Artist: MF DOOM
Album: MM..FOOD
Song Title: Kon Karne
概要
2004年にリリースされたMF DOOMの傑作コンセプトアルバム『MM..FOOD』に収録された本楽曲は、アルバムの「食べ物」というテーマと、DOOMの亡き実弟でありKMDのメンバーであったSubroc(DJ Subroc)への深い追悼の念が交差する感動的な一曲である。タイトルの「Kon Karne」は、メキシコ料理の「チリコンカン(Chili con carne:肉入り唐辛子)」と、悪党としての「Con(詐欺師・ペテン師)」をかけたダブルミーニングだ。ビートは、Sadeの「Is It a Crime」のメロウでジャジーなピアノとサックスのループを見事にサンプリングしており、Sadeのボーカルフレーズを曲の展開に合わせてフックとして機能させている。DOOMは自身の犯罪的なまでのライミングスキルとアンダーグラウンドでの覇権を誇示しつつ、最後には「ヒップホップ界のジミ・ヘンドリックス」と称えた弟Subrocへと曲を捧げている。彼のキャリアにおいて最もパーソナルで、リリシズムの極致とも言えるマスターピースである。
和訳
[Verse: MF DOOM & Sade Adu]
Darker than the East River, larger than the Empire State
イースト川よりも暗く、エンパイア・ステート・ビルよりも巨大だ
※ニューヨークの象徴的な場所を引き合いに出し、DOOMの存在感とストリートの闇の深さを表現している。
Where the beast who guard the barbed wire gate
そこは有刺鉄線のゲートを守る野獣が
Is on the job—not my fate, tired of the wait
仕事をしている場所—俺の運命じゃない、待つのはもうウンザリだ
※刑務所(有刺鉄線のゲートと看守の野獣)に入れられる運命を拒絶し、自らの手で運命を切り開く決意。
'Til the Villain bring deliverance from the dire straits
ヴィランがこの絶望的な状況から救いをもたらすまでな
※「the Villain」はDOOM自身。「dire straits(窮地)」は有名なロックバンドの名前でもある。
Fire at a higher rate, why debate the liars?
より高いレートで火(銃弾/ライム)を放つ、なぜ嘘つきどもと議論する必要がある?
Fliers scatter, buy a plate—isolate the wires
フライヤーが散らばり、プレートを買う—ワイヤーを分離しろ
※「buy a plate」は食事を買うことと、盗難車のナンバープレートを買うことのダブルミーニング。ワイヤーを分離するのは車を直結(ホットワイヤー)して盗む手順。
Try the straight pliers, if not—the vice grips
ストレートプライヤーを試せ、ダメならバイスグリップだ
A real price-saver way to acquire nice whips
イカした車(whips)を手に入れるための、マジで安上がりな方法さ
※車の窃盗の手順を淡々と語る、ヴィランとしての犯罪的なユーモア。
What a steal for real on wheels of steel
ターンテーブル(wheels of steel)の上での、マジでとんでもない盗み(名曲)だぜ
※「車を盗む」という話から、DJのターンテーブル(wheels of steel)でサンプリング(盗む)して名曲を生み出すというDJ・プロデューサーとしてのフレックスへとシームレスに移行している。
Stunner, a funner summer number-one meal deal-bummer
驚きの代物、楽しい夏のナンバーワンのセットメニュー、最悪だな
※ファストフードのセットメニュー(meal deal)のように、消費され使い捨てられるポップスへの皮肉。
A bizarre phenomenon—is your armor on?
奇妙な現象だ—お前はちゃんと鎧を着てるか?
