Artist: Frank Ocean
Album: channel ORANGE
Song Title: End
概要
フランク・オーシャンの歴史的デビューアルバム『channel ORANGE』(2012年)の物語を締めくくる、実質的なアウトロ・トラックである(CD版にはこの後にシークレットトラック「Golden Girl」が収録されているが、デジタル配信や正規のトラックリストとしては本作が最終曲となる)。1曲目「Start」がゲーム機の起動音で幕を開けたのに対し、この「End」では、車の中でカーオーディオから流れる音楽を聴きながら会話する男女の姿が描かれ、やがて車のドアを閉めて足音が遠ざかり、カセットテープが停止する音でアルバムが完結するというシネマティックな構造を完成させている。ここでカーオーディオから流れているのは、後にフランクが自身のTumblrでフルバージョンを公開することになる「Voodoo」という未発表曲の終盤部分だ。伝統的なゴスペルやスピリチュアルなモチーフを官能的で世俗的な愛の表現へと大胆に転化させたこの曲を背景に、男女の親密な会話が交わされる。アルバム全体を通して描かれた「届かない愛」「退廃的な若者たち」「富と孤独」といったテーマの余韻を残しつつ、まるでロードムービーのエンドロールのようにリスナーを現実世界へと引き戻す、極めてコンセプチュアルで美しいエンディングである。
和訳
[Verse: Frank Ocean & Elizabeth Paige]
Darker times (Oh my God, this is my song)
暗い時代だ(なんてこと、これ私の好きな曲だわ)
※カーオーディオから流れる歌唱部分(Voodooの歌詞)と、車内で交わされる会話が同時進行している。女性が曲に反応して会話が始まる。
They're telling boulder-heavy lies (Don't play with me right now, what?)
奴らは岩のように重い嘘をついている(今はからかわないでよ、何よ?)
※世間や権力者がつく途方もない嘘への言及と、車内の他愛のないじゃれ合いのコントラスト。
Looks like all we've got is each other (Ah)
俺たちにはもう、お互いしかいないみたいだ(あはは)
※終末的な世界観の中で、愛する者同士の絆だけが残されるというロマンチシズム。
The truth is obsolete (Yes, I can listen to it)
真実はもう時代遅れなんだ(うん、聴けるわよ)
※嘘が蔓延する社会への冷笑。
Remember when all I had was my mother (Haha, let them sing)
俺に母親しかいなかった頃を思い出してくれ(ふふ、歌わせておきましょうよ)
※フランク自身のバックグラウンド(母子家庭)を思わせるパーソナルなリファレンス。
She didn't compromise
彼女は妥協なんてしなかった
※厳しい現実の中を生き抜いた母親の強さへの敬意。
She could recognize
彼女には見抜くことができたんだ
Voodoo
ブードゥーの呪いを
※見えない力や人々を操る悪意、あるいは抗えない愛の魔力を、ブードゥー教の魔術に例えている。
Our daughters and our sons (See, all that is unnecessary)
俺たちの娘や息子たちは(ほら、そういうのは全部いらないのよ)
Are just candles in the sun (Mmcht, huh, haha)
太陽の下にある蝋燭のようなものさ(ちぇっ、ふん、あはは)
※圧倒的な力(太陽)の前では、個人の命や若者たち(蝋燭)はあまりにも無力で脆い存在であるという無常観。
Voodoo
ブードゥーの魔術さ
Don't let him see divide, hmm (I'm just playin', so tell me how I skate? What you mean?)
彼に分断を見せてはいけない(ただ冗談を言ってるだけ。で、私のスケートはどうだった?どういう意味よ?)
※歌唱では次世代に争いを見せるなという祈りが歌われる一方、会話では日常的なスケートボードの話題が展開されているリアルな空気感。
Don't you let her see divide (You said you could tell a lot about a man by the way he skates, so how do I skate?)
彼女に分断を見せてはいけない(スケートの滑り方でその男のいろんなことが分かるって言ってたじゃない、それで、私の滑りはどう?)
Voodoo (I don't know, just be real)
ブードゥーさ(さあね、とにかく自分らしくいることだよ)
[Chorus: Frank Ocean & Elizabeth Paige]
She's got the whole wide world in her juicy fruit (You, you're alright, heh)
彼女のそのみずみずしい果実の中に、この広い世界が丸ごと入っている(あなたは、あなたは大丈夫よ、ふふ)
※黒人霊歌(ゴスペル)の定番曲「He's Got the Whole World in His Hands(神の御手の中にすべてがある)」の大胆なパロディ。神ではなく、女性の肉体(juicy fruit=女性器や官能性の暗喩)に世界そのものを見出している。
He's got the whole wide world in his pants (There's somethin' about you, huh, I don't know)
彼のそのパンツの中に、この広い世界が丸ごと入っている(あなたって何か特別なものがあるわね、うーん、分からないけど)
※男性の肉体にも同様に世界のすべてがあるとし、宗教的な神聖さを性的な愛と肉体的な快楽へと意図的に引き下ろし、かつ昇華させている。
He wrapped the whole wide world in a wedding band (I can't believe I'm even talking to you and telling you this right now)
彼はその広い世界を、結婚指輪で包み込んだ(あなたと話してて、今こんなことまで言っちゃうなんて信じられないわ)
※愛する二人の誓い(指輪)が、宇宙全体を包み込むほどの重みを持つという究極の愛の表現。
Then put the whole wide world on her hands
そしてその広い世界を、彼女の手に委ねたんだ
She's got the whole wide world in her hands (You special, heh, I don't know about that)
彼女のその手の中に、この広い世界が丸ごと入っている(あなたは特別よ、ふふ、私には分からないけど)
He's got the whole wide world in his hands (I wish you could see what I see, hmm)
彼のその手の中に、この広い世界が丸ごと入っている(私に見えているものを、あなたにも見せてあげたいわ)
※会話の中で女性が愛の告白に近い本音をこぼし、車内の親密な空気が最高潮に達する。
In his hands
彼の手の中に
[Outro: Frank Ocean]
He wrapped the whole wide world in a wedding band
彼はその広い世界を、結婚指輪で包み込んだ
Then put the whole wide world on her hands
そしてその広い世界を、彼女の手に委ねたんだ
(She's got the whole wide world in her hands)
(彼女のその手の中に、この広い世界が丸ごと入っている)
(He's got the whole wide world in his hands)
(彼のその手の中に、この広い世界が丸ごと入っている)
※ここで音楽が途切れ、車のエンジンを止める音、ドアが開いて閉まる音、足音が遠ざかる音が続く。そして最後に、カセットテープが「ガチャッ」と停止する音が響く。リスナーがこれまで聴いていた「channel ORANGE」という幻影のチャンネルが完全にオフになる、極めて美しく余韻の残る幕引きである。
