UGMKM

Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

UGMKM ARCHIVE

Find Music By Artist, Genre.

和訳・解説記事を、アーティスト名・ジャンルから探せます。

The Weeknd - Starboy (Deluxe) 【全21曲和訳・アルバム総合解説】

『Starboy (Deluxe)』は、The Weekndが過去の自分を破壊して巨大なスター人格を作り、その鎧の内側にある孤独まで露出させる作品である。Daft Punkの硬質な電子音、トラップの重低音、1980年代を思わせるシンセポップ、Kendrick LamarやFutureらの客演が、成功後の生活を複数の角度から映し出す。2016年の本編は「Starboy」の自己改造から「I Feel It Coming」の柔らかな接近までを描き、2023年のデラックス版はAriana Grande、Kygo、A$AP Rocky、Young Thugが参加した3曲で、その物語が後年どのように再解釈されたかを示す。21曲という長さは冗長さも生むが、その過剰さまで含めて、名声によって膨張したThe Weekndという人物像に似合っている。

目次

アルバム解説

概要

カナダ・トロント出身のThe WeekndことAbel Tesfayeは、2011年の『House of Balloons』『Thursday』『Echoes of Silence』によって広く知られるようになった。深い残響、曖昧に加工されたサンプリング、鋭いファルセットを使い、ドラッグ、欲望、感情的な支配、都市の孤独を描いた初期作品は、2010年代前半のオルタナティブR&Bを代表する潮流のひとつとなった。2015年の『Beauty Behind the Madness』では、「The Hills」と「Can’t Feel My Face」の成功を通じ、その暗い人物像を世界規模のポップ市場へ持ち込んでいる。

オリジナル版『Starboy』は2016年11月25日にXOとRepublic Recordsから発表された、The Weekndの3作目のスタジオ・アルバムである。The WeekndとDoc McKinneyがエグゼクティブ・プロデューサーを務め、Daft Punk、Cirkut、Metro Boomin、Frank Dukes、Max Martin、Ali Payami、Diplo、Cashmere Cat、Labrinthらが制作に参加した。ゲストにはDaft Punk、Lana Del Rey、Kendrick Lamar、Futureが名を連ねている。

『Starboy (Deluxe)』は2023年3月14日に配信され、オリジナル版の18曲へ「Die For You (Remix)」「Starboy (Kygo Remix)」「Reminder (Remix)」を追加した。「Die For You (Remix)」にはAriana Grande、「Reminder (Remix)」にはA$AP RockyとYoung Thugが参加している。後年発売されたCD版も同じ21曲構成を採用しており、2016年の作品に対する再評価と再流通の過程まで一枚にまとめた版である。

前作との違いは、オルタナティブR&Bとポップの衝突そのものを主題にするのではなく、シンセポップ、ディスコ、ファンク、トラップ、ポップラップを同じスター人格の下へ並べたことだ。「Starboy」と「I Feel It Coming」ではDaft Punkが本編の入口と出口を担当し、「Sidewalks」や「Six Feet Under」ではヒップホップとの接続が強まる。「Rockin’」「Secrets」「A Lonely Night」では、1980年代のダンス・ポップを思わせる硬いドラムと明るいシンセが前へ出ている。

デラックス版の3曲は、本編の物語を先へ進める新曲ではない。むしろ、2016年の楽曲が後年のポップ、EDM、ヒップホップの文脈でどのように再構成されたかを示す補遺である。初めて聴く際は18曲目で一度区切り、19曲目以降を後日談として聴くと、本編の曲順とデラックス版の役割を分けて理解しやすい。

コアテーマと考察

1. 過去の自分を破壊して作る「Starboy」という人格

表題曲「Starboy」は、成功を報告するだけでなく、過去のThe Weekndを消去して新しい人物を提示する宣言として機能する。高級車、富、名声、消費のイメージを並べ、自分がポップ市場の中心へ到達した事実を外部へ誇示する。「Reminder」と「Sidewalks」もこの自己紹介を引き継ぎ、現在の地位と、そこへ至るまでの経歴を異なる角度から語っている。

Daft Punkが制作した「Starboy」のビートは、硬いドラム、反復するシンセ、低く脈打つベースによって機械的な威圧感を作る。人間らしい高揚より、スターという装置が起動したように響く音だ。『Beauty Behind the Madness』で大衆的な成功を得たThe Weekndが、その成功を一時的な出来事ではなく、新しい人格へ定着させる役割を担っている。

