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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Rushing Elephants - Wu-Tang Clan 【和訳・解説】

Artist: Wu-Tang Clan

Album: 8 Diagrams

Song Title: Rushing Elephants

概要

「Rushing Elephants」は、Wu-Tang Clanが2007年にリリースした5作目のスタジオアルバム『8 Diagrams』に収録されている壮大なバンガーである。RZAがプロデュースしたこのビートは、エンニオ・モリコーネのマカロニ・ウェスタン映画音楽のようなダイナミズムと、荒々しいオーケストラのホーンやパーカッションをサンプリングしており、まさに「象の群れが突進してくる(Rushing Elephants)」ような圧倒的な音圧と威圧感を持っている。Raekwon、GZA、RZA、Masta Killaという、Wu-Tangの中でも特にリリシズムと独特のフロウに定評のある4人がマイクリレーを展開。ストリートのハッスル、Five-Percent Nationの教義、カンフー映画、そして高度な言葉遊びが入り乱れ、メインストリームの流行に迎合することなく我が道を突き進むWu-Tangの巨大な存在感とベテランとしての圧倒的な貫禄を見せつけている。

和訳

[Intro: Raekwon]

Yo, yo, yo, what up kid? Yo, these niggas is back, son
Yo, yo, yo、調子はどうだ? Yo、俺たちが戻ってきたぜ、息子よ

(Yeah, yeah, yeah, yeah, yeah, yeah) I'm telling you, spit that, done it nigga
(Yeah, yeah, yeah, yeah, yeah, yeah)言っとくが、吐き出してやれ、やり遂げたんだぜ

Yeah... yeah... yeah, yeah, I seen it like a Zenith, man
Yeah... yeah... yeah, yeah、ゼニスみたいにハッキリと見えたぜ、なあ
※「Zenith」はかつてアメリカで隆盛を誇ったテレビのブランド。ブラウン管のように鮮明にビジョンが見えている、あるいは頂点(zenith)に立っているという比喩。

You hear me man? Word up, man, ya'll know what it is
聞いてるか? 間違いないぜ、お前らどういう状況か分かってるだろ

It's on again, man, for real, Top Gun, what what
また始まったぜ、マジでな、トップガンだ、何がだ

[Verse 1: Raekwon]

Aiyo, we came through thumping like elephants
Aiyo、俺たちは象の群れのようにドスドスとやって来たぜ

The new Range is super-charged, I remains intelligent
新しいレンジローバーはスーパーチャージャー搭載だ、俺は相変わらず知性を保ってる

Back to the formula, lord, hard grammar
昔のやり方に戻るぜ、ロード、ハードな文法でな
※「lord」はFive-Percent Nationの教義において黒人男性(自身たち)を神やロード(主)と呼ぶ習慣から。

This is God school, make sure the lobby ain't jammed up
ここは神の学校だ、ロビーが混み合わないようにしておけ
※「God school」もFive-Percent Nationの教えを説く場のこと。知恵を授けるために多くの者が集まる様子。

Excalibur swords, T-Rexes, bibles of rhymes
エクスカリバーの剣、T-レックス、ライムの聖書
※自分たちのラップの言葉が伝説の剣や恐竜のように破壊的で、聖書のように神聖であることを示すワードプレイ。

We in the lunchroom, we eat veggies for breakfast
俺たちはランチルームにいる、朝食には野菜を食うんだ

Polo campus, sicker lances, the crisp
ポロのキャンパス、ヤバい槍、このパリッとした感じ
※「Polo」はラルフローレン。90年代のストリートでポロを愛用したLo-Lifeカルチャーの誇示。

Hundred dollar kick niggas, that be showing you dance steps
100ドルのスニーカーを履いたニガども、そいつらがお前にダンスのステップを見せてやる

Back to the dormatory, where niggas
寮へと戻るぜ、そこでニガどもが

Broke my forearm and index finger, now you write glory
俺の前腕と人差し指をへし折ったんだ、今じゃお前は栄光を描いている
※過去のストリートでの暴力や苦難を乗り越え、今ラップで栄光を掴んでいるという対比。

True holding my flag, it's all engraved in my blade
真に自分の旗を掲げている、それはすべて俺の刃に刻まれている

So when I wave it, you gon' say Rae mad
だから俺がそれを振り回せば、お前らはRaeがイカれてるって言うだろうよ

Now it's 28 Days Later, now Wu's up, do something, you can't
今は『28日後...』だ、今Wuが立ち上がった、何かやってみろ、お前には無理だ
※ゾンビ映画『28日後...』を引き合いに出し、シーンにウィルスのように感染し、恐るべき勢いで復活したWu-Tangの勢いを表現。

