Artist: MF DOOM (feat. StaHHr & 4-IZE)
Album: MM..FOOD
Song Title: Guinnessez
概要
2004年にリリースされたMF DOOMの傑作コンセプトアルバム『MM..FOOD』の終盤に配置された、哀愁漂うストーリーテリング楽曲である。本作の主役はDOOM自身ではなく、アトランタを拠点に活動するフィメールラッパーのStaHHr(当時はAngelika名義)と、フックを担当する4-IZEだ。タイトルの「Guinnessez」は黒ビールの「ギネス」の複数形であり、失恋の痛みを酒で紛らわそうとする女性の姿を描写している。StaHHrのヴァースは、口先だけで不誠実な男(DOOMが演じるヴィランのようなクズ男)に惹かれ、裏切られ、ボロボロになっていく過程を、見事なライミングと生々しい感情で綴っている。4-IZEが歌う「愛は戦争だ」というコーラスが、心の傷(War wound)を負った女性の痛みをミリタリーのメタファーで浮き彫りにする。冒頭と結末にはアニメ版『ファンタスティック・フォー』などのサンプリングが配置され、ヴィランであるドクター・ドゥームの無慈悲なキャラクター性が、現実世界の残酷な恋愛関係と巧妙にリンクしている。
和訳
[Intro]
"Running desperately low on food, they were forced to turn back"
「食料が絶望的に不足し、彼らは引き返すことを余儀なくされた」
※アルバムの「食べ物」というテーマに沿ったサンプリング。
"Well, I'll be!"
「なんてこった!」
"What's that villain doing?!"
「あの悪党は何をしているんだ?!」
"Wait princess, your voice sounds familiar"
「待ってください王女様、あなたの声には聞き覚えがあります」
"Well, it should—you see, DOOM wants me to marry him..."
「ええ、そうでしょうね—いいですか、DOOMは私と結婚したがっているの…」
"What?"
「何ですって?」
"...but after seeing what he has done to our peaceful world, I despise him. He intends to destroy all of us if I persist in refusing him, even now!"
「…でも、彼が私たちの平和な世界にしたことを見て、私は彼を軽蔑しているわ。私がこのまま拒み続ければ、彼は私たち全員を滅ぼすつもりよ、今すぐにでもね!」
※ドクター・ドゥームが強引に王女に結婚を迫るアニメのシーン。この「権力的で自分勝手な男(ヴィラン)」の姿が、続くヴァースで語られるダメ男のメタファーとなっている。
[Verse 1: Angelika]
Sheitan never came so ill, he got skill
悪魔(シャイターン)でさえこれほど残酷に現れたことはない、奴は巧みだった
※「Sheitan」はイスラム教における悪魔。
Met a brother from the grill that gave my spine chills
グリルズをつけたあの男に出会って、私の背筋は凍りついたのさ
※「grill」は歯に装着するジュエリー(グリルズ)、あるいはBBQ(地元の集まり)のこと。彼との出会いが強烈だったことを表現している。
All thirty three nerves, controlling my curves
私のカーブをコントロールする、33本すべての神経がね
※人間の脊椎を構成する33個の椎骨のこと。彼に全身を支配されたような感覚。
Common sense just swerved every time I got served
言い負かされるたびに、常識はどこかへ吹き飛んでいった
Stress, frustration, empty rhetoric
ストレス、フラストレーション、空虚な言葉の数々
Cold as winter in Connecticut, compassion lacking deficit
コネチカットの冬のように冷たく、思いやりが欠如した赤字状態
Thought it was love like, sent from above, you not a soulmate
天から送られた愛だと思っていたけれど、あなたはソウルメイトなんかじゃなかった
More ways and actions of a primate
どちらかというと、霊長類(猿)のようなやり方と行動ね
