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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Luck of Lucien - A Tribe Called Quest 【和訳・解説】

Artist: A Tribe Called Quest

Album: People's Instinctive Travels and the Paths of Rhythm

Song Title: Luck of Lucien

概要

1990年に発表されたA Tribe Called Quest(ATCQ)のデビューアルバム『People's Instinctive Travels and the Paths of Rhythm』に収録されたアイコニックな一曲だ。タイトルの「Lucien」とは、フランスからニューヨークへ渡り、Native Tongues周辺と深い交流を持っていた実在のフレンチ・ラッパー兼プロデューサー、Lucien Revolucienを指している。Billy Brooksの名曲「Forty Days」のホーンセクションを絶妙にサンプリングし、洗練されたジャジーなビートの上で、異国から来た友人の不運でコミカルなニューヨーク奮闘記をQ-Tipがユーモアたっぷりに語るという構成である。過激なギャングスタラップが勢力を拡大しつつあった時代において、このようなパーソナルで親しみやすい「友人をイジる」ストーリーテリングを展開したことは、ヒップホップにおけるリリシズムの幅を大きく広げた。Lucien本人もスキットで参加しており、彼らの間の国境を越えたヒップホップ的な連帯と、クルー特有のリラックスした空気感が完璧にパッケージされたクラシックである。

和訳

[Verse 1: Q-Tip & Lucien]

Brother, brother, brother, Lucien, you're like no other
ブラザー、ルシアン、お前みたいな奴は他にいないぜ

Listen very close, 'cause I don't like to boast
よく聞けよ、俺は自慢話が好きじゃないからな

Instead, I'll tell the tale of a French who prevailed
代わりに、見事に生き延びたフランス人の話をしよう
※「prevailed」は逆境を乗り越えるという意味。異国で苦労しながらもサバイブするLucienへのリスペクトが込められている。

Through the Mr. Crazy Rabbits who were always on his tail
いつもお前の尻尾を追いかけてくる、イカれたウサギ野郎どもを切り抜けてな
※「Mr. Crazy Rabbits」は、ニューヨークのストリートで右も左も分からないLucienを騙そうとするハスラーや、つきまとう警察などの比喩である。

Rent ain't on sale, your roomie starts to wail
家賃は安くならないし、ルームメイトは泣き言を言い始める

Get caught with stolen goods and you will go to jail
盗品で捕まったら刑務所行きだぜ

If you go to jail, then who will pay the bail? (Yea!)
刑務所に入ったら、誰が保釈金を払うんだ?

Deport you back to France on a ship with a sail (Aw)
帆船に乗せられてフランスへ強制送還だ

Escargot... Lucien, you eat snails?
エスカルゴ…ルシアン、お前カタツムリなんか食うのか?

Aiyyo, Tip, what's wrong with snails?
エイヨゥ、ティップ、カタツムリの何が悪いんだ?
※ここでLucien本人が登場。フランスの食文化に対するアメリカ人特有の偏見とステレオタイプなイジりだが、二人の親密な関係性がうかがえる。

From the Zulu Nation, from a town called París (Yeah...)
ズールー・ネーション出身、パリと呼ばれる街からやってきた
※Universal Zulu NationはAfrika Bambaataaが創設したヒップホップ黎明期の重要組織。Lucienはフランス支部を立ち上げるなど、ヨーロッパのヒップホップシーンにおけるパイオニアの一人だった。

Came to America to find liberty (Uh-huh)
自由を求めてアメリカへ来たんだよな

Instead of finding pleasure, all you found was misery (Mmm)
だが喜びを見つけるどころか、見つけたのは悲惨な現実ばかりだった

But listen, Lucien, you have a friend in me (Word?)
でも聞けよルシアン、お前には俺という友達がいるぜ

Oh, luck-luck will drive your butt batty (Yeah)
運の良し悪しがお前を狂わせるんだ

Next time you get some wheels, make it a Caddy
次に車を手に入れる時は、キャデラックにしなよ

In terms of doing good, I know you wish you really could
上手くやりたいって、お前が心から願ってるのは分かってる

But listen, brother man, I really think you can (Mm-hmm)
でもなブラザー、俺はお前ならできると本気で思ってるんだ

Succeed with the breed of the brothers who you back (Yeah)
お前がバックアップするブラザーたちの血統と共に成功するってな
※ATCQやDe La Soulなど、彼が行動を共にしていたNative Tonguesの仲間たちの才能を指している。

It's the creme de la creme, and you could vouch for that
最高峰の連中さ、お前もそれは保証できるだろ

It'll take a Minute Rice, so take my advice
ミニット・ライスみたいにあっという間さ、だから俺のアドバイスを聞けよ
※「Minute Rice」は短時間で調理できるインスタント米のブランド。成功はすぐそこまで来ているという例え。

Trust in us, thus you trust in your life (Ah)
俺たちを信じろ、それは自分の人生を信じるってことだ

Lucien, Lucien, Lucien, Lucien – you should know (Word?)
ルシアン、分かってるよな

[Break: Lucien]

Aw, Tip, man, why'd you do that to me, man?
あーあ、ティップ、なんで俺にこんなことするんだよ?

