Artist: Earl Sweatshirt
Album: I Don’t Like Shit, I Don’t Go Outside: An Album by Earl Sweatshirt
Song Title: Inside
概要
「Inside」は、アール・スウェットシャツの2ndアルバム『I Don't Like Shit, I Don't Go Outside』の終盤に配置され、アルバム全体のテーマを総括するような極めて内省的なトラックである。アール自身が手掛けた、くぐもったソウル・サンプルのループとゆったりとしたビートに乗せ、サモアの更生施設からLAへ帰還した後のOdd Futureとしての狂騒、名声がもたらす孤立、そしてアルコールや薬物への依存を淡々と振り返っている。タイトル「Inside」は、物理的に自室へ引きこもることと、自らの内面の奥深くへと沈潜していく二重の意味を持つ。アウトロでアルバムタイトルそのものを口にするように、他者からの救いの手を拒絶し、自らの心の闇やトラウマと孤独に向き合う彼の「Sad Boy」的ペルソナが最も直接的に表出された楽曲であり、彼特有の高度なワードプレイと冷めたトーンが堪能できる隠れた名曲だ。
和訳
[Intro]
Yeah man, you know what I'm saying?
ああ、俺の言ってること分かるだろ?
Already
とっくにな
You crazy for this one!
このビートはヤバいぜ!
※JAY-Zの楽曲などで有名なプロデューサーのタグを模したような、皮肉めいたアドリブ。
[Verse]
Fresh out the belly of the island into the heart of the city
あの島の腹の中から抜け出して、真っ直ぐに街の中心へ戻ってきた
※「あの島(the island)」は、彼がティーンエイジャーの頃に母親によって強制的に送られたサモアの更生施設のこと。そこから解放され、地元ロサンゼルスのヒップホップシーンの中心へ復帰したことを指す。
T and them just hit the road, I had Sage and Nak and 'em with me
Tたちはちょうどツアーに出たところで、俺の傍にはセージやナックたちがいた
※「T」はタイラー・ザ・クリエイター(Tyler, The Creator)。Odd Futureの主力メンバーたちがツアーで不在の中、アールは親友のスケーターであるSage ElsesserやNa-Kel Smithたちとつるんでいた。
I thought the fauna was pretty, so I approached her (I did)
その動物が可愛いと思ったから、俺は彼女に近づいたんだ (I did)
※「fauna(動物相)」という学術的な単語を使って、街で見かけた魅力的な女性を動物に例えている。
My first apartment was really covered with roaches
俺の最初のアパートはマジでローチだらけだった
'Cause niggas was really smoking
だってダチらが本気で吸いまくってたからな
※前の行の「roaches」は「ゴキブリ」と「吸い終わったマリファナの吸い殻」の見事なダブルミーニング。不衛生な環境と、マリファナ漬けの荒んだ共同生活を描写している。
Gotta say that, as of late, I been busy with business, mostly
言っておくが、最近の俺はもっぱらビジネスで忙しいんだ
Got a tape? Catch a wave, now you in the industry ocean
ミックステープを出したか? 波に乗れ、今やお前は業界っていう海の中にいるんだぜ
※音楽業界を海に例え、新人が次々と波に揉まれていく様子を俯瞰している。
Missing out on your boat
自分の船に乗り遅れるぞ
※チャンスを逃すことへの警告。
I been figuring out my own fish, home gets distant
俺は自分自身の魚の扱い方を考えてる、家がどんどん遠ざかっていく
※「have bigger fish to fry(他にやるべき重要なことがある)」という慣用句と海のメタファーを掛けている。自分の問題やキャリアに向き合ううちに、家族や本来の居場所(home)との距離が広がってしまった孤独。
We working, I'm on the road again
俺たちは働いてる、俺はまたツアーに出るんだ
Cold and the spirits is bursting up out the Trojan, man
冷え切ってて、トロージャンの中から魂が弾け飛んでるぜ
※「Trojan」はアメリカで最も有名なコンドームのブランド。コンドームから精子(spirits)が飛び出すという生々しい性行為の描写。
Fridge full of spirits in the crib
家の冷蔵庫にはスピリッツがパンパンに詰まってる
※前の行の「spirits(精子/魂)」と掛け、ここでは「spirits(蒸留酒)」を指す。家に引きこもって酒浸りになっている状態。