※ドクター・ドゥーム(鎧を着た悪役)としてのペルソナ。
Take your cash, Karma, or break your fast—Ramadan
お前の金を奪う、カルマ(業)さ、それとも断食を破るか—ラマダンのようにな
Transaction drama—aw, come on, Barney
取引のドラマだ—おいおい、勘弁してくれよ、バーニー
※「Barney」はマヌケな警察官(『メイベリー110番』のバーニー・ファイフ)や、ダサい奴の代名詞(紫の恐竜バーニー)。
Clack, clack—pardon me, whack rap con carne
カチャ、カチャ—失礼、ワックなラップ入りのチリコンカン(コン・カルネ)だ
※「Clack, clack」は銃の装填音。ダサいラッパー(whack rap)を撃ち殺し、ミンチにしてチリコンカン(豆と肉の煮込み)として食ってやるという、タイトルの回収。
He came to feed the childrens like Sally Struthers
奴はサリー・ストラザースみたいに、子供たちに飯を食わせに来たのさ
※「Sally Struthers」は発展途上国の子供たちの支援活動(キリスト教児童基金)のテレビCMで有名だった女優。DOOMが飢えたヘッズたちに音楽(食料)を提供しているという比喩。
After that, he's going back to Cali, where's the—(—love is—)
その後で、奴はカリフォルニアに戻るんだ、そこは…(—愛がある場所—)
※LL Cool Jの「Going Back to Cali」の引用と、Sadeの「Is It a Crime」のボーカルサンプル「My love is wider, wider than Victoria Lake」の「love is」の部分を完璧なタイミングで挿入している神業。
Wilder than the Nile, hold power like the great pyramids
ナイル川よりもワイルドで、ピラミッドのような権力を握ってる
※「Nile」はSadeの曲名にも登場するアフリカの象徴。
Of Giza, and stay leanin' like the tower of Pisa
ギザのな、そしてピサの斜塔みたいに傾いたまま(リーンしたまま)だ
※「leanin'」は傾いていることと、リーン(コデイン入りのシロップ)を飲んでハイになっている状態のダブルミーニング。
Give him something he can feel that's soft to squeeza
奴に柔らかくて握り心地のいいものを与えてやれ
Raw with the pen, and on the mic—off the hezza
ペンを持てば生々しく、マイクを握れば—極上のヘイズ(マリファナ)でキマってる
※「hezza」はHaze(上質なマリファナ)のこと。
Get shot off that wide-eyed talk
目を丸くしてデカい口を叩いてると、撃ち殺されるぜ
And if he had a pot, he'd still piss on the sidewalk
たとえ奴が壺(トイレ)を持ってたとしても、やっぱり歩道に小便をするだろうな
※「not have a pot to piss in(小便をする壺すら持っていない=ひどく貧乏である)」という慣用句をひねり、どれだけ金持ちになってもストリートの粗野な振る舞いは変わらないという表現。
Can't take the street out the street-person
ストリートの人間から、ストリートの気質を抜くことはできないのさ
Lookin' for the perfect beat, coercion into heat-burstin'
完璧なビートを探し求め、強要されて銃(heat)をぶっ放す
They couldn't spot him on the spot date
奴らは現場の日時に、奴を見つけることができなかった
Got the only tape that come with a free hot-plate
無料のホットプレート(コンロ)が付いてくる唯一のテープを手に入れたぜ
※「hot-plate」は熱いビート(音楽)と、刑務所や貧困層が料理に使う電熱器のこと。DOOMの音楽は自給自足のサバイバルツールでもあるという比喩。
Whoever do get to see me sing
俺が歌う(ラップする)のを見ることができた奴は誰であれ
With the 3 D-ring sittin' stationary like B.B. King
B.B.キングみたいに、3つのDリング(バインダー)を持って座ったままの姿を見るだろうな
※ブルースの巨匠B.B. Kingが晩年、椅子に座ってギターを弾いていた姿と、DOOMが分厚いリリックノート(3つのDリングが付いたバインダー)を見ながら座ってラップする独特のライブスタイルを重ね合わせている。
Can see how it really sting, it ain't no front row
それがどれだけ心に刺さるか分かるはずさ、最前列なんてないぜ
Standing room only at the motocross stunt show
モトクロスのスタントショーみたいに、立ち見席のみだ
The ruckus ain't up to Snuffleupagus
この大騒ぎは、スナッフルパガスには荷が重いぜ
※『セサミストリート』に登場する巨大で動きの鈍いキャラクター。業界の鈍重なラッパーたちにはDOOMのスキル(騒動)にはついてこれないという皮肉。