2016年前後のポップとヒップホップでは、SNS上の自己演出、高級ブランド、ストリーミング上の数字がスターの物語と密接に結びついていた。The Weekndはその文化を外部から批判するのではなく、自ら消費へ没入しながら巨大化する側に立つ。成功を祝うほど、かつての匿名性や脆さが商品へ変わっていくという矛盾が、このアルバム固有の緊張を作っている。

2. 消費を誇示しながら、消費される自分を恐れる

「Starboy」「Reminder」「All I Know」では、車、金、地位、性的な成功が自己証明の道具として使われる。ところが「Attention」では、親密な関係さえ、相手が愛ではなく注目を求める行為として疑われる。「Ordinary Life」では、スターとしての異常な生活が寿命を縮める可能性まで意識され、豪華さは安心ではなく、制御不能な速度へ変わる。

この矛盾は音の表面にも現れる。「Reminder」の余白を残したトラップ・ビートは余裕を感じさせるが、反復するフックは自分の価値を忘れさせまいとする確認作業のようでもある。「Attention」は音数と起伏を抑え、派手な成功の裏にある疑念を前へ出す。大きく聞こえる曲と空白の多い曲を交互に置くことで、スターの自信が一定ではないことを示している。

The Weekndは初期から、他者を欲望の対象として扱う語りを繰り返してきた。『Starboy』では本人もまた、名声、楽曲、キャラクターを通して大衆に消費される存在となる。消費文化を拒むのではなく、誰よりも享楽しながら、その内部で自分の実体が失われる不安を漏らす点に、この作品のねじれがある。

3. ダンスフロアの明るさで覆う不信と孤独

「Rockin’」「Secrets」「Love to Lay」「A Lonely Night」は、踊れるリズムと、人間関係への強い不信を組み合わせている。「Secrets」では相手が隠している感情を見抜こうとし、「Love to Lay」では親密さが愛ではなく、一時的な欲望として整理される。「A Lonely Night」は関係を断ち切る決断を軽快なポップへ変換するが、題名が示す通り、その強さの後には孤独が残る。

硬いスネア、明るいシンセ、反復するベースは、歌詞の疑念を軽く聞かせるためだけに使われているのではない。身体が踊る間だけ、主人公は相手への不信を処理できる。「Secrets」ではThe Romanticsの「Talking in Your Sleep」とTears for Fearsの「Pale Shelter」に由来する要素が使われ、1980年代ポップの記憶と現代的な疑念が接続されている。

『Beauty Behind the Madness』でも明るいポップと暗い歌詞の落差は使われていたが、『Starboy』ではその方法がより広い範囲へ拡張された。ポップ市場での成功後、The Weekndは孤独を静かなバラードに限定せず、クラブやラジオで流れる音へ変換するようになった。楽しさと不信が同じテンポで進むことが、この時期の音楽を特徴づけている。

4. 死を演出しながら、誰かに救われたがる矛盾

「Party Monster」「Six Feet Under」「Ordinary Life」では、死や埋葬を連想させる言葉が、名声、金、欲望と結びつく。「Ordinary Life」の主人公は危険な速度で生きる自分を演出し、破滅までスター像の一部へ取り込む。しかし後半の「Nothing Without You」「Die For You」では、他者なしでは自分を維持できないという脆さが前へ出る。

前半の低音とトラップ・ドラムは死を威圧的なイメージへ変えるが、「Die For You」では柔らかなシンセと伸びるコーラスが、死の比喩を献身の言葉へ移す。「I Feel It Coming」まで進むと、押しつけるような欲望は後退し、時間をかけて相手へ近づこうとする歌い方に変わる。救済を断定できる結末ではないものの、主人公の姿勢は支配から受容へわずかに動いている。

デラックス版の「Die For You (Remix)」ではAriana Grandeの視点が加わり、原曲の一方向的な告白が相互的な対話へ変わる。ここでは、孤独な献身として閉じていた感情が、相手側にも残っていた未練として返答される。後年の客演によって曲の意味が変わること自体が、『Starboy』の主人公が完全な孤独から抜け出せる可能性を補っている。