Mirror, mirror, let me hear why the niggas that's the peers see and hear us
鏡よ鏡、教えてくれ、なぜ同業者どもは俺たちを見聞きして
※白雪姫の「鏡よ鏡」のフレーズを引用し、自身の内面(鏡)に問いかけている。「peers」はシーンのラッパーたち。
Then mimic the fucking motions, man
そのクソみたいな動きを真似しやがるのかを
※アールやOdd Futureが築き上げた特異なスタイルやサウンドを、安易にパクる連中への苛立ち。
Keep the circle close, let them niggas front in the cul-de-sacs
身内だけで固まる、奴らには袋小路でイキらせておけ
※「cul-de-sac」は行き止まりの住宅街。自分のクルー(circle)の絆だけを固く保ち、偽物たちは行き止まりの場所で見栄を張らせておけばいいというスタンス。
Friendly with the chosen, the rest is getting the poker hand
選ばれし者とだけ仲良くする、残りの奴らにはポーカーのハンドを食らわす
※「poker hand」はポーカーフェイスの比喩。本当に信頼できる少数(the chosen)以外には、一切感情を見せず冷たくあしらうという極度の人間不信。
Face-drinking smoker, it help me duck when emotion jab
顔をしかめて酒を飲みタバコを吸う、そいつは感情がジャブを打ってくる時に避けるのを助けてくれる
※アルコールや薬物が、自身のトラウマや悲しみ(感情のジャブ)から目を逸らし、痛みを麻痺させるための防衛手段(duck=ダッキング)になっている。
Fame is the culprit who give me drugs without owing cash
名声こそが、俺にツケなしでドラッグを与えてくれる真犯人だ
※有名になったことでドラッグがタダで手に入る環境になり、それが依存を悪化させているという自己破壊的な業界のシステムへの皮肉。
[Hook]
Sipping 'til I melt, Devil trying me, I'm dodging
自分が溶けるまで飲む、悪魔が俺を試してくるが、俺はかわす
Falling victim to myself, middle finger to the help
自分自身の犠牲になる、助けの手には中指を立ててやる
※他者からの同情やセラピーを完全に拒絶し、自分の問題は自ら抱え込んで自滅していくという、Sad Boyとしての閉鎖的な美学。
When it's problems, I don't holler, rather fix 'em on myself
問題が起きても叫んだりしねえ、むしろ自分で解決するんだ
When it's looking like it's quiet for you, this the shit to yell
お前の周りが静まり返ってるように思える時、こいつが叫ぶべき曲だぜ
※孤独を感じているリスナーに対して、この曲がアンセムになることを示唆している。
This the shit, right (Yup), keep your chin high up
最高だろ (Yup)、顎を上げてろよ
※「keep your chin high up」は落ち込まずに自信を持てという励ましの言葉。
'Cause when she ain't fucking with you then her friend might
だって彼女がお前を相手にしなくても、その友達がヤッてくれるかもしれないからな
※ストリート由来のシニカルで不謹慎なユーモア。
Let you get up inside (Yup), let this shit ride (Yup)
中に入れさせてくれるかもな (Yup)、この曲を流したままにしろよ (Yup)
※「inside(中に入る)」はセックスの隠語でもあり、曲のタイトルでもあり、自分の殻に閉じこもる意味も含む。
You don't get it rocking like we do on this side, nigga
お前らには、俺たちの側みたいに揺らすことはできねえよ、Nigga
※他のラッパーには自分たちのような深いグルーヴやリリシズムは生み出せないという強固なプライド。
[Outro]
Ayy
I blow a spliff before the ink dries on the paper (Yup)
紙の上のインクが乾く前に、俺はスプリフを吹かすんだ (Yup)
※リリックを書き終えた直後、すぐにマリファナを吸って現実逃避を始める習慣。
And lately, I don't like shit, I been inside on the daily, daily
最近じゃ、俺は何一つ好きになれねえ、毎日毎日、ずっと家の中に引きこもってる
※「I don't like shit, I been inside」でアルバムのタイトル『I Don't Like Shit, I Don't Go Outside』を直接的に回収。名声を手にした天才ラッパーが最終的に行き着いた、虚無と究極の孤独を宣言して曲が締めくくられる。
