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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

The WhatsApp Shakespeare. - RAYE 【和訳・解説】

Artist: RAYE

Album: THIS MUSIC MAY CONTAIN HOPE.

Song Title: The WhatsApp Shakespeare.

概要

RAYEのアルバム『THIS MUSIC MAY CONTAIN HOPE.』に収録された本作は、現代のデジタルな恋愛における「有害な男性(トキシック・マスキュリニティ)」の姿を、シェイクスピアの悲劇や旧約聖書のモチーフと交差させて痛烈に皮肉ったシアトリカルな怪作だ。メッセージアプリ「WhatsApp」を通じて詩的で甘い言葉を送り、複数の女性を同時に騙す男を「WhatsAppのシェイクスピア」と命名し、被害者の一人であるRAYE自身が語り部となって他の女性たちへ警告を発している。第1部と第2部で構成されるミュージカルのような演劇的アプローチは、彼女の類まれなストーリーテリング能力を証明しており、失恋による深いトラウマと怒りを、極めてシニカルで悲喜劇的なエンターテインメントへと昇華させている。現代女性が直面する感情の搾取を暴く、強烈なシスターフッドとエンパワーメントに満ちたモダン・トラジディ(現代の悲劇)である。

和訳

[Part I]

[Verse 1]

Once upon a time there was a (Girl)
昔々あるところに、一人の女の子がいて
※おとぎ話の定番の書き出し。これから語られるのが、悲劇的な教訓を含んだ「物語」であることを示している。

Girl, and there was a serpent (Serpent)
一人の女の子、そして一匹の蛇がいた
※旧約聖書の創世記に登場する、イヴをそそのかして禁断の果実を食べさせた「蛇」のメタファー。悪魔的な誘惑者の象徴として描かれている。

Oh, and her name was Eve (Eve)
そう、彼女の名前はイヴ

And she took a bite from the apple (Apple)
そして彼女はリンゴを一口かじってしまった

And the story ain't this dissimilar (Yeah)
この物語も、それとそんなに違わないの

Many, many, many, many moons later
それから長い、長い、長い年月が経った後で
※「many moons later」は「何ヶ月も後」転じて「長い月日が経ってから」という詩的な表現。

She'd be deceived by her very own traitor
彼女は、彼女自身の身近な裏切り者に騙されることになる

And he weren't even my type on paper
しかも彼は、私の好みのタイプですらなかったのに
※「on paper」は「理論上は、書類上は」という意味のイディオム。頭で考えれば絶対に選ばないような相手なのに、言葉巧みに丸め込まれてしまったことへの後悔。

Such sweet poetry he would write
彼はとても甘美な詩を書いたものよ

"The WhatsApp Shakespearе Killer," we call him
「WhatsAppのシェイクスピア・キラー」と、私たちは彼を呼んでいる
※イギリスで最も普及しているメッセージアプリ「WhatsApp」を使い、シェイクスピアのようなロマンチックな長文で女性を狩るシリアルキラーに見立てた見事なパンチライン。

Lies just to climb into your bеdroom door
あなたの寝室のドアをくぐるためだけに嘘をつくの

Now you're fighting for your life on your bedroom floor
気づけばあなたは、寝室の床に崩れ落ちて命がけで戦っている
※甘い言葉で関係を持った後、精神的に深く傷つけられ、どん底で苦しむ生々しいトラウマの描写。

And, and a devil did send him
そう、悪魔が彼を差し向けたのに違いないわ

Heart of blue, black venom
青ざめた心臓と、真っ黒な毒液を持った男

My mother knew when she met him
私の母は、彼に会った時に気づいていたの

Wolf in sheep's clothes, oh, but in this case, denim
羊の皮を被った狼だってね。ああ、でもこの男の場合はデニムを被っていたけれど
※ストリート風のカジュアルな服(デニム)を着て無害そうに見せかけた、現代版の「羊の皮を被った狼」という巧みな言葉遊び。

Uh, cold-blood felon
ええ、冷血な重罪人よ

[Pre-Chorus]

Oh, how Mother would then mourn the ghost of her daughter
ああ、母は幽霊のようになってしまった娘をどれほど嘆き悲しむことか

As he lured me in like a lamb to the slaughter
屠殺場へ引かれる子羊のように、彼が私をおびき寄せたせいで
※「lamb to the slaughter」は無抵抗なまま危険に向かっていく様を表す聖書由来の表現。

Yeah, yeah, sounds very dramatic, don't it?
ええ、ええ、すごくドラマチックに聞こえるでしょう?

