UGMKM

Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

8701 - JID (feat. 6LACK) 【和訳・解説】

Artist: JID (feat. 6LACK)

Album: The Never Story

Song Title: 8701

概要

本作「8701」は、ともにアトランタのイーストサイドを拠点とし、Spillage VillageやLVRN(Love Renaissance)といったコレクティヴを通じて深い絆で結ばれた盟友、JIDと6LACK(ブラック)によるドープなコラボレーション楽曲である。曲名はアトランタが誇る世界的R&Bスター、Usher(アッシャー)が2001年にリリースした大ヒットアルバム『8701』に由来している。わずか2分弱という短いランニングタイムの中に、6LACKのメランコリックで自信に満ちたメロディック・ラップと、JIDの変幻自在なフロウや怒涛のワードプレイが凝縮されている。先人たちが築き上げたアトランタの音楽的レガシーに敬意を払い(Usher)つつ、次世代の牽引者としてシーンを焼き尽くす(Burn)という、彼らの野心と圧倒的なラップスキルを見せつける強烈なステートメントである。

和訳

[Intro: 6LACK]

Your best shit ain't better than my worst shit, yeah
お前の最高傑作でさえ、俺の駄作以下だぜ
※6LACKによる、シンプルながらも絶対的な自信に満ちたフック。同業者たちとの次元の違いを冷酷に突きつけている。

Ain't better than my worst shit, yeah, mm
俺の最低な曲にも敵わねぇよ、あぁ、んー
※6LACK特有のダークでレイドバックしたハミングが、この曲の不穏なバイブスを決定づける。

[Verse 1: 6LACK]

Your best shit ain't better than my worst shit, yeah
お前の最高傑作でさえ、俺の駄作以下だ

Don't call me underrated, you ain't heard shit, yeah
俺のことを「過小評価されてる」なんて呼ぶな、お前は何も聴いちゃいねぇんだよ
※「underrated(過小評価)」という言葉は褒め言葉のようでいて、実は「まだメインストリームで売れていない」ことの裏返しでもある。自分の音楽の真価を理解していない連中の評価など不要だという強烈なプライド。

Work like a vet, and no I don't work for a check
ベテランみたいに働くぜ、いや、小切手(金)のために働いてるわけじゃねぇ
※「vet」はveteranの略。新人でありながらベテラン級のプロ意識(ワークエシック)を持ち、目先の金(check)ではなく芸術性とレガシーのために音楽を作っているという宣言。

But I'ma run it up, you can bet
だが金はきっちり稼い(ラン・イット・アップ)でやる、賭けてもいいぜ
※金が目的ではないが、結果として大金を手にするだけの実力があるというフレックス。

Fuck the competition, I'll impress myself
競争なんてクソ喰らえだ、俺は俺自身を感動させるのさ
※他者との比較(competition)を放棄し、自分の内なるハードルを超えることだけを目的とするアーティストとしての孤高の姿勢。

Don't need to watch me, you should check yourself
俺の顔色を窺う必要はねぇ、自分の足元でも確認(チェック)しな
※Ice Cubeの名曲「Check Yo Self」を彷彿とさせるストリートの格言。他人の成功を気にする前に、自分の未熟さと向き合えという警告。

So much on the shelf, that if I take a verse off the shelf
棚(ストック)には山ほど曲がある、もし俺が棚から一つのバースを取り出せば
※リリースしていない未発表の神曲や極上のリリックが、ハードディスク(shelf)に無限に眠っているという余裕。

It probably break the Earth, raise Hell
おそらく地球をカチ割り、地獄を呼び起こすだろうな
※自分のワンバースが持つ破壊力を、天変地異に例える凄まじいパンチライン。

Burn like 8701
『8701』みたいに燃え盛るのさ
※Geniusでも高く評価されるハイライト。アトランタのR&Bレジェンド、アッシャーの2001年の大ヒットアルバム『8701』を引用。さらにアッシャーの代表曲「Burn(燃える)」にかけており、「俺のラップはアッシャーのヒット曲のように世界を炎上させる」というマルチミーニングとなっている。

Ushered in a new flow for the old one
古いフロウの代わりに、新しいフロウを「導き入れた(アッシャード)」んだ
※前行のアッシャー(Usher)から見事な韻と意味の接続。「Usher in」は「〜の幕開けを告げる、導き入れる」の意。アトランタの古いスタイルを終わらせ、俺たち(6LACKとJID)が全く新しいフロウをシーンに提示したという次世代の宣言。

