Artist: Earl Sweatshirt (feat. Wiki)
Album: I Don’t Like Shit, I Don’t Go Outside: An Album by Earl Sweatshirt
Song Title: AM // Radio
概要
「AM // Radio」は、アール・スウェットシャツの2ndアルバム『I Don't Like Shit, I Don't Go Outside』の後半に配置された、二部構成の特異なトラックだ。「randomblackdude」名義でアール自身が構築した、重く引きずるようなローファイ・ビートの「AM」パートと、アンビエントでダブ要素の強い「Radio」パートから成る。前半の「AM」では、ニューヨークを拠点とするアンダーグラウンド・ヒップホップグループRATKINGのフロントマン、Wikiを客演に迎えている。Wikiがアルコールに溺れた若き日の荒んだストリートライフとラップへの情熱をスピットするのに対し、続くアールはOdd Future期に自らが牽引したSupremeの世界的ブームを誇示しつつも、父親の不在から来るトラウマ、極度のうつ状態、そしてザナックスなどの薬物依存による破滅的な現状を淡々と吐き出している。ストリートの喧騒と密室の孤独が見事に交差する、アールの鬱屈とした「Sad Boy」的ペルソナを象徴する一曲である。
和訳
[Part I: AM]
[Verse 1: Wiki]
Nineteen, still gettin' kicked out the crib
19歳、いまだに家から追い出されてる
Ripped off my bib, spit out my food, hiccup, and piss
よだれかけを引きちぎり、飯を吐き出し、しゃっくりしてションベンする
※アルコールで泥酔し、コントロールを失って赤ん坊のように無茶苦茶になっている様子のメタファー。
Urine burning, I could smell the liquor in this
尿が焼けるように熱い、酒の匂いがプンプンする
Cats always tryna pick up the fist, "Duff this dude out"
奴らはいつも拳を上げようとする、「この野郎をぶっ飛ばせ」ってな
※「Cats」はストリートの人間を指す。「Duff out」は殴り倒すという意味のスラング。
Rap astute just to get me a grip
自分を保つためだけに、抜け目なくラップするんだ
Now, it's like bruised face, loose walk, too sauced
今じゃ顔は痣だらけ、千鳥足で、酔いつぶれてる
Distraught thoughts on my corpse on the asphalt
アスファルトに転がる自分の死体を思い浮かべる狂った思考
Back when I’d slack off, rock my slacks of my ass half-off
怠けてた頃、スラックスをケツの半分まで下げて腰パンしてた
Every time I rap, I blast off
ラップするたびに、俺はぶっ飛ぶんだ
Back when I catch court, I always had sports
裁判所沙汰になってた頃、いつもスポーツに頼ってた
※警察沙汰になった際、運動神経の良さ(足の速さ)で逃げ切っていたことを指す。
Dipping on cops in my track shorts
トラックショーツ姿でサツから逃げ回ってた
So tell my mom, I had to make it right
だから母さんに言ってくれ、俺は正しくやらなきゃいけなかったんだ
I lie every night about the limelight so I could lie at night
夜眠るために、毎夜スポットライトについて嘘をつく
※「lie(嘘をつく)」と「lie(横たわる、眠る)」を掛けた秀逸なワードプレイ。名声やプレッシャーに対する不安を隠して強がることで、ようやく眠りにつくことができるという精神状態。
And tell my pops, I gotta take advice
それで親父に言ってくれ、俺はアドバイスを聞き入れる必要があるって
Keep my head screwed on tight, abuse these mics
頭のネジをしっかり締めて、このマイクを乱暴に扱う
See me, I’m the contusion type
見てみろ、俺は打撲傷だらけのタイプだ
A cat to smack the mic against my fuckin' head when I'm losing hype
盛り上がりが欠けてる時に、自分の頭にマイクを叩きつけるような奴さ
※Wikiのライブでの破天荒で自傷的なパフォーマンススタイルを示している。
RATKING, never losing hype, no
RATKING、熱気を失うことなんて絶対ねえ、いや
※「RATKING」はWikiが所属していたニューヨークのアンダーグラウンド・ヒップホップグループ。
Smack king, and I do it right, no
スマック・キング、俺は正しくやる、いや
RATKING, yeah, I do it nice, whoa
RATKING、ああ、俺は最高にやるぜ、whoa
[Verse 2: Earl Sweatshirt]
Bitch, I skated before I rapped
ビッチ、俺はラップする前からスケートしてたんだ
※LAのストリートやスケートカルチャーが彼自身のルーツであるという誇示。
If you take me before your captain, bet 20 hots on your daddy
もし俺をお前のキャプテンの前に連れて行くなら、お前の親父に20ドル賭けてやる
※「hots」はドルのスラング。
That someone could 'Nolia Clap him, probably cold and passive
誰かがそいつを冷酷かつ受動的に撃ち殺せるってな
※「'Nolia Clap」はニューオーリンズのラッパーJuvenileらによる2004年の同名楽曲に由来する発砲のメタファー。Magnolia Projects(マグノリア団地)発祥のハンドクラップ(拍手)のようにも聞こえる銃撃を意味する。
