Artist: John Lennon
Album: John Lennon/Plastic Ono Band
Song Title: My Mummy’s Dead
概要
1970年に発表された歴史的ソロ・アルバム『ジョンの魂(原題:John Lennon/Plastic Ono Band)』のラストを飾る、わずか50秒足らずのアコースティックな小曲である。本作は、アルバムのオープニング曲「Mother」での凄絶なプライマル・スクリーム(原初の叫び)と対をなす、極めて私的で不気味なほどの静けさに包まれた鎮魂歌だ。ジョンが17歳の時に交通事故で亡くなった母ジュリアへの根深いトラウマが、イギリスの有名な童謡「Three Blind Mice(3匹の盲目ねずみ)」を彷彿とさせる幼児退行的なメロディに乗せて歌われる。精巧なスタジオ録音ではなく、あえてカセットレコーダーで録音されたような粗いLo-Fiサウンドが採用されており、まるでリスナーがジョンの心の最も奥深くにある密室を覗き見ているかのような錯覚を引き起こす。すべての偶像を破壊し尽くした「God」の直後に配置されたこのトラックは、世界最大のポップスターから装飾をすべて剥ぎ取った後に残された、ただ一人の傷ついた少年の姿を痛烈に提示している。
和訳
[Verse 1]
My mummy's dead
僕のママは死んでしまった
※アルバム冒頭の「Mother(母さん)」から、より幼児的な「mummy(ママ)」という呼び方に退行している。アーサー・ヤノフ博士のプライマル・セラピー(原初療法)によって引き出された、深いトラウマを抱えたまま成長が止まってしまったインナーチャイルド(内なる子供)の生々しい呟きである。
I can't get it through my head
どうしても頭で理解できないんだ
※「get it through one's head」は「理解する、納得する」の意。母の突然の死(非番の警察官が運転する車による交通事故)という理不尽な現実を、大人になった今でも受け入れられていないという告白。
Though it's been so many years
もう何年も前のことだというのに
※母ジュリアが亡くなったのは1958年。この楽曲が録音された1970年からすでに12年が経過してなお、心の傷が全く癒えていないことを示している。
My mummy's dead
僕のママは死んでしまった
※無邪気な童謡のフォーマットと「死」という重苦しいテーマのコントラストが、楽曲の不気味さと悲痛さを限界まで増幅させている。
[Verse 2]
I can't explain
説明なんてできない
So much pain
あまりにも大きすぎる痛みを
※前曲「God」の冒頭で「神とは我々の痛みを測るための概念だ」と歌ったジョンだが、ここで歌われるのはいかなる概念や言葉をもっても測れない、絶対的な喪失の痛みである。
I could never show it
僕は決して表に出すことができなかった
※「男は泣いてはいけない」という当時のイギリスの厳格な社会規範や、ビートルズにおけるシニカルな不良ロックンローラーとしてのペルソナによって、長年悲しみを抑圧し続けてきたことへの言及。セラピーを経てようやくこの事実を「歌」として外に吐き出すことができた。
My mummy's dead
僕のママは死んでしまった
※チープなカセットテープの録音のようなノイズにまみれたまま、唐突に曲は途切れる。アルバムの冒頭で重々しい弔鐘とともに「Mother!」と絶叫したジョンは、最後の最後にたった一人、部屋の片隅で「ママが死んじゃった」と呟く孤独な幼児へと帰還する。ポピュラー音楽史上最も暗く、最も勇敢な自己探求の旅は、この救いのない静寂の中で幕を閉じる。