アルバム全体の流れ

前半は、新しいスター人格の誕生と、その人物が支配する夜を描く。「Starboy」は過去の自分を破壊したという宣言から始まり、「Party Monster」では名声、欲望、記憶の混乱がひとつの夜へ流れ込む。「False Alarm」はロック的な攻撃性と絶叫を用いて速度を上げ、「Reminder」はその興奮を抑え、現在の地位を冷静に再確認する。

「Rockin’」から「True Colors」までは、ポップなリズムの中で関係への警戒が深まる区間だ。「Rockin’」では真剣な関係を避けようとし、「Secrets」では相手の隠し事を疑い、「True Colors」では仮面を外すよう求める。踊れる曲が続いているにもかかわらず、主人公は誰かを信じる方向ではなく、相手の本心を監視する方向へ進んでいる。

中盤の「Stargirl Interlude」は、Lana Del Reyの短い歌唱によって視点を一時的にThe Weekndの外へ移す。男性側の独白が続くアルバムに、別の声と身体感覚を持ち込むインタールードだ。その直後の「Sidewalks」ではKendrick Lamarが加わり、個人的な欲望から、貧困、出自、成功を振り返るヒップホップ的な自己叙述へ切り替わる。

「Six Feet Under」から「Attention」までは、金、身体、孤独が相互に交換される区間として聴ける。「Six Feet Under」では富を追う人物への観察があり、「Love to Lay」と「A Lonely Night」では関係が一時的な接触と別離へ分解される。「Attention」に入ると、主人公は相手の動機を疑うが、それは自分自身が愛情と注目を混同していることの投影にも聞こえる。

本編後半は、華やかなStarboy像の下にある死への接近と依存を露出させる。「Ordinary Life」は異常な生活を誇示しながら、その生活が長く続かない可能性を示す。「Nothing Without You」と「All I Know」では孤独を避けようとする感情が異なる形で現れ、「Die For You」では距離や別離を越えて残る執着が、アルバムで最も直接的な愛情表現へ変わる。

本編最終曲「I Feel It Coming」は、Daft Punkの滑らかなディスコ・ファンクによって、冒頭の「Starboy」と対になる出口を作る。同じDaft Punkとの共演でも、1曲目が硬い自己改造の宣言だったのに対し、最終曲は相手を急かさず、徐々に心を開かせようとする。18曲を通して聴くことで、威圧的なスターの誕生から、親密さを学び直す可能性までの緩やかな移動が見えてくる。

19曲目以降は、物語の続編ではなく、別時代から本編を照らすボーナス・セクションである。「Die For You (Remix)」は孤独な告白をデュエットへ変え、「Starboy (Kygo Remix)」は自己改造の宣言を開放的なダンス音楽へ移す。「Reminder (Remix)」ではA$AP RockyとYoung Thugが加わり、The Weeknd一人の成功譚を、複数のスターが競い合うヒップホップ的な空間へ拡張する。

サウンド面の特徴

『Starboy』の中心にあるのは、シンセサイザー、電子ドラム、深いサブベースを使ったデジタルな音響である。表題曲ではDaft Punkの反復的なシンセと硬いビートが、楽曲を冷たい機械のように前進させる。「Party Monster」と「Six Feet Under」では低く沈むベースとトラップの細かなハイハットが、欲望や金銭への執着に重量を与えている。

「False Alarm」は歪んだギター、荒いドラム、叫ぶようなコーラスによって、アルバム内でも特に攻撃的な音を持つ。対して「Reminder」は余白のあるトラップ・ビートを使い、The Weekndの低い語り口と自信を前へ出す。前者が制御を失うスターを描くのに対し、後者は自分の地位を完全に把握している人物として響く。

「Rockin’」ではMax MartinとAli Payamiによる引き締まったダンス・ポップの構造が使われ、一定の四つ打ち感覚と明快なコーラスが身体を前へ動かす。「Secrets」はニューウェイヴやシンセポップの質感を濃くし、ギターと鍵盤の反復で疑念を踊れる音へ変換する。「A Lonely Night」もファンク寄りの軽快なベースと短いフレーズを用い、別離の決断を重苦しいバラードにしない。

アルバム中盤では、トラップとポップの境界が頻繁に切り替わる。「Sidewalks」は太いギターの響きと重いドラムの上に、The Weekndの歌とKendrick Lamarのラップを配置する。「All I Know」ではFutureのざらついた声とオートチューンを生かした歌唱が加わり、The Weekndの滑らかなファルセットと異なる種類の疲労感を作る。