Who by low and census coming faker than extensions
国勢調査で見ても、エクステよりも偽物な奴
※どこからどう見ても、髪の毛のエクステンション以上にフェイク(嘘つき)な男だというディス。
Pissed away all good intentions, outta here sister was missin'
すべての善意を台無しにして、私はここから消え去ることにしたの
Intuition, maybe it was me, I couldn't see
直感、たぶん私が悪かったのね、見えていなかった
Holding onto fantasy, getting bitten by reality
ファンタジーにしがみつき、現実に噛みつかれていたのさ
[Chorus: 4-IZE]
War wound, purple heart, love veteran
戦争の傷、パープルハート章、愛の退役軍人
※「Purple Heart」はアメリカ軍で戦闘により負傷した者に与えられる名誉負傷章。過酷な恋愛を生き抜いた傷だらけの女性を退役軍人に例えている。
Morphine, pain killers, drugs and medicine
モルヒネ、鎮痛剤、ドラッグに薬
Anything just to forget the hurt
痛みを忘れるためなら何だっていい
Incoming! Take cover, hit the dirt
飛んでくるぞ! 身を隠せ、地面に伏せろ
On the front-line, there's casualties in the mind
最前線では、心に死傷者が出る
And the POW's get left behind
そして捕虜(POW)は置き去りにされるんだ
Mentally scarred for life, love is war
一生残る心の傷、愛は戦争だ
And some chicks are just too hard to wife
そして、妻にするには難しすぎる女たちもいるのさ
[Verse 2: Angelika]
I shoulda deaded it from genesis instead of hittin' the Guinnesses
ギネスビールをあおる代わりに、最初から関係を終わらせておくべきだった
※タイトルの回収。「genesis(始まり)」の段階で関係を断ち切るべきだったという後悔と、酒(Guinnessez)に逃げている現状。
Now I'm free falling, cursing at the street, bawling
今や私は真っ逆さまに落ちて、通りに悪態をつき、大声で泣いている
He ceased calling, no appetite for feast darling
彼は電話をかけてこなくなり、ごちそうを食べる食欲もないわ、ダーリン
So deep all in, I bet he never stop balling women
あまりにも深くのめり込みすぎた、きっと彼は女遊びをやめないでしょうね
Forsake God for the sin of a man
一人の男の罪のために、神を見捨てる
Sacrifice a whole life for a slice, overstand?
たった一切れのために人生を丸ごと犠牲にする、完全に理解できる?
※「slice」はピザやパイの一切れ=ほんのわずかな快楽や愛の欠片のこと。「overstand」は理解(understand)を超えた深い悟りを意味するストリート・スラング。
Maybe it's a lack of pigment, loneliness imagine figment
たぶん色素の欠乏のせいね、孤独が生み出した想像上の産物
Only got the car tinted to pull extra G's in it
車にスモークを貼ったのは、余分なG(男たち)を引き込むためだけ
Damn Jody, coming with the okie doke, pokie poke
クソみたいなジョディ、ペテンを仕掛けてきて、ちょっかいを出してくる
※「Jody」は彼氏や夫が不在の間に女性を寝取る男を指すミリタリー・スラング。「okie doke」は騙すこと。
Steady rockin boats, got me aimin' for ya throats
常に波風を立てて、私にあなたの喉元を狙わせる
※「rock the boat」は平穏な状況をかき乱すこと。
Sniper scope, weren't we supposed to elope?
スナイパースコープ、私たちは駆け落ちするはずじゃなかったの?