Her pants too tight, I don't hold no gun
あの子のパンツはキツすぎる、俺は銃なんて持ってねぇよ
※「Her pants」はおそらく「俺の穿いているタイトなパンツ(レディースのように細いスキニー)」という意味のヒップホップスラング、あるいは文字通りの女性。スキニージーンズを穿く流行のR&Bシンガー(6LACK)である自分は、銃を隠し持てないという自虐的なジョーク。

But Jiddy-Jid bookbag probably hold one
でも、ジディ・ジッド(JID)のバックパックの中にはたぶん一丁入ってるぜ
※6LACKは持っていないが、隣にいるJIDのバックパック(bookbag)には確実に銃が入っているというストリートのリアル。JIDはリリカルな「バックパック・ラッパー(知的なラッパーの代名詞)」の系譜と見られがちだが、アトランタのイーストサイド育ちという危険なゲットーの側面(銃器の携帯)を同時に併せ持っていることを巧みに表現した名ライン。

I keep a smile on my face when it's all bad
すべてが最悪な状況でも、俺は笑顔を絶やさねぇ
※前曲「All Bad」のタイトルを回収。ゲットーの過酷な現実や業界の闇の中でも、動じずにクールでいる(Melancholy cool)というストリートの鉄則。

Record labels on my line, I ain't call back
レコードレーベルから電話がかかってきても、折り返し(コールバック)はしねぇ
※メジャーレーベルからのオファーが殺到しているが、安売りはしないというインディペンデントなプライド。

And your girl on my line, I ain't call back
お前の女から電話がかかってきても、折り返しなんてしねぇよ
※業界の権力者だけでなく、他人の女からの誘いすらも無視するという圧倒的なモテっぷりの誇示。

He got his eyes on the prize and they all mad
あいつは賞(プライズ)に目を向けてる、だから連中はみんな怒り狂ってるんだ
※目先の金や女ではなく、シーンの頂点という「真の目的(prize)」を見据えているため、それを妬むヘイターたちが苛立っている。

[Verse 2: J.I.D]

Aye, shit, it's like as a reminisce I'm doing well, yeah
エイ、クソ、昔を思い返せば(レミニス)、俺は上手くやってる方だよな
※ここからJIDの変幻自在なバースへ。どん底だった過去(The Never Story)を振り返り、今の成功を噛み締めている。

Buying with my 9, bitch it ain't the smell, no
俺の9(ミリ拳銃)で買い付け(脅迫)さ、ビッチ、こいつは(大麻の)匂いじゃねぇよ
※「Buying」は「Riding(乗り回す)」のダブルミーニング、あるいは聞き間違いの可能性もあるが、9mm拳銃(9)を突きつけてドラッグや金を手に入れるストリートの強盗行為を示唆している。漂っているのは大麻の匂いではなく、本物の火薬(銃)の匂いだという危険な描写。

My nigga caught the charge, yeah, he caught the L
俺のダチは罪(チャージ)を被っちまった、あぁ、奴はL(敗北)を引いちまったんだ
※「caught the charge」は警察に逮捕され起訴されること。「caught the L」は「Loss(敗北)」を味わうこと、あるいは「Life sentence(終身刑や長期刑)」を食らうことのダブルミーニング。ストリートの過酷な代償。

He down the road now, send him some mail, uh
奴は今、刑務所(道の下)にいる、手紙(メール)でも送ってやってくれ
※「down the road」は刑務所に収監されている状態を指すスラング。塀の中にいる仲間へのシャウトアウト。

Get it while the gettin's good, I had to get it together
手に入るうちに手に入れておくのさ、俺は自分の人生を立て直さなきゃならなかった
※「Get it while the gettin's good」はチャンスがあるうちに掴み取れという格言。ストリートの犯罪から足を洗い、音楽で成功を掴む(get it together)という決意。

I was gathering my goods for the inclement weather
俺は悪天候(インクレメント・ウェザー)に備えて、自分の物資(スキル)をかき集めてたんだ
※「inclement weather(荒れ狂う天気)」は、人生の苦境やゲットーでのサバイバル、あるいはラップゲームの厳しい競争を意味する。来るべき時のために、密かに己のラップスキルを磨き上げていた下積み時代。