Me and Sub' is like the brown Smothers Brothers (My love is—)
俺とサブロックは、褐色のスマザーズ・ブラザーズみたいなもんさ(俺の愛は—)
※「Smothers Brothers」は1960年代に活躍した白人の兄弟コメディアン・ミュージシャン。「Sub'」はDOOMの亡き実弟でありKMDのメンバーだったDJ Subrocのこと。弟との強い絆を語り、再びSadeのボーカル「My love is」を完璧に挿入し、弟への深い愛を表現している。
Vaster than the seven seas, bigger than Mount Kilimanjaro
七つの海よりも広く、キリマンジャロ山よりも巨大だ
※Sadeの歌詞「wider than Victoria Lake」に呼応するように、弟への愛とDOOMのスキルのスケールの大きさを語る。
If they don't know, fill 'em in tomorrow
もし奴らが知らないなら、明日教えてやれ
On the horror show, a mental note: return Bob’s record
このホラーショーで、心にメモしておくこと:ボブのレコードを返すこと
※サンプリングソースを借りた友人(ボブ)への言及か、あるいは日常の些細なメモを挟み込むDOOMらしいユーモア。
Swear to God, before he gets a job, he robs an Eckerd
神に誓って言うが、奴は真っ当な仕事に就く前に、エッカード(薬局)に強盗に入るだろうな
※「Eckerd」はアメリカに存在した薬局チェーン。
Blessed with a hot flow, tested it, got dough
ホットなフロウに恵まれ、それを試して、金を稼いだ
Invested in stress, the best to finesse an opto
ストレスに投資し、光学機器(マイクやカメラ)をフィネス(巧みに操る)する最高の存在さ
※「opto」はoptical(光学的なもの)。
As I reminisce, never forgot when I was very broke
思い出してみれば、完全に一文無しだった頃のことは決して忘れない
Shot the Henny straight, couldn't afford to cop the Cherry Coke
ヘネシーをストレートで飲んでた、チェリーコーク(割り材)を買う余裕すらなかったからな
※貧困時代、酒を割るための安いジュースすら買えなかったという生々しいストリートの記憶。
Or should I say, broke with wealth?
それとも、富を持ったまま破産したとでも言うべきか?
※KMDとしてのメジャーデビューと弟の死、レーベルからの契約解除という、天国から地獄へと突き落とされたDOOMの過酷なキャリアの回顧。
To know enough to give them just enough rope to yoke they self
奴らに自分自身で首を吊らせるのに十分なだけのロープを与える、それくらいの知識はあるのさ
※「give someone enough rope to hang themselves(自滅するのを黙って見ている)」という慣用句。業界のフェイクな連中が自ら墓穴を掘るのを冷静に見つめている。
Plan B before I take the ring and pawn it
指輪を外して質屋に入れる前の、プランBだ
The long arm of the law couldn't even put they fingers on it
法の長い腕(警察の捜査網)でさえ、指一本触れることはできなかったぜ
※完全犯罪(完璧なサンプリングや業界のサバイバル)を成し遂げたという誇示。
Dog-gone it, do the statistics
ちくしょうめ、統計を取ってみな
How he bust lyrics, it's too futuristic for ballistics
奴がどうやってリリックを弾き出すか、弾道学(警察の解析)にとっては未来的すぎるのさ
And far too eccentric for forensics
それに、科学捜査班にとってはあまりにもエキセントリック(奇抜)すぎる
I dedicate this mix to Subroc, the hip-hop Hendrix
俺はこのミックスをサブロックに捧げる、ヒップホップ界のジミ・ヘンドリックスにな
※若くして交通事故で亡くなった天才的なDJ/プロデューサーである弟Subrocを、伝説のギタリストJimi Hendrixに重ね合わせ、最大の敬意と追悼を捧げてバースを締めくくっている。
[Outro: Boris the foreman & Johan the rebel]
In my pocket, a note
私のポケットに、メモが
※1960年代のアニメ版『マイティ・ソー』のエピソードからの音声サンプリング。
It's—from my father
これは…父からです
"—from the guard's whip." Is this a trick?
「—看守の鞭から。」これは罠か?
Why would I resort to trickery? You're already a prisoner. What do I gain by deceiving you?
なぜ私が詐欺めいた手段に訴えねばならない? お前はすでに囚人だ。お前を騙して私に何の得があるというのだ?
You can't blame me for being suspicious
私が疑い深くなるのも無理はないでしょう
No
そうだな
Hehe
フフッ
