Artist: JID
Album: DiCaprio 2
Song Title: Workin Out
概要
JIDの2ndアルバム『DiCaprio 2』(2018年)に収録された本作は、名声を目前にしながらも拭いきれない焦燥感や虚無感をジャジーなビートに乗せて吐露した内省的な傑作だ。プロデューサーの2thirty5は、ジャズシンガーのヘレン・メリルによる名曲「Don't Explain」(オリジナルはビリー・ホリデイ)をサンプリングし、メランコリックで煙たいアトモスフィアを構築している。昼夜を問わず努力(Workin Out)しても報われない感覚、成功に群がるフェイクな人間関係への嫌悪、そして同じく奮闘する女性への共感が、JID特有の変幻自在なフロウでシームレスに綴られる。また、アウトロではコメディアンのザック・フォックスが客演し、所属レーベルのボスであるJ. Coleの「金持ちなのにスマホの充電器を借りてきそうな貧乏くさい身なり」をイジるという最高にユーモラスなスキットが収録されており、シリアスな本編との見事なコントラストを生み出している。
和訳
[Intro]
Take your heart, don't let me break it in two
お前の心を預けてみな、真っ二つに壊したりしねえから
I'm sure that I could possibly do nothin' for you
きっと俺はお前のために何一つしてやれないだろうけど
I'm nearly on the edge, I'm 'bout to jump in a few
俺はもう崖っぷちだ、あと少しで飛び降りちまいそうさ
I'm really not afraid of nothin'
マジで怖いものなんて何一つねえよ
※イントロから漂うジャジーで憂鬱なムード。成功という崖っぷちに立ち、プレッシャーに押し潰されそうになりながらも「失うものは何もない」と強がる心理状態を描写している。
[Verse 1]
Look, on everything
なぁ、すべてを懸けて誓うぜ
I gave everything and got nothing back
俺はすべてを捧げたのに、見返りは何もなかった
Ain't looking for no pat on backs
誰かに背中を叩いて(慰めて)ほしいわけじゃねえ
That ain't how we got where the fuck we at
そんな甘い考えで俺らがここまで来たわけじゃねえだろ
Mama called, "Where the fuck you at?"
母さんから電話で「あんた、一体どこほっつき歩いてるの?」って言われたよ
"On the road, and I ain't coming back
「ツアー中だよ、まだしばらくは帰らねえ
Until my hundred stacks make a hundred racks
俺の10万ドル(hundred stacks)が1000万ドル(hundred racks)になるまではな
And that hundred racks bring a bundle back"
そしてその1000万ドルで、山ほど札束(バンドル)を持ち帰るまでさ」
I was blowin' gas like the Honey Badger
ハニー・バジャーみたいにガス(大麻/エネルギー)を吹かしてたぜ
※「Honey Badger」はNFLのスター選手タイラン・マシューの愛称「ミツアナグマ(恐れ知らずで凶暴な動物)」のこと。彼が大学時代にマリファナ(gas)問題で出場停止になった過去と、JID自身が上質な大麻(gas)を吸いながら猛進する姿を掛けたトリプル・ミーニング。
J.I.D, bitch, the money snatcher
J.I.Dだ、ビッチ、金を掻き集める男(マネー・スナッチャー)さ
C'est la vie, shit, I'm coming after everybody
セラヴィ(これが人生だ)、クソッ、俺は全員の首を狙いに行くぜ
Don't get the bloody splatter
血飛沫を浴びたくなかったら退いてな
I'm fly and I got my niggas fly too
俺は飛んでる(イケてる)し、ダチのことも一緒に飛ばせて(フライトさせて)やる
Shit is like buddy passes
まるでバディ・パス(航空券の優待チケット)みたいにな
※「Buddy passes」は航空会社の従業員が友人や家族に渡せる割引航空券のこと。自身がラップゲームで高く飛び(fly/成功し)、その特権で地元の仲間たちも一緒に引き上げているというクルーへの忠誠心を示す気の利いたメタファー。
I wanna cry 'cause I'm numb inside (Ugh)
心の中が麻痺しちまってて、泣きたい気分だよ(アー)
If you wonder why, ask, "What's the matter?" (Yeah)
もし理由が知りたいなら、「どうしたんだ?」って聞いてくれよ(イェー)
[Chorus]
'Cause I been working hella hard, shit ain't really working out
俺は死ぬほど努力(ワーク)してきたのに、何もかも上手くいかねえ(ワーキン・アウトしねえ)んだよ
※タイトルの「Working out」には「運動する/努力する」という意味と「(物事が)上手くいく」という意味がある。どれだけ身を粉にして働いても、精神的・物理的な報いが十分に得られないというヒップホップ業界の過酷な現実と虚無感を歌っている。
