、あの怯えきった人々の姿を?
※「Did」の執拗な反復は、空襲警報のサイレンの模倣であると同時に、爆撃の恐怖による震えや、心的外傷後ストレス障害(PTSD)による吃音の音響的表現とも解釈できる。
Did-did-did-did you hear the falling bombs?
き、き、き、君は聞いたのかい、降り注ぐあの爆弾の音を?
Did-did-did-did you ever wonder why we had to run for shelter when the promise of a brave new world unfurled beneath the clear blue sky?
す、す、澄み切った青空の下、「すばらしい新世界」への約束が広げられていたというのに、なぜ僕らは防空壕へと逃げ込まなければならなかったのか、君は疑問に思ったことはないかい?
※「brave new world(すばらしい新世界)」はオルダス・ハクスリーのディストピア小説のタイトルとして有名だが、ここでは戦後社会が掲げた「輝かしい平和な未来」という政治的プロパガンダを指す。その虚飾の平和の下で、実際には絶えず死の恐怖(冷戦下の核兵器の脅威など)に怯えなければならない現代社会の欺瞞を突いている。
[Verse 2: David Gilmour]
Ooh-ooh, ooh, ooh, ooh
オー。
Ooh-ooh, ooh, ooh, ooh
オー。
Did-did-did-did you see the frightened ones?
き、き、き、君は見たのかい、あの怯えきった人々の姿を?
Did-did-did-did you hear the falling bombs?
き、き、き、君は聞いたのかい、降り注ぐあの爆弾の音を?
The flames are all long gone, but the pain lingers on
炎はとうの昔に消え去ってしまったが、その痛みは今もなお居座り続けている。
※戦争という物理的な破壊が終わっても、父親を失ったウォーターズ(そして主人公ピンク)の心に刻まれた「喪失感」というトラウマは決して消え去ることはない。戦後世代が背負わされた見えない重圧(レンガ)の実存的な苦悩である。
[Outro: David Gilmour]
Goodbye, blue sky
さようなら、青空よ。
※「青空」は、平和、自由、そして無垢な子供時代の象徴。これに別れを告げるということは、外界とのコミュニケーションを完全に断ち切り、主人公の心を閉ざす強固な「壁」が空を覆い隠してしまったことを意味する。
Goodbye, blue sky
さようなら、青空。
Goodbye
さようなら。
Goodbye
さようなら。
※フェードアウトしていくギルモアの美しいボーカル。主人公ピンクはここで決定的に闇(壁の内側)へと引きこもり、青年期が抱えるさらなる虚無へと向かっていく。