Trying to make it heavy and heard, your shit was light as a feather
重みを持たせて世間に届かせようとしてる俺に対して、お前のラップは羽のように軽かったな
※リリックにストリートの痛みや魂(重み)を込めるJIDと、中身のない流行りのラップ(羽のように軽い)を垂れ流すフェイクラッパーたちとの明白な対比。

That's fine, get it together, you can do better
まぁいいさ、気を取り直せよ、お前ならもっと上手くやれるはずだ
※圧倒的な実力差を見せつけた上で、あえて相手を見下すように励ます冷酷な皮肉。

You can be whatever you gon' be but you can be never
お前は自分がなりたいものになれるだろうが、「俺(Never)」には絶対になれねぇよ
※「You can be never」は文法的に破綻しているが、JIDのアルバムタイトル『The Never Story』や自身の異名としての「Never(何者にも縛られない、あるいは持たざる者としての絶対的アイデンティティ)」にかけており、誰も自分の領域には到達できないという宣言。

J.I.D the monster, mayhem and tax by the letter
J.I.Dという名のモンスター、大混乱(メイヘム)さ、文字(レター)ごとに税金(タックス)を徴収してやる
※「tax by the letter」は、自分の紡ぎ出すリリックが1文字単位で莫大な価値(金)を生み出すこと、あるいは相手をディスる手紙(バース)ごとに相手からプロップスを奪い取る(課税する)という、リリシストとしての恐るべき自信の表れ。

Let us pray for those who thought it was a game or child's play
これをただのゲームや、子供の遊び(チャイルズ・プレイ)だと思ってた奴らのために祈ろうぜ
※ラップゲームを甘く見ていた連中が、JIDのモンスター級のスキルの前に惨殺されることへの同情と冷笑。ホラー映画『チャイルド・プレイ』の殺人鬼チャッキーの狂気も内包している。

Somebody answer, take the floor and I'll wait
誰か答えてみろよ、フロア(主導権)を譲ってやるから、俺は待ってるぜ
※誰も自分に反論(アンサー)やバトルを挑んでこない現状に対する、王者の余裕。

[Outro: J.I.D]

Your best shit ain't better than my worst shit, yeah
お前の最高傑作でさえ、俺の駄作以下だぜ
※(※注釈:6LACKのフックをJIDが引き継ぎ、アウトロへ。)

That .40 on me now, I disperse shit, yeah
今は40口径を隠し持ってるぜ、ぶち撒けてやるよ
※「.40」は40口径の拳銃。6LACKのバースで示唆された「バックパックの中身」の正体を明かし、言葉の弾丸(あるいは実弾)を周囲にばら撒く(disperse)という暴力的な警告。

Heard what I said, let 'em twerk, drop they berk shit, yeah
俺の言ったこと聞こえたか、奴らをトゥワーク(激しく揺さぶる)させて、バーキン(虚飾)を落とさせてやる
※「twerk」はお尻を激しく振るダンスだが、ここでは銃撃や恐怖で敵を震え上がらせることのメタファー。「berk」はおそらく高級バッグの「Birkin(バーキン)」の略、あるいは「work(ドラッグ)」の言い換え。フェイクな連中の見栄を剥がし、金品を奪うというストリートの作法。

But she ain't even heard the kid yet
でも、彼女はまだこのガキ(俺の真の実力)のヤバさを聴いちゃいねぇんだ
※世間(あるいは特定の女性)が、まだJIDの真のポテンシャルの全貌を知らないという含み。

Serve shit, off purpose, on point with a smooth work shit
ブツ(曲)を捌くぜ、意図を外して(予想を裏切って)、滑らかな動き(ワーク)で的確(オンポイント)にな
※ドラッグディール(serve/work)の用語を用いて、変則的(off purpose)でありながらも完璧に的を射る(on point)自身の滑らかなフロウを表現している。

On purpose, outpatient, might surface
意図的にやってるのさ、外来患者(アウトペイシェント)、水面へ浮上するかもしれないぜ
※「outpatient(通院患者)」は、精神病棟に収監されるレベルの狂気を持ちながらも、シャバ(ストリート)をうろついている自身の異常性を指す。アトランタの地下深くから、ついにメジャーシーンの水面(surface)へと姿を現す怪物(JID)の不気味なアウトロ。

[Skit]

Nah bruh (Huh?)
いや、兄弟(あぁ?)
※曲の終わりの唐突なスキット。アルバムの別の楽曲や、彼らのフッドでの日常の会話へとシームレスに繋がっていく演出であり、アトランタの若者たちのリアルな空気感をそのままパッケージしている。