I been praying to the Lord, shit ain't really working out
神様に祈り続けてるのに、何もかも上手くいかねえ
I been looking to the stars, keep my head up in the clouds
星を見上げ、頭を雲の上(理想)に向け続けてる
Shit ain't really working out, shit ain't really working out
でも何もかも上手くいかねえ、マジで上手くいかねえんだよ
Shit ain't really working out
クソッ、全然上手くいかねえ
[Interlude]
Quiet, don't explain
静かに、言い訳はしないで
What is there to gain
それで何が得られるって言うの
※ヘレン・メリルによるジャズ・スタンダード「Don't Explain」(1950年代)のボーカルサンプリング。原曲は浮気した夫に対して「言い訳しないで」と歌う悲恋の曲だが、ここでは「泣き言を言っても始まらない」というJIDの自己対話、あるいは過酷な世界からの冷たいメッセージとして機能している。
[Verse 2]
Shit, shit ain't really working out, huh
クソ、マジで上手くいってねえな、ハァ
Now I got a little bread, got my niggas working outta town
今じゃ少し金(ブレッド)も稼げて、ダチに地元以外の街で仕事を回せるようになった
Baby, your ass fat, I can see you working out, shit
ベイビー、お前のケツはデカいな、ジムで鍛えてる(ワーキン・アウト)のが分かるぜ
And you got a new job? Tell me, how that shit working out? Heh
新しい仕事に就いたんだって? なぁ、そっちの調子(ワーキン・アウト)はどうなんだ? ヘッ
※Verse 1のネガティブな「上手くいかない(not working out)」から一転し、「仕事をする」「ジムで運動する」「物事が進展する」という複数の意味で「working out」というフレーズを怒涛の如く多用(リフレイン)する巧みな言葉遊び。
Heard you doing pretty good, yeah, people talk, word of mouth
かなり上手くやってるらしいな、あぁ、噂(口コミ)で聞いたぜ
Wasn't 'round when you had the dirty house
お前が汚い家に住んでた頃、あいつらは周りにいなかっただろ
Now they won't leave when you kick 'em out
なのに今じゃ、追い出そうとしても居座りやがる
These type of people can't stick around
こういう奴らを周りに置いといちゃダメだ
Only down when there's liquor 'round or the spliff around
酒やスプリフ(大麻)がある時だけ、調子良く乗ってくるような奴らさ
That's why I don't fuck with niggas now
だから俺は今、あんな連中とはつるまねえんだ
Well, I fuck with all my niggas, you know the difference
まぁ、俺の「本物のダチ」とはつるむけどな、その違いはお前も分かるだろ
You been living with tunnel vision
お前はトンネル・ビジョン(一つの目標しか見えない状態)で生きてきた
You and all of your friends are like wonder women
お前とお前の女友達は、まるでワンダーウーマンみたいにパワフルだ
Wonder Woman working for it, if you ever wanted something
ワンダーウーマンは目標のために死に物狂いで働く、もしお前が何かを本気で手に入れたいならな
Searching for a purpose, I see what you on
目的を探し求めてるんだろ、お前が何を考えてるか分かるぜ
The difference in how you be using your gifts
才能(ギフト)の使い方にこそ違いが出るんだ
In the midst of the shit that you dealing with
お前が今抱え込んでる、数々のクソみたいな問題の真っ只中でな
Really specific, you paid attention, panoramic
お前は細部まで(スペシフィックに)気を配りながら、パノラマみたいに全体を見渡してる
You got the vision like a fer-de-lance
まるでフェルデランス(毒蛇)みたいな鋭い視覚を持ってるな
※「fer-de-lance(ハブ属の猛毒ヘビ、テルシオペロ)」は熱感知器官で獲物を正確に捉える。目的を達成するために研ぎ澄まされた彼女(またはJID自身)の鋭い直感や視野の広さを、毒蛇の生態に例えた高度なライム。
You attack and you kill it, sinkin' your teeth with the venom
獲物に襲いかかって仕留める、その牙から毒液(ヴェノム)を注ぎ込むんだ