「Die For You」は柔らかなシンセパッド、抑制されたドラム、徐々に広がるコーラスによって感情を押し上げる。「I Feel It Coming」ではDaft Punkがディスコとファンクの要素を整理し、丸みのあるベース、細かなギター、滑らかなシンセを配置している。アルバムの冒頭と本編最後をDaft Punkが担当することで、冷たい未来像から温度のあるダンスフロアへ移る円環が作られている。

デラックス曲では、既存曲の輪郭が客演者とリミキサーによって組み替えられる。「Die For You (Remix)」はAriana Grandeの透明感のある高音を加え、The Weekndの独白を男女の応答へ変える。「Starboy (Kygo Remix)」は原曲の硬さを和らげ、明るい鍵盤と開放的なダンス・ビートによって、夜の自己宣言を屋外フェスティバルにも似合う音へ移す。

「Reminder (Remix)」では、原曲の余白を生かしながらA$AP RockyとYoung Thugのラップが追加される。端正なフロウと予測しにくい声の動きが並ぶことで、同じ成功譚に複数のスター像が共存する。21曲版ではThe Weekndのファルセットだけでなく、ラップ、デュエット、EDM的な再構成まで含めた声とビートの変化を比較できる。

歌詞世界の特徴

歌詞の中心にいるのは、名声を手にした自分を誇りながら、その人物像にのみ込まれつつある語り手である。「Starboy」と「Reminder」では富や地位が自己証明として使われ、「Sidewalks」では現在の成功が過去の困窮との対比によって強調される。成功は努力の結果として語られる一方、それを証明し続けなければならない不安も残る。

自慢にはしばしば自己批判が隣接する。「Ordinary Life」では危険な暮らしを派手に語りながら、その先に死があることを理解している。「Party Monster」でも欲望を支配しているように見えて、記憶や認識は不安定だ。主人公は自分の破滅を警告するが、その警告まで魅力的なイメージへ変えてしまう。

恋愛では、相手の本心を知りたいという欲求が監視や疑念へ近づく。「Secrets」は隠された感情を暴こうとし、「True Colors」は相手に本性を見せるよう求める。「Attention」では相手の愛情を承認欲求として疑うが、語り手自身も大衆の注目によってStarboyという地位を維持しているため、その批判は自分へ返ってくる。

女性を欲望や裏切りの象徴として扱う場面が多いことには注意が必要である。「Party Monster」「Six Feet Under」「Love to Lay」では、女性の人物像が語り手の享楽や不信を示す装置へ縮小される部分がある。「Stargirl Interlude」でLana Del Reyの声が前景化する時間は短いが、男性側の独白が続くアルバムに別の欲望の視点を持ち込んでいる。

終盤では、一人称の強さが次第に崩れる。「Nothing Without You」は相手がいなければ自己を保てない感情を示し、「Die For You」は距離があっても消えない執着を告白する。「I Feel It Coming」では相手を所有しようとする言葉より、過去の傷を理解しながら待とうとする姿勢が強い。完全な成長を断定できるわけではないが、前半の支配的な語りより柔らかな関係が想像されている。

デラックス版は、原曲の一人称が別の声によってどう変わるかを示す。「Die For You (Remix)」ではAriana Grandeの歌唱によって、原曲の献身が一方的な自己演出ではなく、離れた二人に共有された感情として響く。「Reminder (Remix)」ではA$AP RockyとYoung Thugがそれぞれの成功観を持ち込み、The Weekndの自己確認を男性スター同士の競争と連帯へ広げている。

初めて聴く人へのおすすめの聴き方

最初の入口には「Starboy」と「I Feel It Coming」が適している。同じDaft Punkとの共演でありながら、前者は硬いドラムと反復的なシンセによる自己改造の宣言、後者は滑らかなファンクによる親密な誘いである。2曲を続けて聴けば、アルバムが提示するStarboy像の両端を短時間で確認できる。

サウンドを中心に聴くなら、「False Alarm」「Secrets」「Sidewalks」「Die For You」を比較したい。ロック的な攻撃性、ニューウェイヴの冷たい反復、ヒップホップの重量感、シンセバラードの広がりが、それぞれ異なる制作方法でThe Weekndの声を支えている。21曲の長さを、複数のジャンルと歌唱法を試すショーケースとして捉えやすくなる並びだ。