A modern-day tragedy, I call it
私はこれを、現代の悲劇と呼んでいるの

It's a true story, it happened
これは実話よ、本当にあったこと

[Chorus]

Oh, how he'd romance (Romance) on me, on me, on me
ああ、彼がどれほど私にロマンスを仕掛けてきたことか

He'd WhatsApp call me, call me with a
彼はWhatsAppで電話をかけてきて、こう言うの

"Wherefore art thou, true love?" (He strikes again)
おお我が真実の愛よ、あなたはなぜ。また奴の仕業ね
※シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の有名な台詞「おおロミオ、あなたはどうしてロミオなの?(O Romeo, Romeo! wherefore art thou Romeo?)」の引用。

Oh, he's a cursive kisser
ああ、彼は筆記体のように滑らかにキスをする
※「cursive kisser」はファンの間でも絶賛されるワードセンス。筆記体のように流麗で美しいが、実態が掴みづらく計算し尽くされたテクニックを暗示している。

He'd romance on me, on me, on me
彼は私にロマンスを仕掛けてきたの

Romeo, oh, no, I was a fool to love you, damn
ロミオ、ああ、あなたを愛した私が馬鹿だった。最悪よ

Juliet must run, Juliet must vanish
ジュリエットは逃げなきゃ、ジュリエットは姿を消さなきゃ

Damn it, cut him off, savage, he must be banished
クソ、関係を絶つのよ、残酷にね。彼は追放されるべきよ

The WhatsApp Shakespeare killer
WhatsAppのシェイクスピア・キラーを

[Verse 2]

I was still breathing, baby, just barely (Barely)
私はまだ息をしていたわ、ベイビー。本当にギリギリでね

Grandma had to bring her Bible (Bible)
おばあちゃんは自分の聖書を持ち出さなきゃいけなかった
※前曲から続く「信仰深い祖母」のモチーフ。心身ともにボロボロになった彼女を救うため、悪魔祓いのように聖書に頼るほどの惨状だったことを示している。

Sister wanna hunt him down
私の姉妹はあいつを狩りに行こうとしていたけれど

But only Jesus can save him now
でも今、あいつを救えるのはイエス様だけよ

Like-like-like Lazarus, I did rise
ラザロのように、私は見事に蘇ったの
※「Lazarus(ラザロ)」は新約聖書でイエス・キリストによって死後4日目に蘇生させられた人物。深い絶望から這い上がり、見事に復活を遂げたRAYE自身のキャリアとも重なる。

What a miracle she could survive
彼女が生き延びられたなんて、なんて奇跡的なの

Last text sent in the dead of the night
真夜中の深い闇の中で送られた最後のテキストメッセージ

When the light in her eyes left with him
彼女の瞳の光が、彼と共に消え去ってしまった時に

Hold sis earrings, go get him
シスターのイヤリングを預かって。あいつを捕まえてやる
※「Hold my earrings(私のイヤリングを持ってて)」は、ストリートカルチャーにおいて女性が取っ組み合いの喧嘩を始める直前に言う定番のスラング。復讐への燃えるような怒りをユーモラスに表現している。

[Pre-Chorus]

Oh, how Mother would then mourn the ghost of her daughter
ああ、母は幽霊のようになってしまった娘をどれほど嘆き悲しむことか

As he lured me in like a lamb to the slaughter
屠殺場へ引かれる子羊のように、彼が私をおびき寄せたせいで

Yeah, yeah, sounds very dramatic, don't it?
ええ、ええ、すごくドラマチックに聞こえるでしょう?

A modern-day tragedy, I call it
私はこれを、現代の悲劇と呼んでいるの

Not with thy flesh, but with thy words, he would
肉体ではなく、汝のその言葉をもって、彼は

[Chorus]

Romance (Romance) on me, on me, on me
ロマンスを仕掛けてきた、私に、私に

He'd WhatsApp call me, call me with a
彼はWhatsAppで電話をかけてきて、こう言うの

"Wherefore art thou, true love?" (He strikes again)
おお我が真実の愛よ、あなたはなぜ。また奴の仕業ね

Oh, he's a cursive kisser
ああ、彼は筆記体のように滑らかにキスをする

He'd romance on me, on me, on me
彼は私にロマンスを仕掛けてきたの

Romeo, oh, no, I was a fool to love you, damn
ロミオ、ああ、あなたを愛した私が馬鹿だった。最悪よ

Juliet must run, Juliet must vanish
ジュリエットは逃げなきゃ、ジュリエットは姿を消さなきゃ

Damn it, cut him off, savage, he must be banished
クソ、関係を絶つのよ、残酷にね。彼は追放されるべきよ

The WhatsApp Shakespeare killer
WhatsAppのシェイクスピア・キラーを

[Outro]