I though you was a friend... word
友達だと思ってたのに…マジで

Oh, man... can't believe that!
おいおい…信じられないぜ!

Ohh, why'd you do that to me?
ああ、なんで俺にこんな仕打ちを?

I wouldn't do you like this
俺はお前にこんなことしないぜ

I can do it by myself
自分一人でやれるさ

Yea... see, you know nothin'!
そうさ…ほら、お前は何も分かってない!
※自分をネタにした曲を書かれたことに対するLucienのコミカルな抗議。怒っているフリをしつつ、このスキット自体がエンターテインメントとして機能している。

[Verse 2: Q-Tip & Lucien]

Are you ready, Lu? This one is for you
準備はいいか、ルー?これはお前のための曲だ

Comin' from a true-blue, fits like a shoe
本物の親友からのメッセージだ、靴みたいにピッタリ合うぜ

"¿Cómo está usted?" or "Comment allez-vous?"?
ご機嫌いかが?それとも、コマン・タレ・ヴー?

Lucien – I'll leave it up to you
ルシアン、どう答えるかはお前に任せるよ

Voulez-vous? (Vous...)
ヴレ・ヴー?

Rendez-vous (Vous...)
ランデヴー

Coucou (Cou...)
クークー

Les poupous (Pou...)
レ・プープー
※Q-Tipがフランス語の単語やフレーズを韻を踏むためだけに並べている。意味のない言葉遊びだが、彼のフロウの巧みさを際立たせている。

Watch that lass, gonna backlash fast
あの女には気をつけろよ、すぐにしっぺ返しが来るぜ

Can ya get a grip on the crackhead dip?
クラック中毒のヤバい奴らを理解できるか?

Sold you a paper bag, guess he saw you comin'
紙袋を売りつけられたんだってな、カモがネギを背負って来たと思われたんだろうよ

VCR from a neck-bone bummin'
首の骨が浮き出た浮浪者からビデオデッキを買ったんだろ
※「neck-bone」は貧しい黒人や浮浪者を指すスラング。ここではストリートで盗品を売るジャンキーを指している。

$10, brother, he was hummin' and strummin'
10ドルだぜブラザー、そいつは鼻歌を歌いながら調子よく売り込んできた

Only had 20, you was livin' like ya slummin'
お前は20ドルしか持ってなくて、スラム街の住人みたいな生活をしてた

Gave him the money, well, I thought that was somethin' (Aha)
奴に金を渡したんだな、まあ、大したもんだと思ったよ
※ストリートのジャンキーから$10の盗品VCRを買おうとして$20札を渡し、お釣りを持ち逃げされたというLucienの有名な失敗談。ニューヨークの厳しいストリートの洗礼をユーモアに変えている。

Lookin' like a kid who was lost and crumbin' (Aww...)
迷子になってボロボロになった子供みたいな顔をしてたぜ

Don't worry about a thing, I won't get specific (Mmm)
何も心配するな、詳しいことは言わないでおくから

This is a song that is long and prolific (Mhmm)
これは長くて豊かなメッセージを込めた曲なんだ

Think of the stuff that I said if you can
もしできるなら、俺が言ったことを考えてみてくれ

Figure it out, compute, understand? (Mm)
理解して、計算して、分かったか?

No problemo, I'll help you with your demo
ノー・プロブレモ、お前のデモテープ作りを手伝ってやるよ

If you go to the store for me... (Aw...)
俺のお使いで店に行ってくれたらな…
※さんざん説教めいたことを言った後、最終的にパシリに使おうとするQ-Tipのオチ。兄弟のような関係性が強調されている。

Lucien, I'm just kiddin' – you should know
ルシアン、ただの冗談だぜ、分かってるよな

[Break: Lucien & American woman]

Hey, yo, wassup, baby? What's your name?
ヘイ、ヨゥ、調子はどうだいベイビー?君の名前は?

- What kind of accent is that??
- なにその訛り??

