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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

How I Get - Laufey 【和訳・解説】

Artist: Laufey

Album: A Matter of Time: The Final Hour

Song Title: How I Get

概要

デラックス盤『A Matter of Time: The Final Hour』に収録された本作は、レイヴェイが築き上げてきた「教養豊かで理性的」というパブリックイメージが、抗えない愛の引力によって崩壊していく様を描いた背徳的なジャズ・ポップである。「タバコも吸わないし、後悔するようなことも普段はしない」と語る優等生的な彼女が、有害な関係(トキシック・リレーションシップ)に依存していく過程を「中毒(addiction)」という言葉で赤裸々に告白する。後半にバックグラウンドで呪文のように繰り返される「振り子(pendulum)」のモチーフは、アルバム全体のテーマである「時間の経過と運命」を体現しており、優雅なオーケストレーションの中で、理性を失っていくZ世代の生々しいパニックと情熱がスリリングに交差する傑作だ。

和訳
[Verse 1]

Human nature is strange
人間の本性って不思議ね

I know you're bad for me
あなたが私にとって有害(バッド)だって分かってるのに
※「bad for me(私に悪い、有害である)」。頭ではトキシックな相手だと理解していながら惹かれてしまう、Z世代の恋愛観における「レッドフラッグ(警告サイン)」の無視を端的に表している。

And I never feel rage
普段の私は、怒りを感じることなんてない

At least not so easily
少なくとも、こんなに簡単にはね

Has addiction come for me?
ついに私にも「中毒(アディクション)」がやって来たのかしら?
※愛を「addiction(依存症、中毒)」と表現。クラシカルで理知的な彼女が、自分自身でも制御不可能な化学反応(脳内物質の分泌)に支配されていることに戸惑い、メタ的に自己分析しているセラピー的な視点である。

[Chorus]

I don't smoke cigarettes
私はタバコなんて吸わないし
※「タバコ」はデューク・エリントンの「Satin Doll」など、古き良きジャズ・スタンダードにおいて大人の退廃の象徴。優等生的な彼女が「普段はそんな不良みたいなことはしない」と前置きすることで、彼に対する特異な依存状態を際立たせている。

Don't do things I'll regret
後で後悔するような振る舞いもしない

Don't mood swing, shoulder bets
感情の起伏に振り回されたり、無謀な賭けに出たりもしない
※「mood swing(気分の浮き沈み)」は現代のメンタルヘルス用語。「shoulder bets(賭けを背負う)」はリスクを冒すこと。冷静沈着なコントロールフリークである彼女の本来の姿。

But baby, with you, that's just how I get
でもねベイビー、あなたと一緒にいると、私って「そういう風に」なっちゃうのよ
※タイトル回収。「that's just how I get(それが私が陥ってしまう状態、そういう風になってしまう)」。自己を律する防衛線が完全に決壊し、相手のトキシックな空気に染まってしまうことへの諦観と、ある種の陶酔が入り混じったハイライト。

[Verse 2]

I have every bit of you
あなたのすべてを、私は手に入れている

Every awful corner
あなたのどんなに酷い、恐ろしい側面までも
※相手の欠点や有害さ(awful corner)から目を背けるのではなく、むしろそれすらも丸ごと飲み込もうとする共依存の恐ろしさ。「A Cautionary Tale」で描かれた「カメレオンの心」が最悪の形で発露している。

Biting more than I can chew
自分の手に負えないほど、大きく噛み付いてしまった
※英語のイディオム「bite off more than one can chew(能力以上のことをしようとする、欲張る)」。有害な相手を消化しきれないと知りながら、貪欲に愛を求めてしまう破滅的な心理。

Just so I'll feel warmer
ただ、もう少し温もりを感じたくて

What a greedy, hungry horror am I
私はなんて強欲で、飢えた怪物(ホラー)になってしまったんだろう
※「greedy, hungry horror(強欲で飢えた恐怖・怪物)」。彼を責めるのではなく、愛に飢えるあまり自らがモンスターと化してしまったという強烈な自己嫌悪。ゴシック文学的な表現が秀逸である。

[Chorus]

I don't smoke cigarettes
私はタバコなんて吸わないし

Don't do things I'll regret
後で後悔するような振る舞いもしない

Don't mood swing, shoulder bets
感情の起伏に振り回されたり、無謀な賭けに出たりもしない

Don't cut strings to attach to
新しいものにすがりつくために、今ある繋がりを切り捨てたりしない

Just some far-sought silhouette
遠くで追い求めただけのシルエット(幻影)に過ぎないのに
※「silhouette(シルエット)」。彼との愛が実態のない理想化された幻影であることを、理性の片隅でメタ的に理解している。

A journey that I'll one day dread
いつか絶対に恐ろしくなるって分かっている旅路

I'm caught up in a web
なのに私は、蜘蛛の巣に絡め取られてしまったの

I'm blinded by you, that's just how I get (The pendulum swings back around)
あなたに目を塞がれて、私は「そういう風に」なっちゃうの(振り子は再び揺れ戻ってくる)
※「pendulum(振り子)」の登場。アルバムテーマである「時間(時計)」の象徴であり、同時に「正気と狂気」「愛と憎しみ」の間を行ったり来たりする彼女の不安定な心理状態(ムードスウィング)を完璧に音響化・言語化している。

That's just how I get (I need more tempo, crave more sound)
そういう風になっちゃうのよ(もっとテンポを、もっと大きな音を求めてしまう)
※バックグラウンドで呪文のように繰り返されるこのフレーズは、オーケストレーションが次第に激しくなっていく楽曲の展開そのものをメタ的に指示している。理性を失い、音楽的なカオス(情熱)へと堕ちていく圧倒的なカタルシスである。

I don't smoke cigarettes (The pendulum swings back around)
タバコなんて吸わないのに(振り子は再び揺れ戻ってくる)

Don't do things I'll regret
後で後悔するような振る舞いもしない

Don't mood swing, shoulder bets (I need more tempo, crave more sound)
感情の起伏に振り回されたり、無謀な賭けに出たりもしない(もっとテンポを、もっと大きな音を求めてしまう)

But baby, with you, that's just how I get (The pendulum swings back around)
でもねベイビー、あなたと一緒にいると、私ってそういう風になっちゃうの(振り子は再び揺れ戻ってくる)

[Outro]

Oh, that's just how I get (I need more tempo, crave more sound)
あぁ、私ってそういう風になっちゃうのよ(もっとテンポを、もっと大きな音を求めてしまう)
※洗練されたジャズから狂乱のオーケストラへと変貌を遂げた後、理性のタガが外れたまま楽曲は終焉を迎える。自己破壊的でありながらも、音楽の恍惚に身を委ねるしかないアーティストとしての業を見せつける見事な幕切れである。