It's blood in my eye, I might get amped
俺の目には血がにじんでいる、俺は興奮しちまうかもしれないぜ
※怒りや戦意で目が充血している状態(blood in my eye)。

To rip something down, the billboard holders is back
何かを引き裂くためにな、ビルボードの覇者たちが戻ってきたんだ

So when you see me, you gon' say he gets down
だからお前は俺を見たら、あいつはヤバいって言うはずさ

[Verse 2: GZA]

From darkness to DNA, I move with my brother
暗闇からDNAに至るまで、俺は兄弟と共に動く
※GZA特有の科学や宇宙論を用いたリリシズム。宇宙の起源(暗闇)から生命の根本(DNA)までの深遠なる繋がり。

And we resonate, energy that shifts in colors
そして俺たちは共鳴する、色が移り変わるエネルギーで

Bringing MC's punishment, then I'm done with it
MCどもに罰を与え、それで俺の仕事は終わりだ

The meter leave way on the fast break, I run with it
ファストブレイクでメーターが道を譲る、俺はそれと共に走る
※バスケットボールの速攻(fast break)のように、他のラッパーを置き去りにしてビートを駆け抜ける。

It was not a hobby, but a childhood passion
これは趣味じゃなく、子供の頃からの情熱だった

That had started in the lobby and was quicky fashioned
それはプロジェクトのロビーで始まり、あっという間に形作られたんだ
※NYの低所得者層向け団地(プロジェクト)のロビーでラップのサイファーをしていた原点回帰。

Every line to line, bar for bar is clockwork
すべてのラインからラインへ、小節から小節へと、時計仕掛けのように正確だ

Hazardous and powerful enough to have your block hurt
危険であり、お前のブロックを痛めつけるほど強力だ

Check the total amount of MC's inflicted
打撃を受けたMCどもの総数を確認してみろ

With torture, from moving with work that's restricted
制限された作品で動いたことによる拷問でな

We criticize producers til they joints are right
俺たちはビートが完璧になるまでプロデューサーたちを批判する

Then acupuncture the track with pinpoints of light
そして光のピンポイントでトラックに鍼治療を施すんだ
※「acupuncture(鍼治療)」。完璧に仕上げられたビートの急所に対し、極めて鋭く的確なライム(言葉の針)を刺し込んでいく神業的なスキルの比喩。

Hitting them from well conceiled firing positions
巧妙に隠された射撃位置から奴らを撃つ

With explosiveness that'll make the deaf listen
耳の聞こえない者すら聞く耳を持たせるほどの爆発力でな

Drastic, pyroclastic, connected with the same old
強烈で、火砕流のようであり、昔から変わらぬものと繋がっている

Down the dangerous slopes of an active volcano
活火山の危険な斜面を下りていくんだ

[Verse 3: RZA]

Blitz like the Green Bay Packers, sack like the linebackers
グリーンベイ・パッカーズのようにブリッツを仕掛け、ラインバッカーのようにサックする
※NFLの戦術を用いたメタファー。敵(他のラッパーやヘイター)に猛烈なプレッシャーをかけて潰す。

Hang with niggas, like redneck crackers
レッドネックの白人どもみたいに、ニガたちとつるんでるぜ

Strangle cold bottles of Beck's, like a vexed German
冷えたベックスの瓶を握りしめる、怒れるドイツ人みたいにな
※「Beck's」はドイツ発祥のビールブランド。「strangle」は首を絞めること。ビール瓶の首を力強く握って飲んでいる様子を、ドイツのビールにかけて表現。

Duck low behind the car, my tech burning
車体の後ろに低く身を隠す、俺のテック9は火を吹いてるぜ

Neck burning, from eight karats of sunlight
首が熱い、8カラットの太陽の光のせいだ
※首に巻いた巨大なジュエリーが、太陽の光を反射して熱を持っているという大袈裟でハスラーライクな表現。

Absorbed, in the grill, Big Pun like
吸収される、グリルの中で、ビッグ・パンのようにな
※今は亡き伝説的ラッパーBig Punへのシャウトアウト。彼の巨大な体躯や派手なジュエリースタイルへの言及。

Lord of the Wu-Tang sword, know what that means?
ウータンの剣の主だ、それがどういう意味か分かるか?