Kinda like me with these instrumentals
まるで俺が、このインスト(ビート)の上でやってるみたいにな
Or the pen and the pencil or off the temple
ペンと鉛筆を使うか、あるいはこめかみ(頭の回転)だけで即興でヤるか
Pimpin' since been pimpin', keep it sensible
ずっと昔からピンプ(一流)としてやってきた、常に分別は保ってるぜ
Since you winning, you a object of ridicule
お前は勝者だからこそ、連中の嘲笑の的(オブジェクト)になるんだ
Objects appearing closer than you ready for
障害物(オブジェクト)は、お前が覚悟してるよりずっと近くに迫ってるぜ
※車のサイドミラーに書かれている警告文「Objects in mirror are closer than they appear(鏡に映る物体は実際よりも近くにあります)」の引用。成功に向かって走る中で、フェイクな人間やトラブルが思わぬ近さから迫ってくるという警告。
Obviously, you don't know what's ahead
明らかに、お前はこの先に何が待ってるか分かっちゃいない
But that's the reason you can work 'til you dead
だからこそ、お前は死ぬまで努力し続ける(ワーク)ことができるのさ
[Chorus]
I been working hella hard, shit ain't really working out
俺は死ぬほど努力してきたのに、何もかも上手くいかねえんだよ
I been praying to the Lord, shit ain't really working out
神様に祈り続けてるのに、何もかも上手くいかねえ
I been looking to the stars, keep my head up in the clouds
星を見上げ、頭を雲の上(理想)に向け続けてる
Shit ain't really working out, shit ain't really working out
でも何もかも上手くいかねえ、マジで上手くいかねえんだよ
Shit ain't really working out
クソッ、全然上手くいかねえ
[Outro: Zack Fox]
C'mon, bruh, come to the booty club one time
頼むよ兄弟、たまにはストリップクラブ(ブーティー・クラブ)にでも行こうぜ
Throw some of that Dreamville money
そのドリームヴィルで稼いだ金(ドリームヴィル・マネー)をばら撒いてやれよ
Throw some of that Dreamville money at these hoes, bruh
そのドリームヴィルの金を、このビッチどもに恵んでやれってば、兄弟
They got dreams too, nigga
こいつらにだって夢(ドリーム)があるんだよ、なぁ
They got shit to do too, nigga
こいつらにだって、やらなきゃならねえことがあるんだ
They got dreams too, bruh-bruh
こいつらも夢を持ってるんだって、兄弟
Y'all Dreamville, uh, ayy-ayy, ayy-ayy, uh-uh
お前らドリームヴィル軍団さ、アー、エイエイ、エイエイ、アーアー
Next time you see that nigga J. Cole, bruh
次にあのJ. Coleに会った時、兄弟
You tell that nigga the same thing, man
あいつにも同じことを言ってやれよ、マジで
I fuck with y'all niggas, bro
俺はお前らのこと最高だと思ってるぜ、兄弟
Why that nigga J. Cole, got all this money
なのに、なんであのJ. Coleって野郎は、あんなに大金を持ってるくせに
Look like he 'bout to borrow somebody charger or something
今にも「誰かのスマホの充電器借りようとしてる」みたいな貧乏くさい身なりしてんだよ?
※アトランタ出身のコメディアン兼ラッパー、ザック・フォックスによる伝説的な即興スキット。J. Coleといえば、業界トップクラスの富豪でありながら高級車やブランド品に興味を示さず、ヨレヨレのTシャツにスウェットで移動することで有名。その極端に庶民的(bummy)なファッションを「充電器借りてきそうな奴」という絶妙な表現で強烈にイジっている。シリアスで内省的な曲の最後にこの爆笑必至のアウトロを配置するバランス感覚こそが、JIDの作品の魅力である。
"C'mon, bruh, let me get your charger, bruh
「なぁ兄弟、お前の充電器貸してくれよ
Let me get my shit to uh, uh, ten percent
俺のスマホが、あー、10パーセントになるまででいいから
And I'll give that shit back to you, bruh bruh"
そしたら絶対返すからさ、なぁ兄弟」
C'mon, bruh, flex some of that Dreamville money, let me see it
頼むぜ兄弟、そのドリームヴィルの金をフレックス(自慢)して、俺に見せてくれよ