歌詞を確認しながら聴きたいのは、「Reminder」「Attention」「Ordinary Life」である。自分の成功を再確認する声、相手の承認欲求を疑う声、異常な生活を受け入れる声を順に追うと、スターの自信が不安と表裏になっていることが見えてくる。「Nothing Without You」から「Die For You」への流れでは、その不安が愛情への依存へ変わる瞬間にも注目したい。

「Stargirl Interlude」は短いが、飛ばさずに聴く意味がある。「True Colors」まで続いた相手への疑念を一度中断し、Lana Del Reyの声によってアルバムの欲望を別方向から見せる。その直後に「Sidewalks」が置かれることで、私的な関係から出自と成功の物語へ視野が切り替わる。

1回目は18曲目の「I Feel It Coming」まで聴き、オリジナル版の物語を味わうとよい。2回目にデラックス曲まで進み、「Die For You」の独白がAriana Grandeとの対話へどう変わるか、「Starboy」の冷たいビートがKygoによってどう開かれるかを比較したい。「Reminder」の原曲とリミックスを並べれば、The Weeknd一人の自己神話が客演によって拡張される過程も分かる。

総評

『Starboy』最大の魅力は、The Weekndが獲得したスター性を完成形として見せず、作り上げた人物像が不安定になる過程まで収録したことにある。「Starboy」と「Reminder」は富と名声を堂々と誇るが、「Attention」「Ordinary Life」「Nothing Without You」は、その自信が承認欲求、死への接近、他者への依存によって支えられていることを明かす。成功を祝う音と、成功後にも消えない孤独が、長い曲順の中で何度も位置を入れ替える。

前作『Beauty Behind the Madness』では、オルタナティブR&Bの暗さを大衆的なポップへ翻訳することが中心だった。『Starboy』ではすでに成功した人物として、Daft Punkの電子音、トラップ、ニューウェイヴ、ディスコ、ポップラップを行き来している。その広がりは、後の『After Hours』や『Dawn FM』で展開される、映像的なコンセプトとポップを結びつける方法にもつながっていく。

一方、オリジナル版だけでも18曲約69分という長さがあり、中盤では欲望、裏切り、孤独という主題が似たテンポで続く。デラックス版はさらに3曲を加えるため、21曲を一度に聴くと本編の結末がぼやけやすい。特に「I Feel It Coming」の穏やかな着地を重視するなら、19曲目以降は独立した補遺として扱う方が作品の構造を理解しやすい。

追加曲にも統一された物語上の必然があるわけではない。「Die For You (Remix)」は原曲の感情を対話へ発展させる一方、「Starboy (Kygo Remix)」と「Reminder (Remix)」は、楽曲が別の市場でどう機能するかを示す性格が強い。そのため、デラックス版を新作部分まで含めた一続きのコンセプト作品と捉えると、まとまりに欠けると感じる可能性がある。

それでも、この版には2016年の『Starboy』が後年まで生き続けた過程を記録する価値がある。特に「Die For You」が再び広く注目され、Ariana Grandeとのリミックスを含むデラックス版が2023年に編成された経緯は、アルバム曲が時間を越えて新しい代表曲になり得る時代を象徴している。

高級車と名声で武装した主人公は、やがて誰かなしでは自分を維持できないと告白し、「I Feel It Coming」では支配より相手を待つことを選ぶ。さらにデラックス曲では、その歌が別の歌手やプロデューサーへ渡され、新しい意味を獲得していく。21曲を聴き終えて冒頭へ戻ると、「Starboy」の威圧感は成功の完成ではなく、崩れやすい人格を守るための起動音に聞こえてくる。

全トラック和訳・解説

1. Starboy

Daft Punkの硬質な電子ビートに乗せ、富、名声、高級車を掲げながら、過去の自分を破壊して新しいスター人格を宣言する。アルバム全体の主人公と音響空間を一度に起動するオープニング曲である。

2. Party Monster

欲望、名声、記憶の混乱を、重い低音と不穏なコーラスの中へ沈める。「Starboy」で確立した自信のすぐ裏に、制御を失いつつある夜を配置する役割を担う。

3. False Alarm

危険な刺激を求める人物を、歪んだギター、荒いドラム、絶叫するコーラスで表現する。前2曲の冷たい威圧感を爆発的な焦燥へ変え、アルバム序盤の速度を一気に引き上げる。

4. Reminder

自分の出自、音楽性、成功を再確認し、周囲が期待するポップスター像へ従属しないと宣言する。余白のあるトラップ・ビートが、前曲の混乱から距離を取り、The Weekndの低い語り口を前面へ出す。