Like J.R. Tolkien, it's the Lord of the Rings
J.R.R.トールキンのように、まさにロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)さ

This is my man, Chef, auto, like Grand Theft Auto
こいつは俺のダチ、シェフだ、オートだ、グランド・セフト・オートみたいにな
※「Chef」はRaekwonの別名。Raekwonのハードコアな世界観を人気ゲーム『GTA』になぞらえている。

The 18th letter, followed by the mark of Zorro
18番目の文字、それに続くのは怪傑ゾロのマーク
※英語のアルファベットの18番目は「R」。「ゾロのマーク」は剣で刻む「Z」。つまりRとZで「RZ(A)」を構成する極めて巧妙な言葉遊び。

Plus A, not for apple, but I pack an apple
そこにAを足す、アップルのAじゃない、だが俺はアップルを携帯してるぜ
※上記にAを足して「RZA」が完成する。そして「apple」はリンゴではなく、ニューヨーク(Big Apple)を背負っている、あるいは手榴弾(Pineapple)や銃を隠し持っているというストリートのスラング。

Shorty try to buck back, and knock me off the saddle
ガキが撃ち返してきて、俺を鞍から引きずり下ろそうとする

Caramel, pecan, sundae, praline
キャラメル、ピーカンナッツ、サンデー、プラリネ
※様々な肌の色を持つ魅力的な女性たちを、甘いスイーツに例えている。

Plump breasts, was filled with saline
豊満な胸は、生理食塩水で満たされていた
※豊胸手術(食塩水バッグ)をした女性のこと。

Her big booty cousin, nasty Nadine
彼女のデカ尻の従姉妹、淫乱なネイディーン

Get you on the floor, whore tried to double team
お前を床に組み伏せる、売女どもが2人がかりで挑んできたんだ

[Verse 4: Masta Killa]

Is he still that nucca? Is he in the hood like that?
奴はまだあのヤバいニガなのか? 今でもフッドにああやって居座ってるのか?

Is he really strapped? Will he really split yo' shit?
奴はマジでチャカを持ってるのか? マジでお前をぶっ飛ばすのか?

I thought you said he rap? Pull up in the yard, ten sets
あいつはラップをしてるって言わなかったか? ヤードに車を停めろ、10セットだ

He ain't flexing, microphone ripping, heat holding
奴はイキってなんかいない、マイクを引き裂き、熱(銃)を握ってる

Who testing? Rope-a-dope his black lotus
誰が試そうってんだ? ロープ・ア・ドープで奴のブラック・ロータスを躱す
※「Rope-a-dope」はモハメド・アリが使った、ロープを背負って相手の攻撃をやり過ごし疲労させるボクシングの戦術。「black lotus」は希少性や神秘的な武術の象徴。

Can't quote this, chat with the sword tongue
これは引用できないぜ、剣の舌を持って語り合うんだ
※言葉そのものが切れ味鋭い刃物(sword)のようであるため、迂闊に他人が真似したり引用したりすることはできない。

Duck when the axe is swinging, wild Apache drum
斧が振り下ろされる時はしゃがめ、野生のアパッチのドラムだ

Crazy Horse kicking his thoughts, he won't quit
クレイジー・ホースが思考を蹴り飛ばす、彼はやめないぜ
※「Crazy Horse」はネイティブアメリカンのラコタ・スー族の伝説的な戦士。決して屈しない激しい闘争心とスピリットを自身に憑依させている。

Can't tell 'em nothing, he grown, give the man room
奴には何も言えない、大人なんだ、彼にスペースを与えてやれ

Space was demanded, beat banging through the speaker
空間が要求された、ビートがスピーカーを通してガンガン鳴っている

Voice, heat seek missle, guided at the listener
声は熱源追尾ミサイルだ、リスナーに向かって誘導されていく

Swing to the gospel, catch up and wet at the brothel
ゴスペルに合わせてスウィングし、追いついて娼館で血祭りにあげる
※「wet」は銃撃して血まみれにすること。神聖なもの(ゴスペル)と不道徳なもの(娼館での殺人)の同居するダークな世界観。

Unstoppable, direction of my flow, optional
止められない、俺のフロウの方向は自由自在だ

To the ear, depending on the current of air, the crowd's in
耳へと向かう、気流に乗ってな、観衆はそこにいるんだ
※Masta Killaの流れるようなフロウが、空気の波(音波)に乗って確実に見えない観衆の耳を撃ち抜くという詩的なクローズ。