It's a French accent, you know, I'm French
フランス語の訛りさ、俺はフランス人だからね

I'm from France, don't you think it's sexy?
フランスから来たんだ、セクシーだと思わないか?

- No, it's not a sexy accent
- ううん、全然セクシーな訛りじゃないわ

Aw, don't you like it? Why? You tryin' to diss me now? HuH?
あー、気に入らない?なんで?今俺のことディスろうとしてる?え?

Oh, please... what! Love means French, French means love
頼むよ…なんだって!愛はフランス、フランスは愛を意味するんだぜ

Everybody love my accent! Ain't nobody like it!
みんな俺の訛りが大好きなんだ!誰もこんな風には喋れない!
※Lucienがニューヨークのクラブでナンパしようとし、フランス語訛りを武器にするも玉砕する様子がコメディチックに描かれている。

Q-Tip write a story about me – why is that?
Q-Tipが俺の話を書いたんだ、なんでだと思う?

"Ohhh, I'm sexy, and I'm French, everybody love my accent
「おお、俺はセクシーで、フランス人で、みんな俺の訛りが大好きだ

I'm the best! Yes! Yeah! Je t'aime! I love you! I love you! Oui, je t'aime!"
俺が最高さ!イエス!イェー!ジュテーム!愛してる!愛してる!ウィ、ジュテーム!」

I'll teach you French, I'll make you French good!
フランス語を教えてやるよ、お前を最高にフランス人っぽくしてやる!
※文法が少し崩れており、必死に口説こうとする非ネイティブ特有の愛嬌が滲み出ている。

[Verse 3: Q-Tip]

You gotta get a grip on the missions you be takin'
自分が手を出してる厄介事の状況をちゃんと把握しろよ

Not so much the mission, but you got crazy ignition
厄介事ってより、お前の点火装置がイカれてるんだ

Sure, the sugar-babies wanna give you a chance
もちろん、甘いお姉ちゃんたちはお前にチャンスを与えたがってる

With the French "savoir faire" and the sexy glance
フランス仕込みの機転と、セクシーな視線にやられてな

But is she really fly? Or is she a guy?
でも彼女は本当にイケてるのか?それとも男じゃないのか?
※ニューヨークのナイトライフにおけるジェンダーの多様性や、ドラァグクイーンなどに引っかかるかもしれないという田舎者へのユーモア交じりの警告。

I won't ask why, 'cause I know that you try
理由は聞かないよ、お前が頑張ってるのは分かってるから

You try too hard, is that the answer to the riddle?
頑張りすぎなんだよ、それが謎の答えか?

Instead of doing so much, why don't you do just a little?
あれこれ手を出さずに、少しだけ控えめにしてみたらどうだ?

Boy, what a cat, I guess we shouldn't treat him bad
なんて奴だ、あんまりひどく扱うべきじゃないな

In fact, it would be nice if we understood him, right?
実際、あいつを理解してやれたら素晴らしいだろ?

A case of positioning the feet in the shoes
他人の靴を履いてみるってやつさ
※相手の立場に立って考える、という英語の慣用句「put yourself in someone's shoes」の引用。

Sympathetic reasoning the case of the blues
憂鬱な状況に対しても、同情的に理屈を立ててやるんだ

Lucien is blue, even though he's really brown
ルシアンはブルーに沈んでる、本当はブラウンの肌をしてるのにな
※黒人(ブラウン)でありながら、悲しみ(ブルー)を抱えていることの言葉遊び。コンシャスラップ特有のポエティックな表現だ。

I had to make this sound, his life is too profound
この音を作らなきゃいけなかった、あいつの人生は深すぎるからな

On the up-and-up, he's somethin' like a little pup
正直に言えば、あいつはまるで子犬みたいなもんだ

Young and naive, it's hard to believe
若くて世間知らずで、信じられないくらいさ

As long as you're strong, you can quest with the Questers
でも強くあり続ける限り、クエスターズと一緒に探求の旅に出られるぜ

Jolly like a jumping bean, or a jester
ジャンピング・ビーンみたいに陽気に、あるいは道化師のようにな

Lucien, Lucien, Lucien, Lucien – you should know
ルシアン、分かってるよな

[Outro: Lucien]

Ah, Tip, everything gonna be alright, man
ああ、ティップ、すべて上手くいくさ

Thank you, I should listen to you, man
ありがとう、お前の言うことを聞くべきだな

I think I'm going home, man
俺は家に帰るよ

Alright, I think I'm outta here now
オーライ、もう行くわ

Ah, peace, let's speak, I'm outta here...
ああ、ピース、また話そうぜ、じゃあな…