5. Rockin’

深刻な関係を避け、身体的な楽しさを保とうとする姿勢を、明快なダンス・ポップへ変換する。「Reminder」の自己主張をクラブへ運び、アルバムのポップな側面を本格的に開く。

6. Secrets

相手が隠している感情や裏切りを見抜こうとする歌であり、1980年代のニューウェイヴを思わせるギターとシンセが疑念を踊れる形に整える。明るい音の下で人間不信が進行する中盤への入口だ。

7. True Colors

相手に本当の姿を明かすよう求めながら、自分もまた傷つくことを恐れている。音数を抑えたR&Bによって、「Secrets」の外向きな疑いを私的で静かな対話へ移す。

8. Stargirl Interlude

Lana Del Reyの声を中心に、短い時間で欲望と危うい親密さを描くインタールードである。The Weekndの男性的な独白を中断し、後半へ進む前に異なる身体感覚をアルバムへ持ち込む。

9. Sidewalks

路上から現在の成功へ至った経歴を振り返り、Kendrick Lamarのラップが出自と自己形成の視点を補強する。私的な欲望が続いた前半から、社会的な位置とキャリアを語る中盤へ視野を広げる。

10. Six Feet Under

富を追い続ける人物の姿を、暗いトラップ・ビートと沈む低音で描く。成功への執着と死のイメージを接近させ、アルバム後半の破滅的な気配を強める。

11. Love to Lay

親密さを愛ではなく一時的な欲望として扱う関係を、軽快なリズムと反復するコーラスで描く。「Six Feet Under」の冷たい金銭感覚を、人間関係における交換可能性へ移し替える曲だ。

12. A Lonely Night

不安定な相手との関係を終わらせようとする決断を、ファンク寄りの明るいポップへ変換する。強気な別離の言葉とは裏腹に、題名がその後に残る孤独を明示している。

13. Attention

相手が愛情ではなく注目を求めているのではないかと疑い、関係の動機を問い直す。抑制された音像によって、スターである語り手自身も承認に依存しているという皮肉を浮かび上がらせる。

14. Ordinary Life

名声、速度、危険な快楽に囲まれた生活を誇示しながら、その先に早すぎる死があることを意識する。Starboyという人格の華やかさと破滅願望を直接接続する、終盤の転換点である。

15. Nothing Without You

相手を失った後、自分だけでは完全になれないという依存を認める。「Ordinary Life」の死を恐れない態度を崩し、強いスター像の内部にある感情的な空白を前へ出す。

16. All I Know

他者からの警告を理解しながら、それでも危険な関係へ踏み込む姿勢を歌う。Futureのざらついた声がThe Weekndの滑らかな歌唱と対照を作り、愛と自己破壊をトラップの重さへ戻す。

17. Die For You

距離や別離があっても消えない愛情を、柔らかなシンセと徐々に広がるコーラスで告白する。誇示と不信を重ねてきたアルバムの終盤で、主人公の防衛を大きく崩す感情的な頂点だ。

18. I Feel It Coming

Daft Punkの滑らかなディスコ・ファンクに乗せ、傷を抱えた相手へ急がず近づこうとする。硬い自己改造を宣言した「Starboy」と対になり、支配より受容の可能性を残して本編を閉じる。

19. Die For You (Remix)

Ariana Grandeの歌唱が加わり、原曲の一方向的な献身を、離れた二人が感情を返し合うデュエットへ変える。デラックス版の入口として、2016年の孤独な告白を後年の視点から読み替える。

20. Starboy (Kygo Remix)

原曲の冷たく機械的なビートを、Kygoらしい明るい鍵盤と開放的なダンス・サウンドへ組み替える。過去の自分を壊す緊張感より、新しい人格が大衆的な祝祭へ解放される感覚を強めたリミックス。

21. Reminder (Remix)

A$AP RockyとYoung Thugを迎え、The Weeknd一人の成功確認を、異なる個性を持つスター同士の競演へ広げる。原曲の落ち着いた自信を保ちながら、ヒップホップ・コミュニティとの結びつきを強調してデラックス版を締めくくる。