'Cause Pops was the one that got to me, feeling down like he passed it
なぜなら俺を落ち込ませたのは親父だからだ、彼からそれを受け継いだかのように落ち込んでる
※アールの父親は南アフリカの詩人Keorapetse Kgositsile。幼少期に父親に捨てられたトラウマと、その憂鬱な気質(うつ病)が血(遺伝)としてパスされたという苦悩。
And when I'm cornered, it's action, I was kinda out the game
追い詰められたら行動するのみ、俺は少しゲームから離れてた
Mama put the quarter right back in the slot
母さんがスロットにまた25セント硬貨を入れたんだ
※アーケードゲームのコンティニュー(再スタート)に例えた表現。ブレイク直後、不良行為を危惧した母親によってサモアの更生施設へ強制的に送られ、シーンから一時離脱させられた後、再び戻ってきた(ゲームを再開させられた)経緯を指す。
In '09, we took the 7 to the Dussy 17 to the block
09年、7番のバスでDussyに行って、17番でブロックに帰ってた
※「09年」はOdd Futureが結成された頃。LAのローカルなバス路線を使い、仲間たちとフッドを行き来していた若き日の情景。
Bitch, if your nigga had Supreme, we was the reason he copped it
ビッチ、もしお前の男がシュプリームを着てたなら、俺たちがそれを買わせた理由だぜ
※Odd Futureのメンバーが着用したことで、ストリートブランド「Supreme」が2010年代初頭に世界的な大ブームを巻き起こした歴史的事実に対する強烈な自負。
And nowadays, I'm on the hunt for mirrors to box with
そして今じゃ、俺はシャドーボクシングするための鏡を探し回ってる
※名声を得た今、外の敵ではなく「自分自身(鏡に映る自分)」と精神的に戦い続けている内省的な状態。
And some pretty bitches that ain't trip if it's a hit-and-run
それに、ヤリ逃げでも怒らない可愛いビッチどもをな
※「hit-and-run」は交通事故の当て逃げから転じて、一晩限りの関係(ヤリ逃げ)を指す。
I got to go, 'cause I don't do the crying, bro
俺は行かなきゃな、泣くのはガラじゃないんだ、兄弟
She Mario, I'm tryna keep the whining to a minimum
彼女はマリオだ、俺は愚痴を最小限に抑えようとしてる
※R&BシンガーのMarioのヒット曲「Crying Out For Me」を引用した高度な言葉遊び。自分は泣かない(don't do the crying)から、相手の女にMario(泣き叫ぶ役割)を任せている。
Piggies come, bet I'm splitting quicker than I finish rum
サツが来たら、ラム酒を飲み干すより早く逃げるぜ
※「Piggies」は警察官への蔑称。
Find me some indica
インディカを見つけてくれ
※インディカ種は鎮静作用やリラックス効果(ダウナー系)が強い大麻。鬱状態や不安を沈めるために求めている。
Nuggets on my fingers and my shirt like they was chicken crumbs
指やシャツについたバッズが、チキンの衣のカスみたいだ
※「Nuggets(大麻の塊)」と「チキンナゲット」を掛けたユーモアのある表現。大麻を砕いたカスが服にこびりついている自堕落な様子。
The room spinning, finna yak if I don't hit the blunt
部屋が回ってる、ブラントを吸わなきゃ吐きそうだ
※「yak」は嘔吐するスラング。アルコールと薬物でひどく酔い回っており、さらに大麻を吸って落ち着こうとする極度の依存状態。
Got the chin wagging
顎がガクガク動いてる
Slim chances of me getting up after this
この後で俺が立ち上がれる見込みは薄いな
Mind in the trash next to where my fucking passion went
俺の情熱が消え失せた場所の隣のゴミ箱に、正気も捨てちまった
※音楽への情熱(passion)も、自身の正気(Mind)も完全に喪失してしまったという、アルバム中最深の絶望を表すライン。
Dodge fanatics, half a Xanax when I'm traveling
熱狂的なファンを避けて、移動する時はザナックスを半分飲む
※「Xanax」は強力な抗不安薬。ツアー移動中のプレッシャーやパニック発作を抑えるための自己防衛。
Six hours or more, brick out on the tour
6時間以上、ツアー中はずっと気を失ってる
※「brick out」は薬物や疲労で完全に意識を飛ばして眠りこけること。
Got kicked out of the morgue, spit cattle manure shit
死体安置所から追い出された、牛のクソみたいな戯言を吐き捨ててる
※自分がすでに死んだような精神状態であるため「死体安置所(morgue)」にいるが、そこからすら追い出されるほどの異端児。
Shit, rally the Horsemen, tally the corpses
クソ、四騎士を呼び集めろ、死体の数を数えろ
※「Horsemen」は新約聖書における「黙示録の四騎士(世界の終末をもたらす存在)」。完全な破滅と終末を望む、究極のニヒリズムでラップパートが幕を閉じる。
[Part II: Radio]
[Instrumental]
※ラップパート(AM)の混沌と憂鬱をクールダウンさせるように、残りの約1分間は不穏でダブ・アンビエント的なビートのみが流れる。アールが外界のノイズを完全に遮断し、自室の孤独へと深く沈み込んでいく様を音で表現している。