Propose then ya froze, I don't think that I can cope
プロポーズして、あなたは凍りついた、私にはもう耐えられないと思う
[Chorus: 4-IZE]
War wound, purple heart, love veteran
戦争の傷、パープルハート章、愛の退役軍人
Morphine, pain killers, drugs and medicine
モルヒネ、鎮痛剤、ドラッグに薬
Anything just to forget the hurt
痛みを忘れるためなら何だっていい
Incoming! Take cover, hit the dirt
飛んでくるぞ! 身を隠せ、地面に伏せろ
On the front-line, there's casualties in the mind
最前線では、心に死傷者が出る
And the POW's get left behind
そして捕虜は置き去りにされるんだ
Mentally scarred for life, love is war
一生残る心の傷、愛は戦争だ
And some chicks are just too hard to wife
そして、妻にするには難しすぎる女たちもいるのさ
[Verse 3: Angelika]
Constant frustration, stemming from a no-win situation
絶え間ないフラストレーション、勝算のない状況から生じている
Rushing lust and fornication adding to the complication
焦った欲望と姦淫が、事態をさらに複雑にする
Patience is a virtue, pain run deep when love desert you
忍耐は美徳、愛があなたを見捨てる時、痛みは深く走る
Listenin' to whisperin', choosing chaos over discipline
囁き声に耳を傾け、規律よりも混沌を選ぶ
Simpleton, life should really be a piece of Entenmann’s
愚か者、人生は本当はエンテンマンのケーキみたいに甘いはずなのに
※「Entenmann's」はアメリカのスーパーで売られている有名な焼き菓子ブランド。「a piece of cake(楽勝、簡単なこと)」という慣用句を企業名で捻ったワードプレイ。
Relationships strengthening, flower essence: Penstemon
関係が強まる、花の香水:ペンステモン
※「Penstemon」はペンステモンという花。内面の強さや逆境を乗り越える力を象徴するフラワーエッセンスとして使われる。
Gentlemen, my favorite shit, so I've never forsaken it
紳士たち、私のお気に入りよ、だから決して見捨てたことはない
I persevere, make it fit, sculpting and reshaping it
私は耐え忍び、フィットさせ、彫刻し、形を整え直す
Taking sips off a fifth of it, passionate
ボトルの5分の1を一口すする、情熱的ね
※「a fifth」は1/5ガロン(約750ml)の標準的な酒のボトルのこと。酒を飲みながら関係を修復しようと試みている。
Intense, incense candles lit, scandalous
激しい、お香のキャンドルが灯される、スキャンダラスだわ
Emotional bandages, why would he abandon this?
感情の包帯、どうして彼はこれを見捨てるのかしら?
Guess he couldn't handle it, the boss is magnanimous
たぶん彼には手に負えなかったのね、ボスは寛大だわ
[Chorus: 4-IZE]
War wound, purple heart, love veteran
戦争の傷、パープルハート章、愛の退役軍人
Morphine, pain killers, drugs and medicine
モルヒネ、鎮痛剤、ドラッグに薬
Anything just to forget the hurt
痛みを忘れるためなら何だっていい
Incoming! Take cover, hit the dirt
飛んでくるぞ! 身を隠せ、地面に伏せろ
On the front-line, there's casualties in the mind
最前線では、心に死傷者が出る
And the POW's get left behind
そして捕虜は置き去りにされるんだ
Mentally scarred for life, love is war
一生残る心の傷、愛は戦争だ
And some chicks are just too hard to wife
そして、妻にするには難しすぎる女たちもいるのさ
[Outro: Samples]
"Look! There, ya see"
「見ろ! あそこだ、分かるか」
"Oh, boy—here we go!"
「やれやれ—始まるぞ!」
"How come all you, college boys wear them faggotty-looking white shoes—"
「どうしてお前ら大学生ってのは、そんなオカマみたいな白い靴を履いてるんだ—」
"I don't care—"
「気にしないよ—」
"—they look funny as hell"
「—めちゃくちゃ滑稽に見えるぜ」
"That and them black knee stockings."
「それと、その黒いハイソックスもな。」
※ここから古い映画やコメディからの不条理な音声サンプリングが続く。無関係な会話の断片を繋ぎ合わせて混沌とした世界観を作っている。
"Stop!"
「やめて!」
"Ah, yes, looks like she got burnt laces"
「ああ、そうだな、彼女は靴紐が焦げてるみたいだ」
"You didn't wash your neck—sometimes we don't wash our necks, but that's okay
「お前は首を洗ってないな—時々俺たちも首を洗わないことがあるが、まあいいさ
Oh, I—I washed my neck. Take—take a look at my neck"
ああ、俺は—俺は首を洗ったぞ。ほら—俺の首を見てみろよ」
"Hold it right there, you!"
「そこで止まれ、お前!」
"Where you're going—there are no jokes"
「お前が行く場所には—ジョークなんて通じないぞ」
"Aw, boy! I'm beginning to think that armor-plated Gargoyle doesn't like me"
「やれやれ! あの装甲板で覆われたガーゴイルは、俺のことが嫌いなんじゃないかと思い始めてきたよ」
※「装甲板で覆われたガーゴイル」は鉄仮面を被ったドクター・ドゥーム(=MF DOOM)のこと。スパイダーマンなどのアメコミ作品からのサンプリングで、DOOMのヴィランとしての立ち位置を改めて強調して曲を締めくくっている。
