Artist: Pink Floyd
Album: The Wall
Song Title: The Show Must Go On
概要
1979年のロック・オペラ『ザ・ウォール(The Wall)』の終盤に配置された、哀愁と恐怖が交錯する短いコーラス・ナンバーである。前曲「Comfortably Numb」で強力な薬物を注射され、意識が混濁したままステージへと引きずり出されていく主人公「ピンク」が、最後に残された僅かな正気の中で「ショーを中止できないのか」と必死に抵抗する悲痛な瞬間を描いている。ザ・ビーチ・ボーイズのブルース・ジョンストンらが参加した幾重にも重なる美しいコーラス・ハーモニーが、音楽産業という巨大な歯車にすり潰され、ついに魂(自己)を完全に奪われてしまうロック・スターの絶望をより一層残酷に、かつシュールに際立たせている。
和訳
[Intro: David Gilmour]
(Ah-ah) Ooh, ooh-hoo, ooh, ooh
(アー・アー)オー、オー・フー、オー、オー。
(Ah-ah)
(アー・アー)
(Ah-ah)
(アー・アー)
(Ooh-ma, ah, ooh-pa) Must the show go on?
(オー・ママ、アー、オー・パパ)ショーは続けられなければならないのか?
※「Ooh-ma, ooh-pa」は「オー、ママ、オー、パパ」という幼児退行的な呼びかけである。薬物で自我が崩壊しかける中、過保護だった母と、顔も知らない戦死した父へと救いを求めるピンクの極限の恐怖が表現されている。エンターテインメント業界の絶対の掟「The show must go on(何があってもショーは続けなければならない)」が、ここでは彼に対する死刑宣告のように響く。
(Ooh-pa, take me home, take me home, take me home)
(オー・パパ、僕を家に連れて帰って、連れて帰って、連れて帰って)
(Ooh-ma, let me go, let me go, let me go)
(オー・ママ、僕をここから逃がして、逃がして、逃がして)
※かつて自分を壁の中に閉じ込めた母親に対し、今度は「ここ(抑圧的なステージ)から解放してくれ」と懇願する痛烈なアイロニーである。
[Verse: David Gilmour]
There must be some mistake, I didn't mean to let them
何かの間違いのはずだ。奴らに明け渡すつもりなんてなかったんだ。
Take away my soul, am I too old, is it too late?
僕の魂まで奪わせるつもりなんて。僕はもう年老いすぎたのか、もう手遅れなのか?
※「奴ら(them)」は音楽産業やマネジメントを指す。名声と引き換えに、自分が単なる「消費される商品」へと成り下がり、内面(魂)を完全に売り渡してしまったことへの遅すぎる後悔と気づき。
(Ooh-ma, ooh-pa) Where has the feeling gone?
(オー・ママ、オー・パパ)あの感情は、一体どこへ消えてしまったんだ?
※前曲での「Comfortably Numb(心地よい麻痺)」の副作用。恐怖や苦痛だけでなく、人間としてのあらゆる感情が麻痺し、喪失してしまったことに対する戦慄である。
(Ooh-ma, ooh-pa) Will I remember the song?
(オー・ママ、オー・パパ)僕はまだ、あの歌を覚えているのだろうか?
※自己同一性(アイデンティティ)の喪失。自分がかつて何を歌いたかったのか、自分自身が誰であったのかすらも忘却の彼方へと消え去ろうとしている。
[Outro: David Gilmour]
(Ooh, ooh, ah) The show must go on
(オー、オー、アー)それでも、ショーは続けられなければならない。
※最後の微かな抵抗も虚しく、ピンクは完全に自己を喪失し、強大なシステム(壁)の要求に屈服する。この宣告と共に彼は人間性を捨て去り、次曲で狂気のファシスト(独裁者)へと完全に生まれ変わってステージに立つこととなる。