Run, Juliet, run, Juliet, run
逃げてジュリエット、逃げて、走るのよ

Silence all notifications
通知はすべてミュートにして

Forward this text to at least ten people, please
このメッセージを少なくとも10人に転送してちょうだい
※かつて流行した「チェーンメール」やWhatsAppのチェーンメッセージのパロディ。他の女性たちへの緊急の警告をユーモアを交えて伝播させようとしている。

Thy words I plead from thy tongue
あなたの舌から紡がれる言葉

His weapons of mass seduction
それは彼の大量誘惑兵器
※「Weapons of mass destruction(大量破壊兵器)」をもじった秀逸な言葉遊び。

My midsummer night nightmare
私の真夏の夜の悪夢
※シェイクスピアの喜劇『真夏の夜の夢(A Midsummer Night's Dream)』を悪夢(nightmare)へと反転させている。

Don't end up like me
私みたいな結末を迎えないで

[Segue]

He's still out there, Romeo Fraud
あいつはまだ野放しになっているわ、偽物のロミオがね

He's a 6'2" sick mother— five months minimum recovery
彼は身長188センチの病的なクソ野郎。立ち直るには最低5ヶ月はかかるわ
※「6'2"(約188cm)」はマッチングアプリなどで女性が好みがちな高身長という表面的な魅力のステータス。「motherfucker」の後半を意図的に途切れさせることで、演劇的なコミカルさを生んでいる。

From a sweet lie to the all-out Shakespearean voice-note-ery
甘い嘘から、全面的なシェイクスピア気取りのボイスメッセージまで
※イギリスの若者の間ではWhatsAppの「ボイスノート(音声メッセージ)」が頻繁に使われる。言葉巧みに感情を込めた音声を送ってくる男の常套手段を告発している。

Though I'd like to clarify
一応、はっきりさせておきたいんだけど

No one did die in the story
この物語の中で、誰も実際に死んだわけじゃないわ

But I did inside when I found out
でも、真実を知った時、私の心の中は完全に死んだのよ

[Part II]

[Intro]

I was one of seven other leading ladies
私は、他に7人もいる主演女優の一人にすぎなかった
※彼が自分だけを特別扱いしている「ロミオ」だと思っていたら、実は全く同じシェイクスピアばりの口説き文句を、同時進行で7人の別の女性(leading ladies)にも送っていたという残酷なオチ。

Starring in the new romantic thriller
新作のロマンチック・スリラーに出演しているね

[Verse]

Presenting the WhatsApp Shakespeare Killer
ご紹介しましょう、WhatsAppのシェイクスピア・キラーです

Ooh, he's a cursive kisser (Romeo Fraud)
ああ、彼は筆記体のように滑らかにキスをする、偽物のロミオよ

He'd WhatsApp call me (Call me, call me with the, wow), mm-mhm
彼はWhatsAppで電話をかけてきて、ワオって感じ
"Wherefore (Ooh) art thou (Mm), true love?" (Na-na-na-na-na, na-na-na-na-na) Oh (Ba-bum, ba-bum, dum)
おお我が真実の愛よ、あなたはなぜ。ナナナ……

[Bridge]

He would romance
彼はロマンスを仕掛けてきた

Where once I lived in the palm of his hand
かつて私は、彼の手のひらの上で生きていたの

And at the time, how could I understand?
その時は、どうやって真実を理解できたっていうの?

Why now, I ask you to forward this message or face seven months' sadness
だから今、このメッセージを転送しなさいって言ってるの。さもないと7ヶ月間の悲しみが訪れるわよ
※チェーンメールの定型句「これを回さないと不幸になる」をパロディ化し、シスターフッドの連帯を強制するユーモア。

[Outro]

You better run
あなたは逃げたほうがいい

Stick it to the man
あの男に目にもの見せてやるのよ

You better run while you can
逃げられるうちに逃げなさい

Fact, your Uber's outside
ほら、あなたが呼んだUberが外で待ってるわ

Must learn the art of airtime
あいつを完全に無視する技術を学ばなきゃいけないわ
※「airtime」はUKスラングの「airing(メッセージを既読スルーする、無視する)」という言葉に掛けている。有害な男から身を守る唯一の方法は「相手にしないこと」だという教訓。

You never must reply
絶対に返信しちゃダメよ

You must escape the clutches of this fake Prince Charming
この偽物の白馬の王子の魔の手から、逃げ出さなきゃ

A.k.a. the WhatsApp Shakespeare, darling, dun-dun, dun-dun-dun
またの名を、WhatsAppのシェイクスピア。ねえハニー、ダンダン、ダンダンダン
※演劇的なフィナーレを飾る効果音。悲劇をエンターテインメントに昇華し切った鮮やかな幕引き。