Artist: John Lennon & Yoko Ono
Album: Unfinished Music No. 2: Life with the Lions
Song Title: Baby’s Heartbeat
概要
本作は、1968年11月に切迫流産の危機でロンドンのクイーン・シャーロット病院に入院していたヨーコ・オノの胎内に宿っていた、ジョン・レノンとの初めての子供の心音を、医療用モニター越しに録音した極めて私的で悲痛なドキュメントである。ジョン・ジュリアン・レノンと名付けられる予定だったこの小さな命は、録音の直後に流産という形でこの世を去ることとなる。本作には伝統的な意味でのメロディや歌詞は一切存在せず、ただ無機質な機械のノイズとともに、脈打つ胎児の鼓動が約5分間にわたって記録されている。ジョンとヨーコは、自らの最も深く痛ましい喪失の体験を「未完成の音楽」としてありのままに提示することで、芸術と人生の境界線を完全に消し去った。ビートルズという巨大なポップスターの虚像を放棄し、生と死、そして愛の残酷な真実を容赦なくリスナーに突きつけるこのトラックは、前衛音楽史において最も生々しく、かつ純粋なレクイエム(鎮魂歌)として重い意味を持ち続けている。
和訳
[Heartbeat]
※言語による歌詞は存在せず、ナグラ製のポータブル・テープレコーダーで録音された胎児の心臓の鼓動(Heartbeat)のみが響き続けるトラックである。規則的でありながらもどこか弱々しく聞こえる心音と、その背景で鳴り続ける医療機器の冷たいハムノイズのコントラストが、生命の儚さと病院という空間の隔離された現実を浮き彫りにしている。ファンの間や音楽的考察においては、このトラックが単なる奇を衒った前衛芸術ではなく、深い絶望の中にいた二人が「彼が確かにそこに生きていた」という唯一の物理的な証拠を永遠に刻み込もうとした、親としての悲痛な愛の結晶であると解釈されている。また、アルバムの曲順において、この「Baby's Heartbeat」の直後に完全な無音のトラックである「Two Minutes Silence(2分間の沈黙)」が配置されているという構成は、懸命に打っていた心臓が止まり、永遠の静寂(死)へと帰っていくという残酷な事実を表現した、音楽史上最も重苦しいコンセプチュアル・アートである。
